第35話
俺は学園闘技大会に向けて、今日も三者三様の修行に勤しんでいた。
「ここまできたら、レベル上げ一択だ!」
三人を連れて深淵迷宮の42層に来ていた。ここは不遇層と呼ばれており、あまり敵に会えないし広いしで人気がない層だ。
しかし、実際は違うのだ。この層は広さに見合った数の魔物が存在する。ただし、見つけ辛いだけ――それは何故かというと、こういうことだ。
「にょおおおお!!」
「のおおおっす!!」
「ううう………!!」
三人が必死に逃げ回りながら魔物を倒している。
この層には魔物が集約されているポイントが複数あった。
いわゆる、モンスターハウスってやつだ。
「シャキシャキ倒せ! 時間は有限だぞ!」
「無茶ばっかさせんなさ~!」
「ドSっす!ドSっす!!」
「むう~~!」
三者三様な不満を言いつつ、徐々に魔物を減らしていく三人。
獣系の魔物ばかりなので状態異常の心配もないし、多数との戦闘の訓練になるし、経験値大量獲得だしで、良いことづくめなのにな……。
(次は、一人ずつやらせよう……)
三人の訴えは逆効果となるのだった――
◇ ◇ ◇
《ナミエ視点》
「次は一人ずつだ……」
そう言われ、モンスターハウスにあーしだけが放り込まれた。
「え…、ちょっ……マジ?」
眼前に広がるのはフォレストタイガーの群れ――
(百体以上いそう?)
その群れが一斉に、あーしに向かってきた。
(ほんっと! 最初の時からケイ君は、やることが半端ないさー!!)
◇ ◇ ◇
初めて会った時は奢ってくれるとか言って、めっちゃ良い人って思ったんだけど……。
訓練場でケイ君の実力を見て、この人は違うって思った。
あーしの悩みは『霊媒師』として落ちこぼれだったことだ。
精霊様を顕現させ、術として行使するという基本的な部分が苦手だった。
(長い祝詞を覚えるのも苦手だし、そもそも精霊様の御姿も可愛くないし……)
そのせいか、顕現も上手くいかず術以前の問題だった。
そんな悩みにケイ君は――
「難しく考えすぎだね。魔法はイメージだけだぜ?」
(イヤイヤ、魔法とはまた違うからっ!)
「属性は火だろ? 火で自分の好きな生き物とかを想像して具現化するんだよ」
(簡単に言ってくれるさぁ? それができないから、あーしは……)
とにかくやってみろと言われ、自分が地元で好きだった守り神、”シーサー”をイメージしてみた。
「…………」
「…………」
できた……。
あーしの目の前に、可愛い炎の”シーサー”がいて、こっちを見ていた。
(まじでええええええ!!)
できた自分にビックリして、ケイ君の方を見るとドヤ顔していた。
「~な?」
「ほんとにできて、ビックリさ~」
「普段から召喚したままにしておきなよ、そうすると魔力も”使い切れて増えるよ”」
どういうこと?と思った瞬間に意識が飛びそうになって――
(眩暈がするぅ。気持ち悪いぃ。あっ……)
あーしは、白目をむいて倒れた。
その後、魔力を増やす方法を伝授されて、今では結構な魔力量になっていると思う。
「やるしかないさ~!」
あーしは、フォレストタイガーほどの巨体を持つ炎の”シーサー”を四体同時に顕現させる。
瞬間――
周囲に迫っていた敵は、”シーサー”たちの灼熱の業火に焼き尽くされる。
森の中に焦げた肉の臭いが拡がる。
(まだまだ敵はやる気みたいさね~)
少し怯むかと思ったけど、フォレストタイガーは逆に果敢に突っ込んできた。
「っ!? いっきにさぁ!? 数がお、お、すぎさ~!!」
あーしは常に走って移動しながら、”シーサー”を操作し敵を倒していく。
(まったく! 下手な戦士どもより、あーしの方が絶対体力あるよねっと!!)
フォレストタイガーの噛みつきや爪攻撃を避けつつ走り抜け、焼き倒していく。
(あーしって普通の後衛がする戦い方じゃないよね? きっと……)
ケイ君に弟子入りしてから、全員がやらされたのは三つ。
一つ、寝る前に魔力を使い切ること。
(寝る前以外もして良し)
一つ、暇があれば魔力循環をすること。
(可能なら運動しながらも継続)
一つ、毎朝と毎夕のランニングをすること。
(どんどん距離を伸ばしましょう)
あーしは最初に聞いた。
「あーしは後衛だからランニングはやらなくていいしょ?」
「ダメに決まってるだろ? むしろナミエが一番やれ!」
意味が分かんなくて聞いてみた。
「なんで?」
「よく考えてみろ。戦場で魔力が無くなったら、お前どうやって生き残るんだ?」
「…………」
あーしは、答えることができなかった。
「そういうことだ……」
「……わかったさ~」
(あの時は、なんか言いくるめられたさ~って思ったけど……)
フォレストタイガーの波状攻撃を受けても避け、逃げ、生き残れるあーし。
「……こういうことさね~」
ケイ君の言う通りだったと思った。
「やっぱ、ケイ君は半端ないさね~っと!」
最後のフォレストタイガーを焼き倒す。
結果として、あーしは無傷でたいして息も切れていなかった。
「思ってたより、なんくるないさ~?」
――笑顔でケイ君に報告した。
◇ ◇ ◇
《モニカ視点》
「よし、モニカ行け!」
次のモンスターハウスには、わたす一人で行けとケイ殿が言う。
「りょ、了解っす!」
このモンスターハウスには、フォレストモンキーが百体以上いるようだった。
「や、やってやるっすー!!」
わたすは巨大メイスを両手で持ち上げ、突っ込んで行った。
『聖戦士』のジョブを授かってから、わたすは孤児院でも負けなし、近所の悪い兄さんたちにも負けることもなかった。わたすは、このまま最強になれると信じていた。
孤児院のシスターは「世の中、上には上がいるのよ」と諭してくれていたが、わたすは信じなかった。だから孤児院を飛び出して、最強の代名詞であるエイユウ学園に突撃したのだ。
試験の結果を見て――
(さすがにいきなりテッペンは、取れなかったっすか……)
それでもわたすは、いつかテッペンを取れると思っていた。ケイ殿に訓練場で、ボコボコにされるまでは……。
わたすの属性は『聖』。
「修行したわたすの、ホーリーガードは半端な攻撃では砕けないっすよー」
四方八方から様々な攻撃をしてくるフォレストモンキー。わたすは何の痛痒もなく、一方的に殴り潰していく。
「この程度の攻撃で、わたすを止められると思わないことっすよー!」
次々に、一方的に、わたすは殴り倒して進んでいく。
パリンッ!
「ん?」
視界の端で、わたすの身体を覆っている光の膜が一部欠けていた。
(わたすの魔法を砕いた?……っすか)
次の瞬間、フォレストモンキーの上位種が複数迫って来て、こん棒を使った連撃を仕掛けて来た。
ガガガガガガガッ!!
パリ!パリ!パリンッ!!
光の膜が砕け散り、フォレストモンキー共が今だとばかりに、わたすに群がって来た。
波状攻撃で、身体中が打撲痕や擦過傷だらけになる。わたすは防御姿勢で耐えつつ回復魔法を連用して回復を継続して――
「……痛く……ないっす!!」
逆にフォレストモンキー共を殴り倒していく。
ケイ殿にボコボコにされた後、わたすのジョブと属性を伝えると。
「じゃあお前、殴りヒーラーできるじゃん!」
(……意味がわかんねーっす)
ケイ殿の話だと、盾を使用せずに攻撃は受けた上で、全力で殴りにいく職業とのこと。
(そんな職業、聞いたことねーっす!)
致命傷以外は自分で回復しながら前に出て、ひたすらに殴り倒せと言っていた。
(……この人、頭おかしいんじゃねーっすか?)
「あの時は、この人はアホなのかと思ったっすが――」
被弾を怖れず前に出てきて仲間を殴り倒すわたすを見て、フォレストモンキー共の顔が引きつって気がした。
そのまま前進。どんどん殴り倒していく。
(みんなと一緒に修行を重ね、ケイ殿が言っていたスタイルが確立できたんじゃねーべか?)
最後のフォレストモンキーも殴り倒して、みんなのいる方を振り向き親指を立てる。
「楽勝っす!」
――服や防具はボロボロになり、血も結構付いたけど、わたすの身体自体は無傷だった。
◇ ◇ ◇
《ルウ視点》
「よし次、ルウな」
私の番になりました。ちょっと緊張して杖をギュッと握ってしまいます。
「……い、行きます!」
ここはワーウルフがたくさんいます。
やはり百匹以上はいそうです。
私は深呼吸をして気持ちを落ち着け、魔力を練り直し、モンスターハウスへ入りました。
ワーウルフたちは我先にと私へ向かってきます。
(一気に突っ込んできますね。魔物ってやっぱり頭が足りないですね? 私が美味しそうな羊に見えるのでしょうか?)
ワーウルフたちは私を爪で引き裂き、噛みつき食い千切る勢いで私に迫って来ましたが――
私に触れることができた敵はいませんでした。
「…………」
私は杖を使い、攻撃を往なし追撃し、相手の勢いを誘導して相打ちさせ、突っ込んできたらカウンターで攻撃するなどを、その位置から動くことなく行いました。
(今日も魔力循環が、指先から杖の先まで澱みなく廻っています……)
頭の先から足の指先、そしてケイさんに作ってもらった専用の杖の細部に至るまで魔力が流れていました。
初めて訓練場で、私たちの弱みと強みを提示して伸ばす方法を示してくれたケイさん。
逃げるように、縋るようにここまで来た私にとっては、まさに福音でした。
「ルウは魔力が少ないなら増やせば良いし、出力が出ないなら魔力操作を鍛えれば良いんだよ。大丈夫さ、ルウは強くなれるよ」
不安に押し潰されそうだった私は、涙が止まりませんでした。
(どれだけ数がいようが、一回に対処する上限は変わりませんからね)
淡々と対処していく。
敵が猛攻を仕掛けて来るほど、敵の数が減って行った。
(ケイさんの言う通りにやって、私は強くなったのかな?……でも魔物に対して、間違いなく強くなってるよね?)
魔力が増えた。身体強化の出力が上がった。杖へ魔力を乗せることが上手くできるようになった。杖を使った体術が上達した。
「……うん。強くなってるよね」
私は呟く。
気がつくと、周りは静かになっていた。
(敵の攻撃が止まった?)
ワーウルフたちは、攻撃を躊躇っているようだった。
「……では、こちらから行きますよ?」
逃げ惑うワーウルフを屠っていき、最後のワーウルフを仕留めて報告する。
「終わりました。ケイさん」
ケイさんは笑顔で。
「じゃあ今日の仕上げは、俺と実践訓練でもしようか?」
◇ ◇ ◇
《ナミエ視点》
正直、ゲッ!って思った。
(ケイ君、バリ強いから怪我しそう〜)
「じゃあ、俺の実力の――ほんの片鱗だけを見せてやるよ?」
そう言った瞬間――
世界が急に身体に圧力を掛け始めた。
(え!? 身体が重い? 息が……苦しい?)
彼の身体が黒い何かに包まれていき。
全身漆黒の彼が現れる……
――”漆黒の死神ダーク”と呼ばれている、ケイ君の影モードだ……。
「それじゃ、掛かってきな」
彼の眼が、紅く輝いた瞬間――
「っ!!!!!」
全身の毛が逆立ち、考える間もなく身体が後に跳んで距離を取っていた。
(意味わかんない!意味わかんない!意味わかんない!?)
恐怖で頭が混乱している。
(殺される!!!!)
距離を取ったのは、あーしだけじゃないみたいだった。
その時、後から声がして――
「来いって言ったのに、距離とるなよ」
「え?」
振り向こうとしたが、
あーしの意識はここで切れてしまった――
◇ ◇ ◇
《モニカ視点》
ケイ殿の眼が紅く輝いた瞬間、頭の警鐘が最大限に鳴り響き後退した。
「っ!!!!」
(なんなんすか!なんなんすか!なんなんすか!?)
ドサッと音がした方を見ると、ナミエさんが倒れていた。
身体中が恐怖で震える。
「さて次は……誰かな?」
再び彼の眼が輝き、わたすを見た気がした。
「うわっ!!うわああああああああああ!!!!」
何も考えられず、メイスを振りかぶり突っ込む。
「……焦った時ほど、冷静にって言ってるだろ?」
いつの間にか目の前に死神がいて、
私の意識はそこで途切れた――
◇ ◇ ◇
《ルウ視点》
ナミエが倒れ、モニカも倒れた。
「……最後はルウだな」
三度、彼の眼が輝く。
ガチガチガチガチと何かうるさいと思ったが、私自身の歯の音だと気付いた。
手足は震え、立っているのがやっとだった。
(何とかしないと!何とかしないと!何とかしないと!)
鼓動の音も今まで聞いたことがない程速く、呼吸も荒く、速くなり苦しくなってきた。
ハアハアハアハアハアハア…………
(ダメだ立っていられ……ない)
私はその場に崩れ落ちる。
よく覚えていないが、泣いて助けを求めながら、私は意識を失ったそうだ――
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
三人の乙女が、ちょっと見せられない感じで地面に転がっている。
「…………やりすぎたか?」
額に一筋、冷や汗が流れた。
三者三様のやつらに高みを教えようと思い、新技“魔殺気“という殺気に魔力を乗せて放つ技をやってみたのだが……。
(こいつらレベルなら耐えられると思ったけど……早かったか?)
ちなみに普通の冒険者に使ってみたら即失神した。直感で距離を取ったりと思考する余地があっただけ、こいつらも成長してるんだな……。
「……起きたら、甘いスイーツを奢ろう」
成長を実感しつつ、彼女たちのケアをどうしようかと、俺はいろいろと考えてみた。




