第34話
俺は学園闘技大会の前に、今期のクエストを消化するためギルドにやってきた。
依頼書を受付嬢に出す――
「ああっ! またゲンナイさんのクエスト受けてくれるんですね? 本当に助かりますぅ」
受付嬢は涙目であった。
「クエスト出して頂くのは良いんですが、あの人の成功基準が分からないことが多くって。……確認しようにも人の話を聞いてくれないし……」
愚痴ってきたので頷いておく。
(あの爺さん、本当に話聞かないもんなぁ……)
「任せてください!」
「よろしくお願いします!」
◇ ◇ ◇
ゲンナイの依頼③:”ドッペルの欠片”の入手――
ドッペルゲンガーのドロップ素材ではなく、”ドッペルの欠片”の入手だ。
(いやこれ普通に分からないだろう!? ゲームでもこのアイテム出すまでに、どれだけの時間を費やしたことか……)
ドッペルゲンガーは相手に擬態してくるアストラル系の魔物だ。
見た目は擬態されるが、能力や装備品質はコピーされないのでそこまで強くはない。自分を攻撃するという精神的にくること以外は問題ない相手だ。
さて、この”ドッペルの欠片”の入手方法はというと――
「えい」 ザシュッ! コロンッ。
このように擬態される前に倒すのだ。
ゲームだと戦闘開始ですぐに擬態するため、本当に難しいと思った。先制攻撃アイテムや先制攻撃装備で何とかしていたのだ。
「リアルだとめっちゃ簡単だな。前回と反対で……」
その後、俺はドッペルの欠片を乱獲して帰還した。
「これじゃあ!! これじゃよ!! ありがとの!!」
ゲンナイはダッシュで来て、奪って行った。
(既視感しかない……)
――数時間後
「おう? ケイじゃないか、どうした?」
ホクホク顔でゲンナイが部屋から出てきた。
「いや、さっきの納品したの俺だから……」
「…………すまん」
「いいですよゲンナイさん。それより……」
「おおぅ。なんか怖い笑顔なんじゃが、どうした?」
「できたんですか?……”あれ”が?」
驚いて距離を取るゲンナイ。
「…………なぜ、貴様が知っておる?……”あれ”のことを……」
「いやだなぁゲンナイさん。この前、俺に自分で自慢してたんじゃないですか」
(嘘だけど……)
「…………あれ?そうじゃっけ?」
「そうですよ!だから俺がこのクエストもやったんですから」
「……う~ん」
ゲンナイは困惑している。
そう、彼は”マッドサイエンティスト”ゲンナイ。
彼が作っていたのは、法的に問題のある発明品だったのだ。
そして、俺にとってどうしても必要なアイテム――”擬態人形”
今まで集めた”魂入草”・”生きたトレント”・”ドッペルの欠片”は、この発明品のために集められていたのだ。
(だから多めに納品もしていた……)
意を決したゲンナイが口を開く。
「……貴様。いや、ケイは口が堅いか?」
俺も真剣に向き合う。
「俺は秘密を誰にも言わない。その上でお願いがある。ある人を救うのに、この発明品が一つ欲しい」
「…………」
「…………」
「ケイにとって、その人はなんじゃ?」
「俺にとって、命を懸けてでも救いたいと思っている人だ」
ゲンナイは目を閉じる……。
「……信用しよう。まだ一つしか作れておらんし、ちゃんと可動するか分からんぞ?」
俺は笑顔でゲンナイの手を握る。
「ありがとう!!ゲンナイさん!!あんたの腕は信頼してるから大丈夫だ!」
ゲンナイも驚くが笑顔になり。
「まったく現金な奴め!」
――こうして俺は”擬態人形”を手に入れた。
◇ ◇ ◇
翌日――。
リウムちゃんの依頼③:犬の散歩
(あれ? リウムちゃん飼ってるのって猫じゃなかったっけ?)
実はゲームを網羅した俺でも、リウムちゃんの依頼だけは網羅できていない。
たしか200種類位までは確認したが……。噂では1000種類を超える依頼がランダムに出るとも言われていた……。
「あっ!おにいちゃん、また受けてくれたの?」
俺はしゃがんで視線を合わせる。
「リウムちゃん今日もよろしくね」
頭を撫でる。
「ありがとう~」
今回は向かいの家の家族が旅行に行っており、今日だけで良いからと犬の散歩を頼まれたそうだ。
「…………」
そこには、リウムちゃんを余裕で乗せて歩けるくらい大きな犬がいた……。
(おいいい!! これをリウムちゃんに頼むっておかしくないかっ!?)
「ポチ~、お散歩行くよ~」
「バウッ!」
「え?……」
思っていたよりリウムちゃんに懐いており、自らリウムちゃんを乗せて歩き出した。
「俺、要らないのでは?」
「ポチとリウムだけだと、ママがダメって言うんだよぉ~」
(納得である……)
楽しく散歩をして帰ってくると、リウムちゃんもポチも満足していた。
「今日もありがとう! これあげる!」
渡されたのは、古びたメダル。
「ありがとう。また、拾ってくれたのかい?」
「うんっ! また見つけたら拾っておくね~」
俺は笑顔でしゃがみ込み、頭を撫でてから受け取る。
(謎の古びたメダル、三枚目ゲット)
◇ ◇ ◇
更に翌日――
ナディアさんの依頼③:学園都市図書館の書籍整理③
「今回も受けてくれてありがとうございます。助かります」
「ナディアさんのためなら、何度でもってやつですよ!」
「ありがとうございます。今日は眩暈とかありませんか?」
(前回の顛末があって、ナディアさんに心配されてしまった……)
「今日は(アゼルがいないから)大丈夫ですよ?」
「そうですか、間に何か言いました?まあ、大丈夫なら安心です」
いつもの小部屋を片付けて、いつも通りに”ボロボロの古書”をおねだりしてゲット。
「いつもボロボロの本を持っていかれますね?」
「ええ。とても大事な物なんですよ」
俺は真剣な顔で告げる。
ナディアさんは呆れた表情になって。
「…………図書館の物ですよ?」
(それはそうですね……)
◇ ◇ ◇
俺がギルドに報告に戻ると、三者三様の三人が併設のカフェで休憩していた。
「よお、お前らもクエスト帰りか?」
「お、ケイ君。こんにちわ~」
「どもです!」
「ケイさんも一緒する?……」
せっかくなので、ご一緒させてもらう。
「ゴンザレスから聞いたけど、大活躍だったみたいじゃねーか?」
実は彼女らは、ゴンザレス引率でジパン迷宮氾濫の時に市民の誘導や魔物討伐で活躍したと報告を受けていた。
「あれは大変だったさ~」
「やりがいがあったっす!」
「労働後のご飯は美味……」
本当にこいつら三者三様だな。
そんな彼女たちと俺との出会いは、合格発表日だった――
◇ ◇ ◇
エイユウ学園の合格発表は、実力を視覚化させるために順位が分かる形になっている。
俺はあえて、合格ラインのギリギリに調整して合格した。
しかし――
ビックリしたことに俺の下に三人いた。それが彼女たち、三者三様だ。
俺は彼女たちに興味が出て観察してみると……。
「ギリギリだったさぁ。あれ?入学までどうしよぉ。島に帰るだけのお金もないし」
顔色が悪くなって目が泳いでいるナミエ。
ワースト3位。
「ギリギリでも合格っす! よしっ!入学までは教会で寝泊りさせてもらえるかな?」
まるで無計画そうなモニカ。
ワースト2位。
「ご……う…かく……しま…った」
号泣して崩れ落ちているルウ。
ワースト1位。
俺はその時に閃いた――
(合格できるギリギリラインの落ちこぼれが、”俺の魔術理論”でどこまで強くなれるのか――実験してみたいな……)
俺は三人に「俺もワースト4位だよ」と声を掛け、”俺の奢り”で一緒にお祝いしようと三人を連れて行った。
祝杯を挙げつつそれぞれの境遇を聞いてみた。
ナミエは金に近い茶髪ミドルに同様の瞳で、小麦肌で健康そうな子だ。
「あーしはさ、南の島国の霊媒師家系なんだけどさ、親族の中でも落ちこぼれだったわけなんよ~」
ナミエは親族を見返すためにエイユウ学園へ挑戦したという。自分でも絶好調だったので、まさかとは思ったけど、合格しててビックリだったと話していた。
(受かると思ってなかったんかーい!)
「でもさ、せっかく受かったんだから頑張るんさねっ!」
ニヘラと笑っているが、いろいろと心配である。
モニカは金髪ロングを上で二つのお団子に纏めている。目は白眼で黙っていれば綺麗系だ。
「わたすはシルク神聖国の辺鄙な村の教会孤児院で育ったんすけど、せっかく良いジョブを授かったんで、テッペン目指して上京してきたっす!」
モニカは最強=エイユウ学園と単純な理由で、孤児院を飛び出てここまで来たという。
(ぶっ飛んでるなぁ~)
「わたすはここで最強になるっす!」
やる気はすごいが、この子も周りが見えなさ過ぎて心配だなぁ。
ルウはクリーム色髪のパーマで金眼、羊獣人特有の巻き角もチョンと小さく可愛い。
「私は羊獣人の集落では戦士としての最高職である『杖使い』を授かったけど……、全然上手く扱えないし、魔力も少ない……」
ルウは集落で期待されたが期待に応えられず、焦って縋るように受験したようだ。何とか合格して号泣したものの、最下位という現実が今ジワジワときていて、今は不安になっているそうだ。
(この中だと……まとも?)
不安に押しつぶされそうな顔を見ると、やはり心配だなぁ。
それぞれの話を聞き、俺は改めてこの娘たちを強くしてあげようと決心した。
「ちょっとギルドの訓練場で、みんなの実力を見せてよ!」
三人を連れて訓練場に行き、俺はいろいろと教え込んだ――
帰る時の三人の表情を、俺は見ていない……。




