第32話
《ラフィ視点》
気が付くと知っている天井だった――
(いつ見ても、綺麗……)
私が好きで天井に付けた暗くなると薄く光る素材を、星空みたいに散りばめてあるのだ。
辺りはシーンとしているので、まだ深夜のようだった。
(……私の部屋。……アインがやってくれたんだ)
私はあの時、魔法の深淵に触れた気がした。
(ほんと、原点こそが全てで……、最初から深淵への答えは置いてあったのね)
”賢者”になろうと難しい内容や、新しい内容を知ろう知ろうと必死に追いかけてきたけど、最初の最初に答えがあったなんて――
「……本当、笑えないわよ。……でも、みんなを守れたんだし……、いいか」
イメージが全て。出来ると思うことが大事。
「……言葉にするのは簡単だけど」
難しいのだ。
(私みたいな頭でっかちは特にね……)
なぜあの時は、できたのだろう?
「難しいことを考える余裕がなかった?」
(それだけではない気がする……)
「できる、できないではなく、やるしかなかった?」
(水の特性と、衝撃・振動の原理が分かっていたから……)
「……そうね」
(今までたくさんの本を読んで、知識を吸収してきたことは無駄ではなかったんだ)
嬉しくなる。今までの努力は無駄ではなかったのだと魔法に認められたようで。
「私は”賢者”。これからも知識を蓄えて、どんな場面でも対応できるようにしていくわ」
自身を肯定することができた私の心は、とても晴れやかな気分だった。
気分も良くなり、目も覚めてしまったので起きようと身体を起こそうとするが――
(ん? 頭に何か乗ってる?)
だんだんと暗闇に目が慣れてくる。
横を見ると、そこにはアインの寝顔があった。
「っ!!!!」
(ちょっ!! なんでアインがあああ!?)
大パニックである。
心臓がバクバクとうるさく、耳まで熱くなってしまった。
しかも私の頭に乗っていたのはアインの手だったようだ。
状況を理解して、少し気持ちが落ち着く。
(それでもっ!! ドキドキは止まらないけどね!?)
「意識を失った私を心配して、ずっと傍に居てくれたんだ……」
小さく呟き、アインを見る。
気持ちが暖かくなり、好きという気持ちが溢れてきてしまう。
(私の大好きな”勇者様”……)
溢れた気持ちを抑えることができず、私はアインの頬に、そっと口づけをしてしまった。
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
ラフィが作ってくれた時間、全ての力を溜めた一撃でカイザーを倒したが、僕もその場で倒れてしまった。
(くそっ!!もう身体が動かない!!)
しばらく動けない状態でいると、周りから辺境伯兵のみなさんや、ギルド冒険者のみなさんが集まって来てくれて、みんなを保護してくれた。
僕も一緒に運んでもらいながら話を聞いていたら、僕たちがカイザーを抑えていたおかげで、街中の市民誘導や魔物討伐も順調に行えて、ケガ人は多数だけど死者はいなかったと、逆にとても感謝されてしまった。
辺境伯邸にて治療を受けて、僕たちは回復した。ラフィだけが魔力欠乏状態のため、眠っていた。僕たちは集まり、今日の反省を行っていた。
「あいつは間違いなく異常個体だったね。ドワーフ王国の時もそうだったし、多いね?」
カイザーは間違いなく”異常な強さ”だった。
「私は全力防御状態でも止められなかった……」
「私の魔法も全然役立たずでした……」
「わたしもぉ、良いとこありませんでしたぁ」
「あたいも決断が遅かったよ。リミットブレイクを躊躇っちゃったから……」
「……あたしも、全然だった」
みんな落ち込んでいた。
「みんなの協力もあって僕は最後の一撃が出せたんだよ? みんなには感謝してる」
みんなの視線が僕に集まる。
「それに、ウリエは安易にリミットブレイクはダメだよ。あの状態で使ったら反動でどうなっていたか分からないよ……」
「う……」
みんなも頷いている。
「とにかく! みんな無事でよかった!」
本当に良かったと思う。あの状況は誰かが欠けていてもおかしくなかった。
「それぞれ思うところはあるよね。でもそれは、自分自身の目標として学園に戻って一緒に直して強くなろう!」
みんな頷く。
「……ラフィはすごかった」
アーキが言う。僕も頷く。
「あいつの最後の一撃は、一発目のより強力に見えたよ。……それを一人で止めた」
(本当に”僕の賢者様”はすごいよ……)
みんなで起きたら魔法の秘密を聞こうと話し、今日の反省会はお開きになった。それぞれが自分の部屋へ戻っていったが、僕はラフィが気になり彼女の部屋へ来ていた。
ラフィの部屋の前に来たけど……。
(あれ? 入って平気かな?)
ジパン様に殺される未来が見える気がする。
(まあ、お見舞いで来ただけだからね?)
そんな軽い気持ちで僕は中へ入ってしまった。
ラフィはスースーと静かに眠っていた。苦しそうな様子もなく安心する。
(よかった…。眠っているだけだ)
ベッドの横にイスを持っていき腰掛ける。
ラフィの寝顔を見て思う。
(メガネをしているラフィも知的で綺麗だけど、していないラフィも可愛くて良いなぁ……)
長いまつ毛にフワフワの髪。
図書館で触ってしまった、柔らかいくちびるに目が行ってしまう。
(っ!! また何考えているんだ僕は!? ダメだぞ! 絶対!)
頑張って自制するために、何となくラフィの髪を撫でてしまう。
「……フワフワで撫でてる方が気持ちよくなるな」
そんなことを呟きつつ、優しく撫で続けた。
(今日は本当に助かったよ。……”僕の賢者様”)
しばらくして、そのまま寝落ちしてしまった。
◇ ◇ ◇
朝日が眩しくて目が覚めた。
(……あれ? 座ったまま寝てたんだっけ?)
昨日のことを思い出す。
「っ!? 寝落ちしちゃった!!」
思ったより声が出てしまい、起こしてしまうと手で口を塞いでラフィを見ると……。
目から上だけを布団から出して、こちらをジーと見ていたラフィと目が合う。
(すごく見られてた~~~!?)
「ごめんラフィ。君が心配でお見舞いに来たんだけど……、寝ちゃって」
「……大丈夫よアイン。……分かっているから」
なんかすごく恥ずかしいが、ラフィも恥ずかしそうにしている。
「……いつから起きてたの?」
「っ!? 夜中に目が覚めて……、そこから眠れなかったわ」
(すごく長い時間、寝てるのを見られてたの!? 恥ずかしいぃ!)
顔を手で隠す。
「……なんか、ごめんねラフィ」
「大丈夫よ、心配してくれてありがとうアイン。それに……、こっちこそゴメンね?」
最後の方は、ラフィが布団を被ってしまい、よく聞こえなかった。
◇ ◇ ◇
ラフィも目覚めたので、僕たちはジパン様に会議室へ集められていた。
「この度は我が領地の危機に対し、勇者パーティーの諸君には多大な貢献をしてもらった。領主として礼を言わせてもらう。ありがとう!」
しかし、ジパン様の顔色は優れていなかった。
「君たちには説明しておこう……。一番の功労者だからね……」
嫌な空気を感じる。
「実はあの時……。この都市以外、九つの町村全てが魔物のスタンピードに巻き込まれた」
「「「「「っ!!!!」」」」」
「一つの村は無事だったが、残りの町村は全て壊滅した。……生き残りもおらん」
「「「「「…………」」」」」
(そんなことがあるのか!? ありえるのか!?)
「無事だったのはイセ村だけだ。ステラ殿が里帰りしていたおかげだな……」
(安心はしたけど、喜べる内容じゃない……)
「迷宮も崩壊……、領民も半減したが……、儂はこの地を再建するつもりだ。この地は国境周辺。国防の要だ。国も支援してくれるだろう」
「もちろんです。ジパン様」
ミカエラが答える。しかし、ジパン様の顔色は良くならなかった。
その時、兵士が勢いよく入ってくる。
「失礼します!!どうしても会議に参加したいという方がいらっしゃいました!!」
タイミングの悪さにジパン様もイライラして答える。
「っ!? 何を言っとるんだ貴様は!! 状況が分からんのか!?」
兵士の横からスッと一人の女性が入ってくる。
「申し訳ありませんジパン様。緊急の要件でしたので礼を欠くとは思ったのですが……」
そこには『剣聖』ステラ姉さんが立っていた。
「っ!? ステラ殿!! 来てくださったのか!」
「急な来訪、失礼とは思ったのですが」
「失礼なものか!! この度も村を一つ救ってもらい、大変感謝しているよ」
「もったいないお言葉です」
「ステラ殿なら問題はない。どうぞ席について下さい」
「ありがとうございます」
綺麗なカーテシーをして席に着くステラ姉さん。
(さすがステラ姉さん。一瞬で空気が変わった気がする……)
「それで緊急の要件とは?」
「はい。新たな迷宮が、ここジパンと、イセ村の中間辺りに出現しました」
「「「「えええええ!?」」」」
ステラ姉さんの説明はこうだ。世界における”迷宮の数は決まっている”、故に一つ崩壊すれば必ず一つ出現する。それも、崩壊した地域にまた出現する確率が高いそうだ。
「――信用できる、ある筋からの情報です」
(……ケイだな)
ステラ姉さんはここへ来る途中に確認してきたそうで。
「今度の迷宮は”四足獣迷宮”でした」
「おおぉ」
「立地もなかなか良いところでしたし、イセ村とも中間辺りですし、イセ村も併合して迷宮のある場所で再建が良いのではと、具申したかったのです」
ジパン様の目に生気が戻っている。
「ありがとう。……本当にありがとう。天は我をまだ見放していなかったのだな」
「喜んで頂けてなによりです。ついでですが、私も学園卒業後はジパン様の下で働きたく思っているのですが、良いでしょうか?」
「っ!? 『七大聖王』候補筆頭のあなたが我が領に来てくれるのか!?」
「はい。よろしけ」
「良いにきまっている!! 是非にだとも!!」
ジパン様はニッコニコである。
「では、よろしくお願いします」
結局ステラ姉さんが全て持って行った感じがするが、お世話になったこの領が存続できる希望が見えたことに感謝しかなかった。
◇ ◇ ◇
辺境伯領の復興は時間が掛かるだろうが、みんな希望を持って進めている様に見えた。
僕たち勇者パーティーも、冬休みも終わりに近づいたので学園への帰路についていた。
最近は馬車での移動時は、ウリエが積極的に僕の隣を確保していたが、今はラフィが僕の隣を占領している。
「あたい、あんまり鋭い方じゃないけどさ? なんか最近、アインとラフィの距離感近くない?」
ウリエがラフィに聞いてくる。
ラフィはメガネをクイッと上げ――
「……”私の勇者様”ですから」
(”僕の賢者様”?)
「私はっ!アインのことがずっと好きだったの!! アインは”私の勇者様”なの!!」
そういって僕の腕を、やわらかくて大きなもので抱えてしまう。
(えええええ!!!!)
ウリエも対抗して、反対の腕を大きなやわらかいもので抱える。
「あたいだって好きだよ!! あたいの婚約者様なんだから!!」
(おおおおおう!!!!)
両腕の感覚がやばいことになっている状態で、二人はこっちに詰め寄り。
「「アインはどっちが好きなの!?」」
(助けて~~!!ケ~~~イ!!)
僕は両腕が至福のまま、頭がグルグルして意識を失った――




