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推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第5章》ジパン辺境伯迷宮氾濫編

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第31話

《ニルス視点》

 私たちは魔族領へ帰還するため移動していた。しばらく馬車に揺られていると、レビーが話しかけてくる。


「本当によかったんすか? シルファ様だけ残してきてしまって…」

 

 私はレビーを睨む。


「そのシルファ様の命令だ! 貴様は上官命令に逆らうのか?」

「っ!?いえ!!そういう訳ではありません!!」


 外の景色を見る。


「……心配なのは分かる。私も心配だ。だが、あの方は『七魔将軍』だからな……」

「……そうですね」


 私は『エルドラド王国辺境伯領威力偵察兼魔物軍隊運用試験』の顛末を思い出す。



◇ ◇ ◇

 私は首都の監視をシフォンに任せ、早々に本部に戻った。私が戻ると、指令室からシルファ様の声が聞こえた。


「どういうこと!? ザッハと連絡が途絶えた? 魔操の腕輪の反応も一緒に消えた?」


 指令室に入る。


「ただいま戻りました、シルファ様」

「うん、お疲れ」


 私は自分の成果を報告したくウズウズしており、私の視線をシルファ様は察してくれたようだが。


「今忙しいから、後でね?」

「はい……」


 私は心の中で号泣した。しかし、大人な私は顔には出さないのだ。


「何かありましたか?」

「ああ、ザッハがやられたかもしれない…」

(ザッハがやられた!? 今作戦メンバーは戦闘力もあるメンバーだぞ!?)


「たしかオーガ一万も一緒でしたよね?」

「……ああ、恐らくはそちらもね。相当な手練れがいたのかしら?」

(思案するシルファ様も尊い……)


「たしか担当は……」


 通信担当のレビーを見る。 


「イセ村でっす!」

「タイミングは?」

「作戦開始直前でっす!」

「展開中に感づかれて……、奇襲された?」

(だとしてもザッハにオーガが一万強だぞ?……、余りにも異常)


「シルファ様、作戦行動中ですが私が確認してきましょうか?」

「…………」

「シルファ様?」

「……あ?うーん。……このまま待機。作戦は変更しない」


 少し悩まれたが、待機・継続の指示が出た。


「了解です!」


 その他の場所は、概ね作戦通りに成功した。私が勇者パーティーの報告を忘れて殴られたのは、ご褒美であった。意外にも”あの異常個体”を勇者パーティーは倒したようで、首都の壊滅は出来なかった。しかし、大打撃は与えられて魔操の腕輪の実践運用もできたので成功と言って良いだろう。


 夜が明け、撤収準備をしているとシルファ様が命令された。


「私はイセ村の調査をしてから帰還する。お前たちは先に本国へ帰還しなさい」


 レビーが一番に反応した。


「いやいやいや、何でですか? 誰かご一緒させて下さい! あなたに何かあったら大変なんすから!副指令とか連れてって下さいよ!」


 私を指定するとはレビーよ。後で何か奢ってやろう。


「いや、私一人でいい。ちょっと当てがあるのよ」

「そんなの関係ないっすよ! 御身を大切にして下さい!」

「くどい! 私が決めたことよ。命令に従わないと……、すごいことになるわよ?」


 全員がゴクリと息をのんだ。


「…………どんなすごいことが?」


「……一週間……私が、口を利かない……」


「なんだ、そんなことっす」

「だめだああああああああああああああ!!!!」


 レビーが何か言おうとしたが、私は想像しただけで気が狂いそうになり叫ぶ。


「お前らああああ!! 上官命令だああああ!! 理由なんていらあああん!!」


 シルファ様もうんうんと頷いている。


「即刻帰還準備を終わらせろ! すぐに帰還するぞ!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 レビーだけは私を半眼で見てきたが知らん!!

 シルファ様のお声を、一週間も聴けないなんて狂ってしまう。



◇ ◇ ◇

 今回はシルファ様が主導の初作戦だったので、絶対に完遂できるようにと開発部から”魔王の雫”を拝借してジェネラル・インパクト・ビートルを”異常個体進化”させたが、まさか勇者パーティーに倒されてしまうとは。


「まあ、所詮ザコ魔物が進化したところで、ザコ魔物か……」


 外を眺めながら呟くとレビーが反応する。


「なんすか?」

「呼んどらんわ!」


 レビーをしばきながら、シルファ様の無事帰還を願った。



◇ ◇ ◇

《シルファ視点》

 作戦中に起きたイレギュラー。

 ”イセ村”と聞いた瞬間、彼の顔が浮かぶ。

 ――ケイ・ツクヨミ


 私はみんなを説得して、一人でイセ村への道を歩いていた。

 洗礼式の件を上手く報告出来なかった私は、独自にあの時の”あの子”を調べていた。いろいろと調査した結果、”イセ村”のケイ・ツクヨミという子だと分かった。

(驚きなのが、次の『七大聖王』候補筆頭の『剣聖』”疾風の剣姫”であるステラ・ツクヨミの弟。そして、『光の守護者』”勇者”アイン・アマテの幼馴染……)


「……あの強さは環境からかしら?」

(今回の事態もケイがいたから。もしくはステラがいたからと考えると、納得がいく気がするわね)


 遠くに村の入口が見えてくる。

(……門番すらいない?)

 村にはそのまま入れる。しばらく歩き、村人Aを発見。


「すいませんケイ・ツクヨミが帰ってきているって聞いたんですが、お家はどこですか?」


 村人Aは胡乱そうな目で見てくる。


「旅の人かい? あの子の知り合いかい?」

「はい。以前ケイにお世話になって、ちゃんと挨拶もできなかったので会いたかったんです!」

(嘘は言ってない)


 村人Aの様子が変わる。


「そうかそうか。あの子は変わってるが良い子だ。仲良くしてやってくれや。ほら、あの家だよ」


 簡単に教えてくれる。

(この村、大丈夫かしら? 警戒心、低すぎないかしら?)

 村人Aにお礼を言って、歩き出す。

(それにしても……)

 村の様子があまりにも平穏。

 まるで周囲の町村が無くなったことを知らないような。

(大量の魔物がここを目指していたことすら、知らない様子ね……)

 ケイの家に着く。


(私の初任務を失敗させられたんだから、せめてビックリしてもらわなきゃね?)


 家の戸を叩き、待つ。

 戸が開き、ケイが目を見開いて驚く。

 私は笑顔で、


「私だよ。久しぶりだねケイ・ツクヨミ君。来ちゃった!」

(フフフ。作戦成功ね!)



◇ ◇ ◇

《ケイ視点》

 戸を開けると――

 そこには、女神が微笑んで立っていた。

(……………俺は今日、死ぬかもしれない)

 シルファを目の前にして意識が飛びかけていたが、姉さんが後ろから来て声を掛けてくる。


「あら、可愛い子。ケイの知り合い?」


 俺が反応する前にシルファが答える。


「はい、洗礼式の時に助けてもらって」

「それだけで、こんな辺鄙な村へ?」

「はい、どうしてもあの時のお礼がしたいと思ってたんです」

「…………」

「…………」


 シルファも姉さんも、少しピリピリとした気配をしている。

(なぜここにいるか分からないが、外で話した方が良さそうだな!)


 俺は二人のやり取りを見ていて少し意識が戻って来た。


「久しぶりだねシルファ。じゃああっちで話しようか!」


 手を引き外へ行く。


「あっ!? ちょっとケイ!!」

「ちょっと出てくるね!姉さん~」

「おっ、お邪魔しました~」


 俺は手を繋いだまま走り出した――


 二人で村のはずれの空き地まで走った。息を落ち着かせて向かい合う。


 走って少し紅潮した頬、綺麗な灼眼、全体的に小さくて……。

(……相変わらず、可愛いなああああ!!)


 鋼の意思で表情を保つ。


「……顔がすごいことになってるわよ?」

(俺の鋼の意思いいいいい!?)


 顔を手で隠しつつ横を向く。正面からとか無理だった。


「す、すまない。あんまり君が可愛いから……」

「えっ!?」


 シルファも顔を赤らめる。アホ毛がピョコピョコ動いている。

(おいおいおい!! 俺を萌え殺す気か!?)


 鼻血が出そうになるが、鋼の意思で頑張って止める。


「……鼻血出てるわよ?」

(くそっ!! 俺の鋼の意思めっ!!)


 俺の鋼の意思のせいで、話が出来ない。


「そ、そういえば名乗ったっけ俺?」

「調べたのよ。魔族の情報網を甘く見ないでよね? ケイ・ツクヨミ君」


 ちょっと自慢気に言う。

(いちいち態度が可愛いな。そして……名前を呼んでもらえた)

 俺は涙を流した。


「……ありがとう」

「え!? なんで泣くの!?」


 シルファは困惑している。

(ああ、頭を撫でたい。キレられるからやらないけど、撫でたい……)


「頭を撫でていいですか?」

(あ、言っちゃった)


「ダメよ! 死にたいの?」


 睨まれる。

(それもご褒美かっ!! くそっ! 話がまともに進まない!)


「すまない、いろいろと、いっぱいいっぱいになった……」

「あなたでもそんなことあるのね?」

(えーと、俺への評価がよく分からないな?)


「さっきのお姉さんも、さすが『剣聖』と思ったけど……」


 ジッと俺を見るシルファ。


「あなたはもっとヤバい。すごく強くなったわね」

「……まあ、頑張ってはいるよ。シルファも魔力制御があの時とは段違いだ!」


 少し驚いた顔をしてから、ドヤ顔になり、アホ毛がピョコピョコ動く。


「まあね。私も頑張っているのよ!」

(悶えてしまいそうだ!! 今日は俺の負けでいいです!!)


 しばらくお互いの成長を褒め合った。

 ――姉さん、俺は悶え死にそうです。


 

 そして、これが本題とばかりにシルファの顔が真剣になる。


「ところで……。この村が平和ってことは、ケイ君とお姉さんの仕業ってことかしら?」

「そうだよ、君がこの作戦の司令官だったんだね?」

「…………」

「…………」

「ザッハは……、部下の魔族は、どうしたのかしら?」

「何も残らないように処理したよ。誰にも言ってない。君が来なければ、姉さんにもスタンピードで通せたのに……」

「…………」

「…………」 


 シルファは息を吐く。


「そう、ありがと。正直に言ってくれて」

「いいの?」

「お互いに最善を尽くした結果だもの。仕方がないわ……」

「……そうか」


 シルファは後ろを向く。


「じゃあ、行くわね…」

「…わかった。元気でね?」


 シルファは振り向き。


「次はまた敵同士だけどね?」


 一度俯き、またこちらを見てはにかんだ笑顔で言った。


「そういえば、約束守ってくれたのは嬉しかったんだ! 本当にありがとう……」


 俺も笑顔で返す。


「たとえ君が魔族であっても、シルファは俺の希望だよ!」


 シルファは少し困った顔になって。


「まったく、君は本当に意味がわかんないのよ!」


 今度こそ歩き出して、


「死なないように、頑張んなさい!」


 ――そう言って去って行った。


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