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推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第5章》ジパン辺境伯迷宮氾濫編

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第30話

《アイン視点》

 ラフィが教えてくれた敵、カイザー・インパクト・ビートル。名前を聞いただけでもジェネラルの上位個体だろう。

(名前を聞かなくても、この威圧感で相当な脅威だと分かるけどね……)

 こちらが体制を整えるのを待っているかの様な、悠然とした態度。正に強者の風格を漂わせていた。

(僕の体力は万全ではないけど傷は完治した。だけどみんなは、こいつの威圧感に呑まれている様子だ……)

 僕が勇者として立つ時は今だと思った。


「みんなと一緒なら勝てる!ブレイブハート!!」


 通常なら常時発動しているバフだが、更に強く”勇気”と”力”をみんなに掛けるため、スキルを発動させる。

 まず、ミカエラの瞳に炎が宿る。


「よし! 吞まれるなよみんな! いつも通り攻撃は私が通さない! 安心して攻撃してくれ!」


 そしてエルに依頼する。


「私の盾に魔法を頼む!」

「わかりました、ホーリーシールド」


 大盾を構え、前に出るミカエラ。


「っ!? あたいたちも行くよ! アインはまだ待機だかんね!」

「……行く!」


 左右からウリエとアーキが挟撃に行く。


(僕にもできることをっ!)

「ライト・スピアー!」


 光の槍を飛ばす。

 後ろでセラフが魔力を集中させている。ラフィはまだ動けない様子だ。

 カイザーは、ミカエラを追い越した僕の光の槍を避ける様子もなく直撃……、しかし傷一つ付いてなかった。

 ミカエラが攻撃範囲に入ると、カイザーは片腕で攻撃してくる。

 カイザーの攻撃が盾に触れた瞬間――


 ドゴンッ!! パリンッ! 


「ぐっ!!」


 特に溜めもない攻撃に聖盾は割れ、ミカエラが吹き飛ばされる。

(なんて攻撃力だ!?)


「アース・スラッシュ!」

「獣拳波動!」


 二人の攻撃もカイザーに傷をつけられず、やつは避ける気もない。


「どいてくださーい! ウインドォ~・スパイラルゥ!!」


 十分に溜めたセラフの最高貫通力魔法が飛んで行く。その魔法を見た瞬間――カイザーは始めて、四つ腕を交差して防御姿勢を取った。


 ギュリリリリィィ!! 


 まるで金属を削るような音が響く。

 カイザーの腕二本を貫通したが、そこで魔法が霧散してしまった。

 しかも、シュゥゥゥとすぐに再生していってしまった。

(ありえない硬さに再生能力……、一体どうすれば勝てる?)


 その時――

 カイザーの角に魔力が収束していくのを感知した。

「何か大技が来る!!」


 キィィィィィン!!と高音が強く響き始める。


「フレイムハート、フレイムアーマー、フレイムシールド、更に私に!!」


 ミカエラが僕たちの正面に出て、自己強化を最大に掛ける。


「はい! ホーリーシールド、ホーリーアーマー、ホーリーバリア」


 エルも可能な限り防御魔法を掛けていく。


 次の瞬間――

 指向性を持った収束衝撃波が僕たちを襲った。

 

 爆音と衝撃に、しばらく耐えたミカエラだったが吹き飛ばされた。

 その後、僕たちもみんな吹き飛んだ。


「…………っ!」


 一瞬意識を飛ばしかけたが、痛みで目が覚める。

 周りを確認、ミカエラが一番重症な様子で、意識が飛び耳や口から血が垂れている。

 エルも頭を強く打ったのか、頭から血が垂れてきていて意識がない。

 セラフも同じ状態だ。三人とも息はしている。

 ウリエとアーキは傷だらけだが、何とか立ち上がっている。

 ラフィも僕の後ろにいたからか平気なようだった。何かを考えている時の顔をしている気がする。


「ライト・ヒール」


 カイザーは動いていない様子だったので、ミカエラとエル、セラフたちに回復魔法を掛けていく。

(遠隔で掛けられるようになっておいて良かった)


「……こいつはヤバいね。あたいが動けなくなった時はまた面倒見てね?」


 ウリエが“リミットブレイク“を示唆する。

(また頼るしかないのか!? ウリエも満身創痍、あの時とは違うぞ? 武器は不壊だから平気だけどウリエは大丈夫なのか?)


 熟考して意識が逸れた時にカイザーが動いた。


「っ!?ウリエ!!危ない!!」


 一瞬でウリエの目の前まで来たカイザーが一撃。


「っ!?リミッ!」 


 ドゴォ!!


 ウリエは吹き飛ばされ、意識を飛ばされる。


「ウリエ!? くそっ!!」


 僕は近接戦闘へ行こうとするが、アーキに止められる。


「もうあいつに攻撃を通せるのはアインだけ!! あたしがやつを足止めするから、一撃に集中して断ち切って!!」


 そう言って飛び出すアーキ。

 ラフィにも手を捕まれる。


「おそらくカイザーの攻撃力は衝撃によるものよ、アーキが一番相性がいいわ……」

(攻撃を”受けずに躱す”ってことか……)


「アーキ! 受けてはダメよ! どうしてもの時は衝撃波で打ち合って!」

「……了解!!」

(ラフィはずっと勝つ方法を考えていたのか?)


「アイン、あなたの攻撃が最後の希望よ。残り全てを。いえ、それ以上の力を溜めて、一撃で倒して!」

(ラフィが真剣な瞳で僕を見てくる。僕を本気で信頼してくれている眼だ……) 


「……わかった」

「アーキと私で時間を稼ぐわ――」


 そう言ってカイザーに向き合う姿は正に”勇者”を導く”賢者”に見えた。


「よし!!」


 僕は目を閉じて集中する。

 ――今まで最高の一撃を放つため、全ての意識、全ての魔力、全ての想いを集中させていった。



◇ ◇ ◇

《ラフィ視点》

 ハッキリ言って絶望的な状況……。

(本当にアインの底力に掛けるしかない)

 チラッとアインを見ると、全てを遮断して本気で一撃に掛けている様子だ。

(そのための時間を、私たちが作らなくてはね)


 アーキも頑張っている。カイザーに着かず離れずで、一撃受ければ終わる攻撃を回避し続けている。身体強化を常に全開にしており、全力戦闘の継続はいつ破綻してもおかしくない状態に見えた。

(危ない!?)

 四本腕であるため手数も多く、だんだんと苛立ってきたのか攻撃が苛烈になってきていた。一撃が当たりそうになるが、アーキが衝撃波で相殺した――かに思えたけど。


「っ!!うぅ!」


 アーキの左手が一撃でボロボロだ。相殺はできていなかった。その隙をつかれ横殴りで吹き飛ばされてしまった。

(アーキ!!)


 カイザーが私を見る。後ろで力を溜めているアインも確認。警戒したのか衝撃波の準備に入る。


 キィィィィィィィィィィィン!! 


 先程より高音が強く長く響き始める。

(ああ、あの絶望的な技が来る…………)


 なぜか私の思考は加速し始める――

 

 これが走馬灯ってやつかしら?


 そういえば最近、魔法の深淵に辿り着くための切っ掛けを掴んだ気がしたのよね?

 今日も図書館でアインに手伝ってもらって、寝ちゃってアインに撫でられて。

 …………。

 イヤイヤイヤ、それでは無くって。

 そうそう、その前。

 最後に読んだ本。

 魔法はイメージ。

 初めにみんなが習う、当たり前のこと。

 当たり前すぎて忘れてたこと――


 そうか……、そういうことか……。

 ――これが魔法の真理の、答えかもしれない。


 カイザーの攻撃は衝撃波。

 衝撃波って確か振動よね?

 水中で気泡が沢山あったりすると、振動が伝わりずらかった気がするわね。

 それに水の中に入った振動を、拡散させるように乱反射させるとかも良いかも?

 魔法はイメージなら水に関してなら”賢者”たる私はなんでも出来るんじゃないかしら?

 

 カイザーから先程以上の収束衝撃波が放たれるのが観えた。


 私は一瞬で水の障壁を作成、気泡を最大限に展開、更に障壁内に乱れた波を発生させる。


 水障壁はカイザーの衝撃波を受け水が沸騰し蒸発するが、私は水蒸気すら循環させ水障壁を再生させることを繰り返した。


 カイザーの衝撃波が終息した瞬間、私も魔力ゼロになり意識を失った。


 意識が落ちる瞬間に”私の勇者様”が走り出した姿を見た気がした――



◇ ◇ ◇

《アイン視点》

 僕が限界まで力を溜めた時にカイザーの衝撃波が来た――

 驚いたことに、ラフィの作った水障壁が完全に防いでくれた。


(さすがだよ!! 僕の”賢者様”!!)


「うおおおおおお!!」


 カイザーは衝撃波後の硬直のせいか、震えて動けなかった。

 ラフィや仲間たちが繋いでくれた時間が、そしてみんなの想いが、全て光の奔流となって、剣に収束する。


 ――必ず、断ち切る!!


「ライトォーー・セイバアアアア!!」


 ズドォォォ!!


 全てを収束させた光の刃が敵を切り裂く――


 カイザーは真っ二つになり消滅した。



◇ ◇ ◇

《ケイ視点》

 襲撃があった翌日、家族で朝食を食べていると。

 トントンと家の戸が叩かれる。


「俺が出るよ」


 俺は完全に油断して感知を切っていた。

 

「はいはい、どちら様〜?」


 戸を開くとそこには――


「私だよ。久しぶりだねケイ・ツクヨミ君。来ちゃった!」


 ――笑顔のシルファが立っていた。


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