第30話
《アイン視点》
ラフィが教えてくれた敵、カイザー・インパクト・ビートル。名前を聞いただけでもジェネラルの上位個体だろう。
(名前を聞かなくても、この威圧感で相当な脅威だと分かるけどね……)
こちらが体制を整えるのを待っているかの様な、悠然とした態度。正に強者の風格を漂わせていた。
(僕の体力は万全ではないけど傷は完治した。だけどみんなは、こいつの威圧感に呑まれている様子だ……)
僕が勇者として立つ時は今だと思った。
「みんなと一緒なら勝てる!ブレイブハート!!」
通常なら常時発動しているバフだが、更に強く”勇気”と”力”をみんなに掛けるため、スキルを発動させる。
まず、ミカエラの瞳に炎が宿る。
「よし! 吞まれるなよみんな! いつも通り攻撃は私が通さない! 安心して攻撃してくれ!」
そしてエルに依頼する。
「私の盾に魔法を頼む!」
「わかりました、ホーリーシールド」
大盾を構え、前に出るミカエラ。
「っ!? あたいたちも行くよ! アインはまだ待機だかんね!」
「……行く!」
左右からウリエとアーキが挟撃に行く。
(僕にもできることをっ!)
「ライト・スピアー!」
光の槍を飛ばす。
後ろでセラフが魔力を集中させている。ラフィはまだ動けない様子だ。
カイザーは、ミカエラを追い越した僕の光の槍を避ける様子もなく直撃……、しかし傷一つ付いてなかった。
ミカエラが攻撃範囲に入ると、カイザーは片腕で攻撃してくる。
カイザーの攻撃が盾に触れた瞬間――
ドゴンッ!! パリンッ!
「ぐっ!!」
特に溜めもない攻撃に聖盾は割れ、ミカエラが吹き飛ばされる。
(なんて攻撃力だ!?)
「アース・スラッシュ!」
「獣拳波動!」
二人の攻撃もカイザーに傷をつけられず、やつは避ける気もない。
「どいてくださーい! ウインドォ~・スパイラルゥ!!」
十分に溜めたセラフの最高貫通力魔法が飛んで行く。その魔法を見た瞬間――カイザーは始めて、四つ腕を交差して防御姿勢を取った。
ギュリリリリィィ!!
まるで金属を削るような音が響く。
カイザーの腕二本を貫通したが、そこで魔法が霧散してしまった。
しかも、シュゥゥゥとすぐに再生していってしまった。
(ありえない硬さに再生能力……、一体どうすれば勝てる?)
その時――
カイザーの角に魔力が収束していくのを感知した。
「何か大技が来る!!」
キィィィィィン!!と高音が強く響き始める。
「フレイムハート、フレイムアーマー、フレイムシールド、更に私に!!」
ミカエラが僕たちの正面に出て、自己強化を最大に掛ける。
「はい! ホーリーシールド、ホーリーアーマー、ホーリーバリア」
エルも可能な限り防御魔法を掛けていく。
次の瞬間――
指向性を持った収束衝撃波が僕たちを襲った。
爆音と衝撃に、しばらく耐えたミカエラだったが吹き飛ばされた。
その後、僕たちもみんな吹き飛んだ。
「…………っ!」
一瞬意識を飛ばしかけたが、痛みで目が覚める。
周りを確認、ミカエラが一番重症な様子で、意識が飛び耳や口から血が垂れている。
エルも頭を強く打ったのか、頭から血が垂れてきていて意識がない。
セラフも同じ状態だ。三人とも息はしている。
ウリエとアーキは傷だらけだが、何とか立ち上がっている。
ラフィも僕の後ろにいたからか平気なようだった。何かを考えている時の顔をしている気がする。
「ライト・ヒール」
カイザーは動いていない様子だったので、ミカエラとエル、セラフたちに回復魔法を掛けていく。
(遠隔で掛けられるようになっておいて良かった)
「……こいつはヤバいね。あたいが動けなくなった時はまた面倒見てね?」
ウリエが“リミットブレイク“を示唆する。
(また頼るしかないのか!? ウリエも満身創痍、あの時とは違うぞ? 武器は不壊だから平気だけどウリエは大丈夫なのか?)
熟考して意識が逸れた時にカイザーが動いた。
「っ!?ウリエ!!危ない!!」
一瞬でウリエの目の前まで来たカイザーが一撃。
「っ!?リミッ!」
ドゴォ!!
ウリエは吹き飛ばされ、意識を飛ばされる。
「ウリエ!? くそっ!!」
僕は近接戦闘へ行こうとするが、アーキに止められる。
「もうあいつに攻撃を通せるのはアインだけ!! あたしがやつを足止めするから、一撃に集中して断ち切って!!」
そう言って飛び出すアーキ。
ラフィにも手を捕まれる。
「おそらくカイザーの攻撃力は衝撃によるものよ、アーキが一番相性がいいわ……」
(攻撃を”受けずに躱す”ってことか……)
「アーキ! 受けてはダメよ! どうしてもの時は衝撃波で打ち合って!」
「……了解!!」
(ラフィはずっと勝つ方法を考えていたのか?)
「アイン、あなたの攻撃が最後の希望よ。残り全てを。いえ、それ以上の力を溜めて、一撃で倒して!」
(ラフィが真剣な瞳で僕を見てくる。僕を本気で信頼してくれている眼だ……)
「……わかった」
「アーキと私で時間を稼ぐわ――」
そう言ってカイザーに向き合う姿は正に”勇者”を導く”賢者”に見えた。
「よし!!」
僕は目を閉じて集中する。
――今まで最高の一撃を放つため、全ての意識、全ての魔力、全ての想いを集中させていった。
◇ ◇ ◇
《ラフィ視点》
ハッキリ言って絶望的な状況……。
(本当にアインの底力に掛けるしかない)
チラッとアインを見ると、全てを遮断して本気で一撃に掛けている様子だ。
(そのための時間を、私たちが作らなくてはね)
アーキも頑張っている。カイザーに着かず離れずで、一撃受ければ終わる攻撃を回避し続けている。身体強化を常に全開にしており、全力戦闘の継続はいつ破綻してもおかしくない状態に見えた。
(危ない!?)
四本腕であるため手数も多く、だんだんと苛立ってきたのか攻撃が苛烈になってきていた。一撃が当たりそうになるが、アーキが衝撃波で相殺した――かに思えたけど。
「っ!!うぅ!」
アーキの左手が一撃でボロボロだ。相殺はできていなかった。その隙をつかれ横殴りで吹き飛ばされてしまった。
(アーキ!!)
カイザーが私を見る。後ろで力を溜めているアインも確認。警戒したのか衝撃波の準備に入る。
キィィィィィィィィィィィン!!
先程より高音が強く長く響き始める。
(ああ、あの絶望的な技が来る…………)
なぜか私の思考は加速し始める――
これが走馬灯ってやつかしら?
そういえば最近、魔法の深淵に辿り着くための切っ掛けを掴んだ気がしたのよね?
今日も図書館でアインに手伝ってもらって、寝ちゃってアインに撫でられて。
…………。
イヤイヤイヤ、それでは無くって。
そうそう、その前。
最後に読んだ本。
魔法はイメージ。
初めにみんなが習う、当たり前のこと。
当たり前すぎて忘れてたこと――
そうか……、そういうことか……。
――これが魔法の真理の、答えかもしれない。
カイザーの攻撃は衝撃波。
衝撃波って確か振動よね?
水中で気泡が沢山あったりすると、振動が伝わりずらかった気がするわね。
それに水の中に入った振動を、拡散させるように乱反射させるとかも良いかも?
魔法はイメージなら水に関してなら”賢者”たる私はなんでも出来るんじゃないかしら?
カイザーから先程以上の収束衝撃波が放たれるのが観えた。
私は一瞬で水の障壁を作成、気泡を最大限に展開、更に障壁内に乱れた波を発生させる。
水障壁はカイザーの衝撃波を受け水が沸騰し蒸発するが、私は水蒸気すら循環させ水障壁を再生させることを繰り返した。
カイザーの衝撃波が終息した瞬間、私も魔力ゼロになり意識を失った。
意識が落ちる瞬間に”私の勇者様”が走り出した姿を見た気がした――
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
僕が限界まで力を溜めた時にカイザーの衝撃波が来た――
驚いたことに、ラフィの作った水障壁が完全に防いでくれた。
(さすがだよ!! 僕の”賢者様”!!)
「うおおおおおお!!」
カイザーは衝撃波後の硬直のせいか、震えて動けなかった。
ラフィや仲間たちが繋いでくれた時間が、そしてみんなの想いが、全て光の奔流となって、剣に収束する。
――必ず、断ち切る!!
「ライトォーー・セイバアアアア!!」
ズドォォォ!!
全てを収束させた光の刃が敵を切り裂く――
カイザーは真っ二つになり消滅した。
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
襲撃があった翌日、家族で朝食を食べていると。
トントンと家の戸が叩かれる。
「俺が出るよ」
俺は完全に油断して感知を切っていた。
「はいはい、どちら様〜?」
戸を開くとそこには――
「私だよ。久しぶりだねケイ・ツクヨミ君。来ちゃった!」
――笑顔のシルファが立っていた。




