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推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第5章》ジパン辺境伯迷宮氾濫編

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第29話

 迷宮氾濫と同時に各町村が襲撃されることを知っていた俺は、当日早朝から村の端で魔力探知を全開に拡げて待っていた。

(来た――)

 探知範囲ギリギリに反応を確認。一番高い木に登り眼に魔力を集中する。


「おーおー、めっちゃいるなぁ」


 その数、ざっと一万。


「オーガか? いいね!」

(俺と姉さんの糧になってもらうぜぇ。あとは……、いた!)


 オーガを操っていると思われる魔族も発見した。


「姉さんを連れてきて、狩りを始めますかね」


 俺は急いで戻り、スタンピードが近づいていることを“姉さんにだけ“説明した。

(姉さん、めっちゃ笑顔で怖!?)


 戦闘準備をして、姉さんと村の端にきてオーガのいる方向を教える。


「あっちの方角なんだけど、まだ距離はあるんだ。村にくる前に左右から挟撃して殲滅したいと思ってるんだけど……、どうかな?」

「いいと思うわ。村のみんなに心配かけたくないものね? 私の感知にはまだ掛からないけどね」


 姉さんにジト目で見られる。ご褒美かな?


「了解。上位種も混ざってそうだけど問題ないよね?」

「剛力と硬さが取り柄のオーガなら、相性良いから平気よ?」


 普通はそこが脅威なんだが、俺と姉さんにとっては相性が確かに良い。高速移動に切断力……うん、問題ないね。


「じゃあ姉さん、どっちが多く狩れるか競争だね?」

「フフフ、言うようになったわねケイ。負けたら姉さんの言うこと、なんでも聞くのよ?」


 そう言って走り出す姉さん。


「え!? ちょっ!?」


 俺も慌てて走り出した。



◇ ◇ ◇

《ザッハ視点》

(こんな小さな村潰すのに、こんな戦力いるのかね?)

 俺が担当になった村は百名程度の小さな村だ。

 そして、俺が操っているオーガは一万と二百。オーガキングを含む上位種二百体を含んだ大部隊だ。

(この村は威力偵察じゃなくて、実践試験運用がメインてことだな……)

 俺はオーガたちを真っ直ぐ村に突撃・蹂躙させ、そのままぐるっとターンして帰還させる計画でいた。俺自身は後方におり、順次突撃出来るように部隊を真っ直ぐに伸ばしている所であった。

(一万強のオーガが走り抜けて行くなんて、脅威でしかないよな……)

 想像しただけで身震いがした。


 その時、魔操の腕輪に反応があった。

(何事だ!?)

 魔操の腕輪には、操っている魔物が倒された時に信号が来る機能もあったのだ。

(っ!? すごい速度でオーガが減らされているぞ!!)

 減らされている現場近くのオーガに、魔操の腕輪の視点共有機能を使おうとした時――


「まったく、左右からって言ったのに姉さん正面から行くんだもんなぁ」


 背後から突然声がして、振り返ろうとした――


「え?」


 ――が、俺の視点はなぜか宙を舞っていた。



◇ ◇ ◇

《ケイ視点》


「まったく、左右からって言ったのに姉さん正面から行くんだもんなぁ」


 指令を出していた魔族の首を刎ねながら、愚痴が出てしまう。

(姉さんが正面から行ったから、俺が後ろに回らざる得なくなってしまった……)


「魔族を先にって思ってたからいいけどさ。ハァ、でも勝負は負け確実じゃないかな?」

(上位種は比較的に後方に多くいるだろうしななぁ)


 司令塔が急にいなくなり困惑するオーガ共を無視して、魔族の処理を行う。


「これ見つかったら面倒だしな」


 魔族の死体を魔力で包み、限界まで圧縮する。跡形も残らず消え去り、そこには液状のシミだけが残った。


「よし、狩りの再開だ!」


 困惑から回復して、キングを中心に俺を敵と認識し始め、動きだそうとするオーガ共を俺は笑顔で蹂躙していった。


 村方面へオーガを倒して進んで行くと、姉さんの気配を察知した。

(くっ! やっぱり負けてる気がする!!)

 正面から現れた姉さんは、まさに暴風の如く切り刻んで進んでいた。


「フフフ、私の勝ちねケイ?」


 とても良い笑顔で言われてしまう。姉さんに怪我もない様だしよかった。


「ずるいよ姉さん! 左右からって言ったのに!」

「あら、そうだっけ? まあ良いじゃない、村が無事だったんだから」

(確かにそうだけど!)


 ジト目で姉さんを見るが、気づいてない振りをしてこちらを見ない。


「帰りましょう」

「そうだね……」


 二人でゆっくりと、平和なイセ村へ帰った。



◇ ◇ ◇

《シフォン視点》

 あたしは副司令官ニルス・モートと共に、迷宮コア破壊工作を命じられた。魔族の中でも少数しか使えない“暗黒魔法“を使うことができるあたしは、甲虫迷宮に入った後に、姿を消せる魔法“インビジブル“をあたしとニルス様に掛ける。


「便利だな」

「……ありがとうございます」

(この人、シルファ様がいる時とそうでない時の落差がヤバいなぁ……)

「なんだ?」

「……いえ」


 サクッと迷宮コアルームの前まで来た。

 迷宮コアの守護に派遣されている騎士が4名いた。なかなかの強者っぽい雰囲気だけど。

 ニルス様と視線を合わせ、左右に分かれる。騎士たちの背後に回り、タイミングを合わせて始末する。


「……やはり、この術は有用だな」

「……ありがとうございます、高レベルの感知持ちには感知されますけどね?」


 迷宮コアの前で時間を待つ。


「時間だ……」


 ニルス様の一撃で迷宮コアが砕かれた。甲虫迷宮全体が脈打つように揺れ、淡く輝きだす。


「撤退するぞ」

「了解です」


 あたしはインビジブルを掛けなおした。

 ニルス様は迷宮ボスのジェネラル・インパクト・ビートルに何かしていたが、あたしたちは足早に甲虫迷宮から離脱する。


「うわっ!」


 甲虫迷宮から少し離れた頃、急に地面がすごく揺れよろめいてしまった。


「無事、崩壊が始まったな。街の外で監視するぞ」

「了解。……あ」


 あたしたちの横を、勇者パーティーが走り抜けていく。


「……ちっ。いたのか……」


 ニルス様も気付いたようだ。

(まあ、あたしたちは見つかるわけにいかないから、後は見守るだけだね)

 あたしは、勇者パーティーがいるのであれば、この都市の壊滅は難しいかなと思ったのだった。



◇ ◇ ◇

《エルダ視点》

 わしの名はエルダ・ローグ。千年の時を生きた老エルフじゃ。長命のエルフであっても、そろそろお迎えが来るのではないかと思い、ここ百年くらいはこの都市でひっそりと暮らしておる。


「なんじゃったんじゃ、さっきの揺れは……。イテテテ、腰が痛くて動けん」


 先程の地震で転倒してしまったわしは、何とか椅子に腰かけるが腰痛で動けなくなってしまった。

(外は何だかうるさいしのぉ)


「あの程度の揺れで転ぶとか、わしも潮時かのぉ。イテテ、これ本当に骨が折れてるかもしれんの」


 その時、轟音と共に家の壁・扉が真っ二つになって崩れた。


「なっ!? なんじゃ!?」


 砂埃の中から魔物が現れる。

(っ!? ノコギリ・スタッグだとぉ!?)

 三メートルの大型、黒光りした外骨格、何より両顎の鋏が先程の切れ味から解る通りの脅威であった。

(なぜ街中に!?)

 わしに気付いているようで、ズシンズシンと真っ直ぐこちらに向かって来る。


「もはや……、これまでかのぉ」

(腰痛で術に集中できんし、なぜ街中にいるのかは分からんが……、これがわしの最期かのぉ)


 やつの顎が開き、わしは目を閉じた、最期の時はあまり痛みを感じない様にと願いながら……。


「…………」


(……………ん?)

 いつまで経っても痛みも何も感じないため、不思議に思いそっと目を開くと――


 ――バッキバキの腹筋が、目の前にあった。



◇ ◇ ◇

《ゴンザレス視点》

 俺は旦那に依頼されて、“筋肉最強“メンバーと一緒にジパン辺境伯領に来ていた。

 旦那からは『老エルフのエルダを救え』と言われた。理由は教えてくれなかったが、救うことで旦那にとって必要な”ある物”がもらえるらしい。

(理由は教えてくれなかったけどよ……)


「ゴンザレス、お前を信じて頼むんだからな」


 そう言った旦那の眼に嘘はなかった。

(旦那にあんな眼で信頼されたんじゃ、やらねーわけにはいかねーよなぁ!!)


 そんなわけで俺たちは早々にエルダ老の家を確認、何かあったら対応出来るように待機していた。


「っ!?うおぃ」


 轟音と揺れ、そして迷宮から魔物が溢れだした。

(おいおいおい、マジで旦那の言う通りなったじゃねーか!?)

 魔物共の動きは思っていたよりも早く、どんどん拡がっていった。


「こいつは、どうしたもんか……」


 都市の兵士たちが避難誘導しているが、全然人手が足りなさそうだった。

(比較的迷宮から遠いここは、まだ平気か?)

 そう考えた俺は、仲間と共に迷宮近くの避難誘導の手伝いに向かった。

 ある程度の避難が落ち着いたのでエルダ老宅へ戻ると、クワガタっぽい魔物の襲撃を受けていた。


(やばあああああい!!)


 パーティー全員でマジダッシュしてギリギリ間に合った。

 やつの鋏がエルダ老に届く瞬間に滑り込み、鋼の筋肉ポージングで鋏を止めた。


「大丈夫ですか? ご老人?」


 俺は大胸筋をピクピクさせつつ、白い歯をキランとして笑いかける。


「……え? 何……この腹筋、バッキバキじゃ」

(大胸筋を見て欲しかったぜぇ!)

「ご老人、俺がここを押さえますので避難をしてくだせえ」


 エルダ老がハッとした後、申し訳なさそうな表情になる。


「おぉ、すまん。腰を痛めて動けないんじゃ……」


 マジで大ピンチだった……。改めてギリギリだったことに、俺は冷や汗を垂らす。

(……俺も殺されるところだったようだぜ)


「了解しましたご老人。おい!! お前ら聞こえたな!?」


 俺は動けないため、パーティーメンバーに任せる。


「「「任せろ!リーダー」」」


 三人のマッスルフレンズが動き出す。


「いくぞ!アブド!カーフ!、マッスル・フェロー・アタックだ!!」


 最強筋肉メンバー、黒の三筋漢であるデルト、アブド、カーフの必殺連携技が炸裂する――

 デルトが超低姿勢からのマッスルダッシュでノコギリ・スタッグの腹部に潜り込み、筋肉を魔力で膨張させ突き上げる。


「どりゃあああああ!!」 ドゴッ!!


 ノコギリ・スタッグが天井を突き抜けて上空に突き上げられる。

 突き上げた先には、先に上空までジャンプしていたアブドが筋肉を膨張させて待っていた。


「そりゃあああああ!!」 ボコッ!!


 上空に来たノコギリ・スタッグの頭部を上から叩き落とす。

 地面に向けて叩き落されたノコギリ・スタッグが地面につくギリギリのタイミングで、カーフが最高に加速した体当たりが側面から炸裂する。


「たりゃあああああ!!」 ドゴンッ!!


 そのまま真横に吹き飛ばされたノコギリ・スタッグは、壁にぶつかりいろいろな液体を身体中から撒き散らして消滅した。


「…………お前さんの仲間はすごいのぉ」

「すべては筋肉のおかげさ!」


 笑顔でポージングした。

 俺たちは無事にエルダ老を安全な避難所へ連れて行った。


「さあお前たち、街の中を見て回るぞ!」


 避難できてない人がいるか、見回りに行こうとすると。


「ちょっと待ってくれんか?」


 エルダ老は俺の手に、一つの宝石?を握らせてくれた。


「これはとても貴重な物じゃ、わしくらいの老エルフじゃなきゃ作れないくらいの物じゃ。どうか、もらっておくれ。感謝しておるぞ」

(これが旦那の言っていた”ある物”かな?)


「そうかご老人、ありがとな!」


 こうして俺たちは無事に“暴風玉“を手に入れた。


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