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推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第5章》ジパン辺境伯迷宮氾濫編

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第28話

《アイン視点》

 ものすごい地響きと”甲虫迷宮”から眩い光の柱が伸びるのを見た瞬間に、ケイから聞いた情報を思い出す。


(甲虫迷宮が崩壊する――)


 すぐに図書館に戻りラフィを探すと、ラフィも驚き立ち上がる所だった。


「アイン、今の地響きは何?」


 僕はラフィの手を握る。


「不味いことになった!ラフィ、すぐに行くよ!」


 ラフィは困惑しながらも僕の表情を見て、すぐに頷いてくれる。

 僕たちは全力で走って甲虫迷宮へ移動していた。僕は移動しながらラフィへ説明する。甲虫迷宮が崩壊する可能性があること、その場合は中の魔物が全て溢れてくること。


「それは勇者の直感?」

「ああ! 僕は確信してる!」


 ラフィは驚きながらも直ぐに切り替え、どうすれば良いか思案し始める。

 途中で巡回中の兵士とすれ違う。


「アイン待って!」


 ラフィは兵士を呼び止め、辺境伯家令嬢として命令する。


「すぐにお父様に報告なさい、そして勇者パーティーと可能な限りの兵を迷宮入口に! 行きなさい!!」

「はっ!!」


 兵士が敬礼をして走って行った。


「私たちは先に行きましょう!」


 さすがラフィだなと思った。僕はとにかく現場に行くことしか考えてなかったよ。



 都市の中心部にある甲虫迷宮の入口に着いた。元々、迷宮から溢れだしてきた時のためにと迷宮の入口周囲を壁で囲い、一か所からしか出入りできない様に作ってあった。

 甲虫迷宮を見るとドクン、ドクンと拍動している様に僕には見えた。


「魔力の流れがおかしいわ……、明らかに異常よ」


 ラフィも違和感を感じている。


「今、潜っている人は居ますか?」


 迷宮担当のギルド職員に聞くと。


「え~と、ああ。早朝に新しい二人組が潜りましたけど、出てきていませんね?」


 甲虫迷宮は全20層の比較的深度が低い迷宮だ。しかし、その分一層毎の面積が広い。

(一日で踏破出来るのか? できるとしたら、どれだけ強いんだ?)

 迷宮コアを破壊されると迷宮は崩壊する。

 しかし、産業として迷宮を管理している国としては看過できないので、迷宮コア防衛として国のエリート騎士を数名配置しているのだ。

(きっとこの現象は崩壊の兆しだ。騎士様はやられてしまったんだ……)

 隣でラフィがギルド職員に事情を説明、至急避難と腕利きの冒険者の招集を依頼している。


 その時――

 地面が揺れ、甲虫迷宮が輝き出した。


「ラフィダメだ。みんなを待っている時間は無さそうだよ」

「っ!?……どうやらそのようね」


 次の瞬間――

 甲虫迷宮から魔物たちが溢れだしてきた。

 僕は覚悟を決め、迷宮の入口に向かって走り出した。


「ラフィ! 二人でできるところまで頑張ろう!」

「了解! アイン無理しないでよ?」


 ケイの話しだと、迷宮崩壊すると一気に迷宮内の魔物が飛び出すわけではなく、上の階から順に排出されて行くとのことだ。

(確かにっ! まだっ! 雑魚ばかりだっ!)

 僕は剣を振るいながら次々と溢れてくる魔物を倒していった。迷宮の魔物のため、死骸が残らないのがありがたい。あったらとっくに足場が無くなっている。

 ラフィも攻撃魔法を待機しつつ。ウォーター・プリズンで僕までの道を狭くして、多数を一気に相手しなくても大丈夫なように維持してくれている。

(今はまだっ! 上層の魔物だから無理なく倒せてるけどっ!)


 時間が経つにつれ、一撃で倒せていたのが二撃に。敵の攻撃が時折、掠るようになってきた。

 甲虫迷宮は名前の通り、甲虫系の魔物がメインだ。基本的には硬くてしぶとい。多数を相手にするという意味で最悪な種類の魔物だった。


 ガキッ!ガキン!ガキッ!ガガッ!ガリッ!


「っく!」

(10層のボス、”カミキリ・ビート”が5体同時って!?)


 エイユウ学園に行く前の僕だったら、絶対に倒せなかった相手だけど。


「アイン!」

「平気だよ!っと、ライト・セーバー」


 横薙ぎ一閃――

 フゥと、一息するがすぐに次がくる。

 普通の斬撃では一撃で倒せなくなったので、スキルを多用し始める。しばらくすると身体が段々と重くなってきた。

 ラフィも水牢を維持しつつ攻撃魔法で援護をしてくれているが、このままではジリ貧確実であった。ラフィも汗が止まらず顔色も良くない。

(……僕もラフィも限界が近いぞ、どうする?)

 集中が途切れた一瞬、左肩に激痛が走る。


「っ!? ぐうぅぅ!!」


 スモル・ビートルが僕の肩に突き刺さっていた。すぐに抜き、切り裂く。


「アイン!!危ないっ!!」


 泣きそうな声でラフィが叫ぶ。

 僕に向かって無数のスモル・ビートルが迫っているのが見えた。

 ラフィも顔面蒼白になって座り込んでおり、明らかに魔力欠乏状態だった。そのため、水牢は維持ができなくなっており、多方面からの波状攻撃が僕に迫っていたのだ。

 

 ――その瞬間


「ホーリーバリア!!」


 ズガガガガガガ!!!!


 聖なる壁が僕の周りに展開され、スモル・ビートルたちの猛攻を防ぐ。


「ウインドォ・プレスゥ~~!!」


 風の超圧力がスモル・ビートルたちを吹っ飛ばす。


「アース・スラッシュ!!」

「獣拳波動!!」


 土属性の斬撃波と衝撃波が、スモル・ビートルに止めを刺していく。


「二人とも待たせたな!」


 ミカエラが僕の前に立ってニコリと笑って言う。


「二人の治療を! 他の者はここの死守だ! 気合を入れろ!!」

「「「「「おおー!!」」」」」


(よかった……。みんなと辺境伯軍の皆さんも来てくれた……)


 安心した瞬間、何故か魔物の猛攻も止まった。


 しかし、僕の”勇者の直感”が全力で警鐘を鳴らしていて――


「っ!! みんな伏せて衝撃に備えて!!!!」  


 迷宮から有り得ない威力の衝撃波が放たれ、一瞬にして周囲の壁を壊し、全てを吹き飛ばした。


 甲虫迷宮の悪意がついに、街中へ溢れだしてしまった。



◇ ◇ ◇

《ジパン視点》

 執務室に居た私の元に急報が届いた。

 報告を聞いた勇者パーティーのメンバーは直ぐに向かって行った。


「辺境伯軍の半数も行け!」


 私はすぐに指示を出す。

(アインにラフィの連名報告!? 間違いない、ということか?)

 目を閉じて考える。

(迷宮崩壊……。俄かには信じられんが、先程あった地響きも関連があるのか?)

 その時、地面が大きく揺れ、窓から眩い光が差し込んだ。


「何事だ!?」

「迷宮方面から光が!」

(くそ!! 間違いないのか!? 増援が間に合うと良いが……)


「残りの兵に市民の避難誘導をさせるのだ!ギルドにも応援を要請しろ、直ぐにだ!!」

「はっ!」


 再び目を閉じ考える。

(ラフィちゃんが無理してなければいいが……。アイン君たちと我が軍が揃えば、終息させるのは容易であろう。取り敢えず避難誘導が終わったら全軍を向かわせるか。終息後に迷宮崩壊でこの辺境伯領の運営が続けていけるのか……、そちらの方が頭が痛い問題か?)


 その時、慌てた様子で兵士が部屋に入ってくる。


「っ!! 報告です!!」

「今度は何だ!?」

「はっ!見張からの急報、計八つの町村から緊急救難信号があったとのことです!!」

(なんだとおおお!!なぜ今あああ!?)


「っ!!詳細は分かるのか?」

「はっ!全て魔物のスタンピードとのことです!」

「な、なんだとおおお!?……ん? 救難信号のない場所はどこだ?」

「はっ!イセ村です!」

(この示し合わせたようなタイミング!? 人為的なものなのか?……イセ村が無事なのも意味がわから……)

 思い出す――『剣聖』がいたことを。

(ステラ嬢か!? ありがたい!!……しかし、他の場所に回す戦力は……)


 その時、轟音と共に窓ガラスが全て衝撃波で割れ落ちる。


「っ!? 今度は何だああ!!」


 外を見ると――

 迷宮を囲う壁が崩れ落ち、その隙間から魔物どもが溢れてくる様子が見えた。


「…………」


 その光景を見て、私は覚悟を決めた。


(私は辺境伯で、領民は私が守るべき存在、それは救済を求める町村の者も一緒だ。しかし、全てを守ることはできない――)

 

 歯を食いしばり告げる。


「全てを、救うことはできん!! 私の責任において命じる!! 救難信号には応じない!! 我が軍は全力を以ってこの都市の民を救え!!」


 私の気持ちが伝わったのか、残っていた兵士は全員強い瞳で答える。


「「「「「はっ!!!」」」」」


(願わくば少しでも領民が救われんことを――)

 私は神に祈りを捧げた。



◇ ◇ ◇

《アイン視点》

 衝撃波で周りは吹き飛ばされていたが、僕たちのパーティーは咄嗟に固まり防ぎきっていた。

 ラフィは魔力ポーションを飲んで回復中、僕もエルに回復魔法をかけてもらっていた。

 砂埃が晴れてきて視界が開けてきて、たくさんの魔物が壊れた壁の隙間から街中へ溢れて行く様子も確認できるけど……。


(ここから、動けない!!)


 その理由は、目の前にいる一体の魔物が原因だった。

(なんて威圧感だ……)


 この甲虫迷宮のラスボスは、“ジェネラル・インパクト・ビートル“だ。しかし、目の前にいるコイツは似ている様で別種だった。

 二メートルはある大きさ、人型で二足歩行の四本腕、全身鎧な様な外骨格に守られ、長く伸びた角の両側にも半分くらいの角があり計三本の角があった。

 余裕なのか何なのか、奴はこちらを見て悠然と待っていた。

(僕たちが立て直すのを待っているのか!?)


「もしかして、カイザー? カイザー・インパクト・ビートル?」


 ラフィが呟く。みんなが彼女を見る。


「文献で読んだことがあるの。極々稀にジェネラル・インパクト・ビートルではない個体が出たって話。カイザーなら、強さはジェネラルの比ではないわ」

「また、異常個体か……」


 呟いてしまう。そして、疑問が浮かぶ。

(ボスとはいえ、迷宮の魔物が異常個体に進化するか?)

 違和感を感じる。

(これじゃまるで、ドワーフ王国の時みたいじゃないか?)

 

 僕はこの脅威に対する危機感と共に、何者かの影への疑念を募らせていた。


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