第26話
《アイン視点》
二学期最後の講義の、終業の鐘が鳴った。
僕は急いである場所へ向かっていた――
(合同迷宮探索は一緒に行けなかったけど、今回の帰省はステラ姉さんも一緒に来てくれるはず!)
ラフィの父であるジパン辺境伯より、”勇者パーティー”と”ステラ・ツクヨミ”に対して、冬休み中に一度みんなで帰って来て欲しいと連絡があったのだ。
(辺境伯様のお願いなら、きっとステラ姉さんも一緒に来てくれるはず!)
僕は期待を胸に抱いて、廊下を早足で歩いた。
僕は生徒学生会室の扉を、少し緊張しつつも思い切って開いた。
「失礼します! 一年生のアインです! ステラ姉さんはいますか!?」
学生会メンバーの視線が僕に集中する。
その中で代表してアイナ先輩が返答してくれた。
「姐さんなら、もう実家に帰ったよ?」
「………え?」
それを聞いた僕は、またしても静かに崩れ落ちた――
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
その頃――
俺と姉さんは、故郷の【イセ村】へ馬車でゆっくりと向かっていた。
(アインが姉さんを誘う気がしたから、先手を打たせてもらったぜ!)
珍しく俺が一緒に帰省しようと言ったせいか、姉さんはニコニコとご満悦そうだった。
そんな姉さんをジッと見ると。
「どうしたのケイ? お腹空いた?」
出発前に買っていた飴ちゃんをくれる。
(姉さん、俺はもうそんな子供じゃないよ、もらうけど……)
「ありがと」
(飴ちゃんうまっ! じゃなくて、アインであっても姉さんはやらんぞ?)
ゲームにおいて、サブヒロイン枠の姉さんを攻略するためのターニングポイントが、この帰省だったのだ。冬休みイベント、”ジパン辺境伯領迷宮氾濫”に、姉さんを連れていけるかどうか――
(アインの野望は俺が砕いた!)
やり切った俺は、最愛の姉さんと談笑しつつ帰省するのだった。
◇ ◇ ◇
姉さんは毎年帰省しているそうだが、俺は修行の旅に出てから初めての帰省であった。
懐かしの実家の戸を開ける。
「ただいま!父さん、母さん」
「おお、おかえり。ケイ、ステラ」
「おかえりなさいケイ、大きくなったんじゃない?」
(父さんも母さんも変わらないな。でも、少し老けたかな?)
懐かしの母さんの手料理に舌鼓を打ちながら食卓を囲み、今まであったさまざまな話をしていた。
(二人とも元気にやっているようで何よりだ)
俺も姉さんも何気にお金が使い切れない状態なので、仕送りをガッツリしていた。でも、あまり生活水準が変わってない?
「あれ? もしかして仕送り足りなかった?」
「ああ、お前たちが送ってくれてる金か? あれはそのまま取ってあるぞ?」
「……え? なぜに?」
「いいのよ。母さんたちは生活に困ってないしね。いつか自分たちのために使いなさい」
「ケイ、私も毎年言ってるけど、同じ答えしか返ってこないのよ」
「お前たちは自由に生きればいいんだ。父さんたちは、お前たちの活躍が聞けるだけで幸せなんだからな!」
この人たちは……、本当に大きい。
いつまでも元気でいてもらいたいな。
(その為にも――絶対に守ってみせるよ! 父さん、母さん)
ゲームだと、このイセ村は”ジパン辺境伯領迷宮氾濫イベント”時に殲滅される運命にある。
正確には、ジパン辺境伯領内で首都ジパン以外が壊滅するシナリオなのだ。
迷宮氾濫発生で混乱すると同時に、周囲の町・村が全てが魔物のスタンピードに曝されるのだ。
(間違いなく人為的であり、魔族の暗躍……)
「この村はやらせないぜ。俺と姉さんがいるんだからな」
俺は小さく呟いた――
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
冬休みに入り、僕たち勇者パーティーはジパン辺境伯領の主都ジパンに帰省していた。
ジパン辺境伯様もステラ姉さんがいないのは残念がっていたが、ラフィに会えたので満足しているようだった。
「おお愛しのラフィ。少し見ない間に、また美しくなったんじゃないか?」
ジパン様はラフィに抱擁をしようとするが。
「父さん本当に止めて?」
バッサリと拒否される。
「ッ!!グフ……」
ジパン様が血を吐いて倒れた。
僕とラフィ以外はドン引きである。
「いつもなのよ、ほっといて平気。みんな行きましょ?」
ラフィはみんなを連れて行ってしまった。僕はジパン様にライト・ヒールを掛ける。
「ありがとう、アイン君。君はいつも優しいね――」
穏やかな笑顔でいたが、急に真顔に変わり。
「――だが、ラフィはやらんぞ?」
ドスの利いた声で囁いてくる。
「承知しております」
(この方はラフィが絡まなければ、すごい人なんだけどなぁ……)
辺境伯領は国の国境沿いに位置しており、国防も大事な仕事である。
そのためジパン辺境伯領も実力主義寄りな側面が強く、平民であっても実力さえあれば重用されていた。領民からも慕われており、貴族らしからぬ貴族で通っていた。
僕たちが在籍していた辺境伯学園もこの首都ジパンにあり、在学中にお世話になった”甲虫迷宮”も領都内にある。
(ジパン様も許可をくれたし、ある程度ゆっくりしたらみんなで迷宮探索もしようかな……)
僕は、これから始まる冬休み生活に想いを馳せた。
「でも何だか……」
理由はないが、僕の直感が何かあると、気を抜くなと告げている気がした――
◇ ◇ ◇
《シルファ視点》
魔王軍幹部である私は、今回の『エルドラド王国辺境伯領威力偵察兼魔物軍隊運用試験』における総司令官だった。
(……作戦名が長いわね)
私たちは、辺境伯領から離れた森の中にある高台で臨時作戦指令室を構えていた。
今は作戦開始前の確認作業を行なっていた。
「とりあえず、作戦名が長いから略称を『辺境偵察試験』とします」
みんな同じ思いだったようで頷いてくれる。
「ニルス、よろしく」
副司令官のニルス・モートが答える。
「了解ですシルファ様。副官ニルスだ、今作戦に参加したのは我ら十三名だ」
ニルスは全体を見渡す。
「今作戦は名前の通り、大国において武闘派である辺境伯領の威力偵察が目的で、更にこの装置――」
ニルスが腕を前に出し腕輪を見せる。
「――この”魔操の腕輪”の運用試験もやってしまおうという、一石二鳥作戦だ」
一人が手を挙げる。
「……なんだ?レシー」
部隊の通信兵レシー・ブドが質問する。
「魔操の腕輪は信用できるんですか?」
「本国で散々実験してある! だからこその実践試験だ!」
ニルスの睨みにレシーは。
「っ!? す、すいません」
ふんっ!と不機嫌そうに答えるニルス。
「よく考えろ! シルファ様が立案されたんだぞ? そんな初歩的なミスが、あるはずないだろう?」
(いやいや、私そんな完璧じゃないよ?)
私はニルスの信頼がちょっと重いと感じた。
「では続ける。辺境伯領には首都の他に、三つの町、六つの村がある」
(そういえば”勇者”や”あの時の子”の出身も、この地よね……)
「首都は迷宮コアを壊し崩壊させる。そして同時に九か所の町村も攻めるのだ」
(あの二人の実力だったら、今は辺境ではなく学園都市にいるはずよね?)
「町村を攻めるのに、この魔操の腕輪を使って人為的にスタンピードを起こすのだ!」
(特にあの時の子、調べたら名前を”ケイ・ツクヨミ”というそうだけど……)
「首都を迷宮崩壊で混乱に陥らせると同時に、周囲の町村もスタンピードで蹂躙する。……さすがシルファ様です!」
(約束を守ってくれたのもあるし、巻き込まれてほしくないからね……)
全員が私を見て「おおぉ~」と称賛してくれている。
(え? 考えことしていて聞いてなかったけど、作戦の説明しただけよね?)
ニルスを見ると、ドヤ顔だったのでイラっとして殴っておいた。
「???」
ニルスは困惑した顔をしているが無視して。
「そういうことだから、作戦開始時間の確認と各自の持ち場確認、自分たちの扱う魔物の確認をしておきなさい!」
「「「「「はっ!」」」」」
各自で地図を見たり、扱う魔物の特徴を確認したりと作業に入る。
「あとは任せたわ」
「「はっ!」」
ニルスとレシーに任せて私は自室へ戻った。
窓際に座り、外を眺める。
(きっとこの作戦でたくさんの人が死ぬわよね。……どうして魔族と人族たちは、争うことになったんだろう?)
実際古い文献を調べてみても、いつからか分からないのだ――誰が、なぜ?
(今は理由を考える人もほとんどいない気がする……)
「……そう運命づけられた世界?」
(ないない、それはない……)
「だって……、勇者が生まれ、魔王を倒すのが繰り返されているんだよ?」
(それでは……まるで……)
「私たち魔族は、”やられるために存在している”ってことになるじゃない?」
(そんなの、認められるわけがない!)
「私たちだって、こうして笑ったり怒ったりしてるんだよ?」
夜空に向かって、私は独り呟いていた。
◇ ◇ ◇
翌朝――
私の前に全員が揃う。
「お前たち、今日の作戦は魔王軍で初の大規模作戦だ。しかし、私たち魔族の影を、まだ世界に知られるわけにはいかない!!」
私は全員を顔を見回す。
「諜報活動員の中でも、腕利きばかり集めてもらった。ここに集まった貴様らならばできると確信して集めたのだ!! 人族に我らの影を気付かせることなく、最大の成果を出してくれ!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
私は辺境伯領の方向を指し、発令する。
「『辺境偵察試験』を発動する。さあ、我らの力を示せ!!」
「「「「「了解です!!」」」」」
こうして、
『エルドラド王国辺境伯領威力偵察兼魔物軍隊運用試験』が発動した――




