第24話
今日で最後の予定だよ、二学期クエスト――
(今日もサボっていたら許さない、ゴンザレス……)
そんなことを考えながらギルドに入った。
依頼書を取りカウンターへ、受付嬢に聞いてみる。
「今日はゴンザレスさんいないんですか?」
「あぁ~、あの人目立ちますもんね? 今日は早朝から遅滞案件をいくつも受けていってくれましたよ。助かりました」
受付嬢さんが笑顔で答えてくれる。
「「…………」」
「そうですか、これ受けます」
(……妙に用意してあったセリフっぽいな)
「よろしくお願いいたしますね。あら、今日はこのクエスト二人目ですね」
(え?……俺以外にいるの?マジで?)
「……誰が?」
「ギルドは個人情報を言えません」
(そらそうだよね。行けばわかるか?)
◇ ◇ ◇
ナディアの依頼②:図書館の書籍整理②――
今日も司書のナディアさんが迎えてくれた。
「今回も受けてくれてありがとうございます。助かります」
「ナディアさんのためなら、何度でもってやつですよ」
「ありがとうございます。今日は姪も手伝ってくれてるんですよ」
(さすがナディアさん、クールにスルーする感じがいいね!)
「……ん? 姪?」
図書館の中に入るとステンドグラスの光の下に、
一人の女性がいた――
光が反射してキラキラしている銀色の髪。
背中まで伸びた銀髪がサラサラと流れている。
気怠そうにしているが紫の瞳が綺麗だった。
スラッと伸びた手足。
スレンダーな彼女は、女神のように美しかった。
(…………アゼルだぁあああああ!!!!)
アゼルを見て俺は――
思考が飛んでしまいそうになるのを何とか抑える。
(ハァハァハァ……、俺はあの時とは違う、成長したんだ!)
強い意志で自制して、俺は彼女に挨拶をする。
「……よ、よろしく、お願いします。……ケ、イと言います」
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
廃書庫整理にもう一人くるかもしれないとナディアさんが言っていた。
こんな人気のなさそうなクエスト来るわけないと思ったけど――
本当にきた……。
(…………男)
嫌だけど挨拶されたし、そっちを向くと。
(すごい目が血走っていて、鼻息もすごく荒い!!めっちゃ怖い!!)
…………あれ?
(どこかで……、いつだったか見たことがあるような、……顔?)
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
(あれ? なぜか引かれている?)
アゼルは、すごい警戒感を帯びていた。
(そうか! もう男性不信になっているからか!?)
「……今日はよろしくお願いしますね」
(すごく残念だけど、今は我慢だよな。恐らく、”イベントでしか”救えないもんな……)
「じゃあ、やっちゃいましょうか!」
小部屋に移動して廃棄予定の書籍を片付けていく。
アゼルとの距離は遠く、部屋の端と端で作業を進めた。
アゼルがいて幸せな空間のはずなのに、灰色な世界だった。
(一言だけでも、声が聴きたかったな……)
先に目的の”ボロボロの古書”はナディアさんの許可をもらって確保している。
「「…………」」
静寂の中で黙々と続ける。
作業がもう終わりそうな頃――
「……ねぇ」
瞬間――世界が色づいた。
振り向くとアゼルがこちらを見ていて。
「あなた、昔あたしと会ってないかしら?」
(…………覚えてくれたのか?)
「あ、あぁ。小さい時に、南の森で……」
「そう、やっぱり!」
アゼルは満面の笑顔になった。
「あの時はお礼を言えなくてごめんなさい!」
彼女は頭を下げ、またこちらを向く。
「本当にあの時は怖くてね、もうダメかと思ってたのよ」
「でも」とアゼルはまた笑顔になり。
近づいてきて俺の手を握る。
「あなたのおかげで助かったの。ありがとうね!」
それだけ言うと、アゼルは去って行った――
「…………」
――数時間後
「っ!? ケイさーーーーん!!」
――立ったまま失神していた俺を発見したナディアさんが、叫び声をあげたそうだ。
◇ ◇ ◇
ナディアさんに介抱された俺は、羞恥で悶えつつ帰路に着いていた。
(幸せな時間だったが、まさか意識まで刈っていくなんて。やるなアゼル!)
路地裏を歩いていると。
「ダーク様……」
音も無く現れるエンジュ。
「どうした?」
「ディーが報告があるので寄って欲しいとのことです」
(ディーが?珍しい。もう結果が出たのか?)
「そうか。では、行こうか――」
俺たちは音も無くその場から消えた――
(忍者ムーブっ!! やってみたかったんだよね!)
◇ ◇ ◇
黒の死神本部――
「いろいろ!……できました!!」
(テンションの高いディー……、ウザイな?)
「説明を」
「はい! 黒の死神の標準装備ができました!!」
「だからその具体的な説明を」
「はい!! めっちゃすごいの創った!!」
(不眠不休でダメになってるな、寝かせてやるか――)
ドンッ!!
物理で寝かせてみた。
「ダーク様、代わりに私が――」
「頼むエンジュ」
エンジュの説明によると、エイユウ学園の制服から着想を得たディーが、その素材に着目したそうだ。結果、糸自体が微弱な魔力を帯びていることが解る。
ディーは”生きたトレント”を繊維状にして特性魔力布を作成した。
魔力強度は物理強度に直結する――
(この特性魔力布なら、俺の戦闘服みたいに“疑似魔力戦闘服“ができるな)
「やるじゃねーか、ディー」
ニヤリとしてしまう。黒の死神の超強化確定だな。
「やはり魔力は万能だな!」
「すべてダーク様のおかげでございます」
ディーはあとで褒めておこうと思った。
◇ ◇ ◇
《エンジュ視点》
私はエンジュ・ビースト。
今は黒の死神の裏組織”黒影”を統括している。
黒影は”小さい胸の可愛い女子”だけで構成されている。
――小さい胸の可愛い女子、これだけは絶対条件だ。
(だって……、ダーク様が求めているのは、小さい胸の可愛い女子だから!)
「エンジュ様、本日の見回り終了しました」
部下が戻って来たようだ。
諜報・暗殺などが私たちの仕事だが、現在この都市は平和だ。
そのため……、あまり仕事はない。
結果として私たちは、時間があれば訓練やダーク様談義をしている。
「今日も訓練するわ」
「「「「「は!」」」」」
ディーのおかげで装備もダーク様の言う『忍服』ができた。
身体強化・魔力制御が高レベルになると自然回復も早くなる。
そのため私たちはギリギリの訓練をいつも行えていた。
(あぁ、訓練をしていると、あの地獄の特訓を思い出す――)
◇ ◇ ◇
私は姉のアーキと逃げていた――
何者かに黒猫族の隠れ村を突然襲撃され、村中が混乱していた。
逃げている途中で私は転び、何者かに捕まってしまった。アーキは私を助けようと頑張っていたが、敵の攻撃で崖下に落ちて行ってしまった。
アーキも両親も死に、村のみんなも全滅したと聞いた。
奴隷として売られ、家族や仲間も失い、絶望的な気持ちになっていた私は――
(――もう何も考えることができない……)
絶望の中、私は闇のオークション会場の冷たい檻の中で、悪い貴族のさまざまな醜い視線を受け、私はもう消えてしまいたいと思っていた。
その時――
(…………あっ)
――会場で血の雨が降った。
阿鼻叫喚。
いろんな汚物が飛んでいた。
そんな血みどろの世界で私は――少し口元が緩んだ。
(ざまぁみろ……)
静寂――
そして、血の海の中で”漆黒の死神”が立っていた。
天井が一部崩れていて、彼に一条の光が射す――
(あぁあああ!)
私は歓喜した。
(すべてを失った私にっ! 天使様がきてくれた!)
私は血の涙を流しながら、
満面の笑顔で、彼に両手を拡げて、救いを求めた――
◇ ◇ ◇
その後のダーク様との”地獄の特訓”は、私にとって”至福の時間”だった。
ダーク様が触れていてくれる――
バチッ!!
ダーク様が見つめていてくれた――
バリバリ!!
ダーク様がいつまでも相手をしてくれる――
ドガッ! バキッ!
なぜか。ダーク様が引いていた……、気がする?
ダーク様からアーキが生きていたと聞いて、会いたいとは思う。
(でも私は、私の命は、ダーク様に捧げると決めたの……)
だから私は、ダーク様に言われた通り、影で生きていく。
あの人が私を、必要としてくれる限り。
姉さん、エンジュはダーク様と共に生きていきます――




