第21話
学園都市外苑部にある大きな屋敷。
ここが俺の組織【黒の死神】の本拠地だ。
屋敷自体はギルド公認のクラン【黒の死神】のクランハウスとして登録していた。
しかし、その実態は地下にあった……。
屋敷内の隠し階段は地下深くまで繋がっている。その階段を降りて行くと地下に巨大な空間が現れる――それは小規模な地下都市と言えた。
(いつか、エレベーターを作ってもらいたいな……)
地下都市の最奥に裏組織【黒の死神】ボスの部屋があった。
(お邪魔しま~す……)
部屋の中には、デスクの上に山のように積まれた書類と格闘する、オルト・クローニンの姿があった。
俺は気配を殺したまま静かに部屋に入り、オルトの後ろへ回りこんで耳元で囁いた――
「ただいまオルト、今戻ったぜ」
ビクッとした後に、ゆっくりと振り向くオルト。
「ビックリさせんなよ……、お帰りオーナー。首尾はどうだったんで?」
オルトは不満を言いつつも帰還を歓迎してくれる。
「バッチリだよ。すまないな驚かせて、オルトは良い反応するからさ」
「勘弁してくれよオーナー、俺は一般人だから気配とか分かんねーからな?」
「俺の潜伏は一流のやつだって気づかないよ。ドワーフ王国でも俺に気づいたのバロンだけだったし……」
「っ!あの七大聖王の!?」
「そうそう。危なかったよ~、あれは……」
「いやいや、そんな人に目を付けられないで下さいよ! マジで!」
「アハハ、まあ大丈夫だよ」
「アハハって! 本当に平気!? 平気なんですか!?」
「平気だって! この話はおしまいなっ!」
「……本当に頼みますよ~」
オルトはため息を吐いて、眉間にしわを寄せていた。
(気苦労が多そうで大変だな……、頑張れオルト!)
「こっちは何か問題はあったか?」
「いや、平和なもんさ。オーナーが出かける前に、粗方ヤバいやつらは処理していってくれたからな」
「そうか、良かったよ」
俺もひと安心した。ゲームと違って現実だからな……。
「幹部連中のみんなも元気か?」
「……あー、元気も元気、元気過ぎて困ってるよ。今ちょうど全員いるはずだから、呼ぼうか?」
うんざりした顔で愚痴ってくるが、しっかり面倒は見てくれているようで感謝しかない。
「そうだな、直接報告聞くかっ!」
◇ ◇ ◇
オルトの部屋に黒の死神の幹部たちが全員揃った。
「みんな、ただいま! 変わりはなかったか? 各自報告を頼む」
モヒカンの大男がずいっと前へ出る。
「おかえりなさい旦那! まずは、俺から報告させていただきやす!!」
こいつは”ゴンザレス”。幹部の一人で”表”の組織を担当している。
ギルドでの活動を中心とした、表の世界での権力掌握を狙った部署だ。
「俺らのパーティー”筋肉最強”は着々と実績を重ねてますぜっ! 旦那の言う通りにっ! 活動していたらっ! 学園都市ギルドの信用もうなぎ上りって感じですよ!!」
一言毎に筋骨隆々の身体で魅せるポージングをして、キランッと歯を光らせる行為を繰り返すゴンザレス……。こいつは身長も二メートルあるし、強面だし、モヒカンだし……。
普通にウザイな――
(でもなぁ、こいつ話せば気のいいやつだし、めっちゃ優しいんだよなぁ)
「旦那の言いつけ通り、”他の奴らが嫌がるクエスト”ばっかりやってた成果っすね!!」
「しっかりとやれて、偉いぞゴンザレス」
筋肉ダルマがクネクネしだして……。
「……やめてくれよ、照れるだろぅ」
照れるモヒカン大男……、可愛いわけがない……。
「これもすべて旦那の特訓や教えてくれた訓練法のおかげでさぁ! 今じゃ俺たちに勝てる冒険者なんて殆どいないですぜ?」
ゴンザレスは元用心棒、俺が闇組織を潰してる時に会ったのだ。
「それで……、朗報とお願いがありまして……」
「何だ?」
「はい!まずは朗報です! クラン黒の死神へ入団希望者がたくさんきています! 勝手に忖度させていただきまして! 筋肉が足りないやつは断りました!」
「いやいやっ! 筋肉いらねーよ!?」
「えええええっ!」
本気で驚き固まってしまうゴンザレス。
(お前のパーティーだけで、筋肉はお腹いっぱいだよ……)
「……そうですか、調整します。お願いってのは、クランメンバーが増えたのでお金が足りなくて、何とかなりませんか?」
「金? それは出すよ。オルト良いよな?」
「了解です、オーナー。ゴンザレス無駄遣いすんなよ?」
「へへ、ありがとうございやす!」
報告を終えたゴンザレスが一歩後ろへ下がった。
次に一歩前に出たのは黒猫族の美少女。
「おかえりなさいませダーク様、私からも報告させて頂きます」
綺麗な所作、満面の笑顔で迎えてくれるこの娘は”エンジュ・ビースト”。幹部の一人で”裏”の組織を担当している。
諜報・暗殺などの裏仕事を行う”黒影”を統括してもらっている。
「ダーク様のおかげで、都市内の裏組織活動している者は私たち以外には見当たりません」
エンジュは正ヒロインであるアーキの双子の妹だ。ゲームでは亡くなっていた存在を、謀らずにも俺は救ってしまった……。
――だからこそ絶対に”表”に出せず、エンジュには”裏”で頑張ってもらっているのだ。
「ダーク様のおかげで、都市内やその周辺の安全を保つ作業だけを行っているところです」
救ったタイミングもあってか……、どうも俺を神聖視する傾向があるのが心配だったりする……。
「ダーク様に逆らう愚かさを心に植えつける噂を流す、”悪行抑制の計”も少しずつ進んでおります」
噂と言えば、エンジュが俺を崇拝する会合をしてるとかしてないとか……。
してないよね?
「ダーク様の偉業をみんなで話す会も作りました! ちゃんと小さな胸の女子限定です!」
(ッ! 本当にしてたぁぁぁ! え!?小さい胸だけ?)
「そうか。それで……、なぜ小さい胸限定に?」
(俺はちっぱい好きだと、話していないぞ?)
「え?……小さい胸の女子への視線の熱量で、分かりましたけど……」
(はいっ! バレバレでした~~!!)
「すまないな、それは……」
「いえ!!……私はとても嬉しいです!!」
エンジュは頬を赤らめ、猫耳と尻尾を元気よく動かしていた。
(ヒロインの双子なだけあって、エンジュもすごく可愛いんだよな……)
姉のアーキと違って、ちっぱいだしね。
「”黒影”のメンバーも増えてきました。ダーク様に認めて頂けるように皆で精進します!」
「おぉ、頑張ってくれ……」
(エンジュ地獄の訓練も眼を輝かせてやってたんだよなぁ……、Mなのかな?)
「っ!はい!!」
エンジュも一歩後ろへ下がった。
最後に前に出たのは長身のエルフ。
「おかえりなさいませダーク様、報告するほどの進捗はないのですが……」
ゆるりと話すこいつは”ディー・フォレスター”。幹部の一人で頭脳・武具作成担当だ。
ジョブが『探究者』で極度の研究バカだったりする。
「魔力伝導率をいろいろな素材で試していますが、まだ実験の段階ですね……」
ディーは正ヒロイン、セラフの父親だ。研究が好きすぎて長年放浪していて、おそらくもう死んだと思われてる存在だ。
「普通に出回っている素材は、取り敢えず使えないですね……」
「ミスリルもか?」
(異世界魔法武器素材として鉄板では?)
「いまいちですな……。属性魔法とは相性が良いのですがねぇ?」
ディーには黒の死神専用の武具を開発してもらっているのだ。
(やっぱり闇の組織といえば、統一した最新鋭装備だよな!)
「なかなか上手くいきませんな~」
「まあ簡単にできたら苦労しないよなっ!」
あれ?
そういえば、ディーも盗賊に襲われる寸前で助けたんだよな……。
(あれ? ディーもエンジュに続いてやっちゃった案件だったのかな?)
ディーも秘匿人材だなと心に刻んだ。
「折角このような待遇で……、ダーク様や黒の死神のメンバーのような新しい魔法の使い方をする実験体……。ゲフンゲフン、人材がいるのに申し訳ないです」
ディーが怪しい笑顔で一歩後ろに下がる。
(こいつ今、実験体って言ったよな!?)
ジト目で睨んでおく。
「みんなお疲れ様! 引き続きこの街を守っていこう!」
「了解」「おう」「はい」「はぃ」
(こいつら挨拶も統一しないな。まぁ優秀だからいっか……)
◇ ◇ ◇
二学期が始まり、夏休み中の静寂が嘘のように学園内が活気づいていた。
各々が学園のシステムにも慣れてきて、自分たちが何をするべきか見定め、目的に合わせた活動を加速させていた。
そんな一年生の中でも――
鬼気迫る表情で訓練や講義、演習をする男。
「なあ、最近のアインやる気がすごいな?」
「本当それな!」
「……でもちょっと怖いくらいかも」
「あ~、確かに頑張るっていうか……、必死?」
「そうそう。前は穏和な空気で、爽やかイケメンって感じだったのに~、残念だよ~」
「お前があの学園美女集団に入れるかよ?」
「ひど〜い!!」
訓練場の端で談笑している同期の話を聞きながら、件のアインを見る。
(ドワーフ王国の時よりはマシ?、でも酷い顔してるのはたしかかな……)
みんな訓練を終えて訓練場からあがった。
その後、心配そうに出て行ったパーティーメンバーたちを確認。
二人きりになったタイミングで俺は話しかける。
「アイン、また怖い顔になってるぜ?」
アインが剣の型を止めて振り向く。
「……ケイ。……そんなに酷いかい?」
「この前よりは良いけどな」
「そうか……」
アインは俯く。
「結局さ……。どうすれば良いのか……、その具体的な答えが見つけられなくて……」
(それでガムシャラに、か……)
「誰であっても疑う。……それがきっと先日の失敗の、正しい教訓だよね」
(アサハの件は、助けた相手が後から撃ってきた状態だったもんな……)
「まぁ、そうだな……」
「でも……、僕は人の善性を信じたいと思ってる。だから僕は、何があっても対処できる力を持ってそれを肯定したい!」
アインが真っ直ぐな瞳を俺に向けてくれる。
(その信頼の眼は、ズルいだろ。あぁ、こいつは本当に主人公だよ!)
「……俺は、知ってることは知っている」
ん?という顔をするアイン。
「アインは今レベルいくつだ?」
「……27だけど、それがどうかしたのかい?」
俺はアインと肩を組み、囁く。
「内緒だからな? “光の守護者“はレベル30で、自身の状態異常を解除出来るスキルを覚える――」
「え?」
「――更にレベル50でパーティーメンバー全員を解除出来るスキル、レベル70で状態異常無効バフが付くようになるスキルを覚える」
俺は離れ、アインの正面に立つ。
「呪いとか上位の状態異常はダメだが、先日の麻痺くらいは問題なくなるさ」
「……なんでなんて聞かない。でも、これだけ――」
アインは目標が定まった眼をしていた。
「――ありがとう、ケイ」
(その顔になれば平気かな……)
「頑張れよ、アイン」
俺はアインに背を向け歩き出す。
「そうだっ!ケイ。もう一つ相談がっ!最近ウリエがすごく密着してくるんだけど、どうしたら?」
「それは自分で考えろ!」
俺は立ち止まらなかった――
◇ ◇ ◇
《ラフィ視点》
二学期が始まってから。いいや、ドワーフ王国の一件が終わってからアインは、常に鬼気迫っていて余裕が無くなってしまった。
その様子はひどく危うく見えた。
私たちはみんなで心配し、それぞれ声をかけるけど……。アインに『大丈夫だよ』と、はぐらかされてしまうだけだった。
私たちの中だと、ウリエがボディタッチをした時に照れて弛緩する様子がある程度だった。
(……ボディタッチしてみようかしら)
でも、ある日を境に様子が戻った――
本当に良かったと安心したのだけど……。
『ケイに話を聞いてもらってさ!』と笑顔でアインは話した。
(また…、あいつか!)
私の幼馴染ポジションを脅かす存在“ケイ“。
男だけどっ! 男だけどっ!
複雑な心境ではあったけど、アインが元気になって良かったと思った。




