第20話
《バロン視点》
一瞬の油断で漆黒の死神・ダークに逃げられた儂は、元の道を振り返るが……。
(おおぅ、派手に戦い過ぎたのぉ……)
儂とやつの戦いの余波で、元の道は完全に塞がってしまっていた。ダークが逃げて行った道も、儂が追えないように塞がれてしまっていた。
「ハァ、まあ良いか……。アサハには勇者が駆けつけておったしな。ダークも怪しいが、手合わせした感じでは悪党じゃない気がするしのぉ」
儂はゆっくりと上の火口を目指して登り、時間が掛かったが王城へ戻ることができた。
帰った儂が聞いたのは、弟子の喪失と、孫の死と罪じゃった――
◇ ◇ ◇
王城の牢の中で、儂は絶望していた――
王城に戻り火山でのあらましを聞いた儂は、自ら王城の牢の中に入った。
(儂は何をしてたんじゃ? ダークと打ち合わずアサハを助ければ良かったのか?)
「いや、そうではないな……、そこではないか……」
(アサハは傲慢だった……。儂は知っていたのだ……)
儂は俯いたまま両手で顔を覆う。
「罪を犯してでも……、ウリエが欲しかったのか……」
(ウリエに執着しているのも知っていた……。歪んではいたが、本当に好きならばと……)
「儂にできることは、あったよなぁ……」
(結果として、ウリエも傷つき泣かせ……、アサハ自身も死んでしもうた……)
「アサハ……、馬鹿者がぁ……」
幼い頃のアサハを思い出し、歯を食いしばる……。
(孫と向き合わなかった儂も……、大馬鹿者じゃぁ……)
それに――
可愛い弟子の、ウリエの顔が浮かんだ……。
「あの技を使用したということは、母の形見を失ったのか……」
(唯一の形見を……、あの子の心中を想うと……)
アサハ……、ウリエ……、儂は自分だけ、のうのう生きていることに腹が立ってきた。
自身の拳を見つめる――
(儂の力を腕に集中して、儂自身を攻撃すれば……)
その時、レックス王が牢の前まできた――
「酷い顔ですよ、バロン叔父様」
チラリとレックス王を見て、また俯き呟く。
「……儂を処刑して、くれないか?」
「なぜですか?」
「アサハの傲慢、ウリエへの執着、それを知っていて、放置してしまった……」
レックス王はため息を吐いて……。
「アサハは罪を犯した。そして、処罰される前に……」
「……じゃから儂を、代わりに処罰してくれんか?」
「…………」
「……もう、疲れたんじゃ……、儂はもう……」
瞬間――空気が張り詰める。
儂は顔を上げ、レックス王を見た――
「あなたを処罰したら”ウリエが”悲しむ!!」
レックス王は鬼の形相で儂を睨んでいた――儂は驚き目を見開いてしまった。
「ウリエにこれ以上の重圧を掛けるつもりか!? 甘えないでください!!」
「なっ……」
「俺も怒っているんだ!! あなたにじゃない!! 俺自身にだ!!」
「…………」
「だからこそ!! 俺は王として振る舞う!! ウリエをこれ以上悲しませないために!!」
「……その、通りじゃな……」
「もしもあなたが!! あなた自身が罰を必要とするならば!! 生きてっ!償って下さい!!」
そう告げたレックス王は振り返って去っていった。
(……儂が、間違っていたな……)
「……ウリエだけは、悲しませてはいかんよな」
儂は自身に圧し掛かった重りを抱えたまま、立ち上がることを決めた――
◇ ◇ ◇
《ウリエ視点》
リミットブレイクの反動も抜け、あたいは療養終了の許可をもらった。
その日がそのまま帰還の日となった。
謁見の間――
父さんが直々にあたいたち勇者パーティーへ言葉を掛けてきた。
「勇者アイン、そしてウリエ――」
宰相から包みを受け取り、玉座から降りてこっちにくる。
「――この国を救ってくれたこと、心から感謝する」
そう言って差し出されたのは――
布に包まれた、大きな斧。
「……これは?」
「『進化の斧』だ。このドワーフ王国の国宝だ」
父さんは、静かに続ける。
「不壊属性を持った斧で、使い手と共に進化する秘宝だ」
「…………」
あたいは、思わず息を呑む。
塵になった形見である相棒を思い出し、胸が痛んだ……。
「……また、あの技を使ったら……」
あたいは気づかずに不安の声が漏れてしまった。
「大丈夫だウリエ」
父さんは、はっきりと断言した。
「聞いてなかったのか? この斧は”不壊”、折れることが無い」
「え?……」
「この斧はウリエを守り続ける。きっと、あいつの想いも一緒のはずだ」
「かあさん?……」
「ああ。母さんいつもお前の未来を心配していたよ」
「母さんが……」
「勇者と共に魔王と戦うと誓ったのなら、この進化の斧は絶対にウリエに必要な力だ!」
父さんの想い、母さんの想い――
そっと斧に触れた。
進化の斧に意志がある様に、鈍く光った気がした……。
「……ありがとう、よろしくね」
胸の奥の悲しみが、少しだけ溶けていく気がした……。
◇ ◇ ◇
王城を出てから王国の門を抜けるまでの間――
あたいたちは盛大に見送られながらドワーフ王国を後にした。
そして、エイユウ学園への帰路――
帰りの馬車は大型で、みんなで一台の馬車に乗っていた。
(ドワーフ王国のみんなにも元気が戻ったみたいで良かった……、本当に良かった――)
送り出してくれた時の王国のみんなの表情が、あたいたちが行った時と明らかに違っていて、活力が戻った良い顔をしていたとあたいは満足していた。
「フン、フン、フ~ン」
あたいは気分が良くなりすぎて鼻歌を歌ってしまったのだけど――
(……あれ? あたい以外はなんか……微妙な雰囲気?)
それにみんな、すごくこっちを見ている気が……。
「「「「…………」」」」
そんな中、ラフィが代表したかのように話しかけてきた。
「……ねえ、ウリエ。……ちょっと、アインとの距離が近くない?」
ラフィが青筋を立てて言ってきた。
「……そうかな?」
みんなも同意なようで……。
「確かにそうかもね」
「そうですね」
「近いと思いますぅ」
「……うん」
あたいはずっと隣に座っているアインに視線を向ける――
「アインもそう思う?」
「っ!……まぁ、そうかなとは思ってたかも……」
アインの歯切れの悪い言い方にはちょっとだけムッとするけど、あたいは広い心で許すことにした。
(あっ! そういえば、ちゃんと言ってなかった?)
「……ウリエ?」
アインが気にして覗き込んでくる。
そんな彼にあたいは悪だくみしたような笑みで返す。
次の瞬間――
ぎゅっ。
あたいはアインの腕に、抱きついた――
「「「「っ!!!!」」」」
「ちょ、ちょっと!?」
あたいは満面の笑顔でみんなを見て――
「だって、アインは――」
アインの腕をもっとギュッと抱きかかえて――
「――あたいの婚約者様だからねっ!!」
「「「「「えええええ!!」」」」」
アインの顔が真っ赤になって、照れているのが分かった。
(父さん……、母さん……。あたいは幸せを掴んでみせるからねっ!)
あたいの婚約者様とね――




