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推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第3章》ドワーフ王国編

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第19話

《ウリエ視点》

 母さんは前戦士長だった――

 そして、あたいが十歳の時に母さんは遠征先で帰らぬ人になった。


「王妃様の……、君の母さんのおかげで私たちは生きて帰れたんだ……」


 生還した兵士たちは口を揃えてそう言っていた。

 当時のあたいには、そんな言葉なんてどうでもよくて。

 ただ自分の母さんが死んだ……、そのことを受け止めるだけで精一杯だった。

(今思えば……。戦士長としての最期を、母さんは立派だったと、伝えたかったんだよね……)


 『重戦士』のジョブを授かった母さんは、バロン爺曰く王国でも指折りの力持ちだったらしい。

(父さんも、母さんのビンタは首がもげそうになるから怒らせられないと言ってたなぁ)

 「王妃である前に戦士だった」と、今でも古い戦士団員はあたいに教えてくれた。


 その遠征は初め、ただの地竜討伐だった――

 地竜は強いけど、当時の戦士団なら問題なく倒せた相手……。

 でも実際には――


(――毒を使う、毒竜だったそうだ)


 母さんはみんなを逃がすまで最後まで残り、解毒が間に合わなかった。


 そして――

 唯一帰ってきたのが、このグレートアックス。

 

「良い子にしてるのよ~。すぐに帰ってくるからね!」


 グレートアックスを担いだ母さんが、あたいの頭を乱暴に撫でながら笑って遠征に行った日……、歩いて行く母さんの後ろ姿が、あたいが見た最後の姿だった――

 

 

 母さんの残した唯一の形見――

 これからもこの子が、一緒に戦ってくれると思っていたのに……。



◇ ◇ ◇

 ゆっくりと、意識が浮上する――

 まぶたの裏に、柔らかな光を感じた。


「……ん……」


 喉が乾いていて、かすれた声が漏れる。

 次の瞬間――


「……ウリエ!?」


 聞き慣れた声が、すぐ近くで響いた。


「――っ!?」


 あたいは驚いて目を開き、勢いよく上半身を起こそうとして――


「いっ……!?」


 ずきり、と全身に鈍い痛みが走り、思わず顔を歪めてしまう。


「だ、大丈夫!? 無理しないで!」


 慌てて支えられ、再びベッドに横になる。

 視界がはっきりしてくると、そこには――

 心配そうに覗き込む、アインの顔があった。


「……え?」


 一瞬、思考が止まる……。

 次の瞬間。


「な、ななななな、なんであんたがここにいんのさ!!?」


 顔が一気に熱くなる。


「えっ、あ、いや、その……数日起きなかったから……その……」


 アインは視線を泳がせながら、しどろもどろになる。


「ずっと、付き添ってたんだ、みんなで」

「ず、ずっと!?」


 あたいは布団を握りしめ、恥ずかしさのあまり顔を隠す。

 意識を失う直前の光景が、断片的に蘇る――


 炎。咆哮。砕けた核――そして……。


「……あたい、どれくらい……」

「三日だよ」

「……そっか」


 アインは、ゆっくりとその後の出来事を話し始めた。

 サラマンド・ドラゴンの討伐。

 アサハの最期。

 みんなが無事だったこと。

 あたいは黙って聞いていたが――

 ふと、自分の手元を見て思い出す……。


「……ねぇ、アイン」


 あたいの視線と表情で察したのか、アインも悲痛な表情になって口を開いた。


「……あの一撃で……グレートアックスは……」


 砕ける感触――手の中で、塵になった相棒。


「……あ……」


 喉が震え、言葉にならない。


「……そっか」


 絞り出せたのはそれだけだった。

 

「……っ」


 視界が滲む。

 次の瞬間、強く抱きしめられた――


「……ごめん」


 アインの震える声。


「僕が……僕が、もっとちゃんと……」

「…………」

「……泣いていい。今は……、泣いていいんだ」


 アインの腕は、不器用だけど、温かかった。

 あたいはしばらく堪えていたが――やがて、嗚咽が漏れてしまう。


「……うぅ、母さん……」


 アインは何も言わずに、あたいを抱きしめ続けてくれた……。



「…………ありがとね、アイン」


 しばらくして、あたいの気持ちも落ち着いた……。

 抱きしめられた姿勢のまま彼の暖かさに触れていてあたいは……。

(アイン……)

 あたいは顔を赤らめながら上を向き、彼の瞳をジッと見つめて目を閉じた――

 

 その時――

 病室に複数の走って来る足音が聞こえた。


(誰かくる!?)


 瞬間――あたいは目を閉じて応じようとしたアインを突き飛ばしていた。


 ドン!!  


「ガフッ!?」


 乱暴に開くドアの音と、壁にぶつかるアインの音が重なった……。


「ウリエ、起きたって!?」

「良かったですウリエさん!」

「心配したんだからね!」

「良かったですよぉ、目覚めなくて不安でしたよぅ」

「……顔色も、良いみたい」


 仲間たちが部屋に入ってきて声を掛けてくれる。

 最後にバロン爺も入ってきて、安心した表情で言った。


「ウリエ……、本当に無事で良かった……」


 床に転んでいるアインを見てバロン爺は……。


「……おぬしは、何をしとるんだ?」


 あたいも苦笑いしかできなかった。


 一気に部屋が賑やかになる。


「えへへ、ありがとう、みんな」


 あたいはみんなと話していて、一人で静かに部屋を出て行くアインに気づくことはなかった……。



◇ ◇ ◇

《アイン視点》

 ウリエに突き飛ばされた僕は、みんなに囲まれ照れて喜ぶ彼女を見て思う。

(……元気が少し戻ったかな?)

 その姿を見ても、僕の胸には重たいものが残っていた……。


 明るい雰囲気に居続けることができず、僕は静かに病室を後にした――



 療養所の外に出て、僕は活気が戻りつつある王都を歩いていた。


(僕は『光の守護者』で『勇者』なのに、何もできなかった……)


 あの時、ウリエがあの技を使ってくれなければ僕たちは全員死んでいただろう……。

(……ああ、分かってるんだ。選択肢は無かった……、分かってはいるんだ……)


 ウリエの意識は戻ったが、身体はあの技の反動でボロボロだった。

 安静が必要で、しばらく休養することになった。


「……はぁ」


 何度目か分からない、ため息が出てしまった。

 ウリエに申し訳なくて……、ただ僕自身の気持ちが落ち着かなくて……、彼女の意識が戻るまでの三日間、僕はずっと側にいた。

(アハハ、髪もボサボサだし、服は薄汚れたままだし、僕はこんな姿でウリエを抱きしめていたのか……)


「……はぁ、僕は本当にダメだな……」


(何もかもが足りない……、僕はきっと勇者なんかじゃないんじゃないかな……)


 そんなことを思考している時に――


「なんて顔してんだよ、アイン――」


 ――背後から、ここにいるはずのない親友の声がした。



◇ ◇ ◇

《ケイ視点》

 バロンから逃げきった俺は潜伏していた――


(ん? あれは……)


 俺は療養所から出て、街を歩くアインの表情を見た……。


「おいおい……、なんて表情してんだよアイン……」


(これ以上は目立った行動できないんだけどな……)

 もう一度、アインの表情をよく見る……。


「……仕方が、ないなぁ……」


 俺はフラフラと歩くアインへ近づき声をかけた。


「なんて顔してんだよ、アイン」


 振り返ったアインの顔は張り詰めていて、今にも泣きそうな顔だった。


「……ケイ? でも、どうしてここに?……」

「アインに頼みを断ったけどさ。気になっちまったから、急いで来たんだぜ?」

「……ケイ、……ありがとう」

(まったく……、しょうがないな!)


 俺はアインの手を掴んで連れて行く。驚きながらもアインは、無言で付いてきた。

 

 街の外れにある廃教会――

 廃教会の中はボロボロだったが、一つだけ座れそうな長椅子があった。

 アインをまず座らせ、隣に自分も座った。


「「…………」」


 並んで座った俺たちは、しばらく黙って座っていた……。


「……何かあったんだよな? とりあえず話してみろよ」

「…………」


 俺は黙って肘をアインに当て、さっさと話せと催促した。


「……僕さ――」


 アインはぽつりぽつりと話し始める。

 その告白は断片的で。

 まとまりがない話し方だったけど。

 アインの気持ちを知ることができた。


 後悔、自責の念、無力感


 大事な人たちの期待に応えることができるかどうか……。


 未来への不安


(アインは初めて失敗を経験した……。そして、自分を信じられなくなったと……)


 俺はアインの話の内容を頭で整理しながら、黙って聞いていた。


「……ケイ、僕はどうしたら――」

「俺に聞くなよ?」


 俺はアインの言葉に被せる。


「話を聞いて、お前の悲しみや苦悩、不安も抱えているのは分かった――」


 俺はアインへ視線を向ける。


「でもさ、今回のことは俺に答えを求めてはダメなやつだよアイン」


 アインは驚いた表情で、少し声を荒げた。


「ケイは何でも知ってるんだから! 聞いたって良いじゃないか!?」


 逆に俺も驚く――

『勇者』が『主人公』のアインが……、俺に依存していた事実に……。


 アインは立ち上がり怒鳴って来る。


「それにっ!! 話を聞いたぐらいで、僕の悩みが分かったなんて言うなよ!! 勇者のっ!! みんなの期待の重圧なんてっ!! 分からないだろうに!!」


 カッチーン……。

 は?……。 

 こいつ今、何て言った?……。


 バキィ!!


 俺は無意識にアインを殴り飛ばしていた――


「っ!! ざけんじゃねーぞ!! お前だけが戦ってんじゃねぇ!!」


 壁にめり込んだ状態からヨロヨロと立ち上がるアイン。

 頭から流血したまま叫ぶ。


「ケイこそっ!! そんな強いくせに何してんだよ!!」


(あの輝きは!? 『光の守護者』の奥義――”オーバーリミット”!?)


 アインがおそらく無意識に使用した、奥義を纏って殴りかかってくる――


「ケーーイーーッ!!!!」

「アイーーーンッ!!!!」


 俺たちはお互いに一歩も引かず殴り合った――

 体力の限界がきて、お互いに大の字に倒れた時には、そこは廃教会ではなくて、ただの瓦礫置き場に変わっていた……。


「「…………」」


「……俺は――」


 アインが何とか視線だけこっちに向ける。


「――誰が何と言おうと、お前ならできるって信じてんだよ……」


 アインは驚いたように目を見開いた。


「……たとえ、お前自身が否定したってな」


 俺は痛む身体を起こして立ち、無言でアインも引っ張り上げる。

 そして、肩を貸しながら歩き出す。


「…………ありがとう、ケイ」


 俺は俯いたままのアインの表情を見て――


(少しは、いい顔に……、戻せたかな……)


 痛む身体に鞭打って、俺と親友は一緒に帰って行った……。


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