第18話
《アイン視点》
巨大サラマンダーが灼熱の息を吐いてくる――
「散開っ!」
僕たちは灼熱の息を避ける。
一定の距離を取って対峙しているため、攻撃の挙動を見て余裕を持った行動ができていた。戦士団の撤退を支援しながらの戦闘だったけど、文献にあった情報で異常個体の行動パターンを覚えてきたので、巨大サラマンダーの攻撃を防ぎ、更に反撃する余裕もあった。
「でかいのが来そうだよ!!」
ミカエラが盾を構えて踏み込んで行く。
「ホーリーシールド」
「ウォーターアーマー」
エルとラフィの補助魔法がミカエラに掛かる。
ドカァ!!
「ッ!~~ハッ!!」
ミカエラは灼熱を纏った強力な攻撃を大盾で確実に受け止め、押し返す。
「アーススラッシュ!!」
「ライトスラッシュ!!」
「とりゃぁぁぁ!!」
ウリエと僕が側面から属性波動攻撃をして、アーキが身体強化を発動して弱点の結晶核へ投石をする。
距離を取ったまま敵の攻撃を確実に防御、そして遠距離から弱点への波状攻撃を繰り返す。
(よしっ! 安定して削れているぞ――)
巨大サラマンダーの動きは明らかに鈍り、火焔鉱石のような鱗の輝きも失われつつあった。胸部の結晶核には亀裂が走り、呼吸のたびに魔力が漏れ出していた。
(――勝てる!!)
「今だ、押し切る!!」
僕は声を張り上げ、前に出ようとした――
その瞬間――足に力が入らなかった……。
「……え?」
剣を握る指が、言うことを聞かない。
膝が笑い、そのまま地面に崩れ落ちた。
視界の端で、みんなも次々と倒れていく。
みんなが同じように、身体を痙攣させ、動けずにいた。
(な、なんだ……、これは……、痺れ?)
身体中が痺れて、上手く動けない。
声も出し辛い……。
(麻痺攻撃!? どこから? サラマンダーにそんな挙動はなかった……)
その時、乾いた笑い声が洞窟内に響いた。
「はは……ははははは!」
何とか声の方を向くと――撤退したはずのアサハが立っていた。
彼は僕たちを見下ろし、勝ち誇った顔で――
「驚いたか?勇者様よ。ドワーフ特製の麻痺玉だ。魔物用だが人間にもよく効いたようだな?」
ウリエは目を見開き、悔しそうに歯を食いしばる。
「……ア、サハ、あんた……」
「安心しな、ウリエ。あとは俺様が仕留めて“英雄”になるだけだぜ」
信じられなかった――
自分では勝てなさそうだから。
僕たちを使い、弱らせ、最後だけ掠め取る。
(……どうして!? どうしてこんなことを!?)
痺れて声が上手く出せない僕は、心で叫んだ。
サラマンダーが唸り声を上げる……。
その体表に、再び魔力が集まり始めているのが分かった。
(ッ! サラマンダーの様子がおかしい……、まさか文献にあった……)
アサハはその変化に気づいてない様子だった。
「さて、麻痺が解ける前に瀕死のサラマンダーを倒してしまおうかな」
ニタニタと醜悪な笑みで見渡した後、サラマンダーへ振り返ろうとした時――
空気が変わり、熱が、跳ね上がる。
巨大サラマンダーの瞳から炎が立ち上る。
結晶核が歪み、身体中の鱗の隙間から光を放ち始める。
身体全体の構造が歪み、輝きが増していき、一瞬光が収まった……。
(最悪だ。文献にあった異常個体の更なる進化……)
「……あ?」
――次の瞬間、超高温の光と熱風が解き放たれた。
熱と輝きの後から、轟音がやってきた。
僕たちは麻痺で地面に伏せていたせいか無事だったけど……。
そこに立っていたアサハを見ると、腰から上が黒く炭化していて立ったまま絶命していた。
巨大サラマンダーが咆哮する。
文献によれば進化した個体は『サラマンド・ドラゴン』となる。
”ドラゴン”――亜種とはいえ、この世界における最強種だ。
(どうする!? 僕が何とかしなければ!!)
僕は思考を加速させ、何か手立てがないか考え続けた。
倒れ伏す僕たちに最初の獲物を見つけたかのような視線を向けるサラマンド・ドラゴン。
動けないのが解っているのか、悠然と近づいてくる……。
(ッ!! 何か!? 何かないのか!? 身体さえ動けば!!)
エルへ視線を向ける――エルなら神聖魔法で麻痺を解けるはず!
しかし、無詠唱ができないエルは涙を溜めながら必死に詠唱をしている様子だった。
他のみんなも、何か出来ないかと足掻いているように見えるが動けていない。
そんな中――
ウリエが一人、立ち上がった。
◇ ◇ ◇
《ウリエ視点》
最悪だった……。
同胞の裏切りでのピンチ。
最悪個体への進化。
アインやエル、みんな諦めずに何とかしようとしているけど。
このままではみんなやられてしまう。
サラマンド・ドラゴンがすぐ近くまで来た。
あたいは相棒のグレートアックスを見た――
(……お前も良いよね?)
あるはずもないけど……、あたいには光って答えてくれた気がした。
(使うよ……。母さん、バロン爺。やらなきゃみんなが死んじゃう!!)
あたいは幼い頃を思い出した――
ドゴォォォォン!!!
遠くで見ていたのに、あたいは爆風でゴロゴロと吹き飛ぶ。
「っす!ごぉ~~い!! バロンじい~っ!」
全力で走っていってバロン爺に飛びつくと、珍しくバロン爺がよろめいて一緒に倒れた。
「いたたたた……。すまんのぉ、大丈夫かウリエ?」
「だいじょぶだよ!」
「……今見せた技は、特別な技じゃ。本当にもうダメって時にしか、使ってはいかんぞぉ?」
「ん~、わかった!」
ニコニコと答えるあたい。
「……よく聞くんじゃウリエ。この技はの、”王家の血をもった『戦聖』”にしか使えん」
うんうんと聞く。
「とても強い技じゃが、使った後に身体が痛くて動けなくなってしまうんじゃ」
「……だからさっき倒れちゃったの? 大丈夫?」
バロン爺はあたいの頭を撫でつつ「大丈夫じゃ」と笑う。
「使ってはいけない、もう一つの大きな理由はこれじゃよ……」
バロン爺の手には、先程まで握られていた斧が無くて……、
塵だけが残っていた――
もう一度、相棒のグレートアックスを見る。
(母さんが残してくれた、唯一の形見……)
今日まで一緒に戦ってきた相棒――
(お前の最後の力で……、一緒にこいつを倒そう!!)
すぐそこにまで迫って来ているサラマンド・ドラゴンを睨む。
「リ……ミット……ブレ……イク!!!」
瞬間――
あたいは全ての状態異常から解き放たれた――
今まで感じたことのない力の奔流を、あたい自身から噴き出していた。
噴き出されたオーラは空気を歪ませ、地面を震わせる……。
その奔流はあたいの流す涙も蒸発させていた――
もうすでに、グレートアックスに無数の亀裂が走る。
「……ありがとう」
その一言だけを残して、あたいは音の壁を越え、砲弾のように前へ――
一撃――
世界が白く染まり、
サラマンド・ドラゴンの核が粉砕され、その胸部に大穴を作った。
後から爆音が轟く。
同時に、あたいの手の中で――
母さんの形見であり、相棒であったグレートアックスが……。
塵となって舞って行ってしまった――
あたいはその場に崩れ落ち、意識を失った。
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
エルのアンチパラライズで麻痺を直した僕たちはウリエの元に駆けつけた。
エルは回復魔法をかけながら、ウリエは意識を失っているが命に別状はないと教えてくれた。
僕もライト・ヒーリングを使いながら彼女を見る……。
「ウリエ……」
もの凄い一撃だった。
しかし、彼女の手にあったはずのグレートアックスはその欠片すらなくて……。
意識を失ったウリエの頬には、涙の痕だけが残っていた――




