第17話
《バロン視点》
火焔鉱石が取れなくなり、街はみるみる衰退していった。儂なりに調べておったがさっぱりであった。
(儂等ドワーフは脳筋が多いからのぉ……)
少し前に街中でチョロチョロしておった魔族を三人倒したが、いろいろ聞く前に斬り捨ててしまったのは失敗じゃった……。
(やはり怪しかったよな? あやつら……)
そして先日、可愛いウリエが帰って来た時に妙な視線を感じた。儂がギリギリ気づくくらい上手い潜伏であった。
(儂はこの街中であれば、街全体を気配で探ることができるのじゃ……)
例の視線の奴を今でもマークしておるが、儂等が王城内に入ったら離れて行ったようじゃった。
(……街から出た?……では、狩りに行くかのぅ――)
火口に繋がる洞窟の奥の奥、火口上方付近の開けた場所に全身漆黒の奴がおった。
(強いのぉ……、これは手加減などできんな)
気配を消した状態でできる全力の攻撃を放つが――
(避けおったわ!! 久しぶりに血がたぎるわ!!)
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
(危なかった!!~~~)
バロンの攻撃をギリギリで避けた俺は冷汗ものだった。
俺は虚勢を張るために余裕の笑みで話す――
「いきなり攻撃してくるとは……、危ないではないか。ご老体よ……」
鋭い眼光を向けてくるバロン。
「……お前じゃろう? 昨日から儂等の周りをチョロチョロしていたのは」
バロンから立ち上がる闘気が空気を震わせ、まるで鬼の顔のような形になっていた。
――双斧の戦鬼
(二つ名の意味が一目でわかる。やはり上位者は、種族関係なく身体強化が扱えるわけね)
「やはり、気づいていたのか……、強者には目がなくてね?」
「では、ここでは何をしておる? お前は魔族か?」
俺は視線を洞窟の下に向け、答える。
「……俺も悪い魔族を追ってな」
バロンは異常個体の魔物と苦戦する孫の姿が見え、一瞬動揺するが直ぐに俺へ視線を戻す。
(孫も気になるけど、俺への警戒が勝った感じかな?……)
その時――
「アサハさーん!!」とアインの声が響いてくる。
(アインも来たし、下は平気かな?……おかげで俺が大変になりそう……)
バロンも同じ思考だったようで、より俺に意識を集中する気配が感じ取れた。
「お前、名は?」
「俺の名は“ダーク“、陰から魔王を追いつめる者」
(一度言いたかったセリフが言えたあああ!! ダークモードの俺に話しかける人、いないんだもんな~)
「儂は考えるのは得意じゃねぇのよ……」
バロンの空気が弛緩したかと思った瞬間――
「お互いに拳を合わせれば善悪なんて見えてくるよのぉ!!」
目の前にバロンの斧が迫っていた。
「ッ!! さすがドワーフ! 脳筋だな!」
俺は瞬時に躱し、魔力剣で次の攻撃をいなし、防ぎ、高速で移動していく――
(此処じゃ狭いし、アインに気付かれたら不味いしな、それに……)
「まだ余裕がありそうじゃあ! どんどん行くぞい!!」
バロンは両手に片手斧を持って戦う、二斧流である。
一撃一撃が絶大な威力にも関わらず、二斧流のため連撃が得意であり、正に暴力の嵐が迫ってくる勢いだった。
俺とバロンの剣撃の余波が洞窟の形を変え、崩していく。
外が少し見える空洞まで移動した時――
(……ここっ!!)
俺は左手人差し指に収束させていた魔力をバロンへ向ける――
――瞬間、超圧縮された弾丸を放った。
「ぬおぉっ!!」
バロンは驚きながらも最速で首を動かしギリギリ避け、距離を取った。
(……さすが! 避けてくれると思っていたよバロン――)
「危ない攻撃をしおるのぅ」
俺は不敵に笑う。
「でも、避けた。ご老体なら避けると信じて撃った」
「なんじゃと?」
俺は視線を射線上に向ける――バロンは俺を警戒したまま、視線をそちらに向けた。
遠く火口出口付近、射線上にあったのは首から上が無い誰かだった。
「「…………」」
「……あれは?」
「魔族諜報員。やつらは”四人一組”で諜報活動をする……」
(ゲームの知識だけどね)
「なっ……」
「目立つ方の三人が見つからなくて苦労していたが……」
疑いが解けたのか、バロンの闘気が収まっていく。
「……その三人を殺ったのは儂じゃな、そうか”四人一組”なのか」
「そう、三人が諜報中にやられても、遠くで監視しているもう一人がその実力者の情報を持ち帰るという仕組みだ……」
「なるほどのぉ」とバロンは納得した様子だった。
(――今か……)
バロンは俺の情報について思考した――俺にはその一瞬で十分だった。
ドゴォ!! ガラガラガラ………。
俺はバロンが追って来れないように細い洞窟を崩しながら逃げた――
「ちぃ!!」と遠くからバロンの声が聞こえたが、俺は振り返らずに逃走する。
「まだ、七大聖王とのガチバトルは厳しいよなぁ~」
取り敢えず逃げ切った俺は、バロンにサーチされないように魔力の質まで変化させて潜伏することにした――
◇ ◇ ◇
《アサハ視点》
溶岩洞窟内の灼熱の空気が肺を焼く――
「ぐっ……!」
俺様は身体中の痛みから、片膝をついてしまった。
盾はひび割れ、鎧は赤熱し、もはや握っているだけで斧が悲鳴を上げていた。
(ありえねぇ……!)
目の前にいる巨大サラマンダー。
火焔鉱石を結晶化させたような鱗は、攻撃を受けるたびに逆に輝きを増しているみたいだった――
(俺様が……、負ける……、死ぬのか?)
脳裏をよぎるのは、会議室で見下した顔。
――どっかの国の勇者、優男のアイン。
(違う!! 俺様の方が強い!! ウリエは俺様のものだ!!)
俺様は小さい時から最強だった。周りで俺様より強いのはジジイくらいだった。
別枠で最強のジジィに師事して、今では国の戦士長になった。
最強な俺様は女にもモテた。最強だからそうだよな。
ある日、オヤジからウリエを『お前も婚約者候補だって』紹介された。
違うな、『お前の婚約者』だったか?
最初からウリエは可愛かったが、ここ数年で成長してとてもいい女になった。
特に身体つきが堪らなくいい! あいつのすべてを俺様の好きにしたい!!
ウリエはオレサマのものだ――
「うおおおおおお!!」
身体を奮い立たせ、全身の力を込めて突撃する――
(俺様ならヤレル、俺様なら殺れる、俺様なら犯れるううう!!)
――ドンッ!!
目の前に振るわれたサラマンダーの尾が、俺様の身体を岩壁へと吹き飛ばした。
「がはっ……!」
口から血が溢れる。
視界が揺れ、膝が言うことをきかない。
「「「団長!!」」」
仲間の叫び声……、既に戦士団は半壊している。
(……クソ……、動けねぇ……)
その時――
「アサハさーん!!」
勇者パーティーが駆けつけて来た。
増援に戦士団の団員たちは喜色の表情を浮かべる……。
(お前なんか呼んでねーぞ!! 勇者あああ!!)
俺様だけはやつに、勇者に怨嗟の瞳を向けた――




