第1話
夜になった。
藁を詰めた布団に身体を沈めると、昼間の出来事が一気に頭に押し寄せてきた。
姉さんに木刀で殴られてあのゲームに転生したこと。そして、この世界で俺が救わないといけない存在がいること。
この世界【The hero saves the world with love】には十二人のヒロインたちがいる。
姉さんは、このヒロインの中の一人だ。
(アインが良いやつでも姉さんはやらん、絶対だ)
隠しヒロイン――俺の推しはこの三人だ。
しかし、彼女たちは世界に殺される運命にある。
普通にプレイしていたら必ず死亡エンド。
だから――
俺が最後の最後に見つけた、細い糸を辿らないと救うことができない。
胸の鼓動が少し早まる。
(推しヒロインたちは死なせない! 俺が必ず救う!!)
俺は意気込み、転生したら必ず紡ぐ言葉を放つ――
「……ステータス、オープン」
視界の前に、半透明のプレートがふっと浮かび上がった。
(出たっ!)
息を呑む。何度も見たゲーム画面と同じ、しかし現実の質感を持ったそれ。
(いよいよ来たか……、俺のチートステータス!)
……あれ?
名前 :ケイ・ツクヨミ
レベル:1
年齢 :5歳
ジョブ:未取得
適性属性:なし
魔法・技能:なし
しばらく見つめる。
そして、心の中で静かに叫ぶ。
(適性属性が”なし”だって~~~!!)
転生特典とかのサービスは無いようだった。
(……俺、村人Aどころか村人Zでは?)
俺自身がさっき掲げた目標が脳裏をよぎる。
『推しヒロインは死なせない!俺が必ず救う!!』
布団の中でごろりと仰向けになり、天井を見つめる。
(適性属性なしかよ……、マジか……)
この世界のネームドキャラクターなら、何かしら一つは適性がある。火とか、水とか、風とか、土とか。
それが”なし”。魔法は使えないってかぁ〜。
「…………」
胸に小さく穴が開いたような虚無感。
思わず布団に顔を埋める。
ゲームの中のイベントを、いくつも思い出す。
強敵との戦闘、隠しヒロイン専用の救済ルート、死亡フラグの山、そこに村人Zが突っ込む図を想像して――
少しだけ、心が折れかけた。
(いや無理だろ普通に……、でも……)
――それでも、諦めるって気持ちは不思議と湧いてこなかった。
(俺にはチートがある!!)
ゲーム知識――
適性属性はなくても、知識だけは最強。
(考えろ! 考えるんだ! 俺!!)
ここで、ふと思い出した。ゲームの小ネタ。
設定資料の端っこに書いてあった、あまり知られていない仕様。
(……そうだ)
魔力量は魔力を使い切ると増える。そして魔力操作の熟練度も、魔力循環という身体に魔力を巡らせる訓練法で上がると書いてあった。
時間がかかる。地味。派手さゼロ。
しかし――
(魔力が増えれば、できることが……あるはず!)
適性がなくても使える無属性魔法。
設定では、『魔力を直接行使する純魔力操作。通常は大した威力のない衝撃波や魔法に対する軽い防御に使うだけ』
――”通常は”。
(……よし決めた)
布団の中で握り拳を作る。
「魔力をひたすら鍛えよう」
目を閉じる。
身体の奥を静かに探る。
暖かい灯のような感覚。
それが、かすかに――本当にかすかに――ある。
(……あった)
自分の中にある微かな魔力を動かして、ゆっくり掬い上げ、形にしようと意識を向ける。
何度も。何度も。
(難しいなこれ!)
額に汗がにじむ。でも、不思議と楽しかった。
(適性が無い?だから何だ!転生ものといえば魔力チートだろうよ!)
心の底で静かに燃える。
(俺は――彼女たちを救うんだ!!)
その瞬間、手のひらに魔力弾が生成された。
(!?っよし!)
「………あ、やば」
視界が暗くなった。
魔力枯渇――音もなく意識がストンと落ちていった。
◇ ◇ ◇
次に目が覚めたのは翌朝だった。
「……ふ、ふははっ!」
朝一で魔力弾を作成する。
しかし、まだ魔力に余力が残っていた。 ほんの少しだけ、でも確実に増えた。
ニヤニヤが止まらない。
(よし、この調子でガンガン伸ばしていけば——)
——結果。
「……あ、また……」
二回目の意識喪失。
◇ ◇ ◇
「ちょっとケイ!?」
「大丈夫か!?」
「白目むいて倒れてたのよ!」
姉さんは叫び、母さんの声が震えていた。父さんは渋い顔をして腕を組んでいた。
俺は家族の前で、正座をして謝っている。
「……ごめんなさい」
「ごめんで済みません!」
「…………」
「急にバタンって倒れるし、白目剥いてるし……、お母さん怖かったのよ!?」
「ほんとに気持ち悪かったわよ。目、真っ白だった」
マジかー……魔力枯渇ってそんな見た目なの?
父さんが咳払いをする。
「何をしていたんだ?」
「魔力を……、増やす練習……」
「そんな方法があるのかい?」
父さんは母さんに問いかける。
「そんな話、聞いたことないわ」
やはり、一般的な常識ではないんだな。
両親は顔を見合わせ、小さくため息をついた。
「何だかわからないが、無理はするなよ。昼間はやめなさい」
「寝る前なら、まだいいけど……。本当に怖いからね?」
「はい、ごめんなさい」
了承したふりをして、俺は考える。
(寝る前ならやっても良いってこと!?)
寝落ち前に魔力使い切る。
どうせ寝たら回復するし最高効率じゃん!
その日から俺のルーティンが決まった――
日中は魔力循環で身体中に魔力を馴染ませて、魔力操作の熟練度を上げる。
昼寝前&夜寝る前に限界まで魔力放出をして白目コース。
(よし!将来のためだ。チートの下積みだ!)
俺は少しずつだが、確実に強くなっていった。
そして、その副産物――
「……また白目むいてる」
「やっぱり怖い……」
家族から、寝顔が気持ち悪い子として定着した。




