プロローグ
よろしくお願いします
燃え盛る炎は、磔にされた彼女の身体を、容赦なく焼いていく。
彼女は全てを覚悟した顔をして、死を受け入れていた……。
悲鳴一つ上げることなく、
激しい炎と煙の中に消えていった彼女を見ていた俺は――
「アゼルううううう!! 死ぬなあああああ!!」
月光の下、全ての死霊を掻き消された彼女を守る者はいなくなった。
小さな彼女の身体では、受け止めきれない数の矢が全方位から降ってくる。
身体中に矢を受けても、瀕死ながら立っていた彼女へ数多の槍が迫り――貫く。
貫かれたまま持ち上げられ、
宙を舞う彼女からは、生命の全てが零れ落ちていた――
「リリスうううう!! やめてくれええええ!!」
全てを出し切った彼女は、潔く勇者に止めを刺されようとしていた。
「私の……、負け、よ。とどめを」
ドクンッ!!
「!?」
『自爆呪術式・発動』
彼女の身体の魔力が急激に暴走する――
腕の血管が破裂する、足の筋肉が破裂する、腹や胸、背中、額、身体中が隆起してきて、原型が無くなるくらいに膨らんで――大爆発をした。
超高魔力圧縮爆裂――
その威力は、勇者軍の半数を道連れにしていた――
「いやあああああ!! シルファあああああ!!」
その度に俺は、モニタに向かって全力で叫びながら泣いていた。号泣だ。
ブラック企業に勤めていた俺にとってこのゲーム。
いいや、彼女たちが唯一の救いだった。
俺の、“推しヒロインたち“。
そのビジュアル、声、仕草、そして体型.......、全てが、ドストライクなのだ。
俺は運命に出会えたと思ってプレイしているのだが――
「彼女たちは、隠しヒロインだと公式が言っているっ! 絶対に救えるはずなんだ!」
どうしても彼女たちを救うすべが見つからないのだ。
通常のプレイでは救済のヒントすら見つからない。
何もしなければストーリーは進み、必ず彼女たちは非業の死を迎えてしまう。
『アゼル・レヴァイア』
『リリス・バビロン』
『シルファ・サタン』
俺はこの三人と、必ずハッピーエンドを迎えてみせる。救ってみせるんだ!!
そう意気込んだ俺は、無謀にも通常ブラックの上の暗黒ブラック体制で働き、過去最大の圧力にも負けず有休を勝ち取り、一週間の連休を作った。
「……俺は、この連休で必ずっ!」
無理をした俺は、頭痛、吐気、眩暈などなど、最初からクライマックスな状態だったが、この時のために無理をしたんだと、頑張った――
最後の方は、寝食も忘れて集中した。
目は霞んで見えなくなるし、手足も痺れてボタンが上手く押せないし、喉もかすれて声が出なくなった。
(あれ? 最後に水分とったのいつだっけ?)
そして、ついにやり切った。
(……やっとだ。……やっと君たちを、救えたよ)
気が抜けたら……、視界が……、あれ?……身体にち、から、が……
そして何も感じなくなった――
◇ ◇ ◇
「痛いっ!!」
――痛みで、世界が反転した。
「だから言ったでしょ、ちゃんと避けなさいって!」
後頭部に走る衝撃と同時に、視界が白く弾け、地面に転がる。
「いっつぅ……!」
俺の声がやけに高い。それ以上に、身体が軽すぎる。手に触れる土の感触。見上げた空はやけに広く、青い……、月が三個ある?
視界の端に、木刀を握った少女が映った。短く結った綺麗な黒髪。日に焼けた健康的な肌。年上らしい余裕の笑み。
「ごめんごめん! ケイがぼーっとしてるからさ!」
(……ぼーっとしてたのは事実だけど)
次の瞬間、違和感が確信に変わる。
少女の顔を、改めて見る。
(……ステラ?)
ステラ・ツクヨミ。
俺より二つ年上で、無駄に身体能力が高く、剣の真似事をさせたら村一番。
弟の俺を溺愛し、暇さえあれば連れ回す、厄介で頼もしくて可愛い姉。
(なんで……俺、こんなに小さい?)
自分の手のひらを見た瞬間、頭の奥で何かが弾けた――
唯一の救いだったゲーム。
【The hero saves the world with love】
剣と魔法のファンタジーギャルゲー。
「ゲームに……、転生?」
俺、やり遂げた達成感で気が抜けて……。
「ケイ? 本当に大丈夫?」
覗き込むステラの顔が、やけに近い。
いつも見慣れているはずなのに、少し照れる……。
(おいおい、幼いけどうちの姉さんめちゃくちゃ可愛いな! さすがサブヒロインだな!!)
ステラが、俺の姉さんってことは……。
その背後――
少し離れたところで、木の枝を剣代わりに振る少年が目に入った。
金髪、碧眼。無駄のない動き。
アイン・アマテ。
この村で育ち、十五歳で希少なジョブを授かる、この世界の主役。
俺は同じ村の、村人Aか……。
【The hero saves the world with love】は情報サイトからSNSまで完全に網羅したつもりだけど、ステラの弟なんて設定は知らない。
でもそんなことは関係ない――
この世界に転生したのであれば、やるべきことは決まっている――
――推しヒロインたちは、俺が必ず救う!!――
それから――
剣を振るアインと、満足そうに頷く姉さんを見る。
アイン、お前が失敗しないように、俺が見守ってやるよ。
これは、愛で世界を救う英雄の物語――
ではなく……。
世界に見捨てられた隠しヒロインたちを、
個人的な嗜好も相まって、救う物語である。
「おーい、ケイ! ケイってば! 帰るわよ!」
いつのまにか、姉さんに手を引かれながら家路についていた。
ヤバいヤバい、いろいろと回想していたよ。
「ずーっとボーッとしてるけど、本当に大丈夫? 強く打ちすぎだかしら……」
ブツブツと小声で言いながら、神妙な顔をしている姉さん。その身体の向こうから、心配そうにこちらを見ているアイン。
「ケイ〜、大丈夫〜?」
小さいアイン、めっちゃ素直で可愛いな!?
「ありがとアイン、大丈夫だよ」
ホッコリした気分になり、更にやる気が湧いてくる。
たとえモブでも、ゲームを網羅した俺は、知識チートで最強になってやんよ!!




