第12話
《アイン視点》
深淵迷宮20層ボス部屋――
僕たち新入生の迷宮攻略としては、明らかに一学期の域を超えていた。
「ッ!溜めてる! デカい攻撃がくる!!」
最前列で盾を構えるのは『聖騎士』のジョブを授かったミカエラ。
大盾を正面に構え、迫りくるアイアンゴーレムの強力な攻撃に備える。
「ホーリーシールド――展開」
ミカエラの背後、中衛の『聖女』エルが詠唱を終え、個別結界魔法を放った。
その瞬間、ミカエラが聖なる衣に包まれる。
「ありがとうエル!必ず抑える!! 頼む!」
ドゴンッ!!
アイアンゴーレムの重い一撃を受け止めた。
瞬間――
「行くよ!」
『戦聖』ウリエが横合いから出て飛び上がり、その勢いのままグレートアックスを振りあげる。
強力攻撃後で硬直しているアイアンゴーレムへ、全体重を乗せた渾身の一撃――
バギィッ!!
アイアンゴーレムの硬い身体を砕く音が――迷宮に響く。
「――今!」
合図に反応したのは『拳聖』アーキ。
”身体強化”を発動――
ウリエが砕いた箇所へ、無駄のない踏み込みから連撃を叩き込む。
その攻撃が砕けた箇所の亀裂を拡げていく。
「いくわ!! ウォータースピア!」
『賢聖』ラフィが貫通力のある水槍を放つ――
敵を穿ち、同時に動きを鈍らせる水デバフが付与されていた。
「いっきますよぉ~! ウインドォプレス〜!」
火力担当の『魔聖』セラフが、風の魔力を収束させて放つ――
ドゴォォォ!!
爆音と共に、フロアの壁までアイアンゴーレムを吹き飛ばした。
アイアンゴーレムは何とか動こうとしているが、明らかに動作が遅くなっていた……。
「――とどめっ!」
その隙を逃さず、僕は前へ出た。
(仲間たちが作ってくれたこの隙っ! 無駄にしない!!)
僕は全力の一撃を亀裂へ振るった――
ザンッ!!
――アイアンゴーレムを切り裂いた……。
僕は『光の守護者』にして『勇者』。
僕と六人の上位職――
人々は僕たちを『勇者パーティー』と呼んだ。
アイアンゴーレムは光になって消えた。
(ボス部屋は討伐後リポップまでセーフエリアになるって、初めに気付いた人には感謝だよね……)
それにしても、僕たち『勇者パーティー』は盾・回復・火力・制圧・連携と……。
――すごく噛み合っていた。
「……改めて思うけど、バランス良すぎない?」
ラフィの言葉に僕は小さく笑った。
「最初は必死だったけどね」
「今は役割がはっきりしてるから、動きやすい」とミカエラ。
「それぞれが、自分の仕事を理解してるからしっくりきますわ」とエル。
「だから前に出られるし、安心して任せられるよ」とウリエ。
セラフとアーキも頷いた。
「それに、『光の守護者』の効果がすごいのよね」
そう――
『光の守護者』は僕自身の強化だけではなく、パーティーメンバーにも身体・魔力強化や勇気という精神関連のバフ効果もある。
「でも、みんながいるからこその効果だよ!」
(僕一人じゃ絶対、ここまで来れなかったからね)
笑顔で感謝の言葉を返す。
このパーティーは強い。
”パーティーなら”、間違いなく一学年トップだ。
「本当にアインはすごいわよね。ここまでの道順も迷いが無かったし、何故か経験値が多い魔物に良く当たるしで、”効率”が神がかってた気がするわ」
「まぁ、幸運な方かもね僕は……」
僕は苦笑いしてごまかしつつ、あの時の会話を思い出す……。
◇ ◇ ◇
入学して間もない頃――
「アイン、少しいい?」
放課後になって帰ろうとした僕は、講堂の外で待っていたステラ姉さんに声を掛けられた。
(入学式の時にも思ったけど……、ステラ姉さん、前より更に綺麗になったなぁ)
「ステラ姉さ……学生会長、なんでしょうか?」
嬉し恥ずかしで昔のように呼んでしまいそうになった僕だったけど、なんとか修正することができた。
しかし、ステラ姉さんは少し困った顔をした。
「前と同じように呼んで良いわよ。逆に寂しいわアイン……」
「うっ……。了解ですよ……、ステラ姉さん」
ニコリと笑い「それで良いわ」と頷き喜んでくれたので、僕も嬉しい気持ちになった。
「そうそう、これを渡そうと思ったんだわ」
人目を避けるようにステラ姉さんは、一枚の紙を差し出す。
受け取った紙は、迷宮の階層図と簡潔なメモ。
――“深淵迷宮・効率狩場”。
「っ!……これって」
「ふふ、内緒ね」
ステラ姉さんは人差し指を唇に当てる。
「私が作ったわけじゃないの。信頼できる子からもらったものよ」
僕に近づき耳元で囁いた――
「『姉さんが使い終わったら、あいつに渡して』って言われてたのよ」
僕は思わず目を見開いた。
囁かれて恥ずかしくなった気持ちも吹き飛ぶくらいに驚く。
「それって……」
「……本当に何なのかしらね、いつか全部話してくれるのかしら……」
「……大丈夫。あいつはステラ姉さんが、大好きですから」
ステラ姉さんの少し寂しげな表情がハッとなり、笑顔になった。
「あなたはどんどん良い男になるわね、それはそれで寂しいわ」
ステラ姉さんは真剣な顔になり、僕をまっすぐ見つめた。
「あなたは『勇者』、皆の希望です。どんな手を使ってでも強くなりなさい。世界はあなたに掛かっているのかもしれないのだから」
その言葉に、胸の芯が熱くなった。
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
「ふふ、そう言ってもらえると、渡した甲斐があるわ」
そして去り際、ステラ姉さんはふと思い出したように振り返る。
「ちなみに――私はその情報を使ってレベルを上げ、今では……ね?」
右腕の腕章を指差す。
学生会長の腕章。学園最強の証だ。
「……僕も頑張ります!!」
僕は『勇者』として、皆の希望になれるように強くなろうと改めて思った。
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
アインが20層の攻略をしている頃――
俺は深淵迷宮50層のボス、メイジキマイラを倒し終えていた。
「まぁ、こんなもんか……。そしてやはり51層には降りれないっと」
51層へは見えない力で押し戻されてしまい、進むことができなかった。
(ゲームと一緒か。どうやって判別してんだか?……)
「行けないものは仕方がないか……」
(最短でここまで来たけど……)
51層に行けない以上は50層までで、俺はレベリングする必要があった。
(さて……、俺の実践するレベリング術は、マル秘メモの中でも非効率そうで最高効率――”極レアモンスターだけ探して倒す”だ!!)
俺は獲物のいる層まで爆速で戻っていく……。
そして――
「――狙うは”はぐれメタルモモンガ”のみ!!」
その日から学園生の間である噂が広がった――
深淵迷宮44層で、黒い男が高笑いをしながら走り回っていると……。
◇ ◇ ◇
夏休み前の講堂は、学生たちのざわめきで満ちていた……。
講堂の前方――アインがウリエに声を掛けられていた。
「アイン……。夏休み、時間ある?」
「え? うん、特に予定はないよ?」
ウリエは少しだけ真剣な顔になって。
「ドワーフ王国に、来てくれないかな? もちろんパーティーのみんなも一緒に……」
その言葉を聞き、俺は口角がわずかに上がった――
(ドワーフ王国救済イベント……、来たーー!!)




