第11話
エイユウ学園の生活は、中々に忙しかった。
朝から夕方まで講義、実技、戦闘訓練の選択授業が目白押しだ。
「時間は有限。効率よく強くなるため方法も、そのための選択も、そいつ次第ってね」
みんな自分にとってどの選択が良いか必死に考え、ギリギリ一杯まで詰め込んでる様子だった。
(まあ、俺は最低限必須な授業だけで十分かな……)
俺は目立たぬように、“普通の学生”を演じていた。
魔力操作は平均的、剣もそこそこ、評価は可もなく不可もなく。
一方で――
「すごいっ! 今の魔力制御、どうやったの!?」
「いや、別に普通にやっただけだよ?」
アインの周囲は、常に人だかりができていた。
戦闘訓練でも、講義でも、自然と中心に立ってしまう。
(いいね。完全に主人公ムーブしてるじゃん)
ヒロインたちも順調にアインとの仲を深めていっているようだし、パーティーとしての形も整え始めているようだ。
(アインの動きを見る限り、ちゃんと熟練度を上げてからレベル上げたみたいだな。本当に真面目で偉いぞアイン!)
「アインは安心みたいだし、俺は俺のやるべきことをしますかね……」
訓練所を後にしながら一人呟き、学園都市の街中へと足を向けた。
◇ ◇ ◇
エイユウ学園都市ギルド――
ギルドでできることは、冒険者登録、傭兵契約、学術依頼とさまざまあった。
この学園都市支部はエイユウ学園がある関係で、世界各国から人が集まってきていた。そのため、この支部は常に活気に満ちていた。
「登録をお願いします」
「……学生さん? 登録ですか? 依頼ではなく?」
「間違いないです。課外実習の一環なんですよ~」
「……そうなんですか、分かりました。登録は自由ですからね」
(いやぁ、怪しいよねぇ。でも必要なんだよ……)
ゲームでは普通に冒険者登録をしてサブクエスト等を行ったが、現実としてはメリットが薄いのでほぼギルド登録する者はいないようだ。
(たしかに金銭を得たければ迷宮に行ってドロップ品を売った方が儲かるし、レベル上げ的にもそうだからな~)
そのため、学生は通常”依頼する側”なのだ。
(何となく、受付のお姉さんが可哀想な子を見る目だった気がする……。学園で落ちこぼれて、迷宮で稼げない子と思われた?)
生暖かい雰囲気の中で手続きを終えた。
俺はそのまま木製の依頼掲示板の前に立った。
(目的のためなら、どんな恥辱にだって耐えてやるぜ!)
俺は三枚の依頼書を、迷いなく手に取った――
◇ ◇ ◇
依頼①:魂入草の入手――
(この依頼の発注者は変態魔道具師ゲンナイ。マッドサイエンティストだ……)
推しヒロインを救うキーアイテムを作ってくれる重要人物だ。
俺はゲーム知識でサクッと入手して、納品のためゲンナイの研究所を訪れた。
「ギルドのクエスト納品で来ました〜」
「おおおおお!? これじゃ! ありがとの!!」
ダッシュで出てきて、俺の手から奪って奥へ戻って行ってしまった。
(……あれ、終了のサインは?)
俺は勝手に研究所の応接室まで入り、ソファに座って待たせてもらうことにした。
何度か作業所にいるはずのゲンナイに声をかけるが爆音が響くだけで反応なし。
(これはダメだな……)
――数時間後
「おぉ!? 貴様、まだいたんか?」
俺はギルドの納品書をスッと出した。
「サインをお願いします」
――沈黙
「……悪かったのぅ」
微妙な雰囲気になる……。
「ほんとに悪かったのぅ、詫びに何かの時には力になるぞい!」
ニヤリ。
「ありがとうございます。俺もゲンナイさんが必要としている物を頑張って取ってくるんで、いつでも依頼して下さい!」
(よしっ!前進だ!)
◇ ◇ ◇
依頼②:迷子の子猫を探せ――
(発注者はリウムちゃん五歳。この都市に住む普通の子……)
「……おにいちゃん」
俺が行くとリウムちゃんが、泣きそうな顔で俺を見上げた。
依頼内容は迷子になった子猫を探すだけ、普通であれば難しいし運要素もある。
しかし――
(ゲーム知識チート、舐めないで頂きたい!)
ゴールの解っている探索は楽勝である。
――十分後
「いた……!」
路地裏で子猫を見つけた時にリウムちゃんは、ぱあっと笑った。
「ありがとう! これあげる!」
渡されたのは、古びたメダル……。
「良かったよ。ありがとうな」
俺は笑顔でしゃがみ込み、頭を撫でながらメダルを受け取る。
(謎の古びたメダルゲット。いずれこれが必要になるからな……)
◇ ◇ ◇
依頼③:学園都市図書館の書籍整理――
(発注者は図書館司書のナディアさん。メガネの似合う美人ダークエルフだ)
「こんにちは、ギルドから来ました」
「こんにちは、受けてくれてありがとうございます。なかなか受けて頂けなくて困ってたんです」
静かな図書館内――
小さな声でもよく響き、ステンドグラスの光が幻想的で、特別な雰囲気の空間だった。
俺はナディアさんに図書館の奥の、更に奥の小部屋に通された。
「この部屋は廃棄予定の書籍が積まれています。その仕分け作業をお願いします」
「了解しました」
古書独特の埃の匂い……。
俺は迷わず一直線に、たくさん積まれた本の一カ所へと向かった。
(……あった)
手に取ったボロボロの古書。
題名は読めないが、表紙のナンバリングだけギリギリ読める。
「……それも今回の処分予定ですね」
ナディアさんがリストと照合する。
「記念にもらっていいですか?」
「ええ、構いませんが……」
ページをめくると、かすれた文字――間違いないな。
「ありがとうございます」
(良しっ! 目的の物ゲット!)
俺は笑顔でリストをもらい、廃棄書籍を仕分け整理していった……。
(結構時間と体力使ったな、ナディアさん一人じゃ大変なわけだ。そして人気がないわけだ……)
「ありがとうございました。助かりました。定期的に依頼出しますので、良かったらまたお願いします」
「また機会がありましたら」
(救済アイテムもそうだけど、美人のお願いは断り辛いよな)
俺は挨拶をして、図書館を後にした……。
◇ ◇ ◇
夕暮れの学園都市を歩きながら、俺は小さく息を吐く。
(一学期分の隠しイベント、回収完了……)
「彼女たちを救うためのイベントは、取りこぼしはできないからな……。これからも、気を緩めることなくいくぞ……」
俺は自身の戒めを呟きながら、帰路についたのだった――




