レインの思い
皆さん、私の文章は読みづらい部分があるかもしれません。また、内容についてもご期待に添えないことがあるかもしれませんが、どうか温かい目で読んでいただけると嬉しいです。
夜の冷気が、隙間だらけの扉からゆっくりと入り込んでいた。
レインは重くなった腕で扉を押し開ける。蝶番が軋み、ぎい、と乾いた音が静かな家の中に広がった。
室内は暗く、奥でかろうじて揺れている小さな火だけが、わずかな輪郭を作っている。
「……ただいま」
声に力がない。喉が乾ききっていて、言葉が途中で途切れる。
少し遅れて、奥から返事が返ってきた。
「……おかえりなさい。外、寒かったでしょう……?」
かすれた声。
布にくるまれたまま横になっているのは妻のミラだった。頬は落ち、肌の色は薄く沈み、呼吸は浅い。その隣で、娘のリナが膝を抱えたまま小さく丸くなっている。
レインは靴を脱ぐことも忘れたまま、その場に立ち尽くした。
家の中は、外の冷気とは別の意味で重く沈んでいた。
「……どうだったの?」
ミラの声は、答えを知りながらも確認せずにいられないような、弱い揺れを含んでいた。
レインは視線を床に落とす。言葉を探そうとして、喉の奥で何度も引っかかる。
乾いた呼吸だけが先に漏れた。
やがて、小さく息を吐き――
「……すまない。やっぱり駄目だった」
短く、途切れるように落ちる声。
「話はできた。でも……それでも、無理だって言われた」
その一言で、部屋の空気がさらに静かになる。
ミラは一瞬だけ目を閉じ、深く息を吐いてから、ゆっくりと頷いた。
「……そう」
声に責める色はない。ただ事実を受け止めるだけの静けさがあった。
「仕方ないわね。今はどこも余裕なんてないもの」
淡々とした言葉が、そのまま部屋の空気に沈む。
「……ごめん」
レインの口から、思わずこぼれる。
ミラはわずかに首を振った。
「あなたが謝ることじゃないわ。行ってくれただけでも十分よ」
かすかな笑み。その弱さが、かえって現実の重さを浮かび上がらせる。
リナがゆっくりと顔を上げる。
「……お父さん」
小さくかすれた声。
「ごはん……ある?」
レインの喉が、ひどく重くなる。
「……今日は、その……」
言葉が途中で崩れる。
沈黙が落ちたあと、ようやく息を押し出すように続けた。
「明日、また探してくる。何か、必ず」
それが限界だった。
今の現実に対する答えにはなっていないことくらい、自分でも分かっている。
リナはレインをじっと見ていた。
責めるでもなく、泣くでもなく。ただ一度だけ視線を落とし――小さく頷く。
「……そっか」
それだけだった。
諦めでも期待でもない。ただ、それ以上どうにもならないことを理解してしまった声だった。
そのとき――
コン、コン。
乾いた音が、夜の沈黙を切り裂いた。
三人の動きが同時に止まる。
レインは一瞬遅れて顔を上げ、重たい体を引きずるように立ち上がった。
足裏が床に沈むように重い。
「……誰だ。こんな時間に」
扉の前で低く問いかけるが、返ってくるのは風の擦れる音だけだった。
「……俺だ」
短く、乾いた声。
その一言で、レインの表情がわずかに揺れる。
記憶の奥に引っかかるものを確かめるように、ゆっくりと扉へ手をかけた。
「……ガルド?」
軋む音とともに扉が開き、夜の冷気が一気に室内へ流れ込む。
その中に立っていたのは、見慣れた男だった。
片手には布に包まれた何かを抱えている。
ガルドは一瞬だけ視線を逸らし、気まずそうに息を吐いた。
「……よ。さっきは、その……悪かったな」
ぶっきらぼうな言い方だが、言葉を探している不器用さが滲んでいた。
レインはすぐに返せない。ただ視線が、自然とその腕の中へ引き寄せられていく。
布の隙間から覗く赤い色。
――肉だった。
「……なんで、わざわざ……」
声がかすかに震える。
ガルドは顔をしかめ、短く息を吐いた。
「……うるせぇな。理由なんざいちいち聞くな」
ぶっきらぼうに言い捨てると、わずかに視線を上げる。
「ほら、受け取れ。多くはねぇが、ないよりマシだろ」
無造作に差し出された布包み。
レインは一瞬ためらい、それでも両手で受け取る。
ずしりとした重みと、布越しに伝わるわずかな温もり。
「……すまん。本当に助かる」
喉の奥から、絞り出すように言葉が漏れた。
ガルドは小さく鼻を鳴らす。
「礼は後でいい。そういうのは今やるもんじゃねぇ」
短く切り捨てるように言い、それから少しだけ間を置く。
「その代わりだ」
レインが顔を上げる。
ガルドの視線はまっすぐだった。
「次はお前の番だ。もし同じ状況になったら、そのときは返せ」
逃げ道のない、静かな言葉。
レインは一瞬息を詰め、それから強く頷いた。
「ああ……必ず返す。絶対にだ」
それ以外の言葉が出てこなかった。
それで十分だった。
そのやり取りを、部屋の奥からミラとリナが見ていた。
リナが小さく息を呑む。
「……お母さん。あれ……」
視線は、布包みに釘付けになっている。
ミラの目に、ゆっくりと光が戻る。
「……お肉?」
かすれるような声。
「……ええ。そうよ」
小さく頷く。
その一言で、張り詰めていた空気がわずかにほどけた。
「今日はちゃんと食べられるわね……温かいの、用意しましょう」
レインは手の中の布包みを見る。
重みと、まだわずかに残る温もり。
それは確かに“生きていたもの”の名残だった。
そして今、それがここに繋がっている。
小さく息を吐く。
「……ほんと、でかいもん貰っちまったな」
その声には、さっきより少しだけ力が戻っていた。
外では風が鳴っている。
その夜、この家にもようやく“ちゃんとした食事”と“少しの希望”が届いた。
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※補足設定です。気になる方のみお読みください。
《人物詳細》
■レイン(父)
レインはグレイウッド村で暮らす男だ。
もともとは荷運びや木の伐り出しで日銭を稼いでいたが、食料不足が続いてからは体力が落ち、長時間の仕事もこなせなくなっている。
腕は細くなり、頬はこけ、少し動くだけで息が上がる。
家族を養わなければならないことは分かっている。
だが森に入るだけの余力も、カルディアまで行く余裕もない。
それでも何もせずにはいられず、食料を分けてもらうために頭を下げることを選んだ。
誇りを捨てたわけではない。
ただ、それよりも優先するものがあった。
■ミラ(母)
ミラはレインの妻で、今はほとんど床から起き上がれない。
体は衰弱しているが、意識ははっきりしていて、家の状況も理解している。
食事のとき、彼女は自分の分にはほとんど手をつけない。
皿に残ったわずかな量を、視線だけで子どもに譲る。
それだけで、この家の優先順位が決まる。
無理に強がることもなく、静かに家を支えている。
■リナ(娘)7歳
リナは7歳の少女だ。
本来はよく喋る子どもだったが、今は食事が足りず、体は細く、家の中でも静かにしていることが多い。
それでも泣きわめくことはほとんどない。
食事のときも、何も言わずに皿を見ていることが多い。
量が少なくても文句は言わず、そのまま受け取る。
無理に我慢している様子はない。
ただ、それ以上求めても変わらないことを分かっているだけだった。
後述の詳細 書いてあると邪魔だと感じたら消しますので教えてください
ep.2 グレイウッド村にユウ ガルド エナ ルク の人物詳細を追加したので良ければ見てみてください、




