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ただいま

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

今回で第一章、本編最後のエピソードとなります。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 朝の光が町の輪郭をゆっくりと浮かび上がらせる頃には、夜の間ずっと張り詰めていた空気も少しずつ緩み始め、門前に並んでいた騎士の数も減って、道を塞いでいた馬もほとんど姿を消していた。


 やがて、門の前に残っていた騎士の一人が声を張る。


「本日をもって、この区域の封鎖を解除する」


 淡々とした通達だったが、その一言を聞いた人々は安堵したように息を吐き、商人たちは荷車の覆いを外し、露店の主人たちも店先を整え始める。止まっていた町の時間が、少しずつ動き始めていた。


「……やっとか」


 誰かがそう呟くと、その声をきっかけに門の外へ向かう者たちが動き始める。まだ完全に普段の活気が戻ったわけではないものの、町にはようやく日常が戻りつつあった。


 ユウは門の近くに立ったまま、その様子を眺めていた。封鎖は解かれ、門も開いている。もう、自分を止める者はいない。


(……これで、終わりか)


 そう思いながらも、ユウの視線は自然と町の奥へ向いていた。そのとき、近くにいた騎士たちの会話が耳に入る。


「これで一応、片付いたな」


「ああ。ようやく帰れる」


「昨日は散々だったな。あれだけ探し回ったってのに、最後は領境まで逃げられるとはな」


「しかも、あの傷でよく逃げたもんだ。固有能力まで持ってるって話だしな」


「リューベルク領まで入られたんじゃ、もう俺たちにはどうしようもない。あとは向こうに任せるしかないだろ」


「だな。……俺はもう寝たいよ。昨日からほとんど寝てない」


「俺は飯だな。腹が減って仕方ねぇ」


「お前、結局それかよ」


「腹が減ってちゃ寝られねぇだろ」


「はいはい。じゃあ、さっさと片付けるぞ」


「おう」


 騎士たちはそんなことを話しながら、撤収の準備を始めていく。


 その声を聞きながら、ユウは町の外へ目を向けた。


(……固有能力持ち、か)


 ふと、エリシアの姿が脳裏をよぎる。あの女にも、自分には分からない特別な力があるのだろうかと少し気になったものの、考えたところで今のユウには確かめようがない。


(……まあ、もう会うこともないだろうな)


「……俺も、そろそろ行くか」


 ユウは開かれた門を抜け、町の外へ出た。門の外では、封鎖解除を待っていた商人の荷車や旅人たちが次々と動き始めており、カルディアもようやく普段の姿を取り戻しつつあるようだった。


 その流れに混じって街道を歩いていたユウは、しばらくして足を止め、遠ざかっていくカルディアの町を振り返った。昨日からの出来事が、次々と頭をよぎる。


 騎士たちに追われていた金髪の少女――エリシア・グレイロード。そして、武器屋で出会った金髪の少女――シルフィ。


 どちらも、ほんの短い時間関わっただけの相手だ。


(……色々あったな)


 けれど、もう終わったことだ。今のユウにとって大事なのは、無事に村へ帰ること。それだけだった。町へ背を向け、再び街道を歩き始めると、ユウは小さく息を吐く。


「……これで、ようやく帰れる」


 目指すのは、グレイウッド村。ユウは少しだけ足を速め、いつもの日常が待つ故郷へ向かって街道を進んでいった。


ーーー


 森を抜け、ユウはグレイウッド村へ続く道を歩いていた。村を離れてから、すでに三週間以上が経っている。徴兵され、戦場へ送られたユウにとって、こうして自分の足で故郷へ戻ってきていること自体が、どこか不思議な感覚だった。


 木々の向こうに見慣れた屋根が見え始めると、ユウは思わず歩く速度を緩めた。


(……もうすぐだ)


 あの道を越えれば、グレイウッド村だ。そこには、ずっと会えていなかった家族がいる。


(……やっと、会えるな)


 村へ足を踏み入れると、人々の話し声や木材を打つ音が一気に近くなった。冬を迎える前とあって、荷物を運ぶ者や柵を補修する者が忙しそうに行き交い、軒先には干し肉や薬草、道端には薪や食料の入った袋が並べられている。


(……前より、人が多いな)


 三週間以上離れていただけなのに、村の様子は以前とは少し違っていた。柵は頑丈に補強され、冬に備えた食料や薪も増えている。それに、見覚えのない顔が村人たちに混じって働いていた。


 ユウが周囲を見回しながら歩いていると、不意に聞き覚えのある声が飛んできた。


「……ユウ?」


 振り返ると、そこにはダンが立っていた。俺の顔を見たまま、しばらく言葉を失ったように固まっている。


「……ダン?」


「お前……本当にユウか?」


「そうだけど」


「いや、だって……」


 ダンは俺の姿を頭の先から足元まで何度も見た。三週間以上前に村を出たときとは服装も違い、顔にはいくつか傷も残っている。その姿を確かめるように見つめたあと、ようやく本人だと確信したらしい。


「……帰ってきたのか?」


「ああ。さっき村に入ったところだ」


「マジかよ……。戦場に送られたんだぞ? それなのに、本当に戻ってくるなんて……」


「俺も、帰ってこられるとは思ってなかったよ」


「そりゃそうだよな……」


 ダンは大きく息を吐き、それから少しだけ表情を緩めた。


「……無事、って言っていいのか?」


「まあ、死んではないからな」


「そういう問題じゃないだろ」


 呆れたように言いながらも、その顔には安堵が浮かんでいた。


「でも、とにかく帰ってきたんだな。もう二度と会えないかと思ってたぞ」


「……そうか。まあ、いろいろあったよ」


「……聞きたいことは山ほどあるけど、今はいいか」


 ダンはそれ以上聞くことはせず、村の奥へ目を向けた。


「それより、お前も気づいただろ? 前より村の人が増えてること」


「ああ。なんでこんなに増えてるんだ?」


「他の村から逃げてきた人たちだよ。南のほうで魔物が大量に出たらしくてな。村を襲われたり、街道を塞がれたりして、住む場所を失った連中がこっちまで流れてきたんだ」


「……そんなにひどいのか?」


「ああ。いくつかの村が被害を受けたって話だ。街道も使えなくなってる場所があるらしい」


 ダンは少し声を落とした。


「最初は、受け入れるかどうかでも揉めたけどな」


「まあ……そうなるよな」


 冬を目前にして、グレイウッド村だって余裕があるわけではない。徴税で食料を持っていかれたばかりなのだから、村人たちが不安になるのも無理はなかった。


「食料だって足りてない。自分たちが冬を越せるか分からないのに、他の村の人間まで受け入れて大丈夫なのかって話も出た」


「それで、どうしたんだ?」


「ガルドたちが間に入ったんだよ」


 ダンは小さく笑った。


「『ここで追い返したって、行く場所なんてないだろ』ってな」


「父さんらしいな」


「ああ。それで、無理のない範囲で受け入れることになった」


 ダンは村の中を見回した。


「ただ、住む場所と食料を用意するだけじゃどうにもならないからな。働ける人には仕事をしてもらってる」


「なるほど」


「食料の管理をする奴もいれば、森へ入る奴もいる。柵を直したり、薪を集めたり……みんな、それぞれできることをやってるよ」


 ユウは改めて周囲を見渡した。避難してきた者たちも村人に混じり、薪を運んだり、柵の補修を手伝ったりしている。慣れない仕事に戸惑っている者もいるが、それでも皆、それぞれに手を動かしていた。


「……ちゃんと働いてるんだな」


「ああ。住ませてもらうだけじゃ気が引けるって奴も多いからな。それに、仕事があったほうが余計なことを考えずに済むだろ」


「確かに。村だって余裕があるわけじゃないしな」


「そういうことだ。助け合わないと、冬を越すのも大変だからな」


 ユウは黙って村の様子を眺めた。自分がいない間に人が増え、村でやることも増えている。それでも、村人たちはそれぞれの役割をこなしながら、冬を迎える準備を進めていた。


(……俺がいない間にも、ちゃんと回ってたんだな)


 少しだけ不思議な気持ちになりながら、ユウは村の奥へ目を向けた。


「そういえば、父さんは?」


「ガルドなら西の森だよ。最近は人が増えたから、見回りの範囲も広げてるみたいだ」


「そっか。母さんたちは?」


「エナさんとルクなら家だろ。冬が近いから、今のうちに色々準備してると思うぞ」


「母さんたちもか」


「ああ。まあ、みんな忙しいってことだな」


「そっか」


 ユウはもう一度、村の中を見回した。知らない人が増え、景色も少し変わっている。それでも、ここで暮らす人たちがそれぞれ自分にできることをしているのは、以前と変わらなかった。


「じゃあ、俺は家に行ってくるよ」


「ああ。家族も待ってるだろうしな。今日はゆっくり休めよ。話はそのあとでいい」


「そうする」


 ユウはダンに背を向け、家へ向かって歩き出した。


 やがて、見慣れた家が見えてきた。木で組まれた扉には新しい補強が施されている。中からは鍋の匂いと、薪がぱちぱちと爆ぜる音がかすかに聞こえてきた。


(……帰ってきたんだな)


 ユウは扉の前で足を止めた。村を出てから、ずっと心のどこかで「本当に帰れるのか」という思いを抱えていた。それだけに、見慣れた家を目の前にすると、ようやく自分が本当に帰ってきたのだという実感が込み上げてくる。


 ゆっくりと息を吐き、ユウは扉へ手を伸ばした。


「……ユウ?」


 背後から聞き覚えのある声がして、ユウは振り返った。


 そこには、肩に薪を担いだガルドが立っていた。ユウの姿を見た瞬間、驚いたように目を見開き、その場で足を止める。


「……父さん」


「……ユウ、なのか?」


「そうだよ。帰ってきた」


 ガルドはすぐには近づいてこなかった。顔や服、身体の様子を確かめるように黙ったままユウを見つめ、顔に残る疲れこそ気になったものの、大きな怪我がないことを確認すると、ようやく小さく息を吐いた。


「……怪我はないか?」


「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだよ」


「そうか……なら、いい」


 ガルドは担いでいた薪を地面に下ろすと、ユウの肩を軽く叩いた。


「……よく帰ってきたな」


「うん。ただいま、父さん」


「ああ。おかえり」


 ガルドはそれだけ言うと、家の扉へ手を伸ばした。


「ほら、入れ。母さんたちも待ってる」


「うん」


 ユウが扉を開けると、木が軋んで家の中から温かな空気が流れてきた。簡素な家具も壁際に置かれた道具も、使い慣れた食器も記憶の中と変わらず、見慣れた光景を前にユウが一瞬だけ足を止めていると、家の奥から慌ただしい足音が近づいてきた。


「……ユウ?」


 顔を上げると、そこにはエナが立っていた。手にしていた布を落とし、信じられないものを見るようにユウを見つめている。


「ユウ……本当に帰ってきたの?」


「うん。帰ってきたよ」


 エナの目にみるみる涙が浮かんだ。何かを言おうと口を開いたものの、うまく言葉にならなかったのか、そのままユウへ駆け寄ると、強く抱きしめる。


「わっ……母さん、苦しいって」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう……!」


「いや、分かるけど……本当に苦しい」


「……ごめん。でも……」


 エナはようやく腕を緩め、涙を拭いながらユウの顔を覗き込んだ。


「ずっと心配してたのよ。何の連絡もないんだもの……もう帰ってこないんじゃないかって」


「……心配かけたね」


「本当にね」


 そう言いながらも、エナの表情には安堵が滲んでいた。


「怪我はない? 痛いところは?」


「大丈夫。父さんにも聞かれたけど、本当に疲れてるだけだよ」


「そう……なら、よかった」


 エナがようやく表情を緩めたとき、家の奥から小さな足音が聞こえてきた。


「……兄ちゃん?」


 背後から聞こえた声に、ユウが振り返る。そこにはルクが立っていた。ユウの姿を見た瞬間、目を大きく見開き、しばらく何も言えないまま立ち尽くしている。


「兄ちゃん……!」


「ルク」


 名前を呼ぶと、ルクは一気に駆け寄り、そのままユウに抱きついた。


「うわっ!」


 勢いに押され、ユウの身体が少しよろめく。


「ちょっと、ルク……痛いって」


「知らない!」


 ルクはユウの服を掴んだまま、なかなか離れようとしない。


「……帰ってこないかと思ったんだから」


「……」


 ユウは少し黙ってから、ルクの頭に手を置いた。


「帰ってきただろ。ほら、ちゃんとここにいる」


「……うん」


「もう、何も言わずにいなくなったりしないよ」


「本当に?」


「ああ。本当だ」


 ルクはユウの顔をじっと見上げていたが、やがて安心したように小さく笑った。その様子を見ていたエナも、目元に浮かんだ涙を拭いながら微笑む。


「ふふ……本当に帰ってきたのね。こうしてみんな揃うと、なんだか夢みたいだわ」


「……そうだな」


 ガルドも小さく息を吐き、改めてユウの姿を見つめる。


「でも、いつまでも入口に立ってないで、中に入れ。腹も減ってるんだろ?」


「うん。かなりお腹すいた」


「やっぱりね。すぐに用意するから、座って待ってなさい」


「うん」


 ユウが家の中へ入ろうとすると、ルクがすぐにその腕へしがみついた。


「ぼく、兄ちゃんの隣がいい!」


 ユウが腰を下ろすと、ルクも嬉しそうにその隣へ座った。エナが鍋を食卓へ運んで蓋を開けると、温かな湯気と懐かしい料理の匂いが広がる。


(……本当に帰ってきたんだ)


 見慣れた家と、家族のいる食卓。その光景を前に、ユウの身体から少しずつ力が抜けていった。


「兄ちゃん、早く食べようよ」


「分かってるって」


 待ちきれない様子で箸を手にするルクを見て、ユウも箸を取る。


「それじゃ、いただきます」


「いただきます!」


 ルクに続いてユウも料理を口へ運ぶ。


「……おいしい」


「ふふっ。よかった」


「兄ちゃん、いっぱい食べてね!」


 エナが嬉しそうに笑い、ガルドもそんな二人を見ながら小さく息を吐いた。


「……まったく。帰ってきたと思ったら、もういつも通りだな」


「それが一番いいんじゃない?」


 エナが笑うと、ガルドも少しだけ口元を緩める。


「……そうだな」


「父さんも早く食べようよ」


 ルクに急かされ、ガルドは苦笑した。


「分かった分かった。ほら、冷める前に食べるぞ」


「うん!」


 久しぶりに家族の声が揃った食卓に、穏やかな笑い声が響く。


 戦場で見たものも、失ったものも、きっと簡単には忘れられない。これから先、何が待っているのかも分からない。それでも、今だけは何も考えずにいられた。


 ユウは家族の声を聞きながら、静かに食事を続ける。


 ようやく帰ってきたのだ。


 父と母と弟がいる、自分の帰る場所へ。


――第一章 底辺からのリスタート 完――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【最終ステータス】

名前:ユウ 年齢:8歳

HP:52/52 / MP:18/18 → 18/19

筋力:9 / 耐久:10 / 敏捷:11 / 知力:11 / 精神:9 → 10

状態:警戒状態 / 精神疲労 / 戦場記憶 ▲


── 状態詳細 ──

警戒状態:戦場で身についた警戒心が抜けきっておらず、周囲の気配に敏感になっています。

精神疲労:長期間にわたる緊張状態や、過酷な経験により、精神的な疲労が蓄積しています。

戦場記憶:過酷な環境で経験した出来事が、強く記憶に残っています。時間の経過とともに軽減する可能性があります。


■スキル(パッシブ)

【戦闘】

格闘Lv4 / 棍棒術Lv3 / 回避Lv3 / 急所理解Lv2 / 短剣術Lv1


【生存】

気配察知Lv3 / 危険察知Lv3 / 空間知覚Lv1(New) / 夜視Lv2 / 嗅覚強化Lv1

隠密Lv2 / 足場把握Lv2 / 登攀Lv1 / 逃走Lv2 / 脱出Lv1

採取Lv4 / 解体Lv4 / 罠設置Lv3

応急処置Lv3 / 持久力向上Lv2


※空間知覚Lv1

周囲の空間の変化を敏感に察知し、気配や空気の流れ、物体の位置を把握しやすくなる。


【身体・耐性】

痛覚耐性Lv3 / 衝撃耐性Lv1 / 耐病性Lv1

免疫強化Lv1 / 自然治癒Lv1


■スキル(アクティブ)

加速Lv2 / 集中強化Lv1 / 即時回復Lv2 / 身体強化Lv1

シールドLv1 (New) / バインドLv1 (New) / 浄化Lv1 (New)


■固有能力

ステータス閲覧

※自身のステータス情報を確認できる。

窮地適応

※生命の危機、または極度の環境ストレス下において、生存に必要なスキルを獲得する。

これで第一章は終了です。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

ちなみに、もともと第2章として書いていた部分を第3章に変更し、現在は新しく第2章を書いています。第2章は……たぶん4~50万文字くらいになる予定です。思ったより長くなりそうですが、のんびりお付き合いいただければ嬉しいです。


このあとは本編に、短めの番外編をいくつか挟む予定です。その後は、こちらの『固有能力《窮地適応》で生き抜く』IF&番外短編集にも、エピソードをいくつかつらつらと投稿していこうと思います。

本編ともども、よろしくお願いします!

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