↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/81

ゴブリンの巣

「ギギ……」


 低い鳴き声を合図に、前後左右からゴブリンたちが一斉に迫ってきた。ユウは短剣を握り直し、荒い息を吐きながら最も近い一体へ踏み込む。


「ギィッ!」


 振り下ろされた棍棒を身を屈めてかわし、そのまま懐へ潜り込む。短剣を突き立てると、ゴブリンは短い悲鳴を上げて崩れ落ちた。


 だが、止まる暇はない。すぐ横から別のゴブリンが飛び込んできて、ユウは身体をひねって攻撃をかわす。その勢いのまま首筋を切り裂き、さらに迫ってきた一体へ蹴りを入れて距離を取った。


「……っ、まだ来るのかよ」


 倒しても倒しても、森の奥から新たな気配が現れる。


 HPがじわじわと削られていく。致命傷こそないものの、呼吸をするたびに肺の奥へ重さが沈み込み、腕を振るたびに疲労が積み重なっていく。このまま戦い続ければ、いずれ力尽きる。


 足元には何体ものゴブリンが転がり、血に濡れた土が靴裏へまとわりついていた。それでも、森の奥から現れる気配は減るどころか増え続けている。


 ユウは短剣を構えたまま、周囲を見回した。


(……おかしい)


 数が多いだけなら、ここまで苦戦はしない。これまで何度もゴブリンと戦ってきたユウには、それくらい分かっていた。


 何かがおかしい。


 そう感じて周囲へ視線を巡らせたユウは、そこでようやくゴブリンたちの位置に違和感を覚えた。


(……ああ、そういうことか)


 十体近いゴブリンがいる。それなのに、なぜか完全には包囲していない。右手側だけが、不自然なほど大きく開いている。


(逃げ道……に見せてるのか)


 一見すれば、そこから逃げろと言わんばかりの隙間だ。だが、本当の逃げ道なら、ここまで追い立ててきたゴブリンたちがわざわざそこだけ空けている理由がない。


 あそこへ飛び込めば、周囲にいるゴブリンが回り込み、逃げた先で挟み撃ちにされる。


(最初から、あそこへ追い込むつもりだったんだな)


 単純に数で押してきているように見えて、動きには明確な意図があった。偶然とは思えない以上、この群れの中には獲物の動きを見ながら、他のゴブリンを動かしている個体がいるのかもしれない。


「……面倒なことしてくれるな」


 ユウは小さく呟き、短剣を握り直した。


 その直後、背後にあった気配がわずかに動き、森の奥からカツン、と乾いた音が響いた。反射的に視線を向けると、一体のゴブリンが足元の石を蹴飛ばしている。


(……合図か?)


 そう考えた瞬間、周囲のゴブリンたちが一斉に動き出した。草や枝を鳴らしながら木々の間を駆け抜け、先ほどまで開いていた隙間も左右から回り込むゴブリンによって徐々に塞がれていく。


(来る……!)


 ユウは血と汗で滑りかけた柄を強く握り込み、迫ってくるゴブリンたちを睨みつける。逃げ道はもうない。ならば、ここで迎え撃つしかなかった。


「……どうせ逃がす気なんてねぇんだろ。だったら、やるしかねぇ」


 次の瞬間、空気を震わせるような甲高い叫び声が響き渡った。


「ギィッ!!」


「ギャアアッ!!」


 甲高い叫び声とともに、四方からゴブリンたちが一斉に飛び出した。


 その瞬間、頭の奥へ大量の情報が流れ込んでくる。


《スキル:身体強化を取得しました》

《筋力・瞬発力・反射・持久力を一時的に底上げし、身体能力を強制的に引き上げます》


(《身体強化》……?)


 名前も効果も、使い方さえも自然と理解できた。迫りくるゴブリンを見据えながら、ユウは短剣を握り直す。


「……《身体強化》」


 その言葉を口にした瞬間、全身を熱が駆け抜けた。心臓が強く脈打ち、血が一気に全身を巡ると、重かった身体から余計な重さだけが抜け落ちたように軽くなり、指先から足先まで力が満ちていく。


(……これが《身体強化》か)


 踏み込んだ瞬間、身体が弾かれたように前へ飛び出した。迫っていたゴブリンの棍棒が、先ほどまでとは比べものにならないほどゆっくりに見える。

 

 ユウはその軌道を紙一重でかわすと、すれ違いざまに短剣を振り抜き、喉を切り裂いた。


「ギャッ……!」


 身体を反転させ、背後から迫った一体の攻撃を肘で逸らす。がら空きになった首筋へ短剣を走らせ、そのまま横から飛び込んできた別の個体には足を払って転倒させ、起き上がるより早く喉へ刃を突き立てた。


「ギィッ!」


 次々と襲いかかってくるゴブリンを、ユウは踏み込み、かわし、斬り伏せていく。身体は思考に遅れることなく動き、先ほどまで重かった手足も嘘のように軽い。


「ギャアッ!」


 木陰から飛び出した一体の腕を斬り落とし、怯んだ隙に首を裂く。続けて横から飛びかかってきた個体も身を捻ってかわし、そのまま懐へ潜り込んで短剣を突き込んだ。


 血飛沫が舞う。


 だが、倒した数を上回るように、森の奥から新たなゴブリンが姿を現した。


(……まだ来るか)


 だが、数が増えても恐怖はなかった。戦いを重ねるほど身体を駆け巡る力が馴染み、考えるより先に手足が動くようになっていく。


 その一方で、仲間が倒れるにつれてゴブリンたちの動きは明らかに鈍っていった。互いに顔を見合わせ、じわじわと後ずさる者まで現れる。


「ギッ……ギィ……!」


 鳴き声からも、先ほどまでの威勢は消えていた。連携も完全に崩れ、我先にと逃げようとするゴブリンまでいる。


 追い詰めていたはずの獲物を前にして、今ではゴブリンたちのほうが追い詰められていた。


(……終わりだな)


 ユウは逃げ出そうとした一体へ一気に踏み込み、振り向きざまに短剣を振り抜いた。ゴブリンの身体が地面へ崩れ落ちると、それを最後に森から鳴き声が消える。


 辺りに残されたのは、倒れたゴブリンたちと木々を揺らす風の音だけだった。ユウは荒い息を吐きながら短剣を下ろしかけたが、すぐに手を止め、《気配察知》へ意識を向ける。


(……まだいるか?)


 周囲を探ると、少し離れた場所に一つだけ反応が残っていた。


 視線を向けると、一体のゴブリンが後ずさりながら身体を震わせている。先ほどまでの勢いはすっかり消え、その鳴き声にも恐怖が滲んでいた。


「ギッ……ギィ……」


 その鳴き声からも、もはや戦う意思は感じられなかった。


 ユウは短剣を構えたまま、ゆっくりと距離を詰める。ゴブリンは逃げようとするものの、恐怖で足がもつれてうまく動けない。


「……もう終わりだ」


 静かに踏み込み、振り抜いた刃が首を斬り裂く。ゴブリンはそのまま地面へ崩れ落ちた。


 ユウはしばらく動かず、もう一度《気配察知》へ意識を向ける。周囲に残っていた反応がすべて消えたのを確認してから、ようやく短剣を下ろした。


■ステータス

HP:33/52

MP:7/18 


(……思ったより削られたな)


 《即時回復》で傷は塞がっている。それでも失った体力までは戻らず、腕や脚には重い疲労が残っていた。この状態でまた敵に襲われれば、さすがに厳しい。


 ユウは息を整えながら周囲を見回した。


 倒れたゴブリンの死体があちこちに転がり、その間には人や獣のものと思われる白骨が埋もれている。剥ぎ取られた装備や折れた武器も土に半ば埋まっており、ここでどれだけの獲物が命を奪われてきたのかが嫌でも分かった。


(……ここで食って、残ったものを捨ててたのか)


 足元の人骨へ視線を落としたユウは、そのまま周囲を見渡す。そこで、土の上に残された不自然な跡が目に入った。


(……何だ、これ)


 何かを引きずったような跡が、森の奥へ向かって続いている。


 足跡でもなければ、荷車の轍でもない。重いものを何度も引きずったような痕跡がいくつも重なり、木々の向こうへ消えていた。


(死体……か?)


 そう思ったが、すぐに別の可能性が浮かぶ。


(……生きたまま連れていったのかもしれない)


 周囲に散らばる白骨を見れば、考えすぎとも言い切れなかった。むしろ、これまでここで何人もの人間が犠牲になってきたのなら、まだ生きている者がいてもおかしくはない。


 ユウはしばらく、森の奥へ続く跡を見つめていた。


(……まだ生きてる奴がいるかもしれない)


 そう考えてしまった以上、無視して帰る気にはなれなかった。


「……嫌な予感しかしねぇな」


 小さく息を吐き、短剣を握り直す。


「……行くか」


 引きずった跡を追って森の奥へ進む。


 進むほどに木々は密集し、足元の土も柔らかくなっていった。風は吹いているのに、鳥の声も獣の気配もない。まるで、この先だけ生き物が避けているようだった。


(……静かすぎる)


 《気配察知》へ意識を向けながら、ユウは周囲を警戒して慎重に歩を進めた。森の中には風が吹き抜け、木々の葉が揺れているというのに、鳥や獣の気配はまるでない。


 しばらく進むと、木々の向こうに黒い影が見えた。


 近づくにつれて、それが巨大な洞窟の入口だと分かる。地面を抉るように開いた穴の周囲には草が踏み荒らされ、これまで追ってきた引きずり跡も途切れることなく洞窟の中へ続いていた。


「……ここか」


 ユウは足を止め、洞窟の奥へ視線を向ける。光の届かない暗闇がどこまでも続いているように見え、入口に立っただけで胸の奥を押さえつけられるような圧迫感があった。


 どう考えても、まともな場所ではない。

 それでも、ここまで来て引き返す気にはなれなかった。


「……罠みたいなもんだな」


 小さく呟き、ユウは短剣を握り直した。


(それでも……確かめるしかない)


 ユウは短く息を吐くと、覚悟を決めるように暗闇の中へ一歩踏み込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【現在のステータス】


名前:ユウ 年齢:8歳

HP:50/50 → 33/52

MP:18/18

筋力:9

耐久:9 → 10

敏捷:11

知力:11

精神:9


■スキル(パッシブ)


【戦闘】

格闘Lv4 / 棍棒術Lv3 / 回避Lv3 / 急所理解Lv2

短剣術Lv1(NEW)

※短剣使用時、命中精度・攻撃速度が上昇


【探索・索敵】

気配察知Lv3 / 危険察知Lv3 / 夜視Lv2 / 嗅覚強化Lv1

隠密Lv2 / 足場把握Lv2

登攀Lv1(NEW)

※崖・岩壁・樹木などの登攀能力を向上


【採集・生存】

採取Lv4 / 解体Lv4 / 罠設置Lv3

応急処置Lv2 → Lv3 / 逃走Lv1 → Lv2 / 持久力向上Lv2

脱出Lv1(NEW)

※逃走時、障害物・地形・敵配置を解析し、生存率の高い移動経路を直感的に選択


【耐性】

痛覚耐性Lv2 → Lv3 / 衝撃耐性Lv1

耐病性Lv1(NEW)

※病気・感染への抵抗力向上

免疫強化Lv1(NEW)

※毒・腐敗・微生物への抵抗力向上

自然治癒Lv1(NEW)

※外傷や疲労からの回復速度が向上


■スキル(アクティブ)


加速Lv2 / 集中強化Lv1

即時回復Lv2(EVOLVE)

※MP約45%消費。自身または他者のHPを約40%回復。

一日二回まで使用可能。ただし連続使用時は回復量が低下する。

身体強化Lv1(NEW)

※筋力・瞬発力・反射・持久力を一時的に底上げし、身体能力を強制的に引き上げる。


■固有能力

ステータス閲覧

窮地適応

ステータス表示を少し変更しましたがこの方が見やすいのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。