番外編 アルデン家の憂鬱な日常
今回で番外編はいったん終わります、読んでくださりありがとうございました。
アルデン公爵領の領都に建つ領主館。
その執務室では、冬を前にした冷たい風が窓を揺らしていた。
書類を片付けていたルーク・アルデンが顔を上げると、向かいには娘のセレナが座っている。
アルデン公爵家当主ルーク・アルデン。王国西方一帯を治める実質的支配者であり、政務と軍事の両面で高い統率力を持つ男である。
対するセレナは十九歳の娘。燃えるような赤髪と勝気な瞳を持ち、上級騎士として既に名を知られる存在となっていた。
ルークは娘を見つめ、静かに口を開く。
「もうすぐ冬が来る。国境も落ち着く頃だ」
「それに……最近、帝国側の動きがおかしい」
セレナが首を傾げる。
「おかしい?」
「ああ。今年も何か仕掛けてくると思っていたが、ここ数か月は妙に静かでな」
ルークは机の上の報告書を指で叩いた。
「補給隊の動きも鈍い。偵察の報告でも、大規模な増援は確認されていない」
「ヴァルディア帝国の内部で何かあったのかもしれん」
「内乱とか?」
「そこまでは分からん。皇族同士の争いか、貴族の反乱か、あるいは別の戦線に兵を回したか……情報が少なすぎる」
ルークは小さく息を吐く。
「だが、敵が動けない今が好機なのは間違いない」
「冬が来れば、双方とも大きくは動けなくなる」
「だから、この機会にグレイロード家との戦を終わらせる」
その言葉に、セレナの顔がぱっと明るくなった。
「本当!?」
ルークは軽く頷く。
「今回の件は、お前に任せる」
セレナは一瞬目を輝かせると、迷いなく笑顔で言った。
「お父様、わたしに任せて! すぐにグレイロード家をぶっ潰して帰ってくるからね!」
「ぶっ潰すな」
「えー」
「和平交渉という選択肢もある」
「ないない、絶対ないよ」
即答に、ルークは深くため息をつき、そのまま額を押さえて椅子に身を預けた。
「少しは考えろ」
「勝った方が早いでしょ?」
「お前な……」
額を押さえるルーク。
このやり取りもいつものことだった。
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しばらくして、ルークは一枚の書類を取り出した。
「今回、お前一人ではない。ヴァルク・イグニスも同行させる」
セレナの動きが止まる。
「え、お父様。あの火焔の魔導士の?」
当然の疑問だった。王国でも数えるほどしかいない大魔導士。名を知らぬ者はいない。そんな人物を簡単に動かせるはずがない。
セレナは首を傾げる。
「一体いくら払ったの?」
ルークは苦笑し、どこか懐かしむように目を細めた。
「昔な、縁があってな。一度助けたことがある」
「助けた? お父様が? 本当に?」
「そうだ」
セレナはさらに驚き、ルークは肩をすくめた。
「その時の借りでな。三回までは報酬なしで力を貸す約束になっている」
「えぇ……」
セレナは呆れたように目を細める。
「それなら私いらなくない?」
「何?」
「だって火焔の魔導士が行くんでしょ? 一発で消し炭じゃん」
両手を広げながら、首をかしげる。
「私が行く意味なくない?」
ルークは小さく肩をすくめた。
「……彼の魔法を見てみたいとは思わんのか?」
その一言に、セレナの思考は一瞬で切り替わり、目が輝いた。
「見たい! 超見たい!」
即答するセレナを見て、ルークは深くため息をつく。
セレナは単純だった。
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やがて話が終わり、セレナは上機嫌のまま部屋を出ていく。
「それじゃあ行ってくるね、お父様!」
その背中を見送りながら、ルークは静かに息を吐いた。
「強く育ったのはいいが……少し素直すぎるな」
暖炉の火が揺れる音だけが、室内に残る。
ルークは机へ視線を向けた。
そこには戦況報告書よりも高く積み上がった封筒の山がある。
差出人の大半は貴族家だった。
「……これだけ届いても、当の本人は一通たりとも読む気はないだろうな」
ため息混じりに一枚を手に取る。
そこには貴族の紋章と、丁寧すぎる文面が並んでいた。
『我が家の嫡男は剣術に秀で、領内でも三本の指に入る実力を誇り――』
ルークは途中で読むのをやめ、紙を軽く机に置く。
「昨日のは“百人隊長を素手で止めた男”だったか……」
次の書状をめくる。
「今度は“王都近衛騎士団の副隊長”か……肩書きだけは、どこまでも立派になっていくな」
額に手を当て、深く息を吐いた。
「……普通の娘なら、とっくに嫁いでいてもおかしくない年だぞ?」
だが現実は違った。理由は一つしかない。
セレナ・アルデン。
十九歳にして上級騎士。生まれながらに固有能力を持ち、努力の末にその地位へ至った才女であり、誰が見ても優秀――いや、優秀すぎるほどの存在だった。
問題はその“強さ”にあった。
ルークは椅子にもたれ、天井を仰ぐ。
机の上には見合いの書類が山のように積まれている。貴族、騎士、商会の跡取り、王都の有力家……どれも条件だけ見れば悪くない、むしろ破格だ。
だが結果はすべて同じだった。断りの理由はいつも一つ。
『私より強い人がいい』
そこまではまだ分かる。問題は、その続きだった。
『私より強くて、家族を守れて、私が安心して背中を任せられる人』
ルークは書類の山を見下ろしながら、深く息を吐いた。
「……そんな男、どこにいるんだ」
指先で一枚をずらす。
そこにはまた別の立派な家名と武勲が並んでいる。
だが今となっては、紙の上の飾りにしか見えなかった。
「もう十九歳なんだがな……」
ため息が執務室に静かに落ちた。
頭が痛い。戦争の采配よりも、よほど厄介だった。
ルークは椅子に深く身を預け、額を押さえる。
窓の外からは、訓練場で槍を振る娘の声が微かに届いていた。
「あんたたち!! そんなんじゃ戦場で一分も生き残れないわよ!!」
「ひぃぃっ、セレナ様! もう少し手加減をおおお!!」
その喧騒に混じるように、ルークはぼそりと呟く。
「……せめて縁談にも、それくらい興味を持ってくれればいいんだがな」
その声が聞こえるたびに、現実がさらに重くなる。
ルークはもう一度、深く息を吐いた。
「……誰か、もらってくれんものか」
その願いだけは、今日も当然のように空へ溶けていった。
ーー
■リーデル平原 アルデン軍・後方陣地
巨大魔法発動の数時間前
森の奥に設けられた臨時の自陣は、前線の喧騒から切り離されたように静かで、風が枝葉を揺らす音だけが遠くから断続的に届いていた。地面には簡易の陣が組まれ、魔力を帯びた杭と結界石が規則正しく配置されている。
その中心に、ひとりの老人が立っていた。
火焔の魔導士――ヴァルク・イグニス。
七十という年齢を感じさせないほど背筋は真っ直ぐで、長いローブの裾には焼け焦げたような紋様が走っている。空気そのものが彼の周囲だけわずかに歪んでいるような違和感があり、存在しているだけで周囲の温度が一段階高くなったような錯覚すらあった。
彼はセレナを見て、穏やかに口を開いた。
「これはこれはセレナ嬢。お初にお目にかかりますな」
セレナは軽く首を傾げる。
「火焔の魔導士……ヴァルク・イグニス、だよね? 思ってたより普通のおじいちゃんだ」
「はっはっは、よく言われますな」
だが笑っているのに、目の奥だけは笑っていない。
その視線は戦場を何度も越えてきた者特有の冷たさを含んでいた。
ヴァルクは周囲の森を一度見渡し、静かに続ける。
「さて、本題ですぞ。これより儂は“演算詠唱”に入る」
「演算詠唱?」
セレナが軽く聞き返すと、ヴァルクは頷いた。
「大規模殲滅魔法というものはな、即時には発動できん。空間構造、魔力流、対象座標……それらを全て重ね合わせて初めて成立する」
「つまり、時間がかかるってこと?」
「その通り」
ヴァルクは杖の先を地面へ軽く突く。
その瞬間、空気がわずかに沈む。
「儂の魔法は戦場そのものを焼き払う。だが構築中は無防備になる」
「構築には時間がかかる。その間は少し待っていてほしい」
言葉は簡潔だったが、その重さは軽くない。
セレナは一拍置き、静かに頷いた。
「わかった」
セレナはすぐに視線を森へ向けた。
「じゃあその間、私はグレイロードの他の戦力がいないか、陣地の周辺を見てくるね」
さらりと言ったその一言に、ヴァルクは一瞬だけ目を細めた。
だがすぐに小さく笑う。
「なるほど……合理的ですな」
「でしょ?」
セレナは軽く肩を回す。
「魔法使いがいる時点で、もう勝ったも同然だけどね」
その“勝つ”が何を意味するのか、ヴァルクはあえて説明しなかった。ただ静かに頷く。
「では任せますぞ、セレナ嬢」
「うん、おっけー。任せて」
セレナは森の方へ歩き出す。
その背中を見送りながら、ヴァルクは小さく呟いた。
「……若いですな」
「……あれだから誰も止められんのでしょうな」
そしてゆっくりと杖を構える。
空気が変わる。森の奥で、何かが“始まりつつある気配”が静かに膨らんでいった。
ーーーー
■リーデル平原 グレイロード軍奇襲部隊
俺たちは灰刃傭兵団。
名の知れた傭兵団の一つとして、この手の戦場ではそれなりに場数も踏んできた。
依頼は単純だった。グレイロード家からの仕事で、「敵の主力部隊を森から奇襲し、戦力を削る」という、成功率も高いよくある傭兵任務だった。
森に入った時点では何もおかしくなかった。足音を消し、配置を決め、合図を待つ。すべていつも通りの手順で、違和感の入り込む余地すらなかった。
だが森に踏み込んだ瞬間から、何かが変わっていた。鳥の声は消え、風は止まり、音そのものが抜き取られたような静寂だけが残っている。
「……妙だな」
誰かが呟いた、その瞬間、木々の奥から赤い髪に黒い鎧、黒い槍を携えた女が姿を現した。
どう見ても二十歳前後の若い女だったが、その姿を見た瞬間、森の空気がわずかに歪んだように感じられた。
女は周囲を見回し、不思議そうに首を傾げる。
「ねえ、あなたたち、こんなところで何してるの?」
傭兵たちは顔を見合わせるが、誰も答えない。こんな場所で出会う相手ではなかった。
女は首を傾げたまま続ける。
「ねえ、もしかしてグレイロード家に雇われた人たち?」
笑顔だった。だがその笑顔に安心した者は一人もいない。
隊長格の男が警戒を隠さず一歩前へ出る。
「女……お前こそ何者だ」
「私?」
女は自分を指差し、あっさり答えた。
「セレナ」
それだけだった。名乗りとしてはあまりにも短い。
だが次の瞬間、後ろにいた名持ち冒険者の一人が目を見開く。
黒槍。黒鎧。赤髪。その特徴に、聞き覚えがあった。
「まさか……黒槍の戦姫、セレナ・アルデンか……!?」
その言葉に周囲がざわつく。
アルデン公爵家最強。若くして上級騎士となり、戦場で千人斬りを成し遂げた怪物。
噂だけは誰もが聞いたことがあった。
だが当の本人はきょとんとした顔で首を傾げる。
「あれ? 私、有名?」
その無邪気な反応が、かえって恐ろしかった。
「ふざけるな! 相手は一人だ! 殺せ!!」
数人の傭兵が一斉に飛び出す。
だが次の瞬間、黒い何かが視界を横切った。いや、正確には“見えなかった”。気づいた時には三人の首が宙を舞い、遅れて血が噴き上がる。
「――っ、あ……!?」
「ぐあああああッ!!」
「首が……っ、何が……!」
絶叫が遅れて場に落ちる。
誰も理解できない。何が起きたのか分からないまま、身体だけが数歩遅れて崩れ落ちていく。
セレナは最初と変わらぬ場所に立っている。槍を振った形跡すらない。
本人だけが不思議そうに首を傾げていた。
「え? なんで襲ってくるの?」
その一言が、何よりも恐ろしかった。
「ちくしょう!! なんなんだこの女は!!」
戦いにすらなっていなかった――その事実が、遅れて恐怖となって一気に広がった。
その時、後方から二人の男が前へ出た。
名持ち冒険者――《鉄拳》のニックと、《死線》のアルベルトだ。
ニックは拳を鳴らしながら前へ出る。
「下がってろ。ここから先は俺たちがやる」
アルベルトもセレナから視線を逸らさずに、低く言う。
「全員下がれ。こいつの相手は俺たちがする」
その言葉に、周囲の傭兵たちはわずかに安堵する。二人とも名の知れた強者だったからだ。
ニックが前へ出る。
固有能力《鉄拳》。
拳そのものを鋼鉄以上の硬度へ変える能力で、巨大な魔獣すら殴り殺すと言われる男だ。
アルベルトも静かに距離を測る。
固有能力《死線》。
一定範囲内では攻撃が必ず急所へ向かう能力で、回避しても意味がない。当たれば死ぬ――そう恐れられていた。
だが、二人は動かなかった。
見ていたのはセレナ自身ではない。その装備だ。
黒い槍。黒い鎧。そして一切の隙を見せない構え。
その瞬間、ニックの背に冷たいものが走る。
アルデン家の黒槍の戦姫――セレナ・アルデン。
その名は当然、彼らも噂として知っていた。
一騎当千どころか、単騎で戦況を覆すと言われる化け物だ。
だが同時に、噂は所詮噂だという思いもあった。
やれるかもしれない。そう判断したからこそ、二人は前へ出たのだ。
だが今、目の前の現実はその甘い見込みを簡単に踏み潰していた。
ニックは額に浮いた汗を拭いながら、小さく呟く。
「おい……どうした」
アルベルトが訝しげに尋ねる。
ニックは視線を逸らさずに、乾いた笑みを浮かべた。
「あの槍と鎧、見覚えがある」
「王都の武具展覧会で一度だけ見たことがあるんだ」
その言葉に、アルベルトの顔色が変わる。
「……まさか」
「ああ、領宝級の槍だ。武器の格が違う。まともに打ち合ったら、こっちの武器から壊れる」
その言葉に空気が凍りつき、ニックは諦めたように大きくため息を吐く。
「殴り合いなら得意なんだがな。相手が悪すぎる」
「下手すりゃ、あの槍より先に俺の拳の方が壊れる」
アルベルトも苦笑しながら肩をすくめる。
「俺も似たようなもんだ。隙が見当たらねぇ。どこを狙っても通る気がしない」
「それ、もうどうしようもねぇじゃねぇか」
二人は顔を見合わせると、諦めたように同時に武器を下ろした。
「……やめだ、降りる」
「俺も異論はない」
周囲の傭兵たちは、一瞬遅れて意味を理解する。
「は? おい!? 何言ってるんだ!!」
セレナはその反応を見て、ほっとしたように笑った。
「よかった。ちゃんと話の通じる人たちだったんだね」
そう言いながら槍を肩へ担ぐ。
その足元には、すでに大量の死体が転がっていた。四十、五十、あるいはそれ以上。正確な数を数えられる者はいない。
傭兵たちの顔から血の気が引いていく。
セレナは首を傾げながら、まるで雑談のように言った。
「あんたたちさ、ただ雇われてるだけでしょ?」
「今なら見逃してあげるよ」
そう言いながらも、その足元には血の海が広がっている。
「だから武器捨てて帰りなよ。次に襲ってきたら殺すけど」
誰も動けなかった。
その場にいる全員が理解していた。これは戦いではない。ただの一方的な処理だ。
沈黙が森を包む。
やがて最初に動いたのは《鉄拳》のニックだった。
大きく息を吐き、肩の力を抜く。
「……もう十分だ。引くぞ」
そう言って拳当てを外し、地面へ投げ捨てる。乾いた金属音が森に響いた。
アルベルトも苦笑しながら短剣を鞘へ戻す。
「悪いが、俺はまだ死にたくないんでな」
そしてセレナへ視線を向ける。
「今回はあんたの勝ちだ、《黒槍の戦姫》」
周囲の傭兵たちがざわつく。
「お、おい、本気か!? まだこっちの方が数は――」
「馬鹿か、数でどうにかなる相手なら、とっくに終わってる」
「あれと戦うのは俺たちの仕事じゃねぇ」
その言葉に誰も反論できなかった。
地面には仲間の死体が転がり、100人近くいたはずの部隊はすでに半壊している。
しかも相手はたった一人だ。
勝算など最初から存在していなかった。
やがて一人の傭兵が剣を捨てる。
それをきっかけに、槍が落ち、斧が落ち、弓が落ちた。
誰もが諦めたように武器を手放していく。
セレナはその様子を見て満足そうに頷いた。
「うんうん、それでいいの」
まるで聞き分けの良い子供を褒めるような口調だった。
だからこそ、その場にいた全員の背筋が寒くなる。
ニックは仲間たちを見回し、短く言った。
「行くぞ」
その一言で、傭兵たちは一斉に動き出した。
誰も振り返らない。戦おうとする者もいない。
ただ逃げるように森の奥へ散っていく。
追撃の気配もないのに、足を止める者はいなかった。
まるで化け物の縄張りから逃げる獣の群れのように。
やがて最後の一人が森の向こうへ消える。
残されたのはセレナだけだった。
静まり返った森を見回し、彼女は小さく首を傾げる。
「……思ったより素直だったなぁ」
そして何事もなかったかのように槍を肩へ担ぐ。
「さてと、せっかくだし、近くで見てみようかな」
空を見上げる。
遠くではヴァルクの魔法が完成しつつある気配が膨れ上がっていた。
セレナは上機嫌な足取りで、そのまま森の外へ歩き出した。
まるで先ほど五十人近くを壊滅させた人物とは思えないほど、軽い足取りだった。
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※引用 ep.25 逃げ場の先に、赤い影 より
(ゆっくり振り返ったユウの視界に映ったのは、黒い鎧を纏った赤髪の女だった。二十歳前後に見える若さだが、その立ち方が明らかに異質だった。
鎧には赤黒い血がべったりと付着している。
乾いた血、まだ湿った血、飛び散った肉片の跡まで混ざっていて、この女がついさっきまで“殺す側”にいた存在だということが一目で分かった。
槍も同じだった。
細身で洗練された武器のはずなのに、穂先から柄にかけて血が広く飛び散り、拭った形跡すらないせいで、武器というより使い慣れた処刑具みたいに見える。)
※補足
この後、セレナとユウは出会ったというわけです。
セレナはその気になれば、あの時点でユウを一瞬で殺せました。
ただし本人に子供を殺す趣味はありません。
というより、あの場では「なんか頑張って逃げてるなー」と面白がって見ていただけです。
ユウ視点だと命懸けですが、セレナ視点だとほぼ遊び相手を眺めている感覚でした。
✦おまけ
『白薔薇新聞・王都特集号』
王都の貴族街で毎週発行される娯楽紙「白薔薇新聞」。
上流階級の茶会では、これを読まない者は話題についていけないと言われるほどである。
その一面を飾るのは、いつも決まって“彼女”だった。
【特報】アルデン家令嬢セレナ・アルデン
――王国屈指の美貌と武力、そして“縁談破壊力”再び
十九歳にして上級騎士。
その名は今や、王都で「最も美しい令嬢」と「最も危険な令嬢」の両方に挙げられている。
黒の甲冑に身を包んだその姿は、舞踏会よりも戦場で目撃されることの方が多い。
そして今週もまた、ひとつの事件が報じられた。
【速報】縁談候補、騎士団長の息子 決闘にて敗北
王都騎士団長の嫡男にして次期副団長候補と目されていた青年が、アルデン家の晩餐会にてセレナ・アルデンに挑戦。
理由は単純。
「婚約を望むなら、私に勝ってみて」
その一言だったという。
結果は三分で決着。
騎士団長の息子は剣を抜いた直後、訓練用の木剣ごと床に沈んだ。
なお本人のコメントは次の通り。
「……無理です。あれは勝てる相手じゃありません」
【王都貴婦人会の声】
「美しいのに怖いなんて、まるで物語の悪役みたいね」
「でもお顔だけは本当に完璧なのよね……」
「うちの息子には絶対に近づけさせられないわ」
【縁談状況】
・貴族家:42件辞退
・騎士団関係:19件辞退
・商会:11件逃亡
・その他:現在調査中
なお最新の婚姻希望者リストは「最後まで読まれることがない資料」として有名である。
【特別寄稿】
公爵令嬢エレノア・アルベルト(9)
「セレナおねえさま、かっこいい……!」
アルデン家と同じく三公家に名を連ねるアルベルト公爵家。その令嬢エレノア・アルベルトは、セレナ・アルデンの熱烈な崇拝者として貴族街では有名である。
セレナが出席する茶会では、毎回のように「セレナおねえさまぁぁ!」と突撃を試みては侍女たちに確保されるのが、もはや恒例行事となっているらしい。
本人談:
「セレナおねえさまみたいに、強くてきれいで、かっこいい騎士になりたいです!」
なお周囲は「その方向には行くな」と全力で止めている模様。
編集部コメント
「そろそろ、誰かあの令嬢の縁談を成立させてほしい」
しかし同時に編集長はこうも記す。
「だが、あれほど美しく、あれほど危険で、あれほど真っ直ぐな令嬢が存在すること自体が奇跡なのだ」
久しぶりの8000文字!!




