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グレイウッド村

皆さん、私の文章は読みづらい部分があるかもしれません。また、内容についてもご期待に添えないことがあるかもしれませんが、どうか温かい目で読んでいただけると嬉しいです。

「……とりあえず、ご飯をどうにかしないと」


そう呟いた、その瞬間だった。


ズキンと、こめかみに鋭い痛みが走る。


「っ……なに……これ……!」


反射的に頭を押さえたが、耐えきれずユウはその場に崩れ落ちた。膝が床にぶつかり、乾いた音が響く。視界がぐらりと歪み、呼吸が乱れる。空気を吸おうとしても、喉の奥で何かが引っかかるような感覚だけが残りうまく肺に入ってこない。


次の瞬間――意識の奥に何かが無理やりねじ込まれるように流れ込んできた。


乾いた土の匂い。ひび割れた大地。長く雨を見ていない畑は白く乾ききり、踏むたびにぱきぱきと軽い音を立てる。その上で、ひとりの男が鍬を振るっていた。


何度も、何度も、何度も。


だが土は固く、刃はほとんど入らない。腕は細く、振り上げるたびに骨ばった形が浮き上がる。背は折れかけ、呼吸は荒い。それでも止めない。ただ、動かし続けるしかないというように、鍬を振り下ろし続けている。


ようやく集められた収穫は、あまりにもわずかだった。


両手にすら満たない穀物と、しなびた野菜がいくつか。それを抱えたまま、男は立ち尽くす。


その前に、鎧をまとった男が立っていた。


「税は八割だ」


低く、感情のない声が落ちる。


振り向いた先にいるのは、磨かれた金属の鎧を身につけた男だった。その輝きだけが、この貧しい光景から浮き上がって見える。背後には槍を持った兵士が二人、表情ひとつ変えずに控えている。


「領主様のご厚意だ。土地を使わせてもらっているだけでもありがたいと思え。

 ここで耕せるだけでも、お前たちは恵まれている側だということを忘れるな」


袋が奪われる、その直前。


男の喉がわずかに動いた。


「……せめて、種だけは残してくれ」


かすれた声。それは懇願というよりほとんど祈りに近い。


だが返ってきたのは変わらない冷たい声だった。


「規定だ。例外はない。

 ここで一度でも特例を認めれば他の連中も同じことを言い出す。

 そうなれば秩序が崩れる。だから認められない」


ためらいもなく袋が奪われる。抵抗という概念そのものがこの場には存在していないかのようだった。


「お願いです……それでは冬が越せません……! 子どもが、子どもが持たないんです……!」


女が地面に手をつき、必死に頭を下げる。額が土に擦れ、皮膚が裂け、血が滲む。それでも顔を上げない。


「どうか……ほんの少しでいいんです……! 来年の種だけでも……!」


「聞こえなかったのか?」


男はわずかに眉を動かしただけだった。


「規定は規定だ。

 それに――お前たちがどうなろうと、それは領主様の関知するところではない」


吐き捨てるでもなく、ただ事実を述べるように続ける。


「役目を果たせないのであれば土地を返してもらうだけだ。

 それが嫌なら与えられた条件で生き延びろ」


そして、わずかに足を振り上げる。


「それだけの話だ」


吐き捨てる声と同時に、足が振り上げられた。


鈍い音が響き、女の体が横に転がる。それでもなお手を伸ばす。地面に散らばった、わずかな作物へ――家族の命を繋ぐ最後の欠片へ。


だが、その手の先で。


無造作に踏みつぶされた。


ぐしゃり、と湿った音が響く。


(……なんだよ、これ)


胸が締めつけられる。見ているだけのはずなのに、呼吸が苦しい。


映像は止まらない。


さらに多くのものが流れ込んでくる。


名前、顔、感情、記憶――


あの男は――ガルドだ。


この家の主で、三十半ばくらいの、口数の少ない男だ。

毎日同じ時間に起きて、同じように畑に出て、ただ黙って働き続けている。

雨の日も、風の日も関係ない。

体調が悪そうな日ですら、動きはほとんど変わらなかった。

――まるで、止まったら終わると分かっているみたいに。

家族を養うために、なんて言葉で片づけていいのか分からない。

それでも、あの背中はずっとそうやって生きてきたんだと、見ているだけで分かる。



エナは、その妻だ。


疲れていないはずがないのに、子どもの前では無理にでも口元を上げる。

声も、わざと明るくしている。

けれど、ときどき――

誰も見ていないと思った瞬間だけ、ふっとその顔が崩れる。


ほんの一瞬だ。


だが、それを一度見てしまうと、もう気づかないふりはできなかった。

――この家は、ギリギリで保たれている。


ルクは、弟。


六歳のはずなのに、どう見てもそれより小さい。

体は細く、少し動くだけで息が上がる。

それでも、食事の時間になると、必ず笑う。


「おいしい」って言うために。

本当は足りていないはずなのに。


そのくせ、夜になると――

咳が止まらなくなる。

暗い部屋の中で、押し殺すように続く小さな咳を俺はその音を、何度も聞いている。


そして、この村――グレイウッド村。


領主に土地を握られているこの場所では、収穫の八割を税として差し出す決まりになっていた。逆らえば土地を奪われるかそれ以上の処罰を受ける。だから誰も逆らえない。


結果として、残された二割だけで一年を生きるしかない。


(……無理だろ)


理解した瞬間頭痛は嘘のように引いた。


残ったのは逃げ場のない現実だけだった。


「……はは……なんだよこれ」


乾いた笑いが漏れる。


(こんなの……どうやって生きるんだよ……)


ボロい家。痩せた体。空っぽの鍋。すべてに理由があった。


そこでふと自分の手に目がいく。細すぎる腕。骨ばった指。


(……これで八歳って……冗談だろ……)


記憶と照らし合わせる。


(ルクは六歳……でも、どう見ても四歳くらいにしか見えなかったぞ)


まともに食えていないせいで、成長が止まっている。


胃の奥が重く沈む。


(詰んでる)


そう思ったそのときだった。


「にーちゃん……」


かすれた声が現実に引き戻す。


振り向くとルクが立って――いや、立てていない。膝が震え、今にも崩れそうになっていた。


「おなか……すいた…」


一歩踏み出し、そのまま前に倒れる。


「ルク!」


「ちょ、ちょっと待てって……!おい、ルク……しっかりしろって……!」


ユウは駆け寄り、その体を抱き止めた。


軽い。あまりにも軽い。そして触れた瞬間に分かる異常な熱。


「熱い……! これ絶対やばいやつだ……!」


「母さん!」


エナが振り向いた瞬間、その顔色が変わる。


「……そんな……また……」


震える声で言いながらも、どうすることもできないのが分かっている。


「水を……少しでいいから……それしか……もう……」


ユウはルクの顔を見る。浅い呼吸、乾いた唇、焦点の合わない目。


(……このままだと……ルクが死んでしまう)


ユウはゆっくり顔を上げた。


「……森に行ってくる」


「え……? 森は危ないって……」


「わかってる。でも……このままじゃ、ダメだ」


言葉を探すように、少し詰まる。


それでも、絞り出す。


「……ルク、このままだと……死んじゃう」


エナの呼吸が止まる。


「なんか……持ってくる。食べられるやつでも、なんでもいいから」


それだけ言って、ユウは外へ出た。


止める声はなかった。


止められない。


この家には、選ぶ余裕がない。


外の空気は冷たく、乾いていた。村は荒れていて、道はひび割れ、家々は崩れかけている。歩いている人々は皆やせ細り、目には光がなかった。


(……終わってるな、この村)


そう思いながらも、足は止まらない。頭の中にはルクの顔が焼きついて離れなかった。


だから――やるしかない。


森へ、一歩踏み出したそのとき、視界の端に違和感が走る。


《スキル:採取 を取得しました》


「……え?,,,,,スキル? 」


《周囲の採取可能物を視認・判別できます》


その瞬間、世界の見え方が変わった。


今までただの雑草にしか見えなかったものが、淡く光を帯びて浮かび上がる。草、石、根――すべてが意味を持った存在として認識される。


ユウは戸惑いながらもしゃがみ込み、足元の草に手を伸ばした。


触れた瞬間、情報が流れ込む。


【湿葉草】

・食用可

・水分含有量:中

・毒性:なし

・効果:軽度の水分補給


「……なんだよこれ」


ただの偶然ではない。触れただけで分かるこの情報は、明らかに“使える力”だった。


生きるために必要なものを、見分ける手段。


ユウはゆっくりと顔を上げ、森の奥を見据える。そこには同じように淡く光るものがいくつも見えていた。


「……待ってろルク、絶対なんとかするから……死ぬなよ」


その言葉に迷いはなかった。


ユウは森へ踏み込む。


生きるために。弟を生かすために。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《グレイウッド村》


グレイウッド村は、森に囲まれたありふれた農村だった。

土は肥え、雨も安定しており、耕せばきちんと実る――そんな“当たり前の暮らし”が成り立っていた場所だ。


だが、それは八年前までの話だ。


領主の死をきっかけに状況は変わる。

後を継いだ新領主は、翌年から徐々に税を引き上げていった。


二割。

四割。

そして戦の開始とともに六割。


最終的に八割。


それはもはや税ではなく、「残りで生きろ」と強制する徴収だった。


残されたわずかな分で、食料と種を両立させることはできない。

どちらを選んでも、いずれ破綻する。


それでも村人は逃げられなかった。

土地も自由もなく、従う以外の選択肢がなかったからだ。


気づいたときには、グレイウッド村は――

まだ死にきっていない場所”になっていた。






《人物詳細》


■ガルド


三十代半ば。グレイウッド村で畑を耕す男。


口数は少なく、必要以上のことは語らない。だが毎日同じ時間に起き、同じように畑に立ち、誰に言われるでもなく鍬を振り続ける。その背中には、言葉よりもはっきりと「生き延びるための執念」が滲んでいる。


税でほとんどを奪われると分かっていても手を止めないのは、諦めていないからではない。ただ、「止まれば終わる」と理解しているからだ。


家族に対しても多くは語らないが、危険や損失には誰よりも敏感で、選択は常に現実的で冷たい。それでも、過去の恩や筋を無視できるほど割り切れてはいない。



■エナ


ガルドの妻。穏やかな声と柔らかい表情を持つ女性。


本来ならとっくに限界を迎えていてもおかしくない状況の中で、それでも子どもたちの前では笑顔を崩さない。


過去の出来事や人との繋がりを覚えており、目の前の損得だけで判断しない。だからこそ、時にガルドとは違う選択を促す。



■ユウ


八歳。だがその実態は、この世界とは異なる記憶を持つ少年。


現実を理解する速さと、状況を俯瞰して見る視点を持っている。その一方で、体は痩せ細った子どもでしかなく、力も経験も圧倒的に足りない。


「どうすれば生き延びられるか」を考える冷静さと、「目の前の誰かを見捨てられない」感情の両方を抱えているため、常に選択を迫られる立場にある。


スキルという形で“生きるための手段”を得始めているが、それが救いになるかどうかはまだ分からない。


――理不尽の中で、抗おうとしている存在。



■ルク


六歳。ユウの弟。


年齢よりも明らかに小さく、栄養不足によって成長が遅れている。体は弱く、熱を出して倒れることも多い。それでも、食べ物の話になるとわずかに表情が明るくなるなど、年相応の一面も残っている。


家族の中で最も「弱い」存在であり、同時に最も「守るべき存在でもある。

彼の状態が、この家と村の現実をそのまま映している。



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