おまえもかよ
皆さん、私の文章は読みづらい部分があるかもしれません。また、内容についてもご期待に添えないことがあるかもしれませんが、どうか温かい目で読んでいただけると嬉しいです。
朝の道路は、うるさい。
エンジン音とクラクションが重なり、焦れた空気があたり一面に広がっている。信号待ちの車列は長く続き、誰もが少しずつ苛立っているようだった。
「兄ちゃん間に合うって。こんくらいの渋滞いつものことだろ?」
軽い声が前から飛んできた。
ユウは後部座席で眉をひそめ、バックミラー越しに運転席を見る。弟は片手でハンドルを押さえ、もう片方の手でスマホを操作していた。親指が忙しなく画面をなぞり、その視線はほとんど道路には向いていない。
「……いや、それは分かってるけどさ。それよりお前ちゃんと前見て運転しろよ」
ため息混じりに言うが、返ってくるのは軽い笑いだけだった。
「見てる見てる。ほら、ちゃんと前の車も見えてるって」
「いや、見えてるとかそういう問題じゃなくて――」
言いかけて、やめる。
「……はぁ、いいからちゃんと運転してくれ。頼むからさ」
返ってくるのは軽い笑いだけだった。
「大丈夫だって。事故るほど下手じゃないっての」
何度も聞いた言葉だ。何度も注意した。それでも変わらなかった。
ユウは小さく息を吐き、シートに体を預ける。これ以上言っても無駄だと分かっていた。
窓の外では、通勤ラッシュが広がっている。信号待ちの車列、重なり合うエンジン音、どこか落ち着かない朝の空気。
――そのときだった。
視界の端で、何かが引っかかった。
わずかな違和感に意識を向ける。横、交差点の右側。赤信号のはずの車線から、一台の車が飛び出してきた。
異様な速度だった。ブレーキをかける気配もない。ただ一直線に、こちらへ向かってくる。
「――は?」
声が出るより先に、世界が引き延ばされる。
音が遠のいた。クラクションもエンジン音も、水の中に沈んだみたいに鈍くなる。視界だけが妙に鮮明で、時間の流れが歪んだように感じた。
(……あー、終わったな)
不思議なくらい冷静だった。
ユウはゆっくりと視線を動かし、迫ってくる車の運転席を見る。そこにいたのは、スマホを片手に持ったまま、目を見開いて固まっている男だった。
(……おまえもかよ)
次の瞬間、衝撃がすべてを塗りつぶした。
――
「……ぅ」
喉の奥から、かすれた音が漏れる。
最初に感じたのは、冷たさだった。背中に当たるのは硬い床で、じんわりと湿っている。服越しに伝わる冷気が、ゆっくりと体に染み込んでくる。鼻をつくのは古びた木と、かびたような匂い。
ゆっくりと目を開ける。天井が低い。歪んだ板が無造作に打ち付けられているだけで、隙間から差し込む光が細い線となって床に落ちていた。風が吹くたびに、ぎし、と軋む音がする。
(……どこだ、ここ)
体を起こそうとして、違和感に気づく。やけに軽い。力がうまく入らない。視界の位置も低く、何もかもが噛み合っていない。
「……あ?」
自分の声が耳に届く。妙に高く、幼い声だった。
反射的に手を見る。そこにあったのは、小さな手だった。丸くて細く、皮膚は荒れていて土で汚れている。
(……は?)
理解が追いつかない。
そのとき、「にーちゃん、起きた?」とすぐ横から声がした。
振り向くと、痩せた子どもが立っている。ぼさぼさの髪に擦り切れた服、長すぎる袖から指先だけが出ている。頬はこけているのに、目だけがやけに大きい。
「ごはん、まだだって」
当たり前のように言う。
「……は?」
間の抜けた声が漏れる。
視線を奥へ向ける。土間のような場所で、女が鍋を覗き込んでいた。弱い火がぱちぱちと音を立てている。鍋の中には、ほとんど水しかない。わずかに野菜の切れ端が浮かんでいるだけだった。
「……ごめんね、これしか用意できなくて」
女が小さな声で言う。その声には力がなく、どこか空っぽに聞こえた。
隣では男が座り込んでいる。背中を丸め、視線は床に落ちたまま。ひび割れた手が膝の上で固く握られていた。
「父さん、これしかないの? もうちょっと……ないの?」
子どもが不安そうに聞く。
男は少しだけ間を置いてから低く答えた。
「……仕事がなくてな。今日はほとんど何も持って帰れなかった」
少し視線を落とし、続ける。
「明日は……もう少しなんとかする。だから今日は、それで我慢してくれ」
それだけの言葉だったが、部屋の空気はさらに重く沈んだ。
隙間から吹き込む風が、肌を刺すように冷たい。そして、腹が減っている。胃がきゅう、と縮む感覚が広がる。それがあまりにもはっきりしていて、夢ではないと理解させられる。
(……なんだよこれ)
頭が追いつかない。だが、一つだけはっきりしていることがあった。
(……俺、死んだよな)
交差点、衝突、白い光。全部はっきり思い出せる。
(……異世界転生かよ)
ゆっくりと周囲を見渡す。ボロい家、やせ細った家族、まともな食事もない生活。
視線を自分の体へ落とす。
(……六歳くらいか?)
隣の子どもは四歳ほどだろう。
状況は最悪だった。スローライフどころの話じゃない。まず生きること自体がギリギリだ。
隙間風が吹き込む。肌が冷える。
そして――腹が減っている。
さっきからずっと、胃がきしむみたいに痛い。
(……ああ、そりゃそうか)
この環境でまともに食えているはずがない。
ユウは小さく息を吐いた。乾いた空気が喉に引っかかる。
「……とりあえず」
誰にも聞こえないような声で、静かに呟く。
(飯をどうにかしないとな……)
まじで弟いつもスマホ見ながら運転してます。
やめてくれ
やはり最初はなかなか内容をしっかり描くの苦手ですね、、、




