二人の遭遇
今日はお母さんとデート──
ほんとうは梓ちゃんとも、コンジョーくんともデートしたいんだけど……
身体が3つあればいいのに──。3人ともあたしは大好きなんだから。
でも、コンジョーくんも今日はお父さんの用事に付き合う約束になってるらしいから、諦めることができた。最近、お母さんとあんまりデートしてなかったから、久しぶりで楽しい。
梓ちゃんは忍者部の任務があるらしく、それをしに行ってる。具体的に何をしに、どこへ行ってるのかは知らない。極秘なんだそうだ。
柏木くんとペアで行動するらしく、それが楽しみなようだった。
二人とも素直じゃないから表向きは何も変わってないけど、着実に二人の関係は近くなってるようだ。親友として、心から喜ばしい。
そろそろあれかな〜? 親友のあたしよりも、彼氏のほうがよくなる時期かな〜?
「えみー」
お母さんが、かわいい春物のセーターを合わせながら、聞いてきた。
「これ、かわいくない? どう? 似合うかな?」
「うん、似合う似合う似合う!」
あたしはお世辞は言えない。本心から褒めた。
「お母さん若いしかわいいから、そういうのが似合うよっ」
こんなに若々しくてかわいいのに、お母さんは仕事とパートをかけもちで、朝から深夜までずっと働いている。
くたびれて老化が早くなってしまわないよう、休日にはあたしが一緒に遊んであげる必要があった。
結局、お母さんは二枚500円の吸汗シャツを買った。もっとお洒落すればいいのに……
あたしはクレープ屋さんでアルバイトした自分のお金で新しいスカートを買った。大胆なくらい丈の短いやつだ。思い切って買った。コンジョーくん、興奮してくれるかな?
「あー、買い物したわー」
気持ちよさそうに伸びをしながら、お母さんが言う。
「羽根、伸ばしたわー。これで明日からまた働けそう」
「あのかわいい春セーター、買えばよかったのに」
「見るだけで満足よ。今日は付き合ってくれてありがとね。あんたが一緒だから楽しかった。さぁ、フードコートでなんか食べて帰ろ?」
ショッピングモールの廊下をお母さんと並んで歩いてると、前からよく知った顔が歩いてきた。
「あっ」
あたしが気がつくと、向こうも気がついてくれた。
「あっ。朝比奈笑!」
輝くような笑顔を浮かべて、コンジョーくんが手を振ってくれた。
「あさひな? えみだと……?」
コンジョーくんと並んでいる、コンジョーくんより少しだけ背の高いおじさんが、よく響く声を出した。
「おおお! あの娘さんが? コンジョーの? カノジョさんか!」
「コンジョーくんって……? えみの彼氏なの?」
お母さんが冷やかすようにあたしのほっぺたを指でツンってした。
「ひゃあー! あんた、彼氏できてたの? なんでお母さんに黙ってたのよぉ〜?」
そして二組の親子は向かい合って立ち止まり、親同士が挨拶を交わした。
「どうも、どうも! お宅の娘さんとうちのクソ息子が付き合ってるようで──」
「お世話になっております。うふふ。お付き合いしてるなんて、今、初めて知りましたけど、誠実そうな息子さんで、うふふ。よろしいことだと思いますわ」
コンジョーくんのお父さんと、あたしのお母さん──
二人の間になんだかピンク色のハートが飛び交っているのが見える気がした。
「段田厳丈と申します」
コンジョーくんのお父さんが自己紹介をした。
「大工の棟梁をやっとります。コイツが小学生の時に妻を亡くし、苦労をさせてきました」
フードコートの四人掛けの席で向かい合い、お父さんが丁寧にぺこりと頭を下げる。
「朝比奈陽子です」
お母さんもぺこりとお辞儀を返す。
「えみが幼い頃に主人と別れ、女手ひとつでこの子を育ててきました」
あたしとコンジョーくんのラーメンが同時に出来上がった。二人で取りに行きながら、言葉を交わす。
「なんかお見合いみたいな雰囲気になっちゃってるね」
「ああ……。うちの父ちゃん、仕事一筋人間なのに、珍しいことだぞ」
席に戻ると二人の間に会話の花が咲いていた。あたしたちがラーメンを取りに行ってるたった数十秒の間に、どれだけ親しくなってるんだって感じだった。
「聡明そうな娘さんで──」
「そちらこそ根性豊かそうな息子さんで──」
「お母さんに似てかわいらしい──」
「お父様の背中を見てお育ちになったんでしょうね、とてもまっすぐに──」
「お母さんもかわいらしい──」
「お父様も男らしく素敵な──」
そして二人はそのわずか二週間後に結婚した。
「おうっ! テメェら、シャンシャン運んで差し上げねェかっ!」
お父さんの威勢のいい声に、若い大工さんたちが荷物を運んでくれる。
あたしとお母さんはアパートの部屋を引き払い、コンジョーくんの一軒家に住むことになった。年季は入ってるけど頑丈そうな、コンジョーくんのお爺さんが建てたという立派なお家だ。
「うおおおっ! 根性オォーー!!」
100キロぐらいありそうな箪笥を一人で運んでくれるコンジョーくんを眺めながら、あたしはまだ現実感を取り戻せないでいた。
あたし、名前が『段田笑』になったんだな……
コンジョーくんの、妹になったんだ……




