忍者部こそ私の居場所 (神崎梓視点)
忍者部にかけもちで入って数日が経った。
楽しい──
根性部よりも、はっきりいって楽しい!
「忍法、かわいいの術!」
ぼーーーん!
私が術の名を唱えて何もしないでいると、みんなから拍手喝采が飛んできた。
「かわいい!」
「確かにかわいい!」
「何も変わってないけど、かわいい!」
入ってよかった、忍者部。
笑とコンジョーくんのラブラブを見せつけられるだけの根性部とは違って、ここでは私が主役だ。
私は女王なんだから。
私がこの世の主役なんだから。
「やめなよ、神崎」
糞イケメンがせっかくの空気を壊した。
「外見のかわいさなんてどうでもいいんだ。もっと自分に自信をもちなよ」
「ハァ!?」
ぶん殴ってやろうかとそっちを振り向いて、ちょっと目をそらしてしまった。
白い忍者装束がカッコいい。
白い頭巾をかぶった柏木が、白馬にまたがったヒーローみたいに見えてしまった。
「いやー……、それにしても……」
服部部長がこぶ茶を啜りながら、言った。
「御二人とも、忍者装束がよく似合うでござる。というか、何でも着こなしてしまうのでござろうな。学園のアイドルが二人もうちの部に来てくださるとは──眼福、眼福」
「見た目なんてどうでもいいんですよ」
柏木がまたムカつくことを言う。
「オレはバンドやってますけど、ヴィジュアルよりも音楽そのものを聴いてほしい。神崎はルッキズムの女王みたいに見られてしまいがちですが、じつは根性でモンスター並みの怪力を出せるんです」
「誰がモンスターよ!」
クナイを一本、投げつけてやった。
それを華麗に手で受け止めると、真剣な顔をこっちに向けて、糞イケメンが言った。
「神崎の一番の魅力は外見じゃない。内面こそがキミの一番の魅力だ」
歯が浮くようなことを言う。
私は得体の知れない嬉しさに背中をゾクゾクさせながら、毒づいた。
「いかにもな糞イケメン発言! そういうの、ファンの女の子にもみんなに言ってんの?」
「いいや、キミだけだ」
真っ直ぐな目で見つめられた。
私の脳内で、何かが爆発した。
いや待て。
落ち着け神崎梓。
これは罠だ。
糞イケメンという生物は、こういうことを平然と言うのだ。
女の子を勘違いさせるようなことを言っておいて、本人は何も考えていない。
そういう生き物なのだ。
「フン……」
私は冷静を取り繕い、胸を張った。
「そ、そういうこと言って、私が喜ぶと思ってる?」
「うん」
「即答すんな!」
柏木は真顔だった。
「でも、本当にそう思ってるから」
なんだこいつ。
腹が立つ。
腹が立つのに、なぜか顔が熱い。
私はごまかすように、部室の隅に置かれていた巻物をひったくった。
「忍法……!」
服部部長が声をあげる。
「おっ、神崎殿、新たな忍術でござるか!」
「そうよ!」
私は巻物を広げ、高らかに宣言した。
「忍法・糞イケメン黙らせの術!」
「そんな術、忍術書にはござらんが……」
服部部長が困惑している。
「いくわよ!」
私は柏木を指差した。
「…………」
何も起こらなかった。
「…………」
柏木も黙っている。
「…………」
部員たちも黙っている。
数秒後。
「効いてる……!」
「効いてるでござる!」
「すごい! 柏木先輩が黙ってる!」
忍者部が大歓声に包まれた。
「いや、ただ黙ってただけだろ」
柏木が言った。
「しゃべった!」
「術が解けた!」
「神崎殿、恐るべき忍術でござる!」
「もう一回やる!」
私は再び柏木を指差した。
「忍法・糞イケメン黙らせの術!」
「…………」
「…………」
「…………」
「効いてる!」
「だから普通に黙ってるだけだって」
「しゃべった!」
「解けた!」
また歓声。
……なんだ。
ここ、最高じゃないか。
根性部では、笑とコンジョーくんがイチャイチャしている横で、私はひたすらお菓子を食べてるか、筋トレしてるかだ。私は主役じゃない。
でも忍者部なら、何もしなくても拍手される。
柏木が黙っても拍手される。
柏木がしゃべっても拍手される。
最高だ。
私はここで生きていく。
「神崎殿!」
突然、服部部長が立ち上がった。
「重大な任務があるでござる」
「任務?」
部長は神妙な顔で、一枚の紙を取り出した。
「来週、我が校に転校生が来るでござる」
「へえ」
「その人物は……」
部長が声を潜める。
「忍者でござる」
部室が静まり返った。
「忍者?」
「左様」
「本物?」
「本人はそう主張しているでござる」
「なんでそんな人が高校に……」
「そこなのでござる」
部長は机をバンッと叩いた。
「我々忍者部は、その転校生が本当に忍者なのかを見極めなければならぬ!」
「いや、どうでもよくない?」
「よくない!」
部長が叫んだ。
「もし本物の忍者なら、我々の部にとって百年に一度の逸材!」
「大げさねえ」
「そして、もし偽物なら──」
部長の目が鋭くなった。
「我々忍者部の威信にかけて、その正体を暴く!」
私は腕を組んだ。
なるほど。
つまり、来週から新しいイベントが始まるわけね。
それはそれで面白そうだ。
柏木も楽しそうに笑っていた。
「じゃあ、神崎も一緒に調査しよう」
「え?」
「キミ、こういうの好きだろ?」
「べ、別に好きじゃないけど」
「顔に出てる」
「出てない!」
「出てる」
「出てない!」
服部部長がこぶ茶を飲みながら、にやりと笑った。
「では決まりでござるな」
「何が?」
「神崎殿と柏木殿を、転校生の正体を暴く潜入調査班に任命するでござる」
「ちょっと待って!」
私は叫んだ。
「なんで私と柏木なのよ!」
「学園のアイドル二人が忍者装束で潜入すれば、誰も怪しまないでござろう」
「いや、むしろ目立つでしょ!」
「なるほど」
柏木が頷いた。
「確かに」
「納得するな!」
私は柏木の頭を軽く小突いた。
こうして私は──
忍者部に入ってわずか数日で、謎の転校生を追跡することになった。
……なんだかんだ言って。
やっぱり、ここに入ってよかったかもしれない。
ワクワクしてきた。




