第56話 ジジさん
団長さんと話し終えたあと、ラハチェさんにアランのもとへと連れて行かれた。
アランは今日から昼間は調教師さんと一緒の馬車に乗るらしい。移動しながら、仕事を教わるんだって。
サーカスにいる子供たちは皆、下働きをしながら、将来サーカスの演者になるための訓練をしている。ただリリーちゃんはまだ幼すぎるので、アランが仕事を教わる間は手のあいている大人が面倒をみてくれるそうだ。
このサーカスは今、王都で凱旋公演をするために戻る道中だそうで、王都からミャオの街へ来るまでの主要都市では既に公演済み。なので王都まで興行は行わないんだとか。
アランとリリーちゃん、どっちと一緒にいるか迷ったけど、とりあえず今日はアランと行動することにした。
動物たちは何台かの馬車に分けて乗せられているので、アランと調教師さんは毎日違う馬車に乗るのだ。
今日はなんと、ボボッドサーカスの一番人気、猿のテディさんがいる馬車に乗るんだって!
リリーちゃんをサーカスのお姉さん達に預けた後、アランと一緒に調教師さんが待つ馬車へと向かう。
「アランはもう調教師さんに会った?」
「うん、昨日ね。」
「どんなひとだったー?」
「うーん、優しそうなひとだったよ。あ、ジジさん!」
「じいさん?」
アランが馬車の前に佇む小柄なおじいさんのもとへ走っていく。
「遅れてしまい、すみません。」
「ほほほ、遅れておらんよ。年寄りは朝から元気なだけじゃ。」
アランの隣に追いつき、ちょこんと座り調教師のおじいさんを見上げる。
「おお、この子がアランを慕ってついてきたという猫じゃな。小さくて可愛いのう。」
調教師のおじいさんが、しゃがんでよしよしと頭を撫でてくる。
「そうです。ジジさん、この子はオヴィっていいます。」
「じいさん?」
アランや、流石にじいさん呼びは失礼だよ。と思っていたら。
「ほほ、オヴィか。わしはジジじゃ。」
あ、ジジさんね!よかったー、じいさんって言ったのバレなくて。あぶない、あぶない。ふうー。
「じいさんでもよいぞ?」
ジジさんはにっこりと微笑んで、そう告げる。
「ば、バレてたのー?わざとじゃないんです!ごめんなさい!」
土下座をしてみるが、どうみてもごめん寝ポーズにしかみえない。
「ええんじゃ、ええんじゃ。ほほほ。ほら起きなさい。」
そう言いながら、またよしよしと頭を撫でられてから前足を持ち上げられる。
「…あのーさっきから、物凄く円滑に会話がすすむのですが。もしかしてスキル持ちなんですか?」
ジジさんとすんなり意思の疎通が出来ていることを疑問に思い、質問してみた。
「いいや、ただ耳がいいだけじゃよ。」
「ええ?でもー。」
アランに目をやると、キラキラした目でジジさんを見つめていた。
「僕、テイマーのスキル持ちなんです!ジジさんもそうなんですか?」
期待するような表情で、ジジさんに問うアラン。
「ほほほ。わしはスキル持ちじゃないぞ。耳がいいのと長年の勘じゃよ。それよりもアラン、いくらサーカスにいる全員がおぬしのスキルを知っておるからといって、簡単に他人にスキル持ちであることを言ってはならん。」
ジジさんは、それまでの好好爺然とした雰囲気をなくし、厳しい表情でアランを見据えた。
「ごめんなさい。」
しょんぼりとしたアランを見ていると可哀想になる。
「ジジさん!アランをそんなに怒らないでよ。まだ子供なんだからさ。」
「アランが幼いからこそ、言うておるんじゃ。外では誰が聞いているか分からんのじゃぞ。気をつけなさい。」
「はい。」
そうして項垂れるアランの頭を、ジジさんは優しく撫でたのだった。
「さあ、早く馬車に乗りなさい。出発が遅れてしまうぞ。それにほれ、テディも首を長くして待っておる。」
ジジさんが意味ありげに片目を閉じて、後ろの馬車を見るよう促す。
幌馬車の荷台に光が入るようにするためか、幌の後ろの布は、天井まで引き上げられていた。そこから、文字通り首を伸ばしてこちらを見ているお猿さんと目が合う。
「あ!」
目が合ったかと思ったら、サッと奥に引っ込んでしまった。
「ほれ、アランもオヴィも早く乗りなさい。」
そう言われ急いで乗り込んだ馬車の中は、色とりどりのクッションと床には絨毯まで敷いてあった。
そのクッションの上には、洋服を着たお猿さんが、すました顔をして座っていた。
「こんにちは。はじめまして!私、オ」
「待てぇい!ちび猫!おいらの馬車に乗るなら、足を拭けぇい!」
「ぷぺっ!?」
顔に手拭いを投げつけられて、変な声が出ちゃった。
「じいさんも、小僧も靴脱ぎな!おいらの馬車は土足厳禁だぜ。」
じろりと二人を睨むテディさん。
「おお、そうじゃった、そうじゃった。」
ジジさんが慣れたように靴を脱ぐ。アランも慌てて、言われた通りにする。
「もうっ!なにも顔に投げなくてもいいのに。」
文句を言いながらも、たしかに絨毯まで敷いてあるんだから汚したくないよね、と素直に自分の足を手拭いで拭いたのだった。
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