第55話 団長さんとお話し
「どうしてアランたちと一緒に寝ちゃダメなの?」
疑問に思った私は、ラハチェさんに向かってそうたずねた。
「アランたちのテントは、雑用や下働きをする年寄りと子供しかいないんだぞ?」
「だから?」
意味が分からず、首をかしげる。
「分かんないのか?年寄りと子供は動物が大好きだろ?そこに子猫がいようもんなら、もみくちゃにされるぞ。」
「もみくちゃは嫌だなー。」
私は想像してブルブルと震えた。
「それにひとり許せば、子供なんて皆どっかから動物を拾ってきちまうだろ?本当は、精霊様のいる動物は勝手に捕まえたらいけないんだが、オヴィは自分からアランのもとにやってきたからなあ。」
ラハチェさんが両腕を組ながら、少し困ったように眉を寄せている。
「大丈夫!私、迷惑かけたりしないよ!」
私は安心させるように、丸太に座るラハチェさんの膝をぽん、と叩いた。
「まあ、大丈夫だろ。猫の精霊様は数百年もお姿見せてないしな。」
私がその精霊です!だから、何にも問題無しだよー!
「何、ニヤニヤしてんだ?」
「失礼な!ニコニコしてるんだよー!ふわあー。それにしてもお腹一杯になったら眠たくなっちゃった。早く馬車に戻ろうよー。」
私はラハチェさんの膝の上によじ登り、そこで丸くなり目を瞑った。
「おい。…はあ。」
「くわぁあ。」
目を覚ますと、昨日と同じ馬車の中だった。あの後ラハチェさんがここまで運んでくれたんだ。
隣には毛布をかぶり、腕を枕にこちらを向いて寝ているラハチェさんがいた。
「早く起きちゃった。」
馬車の中をうろうろしながらラハチェさんが起きるまで、時間を潰す。
「先に外、出ちゃおうかな。」
幌の隙間から外の様子を窺うと、まだ薄暗かった。人が活動している気配はまだない。
「誰も起きてないんじゃ、つまんないよね。」
そう言って振り返り、ラハチェさんの隣に置いてあるクッションの上に戻る。
「そういえばラハチェさんは皆みたいにテントで寝ないのかな。馬車だって一番後ろを走ってたし。はっ!まさか仲間はずれにされて…」
思わず口もとに両前足を当てて、眉を八の字にさせた。私に眉毛があるかは分からないけど。
「ひとりの方が落ち着くんだよ。」
「わっ、起きてたの!?」
私はクッションの上で飛び上がる。ラハチェさんが薄目を開けてこちらを見ていた。
「びっくりしたー。それにしても、ひとりの方が落ち着くのに、どうしてピエロをしてるの?」
ショーの時なんか特に、人に囲まれてるよ?
「皆を楽しませるのと、ひとりが好きなのは別だろ?」
「ふーん、そういうものかー。」
「まだ外は暗いだろ。もう少し寝てろよ。」
ラハチェさんは、かぶっていた毛布の端を引っ張って、私の体にかける。
「はーい。ご飯の時間には絶対起こしてね!」
返答のないラハチェさんは、すでに目を閉じて仰向けになっていた。返事の代わりに、ぼふりと毛布ごと私の背を撫でたのだった。
その後、朝食の時間になり起こされ、アランたちとの食事を終えてから、ラハチェさんと一緒に団長さんに会いに向かった。
少し大きめの、華美ではないがみすぼらしくもないくらいの装飾がほどこされた馬車の前にやって来た。
「ここに団長さんがいるの?」
「すぐに村を発つだろうから、早くオヴィのことを話しておかなくちゃな。誰かにサーカスの人間が無理矢理猫を捕まえたなんて思われたら大変だ。」
コンコンと馬車の扉を叩くと、がちゃりと内側から開く。
「何だ?」
「おはようございます、団長。少しお話しがあるんですが。」
「乗れ。」
「失礼します。」
そう言ってラハチェさんが馬車に乗り込み、その後ろに私も続く。
中は広めで、ふかふかの座席が両端についており、団長さんとラハチェさんは向かい合って座る。私は一応迷いながらもラハチェさんの膝に飛び乗った。
だって、座席の布が艶々なんだもん。高そうだから汚したら悪いしさ。…ごめん。決してラハチェさんの服を汚してもいいと言っているわけじゃないんだよ!
そう思い、ラハチェさんの方を仰ぎ見ると、指先でチョイっと正面に顔を向けさせられた。
「実はこの猫のことなんですが、アランを慕ってミャオの街からついてきてしまったようでして。ここに一緒においてやってもらえませんかね?」
団長さんが、ラハチェさんの膝に座っている私を目を細めてじぃっと見つめる。しばらくすると、指先でそろばんを弾くような動きをしはじめる。動きを止め、私から目線を外し、ふうっと一息吐くとラハチェさんに話しかける。
「いいぞ。アランの飼い猫ってことにしておこう。働かせるわけにはいかないが、招き猫くらいはさせてもいいだろう。わっはは!猿のテディに続いて猫もうちに来るとは、縁起がいいな!」
「じゃあ、昼間はアランに世話をさせて、夜は他の動物たちと一緒でいいですかね。」
「おう、好きにしろ。ただし、興行の時は客寄せに使わせてもらうぞ。それでいいかな?」
団長さんはそう言って私の顔を覗き込む。団長さんのふわっふわ、もっさもさの白い髪の毛の間に小さな羊の角が見えた。
「はいっ!よろしくお願いします!」
いつアランのご両親が見つかるか分からないけど、それまでは精一杯頑張らせていただきます!
お読みいただきありがとうございました。




