第50話 慌ただしい旅立ち
街へ戻り、おじいさんの家へとやって来た。
「はぁはぁ。よかった。ブランシュさんいた。」
基本的にブランシュさんはおじいさん家の裏庭で日向ぼっこしてるけど、たまに散歩してていないこともあるからね。すれ違いにならなくてよかった。
「どうしたんだ、オヴィ?」
息を切らしてやってきた私に、ブランシュさんは目を丸くする。
私はブランシュさんに、アランの事情を話した。
「だからね、私も一緒に行って二人を手伝おうと思ってるの!」
「お前が一緒に行って何ができるっていうんだ?人間のことは人間がなんとかする。」
ブランシュさんが難しい顔でそう告げる。
「だけど友達だよっ!なんの役にも立たなくったってそばにいるっ!助けになりたいのっ!」
私は真剣な表情でブランシュさんを見つめた。
ブランシュさんは私が本気かどうか確かめるようにじっと目を見てから、盛大に溜め息をついた。
「わかった、行ってこい。俺もついて行ってやりてぇが、じいさんの体調が心配でな。じいさんも年だしよ。アランもガキだが、オヴィもまだガキなんだ、気を付けろよ。」
「うん!アランの両親を見つけたら帰ってくるからね!ブランシュさん、待っててね!」
これでも一応前世は大人だったんだからね!とは言えないけど。
「おう。しっかりやってこい!」
「行ってきまーす!」
その後はコトラさんやボス、ラックさんやリスボスさんの所へ挨拶に行き、妖精さん達の所へ向かった。
妖精さん達にも事情を話し、アランと共にしばらくこの街を離れることを伝えた。
「ということなんだけど、妖精さん達も一緒に行く?」
元気なふたりが一緒なら楽しいだろうな、と誘ってみる。
「だめなのー」
「ここを離れたら消えちゃうのー」
「ええっ!?死んじゃうの?」
「違うよー」
「精霊のための妖精は特別なのー」
「どういうこと?」
精霊誕生の地で生まれた妖精は、生まれた地から離れると強制的にここに戻ってきてしまうらしい。その際に体が消えるように移動するため、紛らわしい言い方になったみたい。精霊誕生の地を見守るのが、この地で生まれた妖精の使命なんだって。
「え、テレポーテーション?」
「てれぽー?」
「てーしょん?」
妖精さん達が首をかしげる。
「いやいや、なんでもない。それより妖精でもそんな制約があるなら、もしかして精霊もこの地を離れられないの?」
「もう大丈夫よー」
「おーけーよー」
妖精さん達が私の何かを確かめるように、くるくると周囲を飛び回る。
「もう、ってことは今までは駄目だったってこと?」
「オヴィはまだ小さい精霊だったー」
「オヴィ大きい精霊になったー」
私は自分の手足を眺める。
「大きくなったようには見えないけど。気づかないうちに成長してたのかな?」
「体は小さいままよー」
「オヴィは大きい精霊になったけど、まだ子供よー」
「?良く分からないけど、この街を離れても大丈夫ってことだよね。」
「うん」
「ここで寝てくー?」
祭壇の上を飛んで、私に尋ねる。
「ううん、ゆっくりはしてられないの。早くアラン達の所へ戻らなくっちゃ。それに最近はそこで寝ても、初めほどスッキリしないんだよね。慣れちゃったのかも。」
「いいことよー」
「大きい精霊になったのよー」
ふたりはうんうんと頷いている。
「まあ、いいや。ふたりと一緒に行けないのは寂しいけど、アラン達の両親を見つけたら街に戻ってくるからね!」
「わかったー」
「オヴィがんばれー」
「ありがとう!それじゃあ、行ってきまーす!」
私はふたりに見送られながら、孤児院へと走った。
孤児院に到着すると、玄関の前で子供たちとヘザー先生が泣いていた。
「ほらほら皆、そろそろ中に入りなさい。」
ヘザー先生が子供たちの背中を押して、中へ戻るよう促している。
「先生、アランとリリーは幸せになれるよね?」
一人の男の子が、ヘザー先生に尋ねる。
「ええきっと。二人ともとっても賢くていい子だもの。」
「寂しくなるね。」
そう言いながら、皆は孤児院の中へと入って行く。
「ええっ!?まさかアラン達もう行っちゃったの?」
辺りを見回すが、アラン達も、二人を乗せ馬車も見当たらない。
なんてこったっ!
「急げばまだ間に合うはずっ!」
私は全速力で街を出入りするための門へと向かった。
門へと辿り着くと、ちょうどサーカスの幌馬車が連なって街の外へ出ていくところだった。
「待ってーー!私も乗るよー!」
走る馬車の最後尾になんとか追い付くも、荷台が高くて乗り込めない。
「待ってよう。アラーン!リリーちゃーん!オヴィが来たよー!ムールさーん、いたら乗せてよう!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、追いかけるも後少しの所で届かない。
「だめだよー。これじゃあ約束守れなくなっちゃうよー。」
もはや半分泣きながら、ぴょんぴょこと馬車を追いかける。
「うう、アラーン!リリーちゃーん!」
最後尾の馬車が門を抜ければ、おそらく速度を上げてしまうだろう。そうなったら走っても追い付けなくなる。
馬車が門を抜ける寸前、力の限りジャンプして乗り込もうとする。
「てやーーーーー!」
あとほんの少しなのに届かなかった。
「おっと。」
そんな呟きと共に、幌の中から伸びてきた大きな手が、がしっと体を掴む。
「ぐえ。」
「わ、ごめんな。」
そう言って、私の体を掴んだままの片手を幌の中へと戻し、力を緩める。
私が顔を上げると、獣人の男性がこちらを見つめていた。男性は黄色の瞳に濃い緑の髪で、体や頬には薄い緑色の蛇の鱗模様がある。たぶん蛇の獣人さんだな。
「あなたが助けてくれたんですね!どうもありがとう!」
置いていかれるかと思ってひやひやしちゃった。
私はお礼を言い男性の手から抜け出すと、馬車の中を見回した。
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