第12話 自分の姿
ブランシュさんの後ろを付いて行くと、直ぐに建物の間を抜け、少し開けた空間に出た。
辿り着いたそこは、ハーブらしき草が植えてある小さな花壇と古いベンチがあるだけの、こじんまりとした庭だった。
「何だか可愛い庭だなあ。」
さっきはお爺さんの顔もよく見えなかったけど、きっと庭みたいに優しい雰囲気の人なんだろうな。
そんな風に考えながら、庭を見ていると、ブランシュさんに声を掛けられる。
「何してんだ?こっちに来いよ。」
慌ててブランシュさんのいる方へ走って行くと、カチャリと建物の扉が開く。
「お、すまんな。少し待たせたか。」
お爺さんが、二つのお皿を持って現れる。
「じいさん、この新入りにも何か食わせてやってくれ!」
ブランシュさんは、お行儀良く前足を揃えて、お爺さんに向かって私を紹介してくれる。
「おうおう。今飯をやるからな。ほれ、こっちはそこのちびすけの分だ。」
お爺さんは、座るブランシュさんの正面にお皿を置いた後、少し小さめのお皿を私の前に置く。
「わあ。ありがとうございます!」
お皿の中身を覗くと、柔らかそうな蒸かしたお芋と茹でたお肉、それに何か白っぽいドロッとしたものがほんの少しだけ乗っている。
たぶん、アレだろうと当たりを付けながら白いものをペロッと舐めてみる。
「やっぱり!ヨーグルトだ!」
「お、良く知ってんな。じいさんがくれる飯には、たまに珍しいもんも入っててな、俺はそれが結構楽しみなんだ!」
「そうなんだ。他にはどんな物を食べたことがあるの?」
「んー。この前なんかは、魚を焼いて解したやつも入ってたな。あとは、豆とか果物とか。俺、ここにはデザート食う感覚で来てんだ!」
え、お肉メインでゴリゴリの主食ですが。
でも、ニコニコ話すブランシュさんが可愛いので、ツッコミは止めておきます。
「なんだブランシュ、今日はお喋りだな。」
言いながら、お爺さんがブランシュさんの背中を撫でる。
ブランシュさんは気持ち良さそうに目を細めると、ハッとこちらを見る。
「ち、違うぞ!これは飯のお礼に撫でさせてやってるだけだからなっ!別に嬉しいとか、そんなこと思ってないからな!俺は誇り高き野良だぞ!」
そういうのは口数が多ければ多い程怪しいってもんですぜ、旦那。
まあ、私の精神は大人なので、指摘しませんけどね。にっこり。
「どうだ、ちびすけ。食ってるか?」
お爺さんが、今度は私の傍にやって来る。
「はい。食ってます。美味しいです。」
「おうおう。腹一杯食って、でかくなるんだぞ。」
そう言ってお爺さんは、指の背で私の眉間を撫でた。
「そうだ。ちびすけにも名前を付けてやろう。」
お爺さんは、じっと私を見詰めると徐に立ち上がって建物の中へ戻って行ってしまう。
「えっと、どうしましょう。」
「直ぐに戻ってくるさ。それにじいさんは、言葉が通じなくても、猫に話し掛けてくるタイプだ。だから、気にすんな。」
ああ、動物好きのアレですね。わかります。前世の私もそうでした。野良猫とか見ると、思わず話し掛けちゃうんですよね。猫とか、犬を飼ってる友人達もそうでしたし。
「ほら、戻って来たぞ。」
ブランシュさんはチラりとお爺さんを見やると、自分のご飯を再開させました。
手に卵形の板を持って、帰ってきたお爺さんは、その辺にあった空の植木鉢を私の目の前に逆さまに置くと、そこにその板を立て掛けた。
わあ、鏡だ。
今世で初めて、はっきりと自分の姿を見た。
丸い耳と尻尾。青みがかったグレーの被毛。かあさまの瞳の色は銅色だったけど、私の瞳はヘーゼルだった。
記憶の中のかあさまの姿から、何となく予想はしたたけど、丸い耳と尻尾以外はほぼブリティッシュショートヘアですね。なんなら、前世のブリティッシュショートヘアより全体的に丸いっ!
んん?あれ?尻尾だけ縞模様があるっ!今まで気づかなかった。
そりゃ狸に見え…いやいや、顔は猫だもん。狸には見えないよ。これで猫じゃなきゃ、いったいなんなのさ。
首を傾げながら鏡を見続けていると、ご飯を食べ終わったのか、ブランシュさんが笑いながら話し掛けてくる。
「くくくっ。それ、鏡って言うんだぜ。そこに映って見えるのはお前だよ。別の猫がいると思ったんだろ?分かるぜ。俺も初めて見たときは驚いたからな!」
鏡の中の自分を見て、首を傾げる私に勘違いしたのか、ほらなと自分も映り込みながら教えてくれる。
確かに子猫が鏡を知ってるわけないよね。
「本当だね。ビックリしちゃったよ。」
「見てろ。」
そう言うと、鏡を見ながら耳をピコピコと動かしてみせる。
「な、面白いだろ?」
そう得意気に、鏡越しに目を合わせて、また耳を動かして見せた。
「ふふ。そうだね。楽しいね。」
ところで、さっき名前を付けてくれるって言っていたのに、どうしてお爺さんは鏡を持って来たんだろう?
ありがとうございました。




