第7話 食堂で深まる距離感、芽生える恋心
私たちは美夏課長に連れられ、社員食堂へと向かった。
美夏課長によると、大半の社員がここで食事をとるらしく、近くの休憩スペースでもおしゃべりと食事を楽しんでいるらしい。
食堂に入った瞬間、社員たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
「お…男?」
「な、なんで?」
「うそでしょ?」
自分の目を疑うように、手や口を止めて私たちを見つめている。
大勢の視線にも慣れてきたので、私はあまり気にせず会話を続けた。
「あそこで食券を買うのよ」
「はい……」
指さされた先では、女性社員たちが食券機の前で列を作っていた。
私たちもそこに並ぶ。
女性たちが譲るようなしぐさを見せたが、申し訳ないので遠慮しておいた。
「美夏課長は何を注文するんですか?」
「そうね……私はさばの竜田揚げセットよ」
「なるほど……おいしそうですね」
「橋本さんは?」
「私はうどんを食べたい気分です!」
「うどんですか……それもいいですね」
私は大好物のカレーにした。
次は彼女たちと同じものを頼んでみよう。
トレーを持って各メニューのカウンターへ並び、食券を渡して料理を受け取る。
空いている席を見つけ、三人で座った。
私と橋本さんが隣、美夏課長が向かいに座る。
近くから橋本さんのいい匂いがする。
そんな些細なことでドキッとしてしまう。
「(もぐもぐ)うどんすっごくおいしいです!」
橋本さんがこちらを向いて、笑顔で感想を伝えてくれる。
その光景がどこか幻想的に思えた。
私はいつも一人で食事をしていたからだ。
私が彼女を呆然と見つめていると――
「どうしました?」
美夏課長が声をかけてきた。
「あ……大丈夫です。なんでもありません」
私は目の前のカレーをかき込んだ。
この変わらない旨さが、私を現実へ引き戻してくれる。
この世界は、私に都合が良すぎる。
まるで、誰かが私のために作った世界みたいだ。
もし明日になったら、また退屈な日常、前の世界に戻るのだろうか。
「このカレー、とてもおいしいです」
「それはよかったわ」
美夏課長から橋本さんのほうを見ると、
彼女は私を笑顔で見つめていた。
私もつられて笑みを浮かべる。
その笑顔をずっと見ていたいと思った。
その瞬間、小さな恋心を自覚した。
私はそれをすぐに消そうとする。
前の世界では、私は恋をずっと諦めていた。
欲しいものが手に入らない日々が続くと、人は諦めることを覚える。
自分に嘘をついて、無理に笑ってごまかす。
でも――
この世界なら、私の恋は実るかもしれない。
「おいしいですね」
「おいしいです!」
彼女とは会ってまだ日が浅い。
もっと彼女のことを知りたいと思った。
いまはこの恋心を育てていきたい。
「橋本さんのご趣味はなんですか?」
「私ですか? 私の趣味は食べることと、スイーツを作ることです」
(かわいい趣味だな……)
「それは素晴らしいですね。好きな食べ物はなんですか?」
「私はマカロンが一番好きです!」
「マカロンですか……もしかして、それをご自分で作ってみたり?」
「はい! 自分で作るものが一番おいしく感じます」
彼女の作ったスイーツを食べてみたい――そう思った。
「なるほど……美夏課長のお好きな食べ物は何ですか?」
「私はパンケーキね。ふわふわで口の中でとろける瞬間がたまらないの」
「パンケーキですね。日本のスフレパンケーキは海外進出するほど素晴らしいですもんね」
「そうね。よく知ってるわね」
「最近テレビで見たんですよね。橋本さんはパンケーキ、作ったことがあるんですか?」
「あります! お店には負けるかもしれません!」
「なるほど……もしよかったら、橋本さんの作ったスイーツを食べさせてください」
「ふえ?」
「もしよかったら……ですが」
彼女の様子をうかがう。
「ぜひ! 食べてもらいたいです!」
「それはうれしいです!」
「……でも、男性に食べてもらうの初めてなので……ちょっと緊張します」
そんな会話を続けながら、私たちは食事を楽しんだ。




