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男女比偏極社会  作者: 綾汰


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第6話 緊迫した会議

「では、次の議題に移ります。

橋本さん、先ほどの資料の補足をお願いします」


その言葉に、橋本透香さんが背筋をびくっとさせた。


彼女は席から立ち上がり、胸に抱えた資料をぎゅっと握りしめながらプロジェクターの前へ向かう。

動きはぎこちなく、緊張が全身から伝わってくる。


彼女はスライドを操作し、口を開いた。


「えっと……こちらが、地域向けサービス改善案の補足資料になります……!」


声は小さいが、必死に前を向いている。

深呼吸をして、震える指先を押さえながら補足説明を続けた。


補足説明が終わったとき、一人の役員が手を挙げた。


「橋本さん、その案、コスト面の見通しが甘くありませんか?

それに、わが社ではかつて似たような案件で重大な失敗を経験しています。今回のような戦略は前例もありません」


会議室の空気が一瞬で張り詰める。


(来た……)


透香さんは前を向いたまま固まっている。


私と彼女の視線が交差した。

私は彼女に向けてほほ笑んだ。

彼女にとって悪影響になるリスクはある。それでも、適度な緊張は集中力を高め、彼女を奮い立たせるはずだ。

まさに、彼女が私の自己紹介の際にしてくれたときのように。


今度は私の番だ。


(今度は私の番だ……!)


透香さんは小さくこぶしを握り、胸を張って言った。


「確かに、コスト面を重視するのは必要です。しかし、私たちが一番大切にすべきなのは、地域住民の方々という“顧客”です。ニーズを把握し、理解したうえで行動し、彼らの信頼を得ることが最優先です。その信頼こそ長期的には大きな利益につながると私は考えています」


その言葉に重なるように、美夏課長が落ち着いた声で続けた。


「私たちの部署では、過去の失敗は詳細に記録され、広く共有されています。私たちは過去の失敗を変えることはできませんが、過去は今の私たちを変えることができます。失敗とうまく向き合い、認めながらも、前に進む姿勢こそ今の私たちに必要です」


二人の言葉に、役員たちは黙り込んだ。


重苦しい空気を断ち切るように、私は口を開いた。


「僕はその案、賛成です」


男性である私の一言は、この世界では特別な重みを持つ。

その一声が鶴の一声となり、意見は一気にまとまった。



「それでは、本日の議題は以上です。

皆さん、お疲れさまでした」


美夏課長が会議を締めると、

張りつめていた空気がふっと緩んだ。


女性社員たちはほっと息をつき、

肩の力を抜きながら資料を閉じていく。


透香さんは席に戻ると、

胸に手を当てて深く息を吐いた。


「はぁ……終わった……」


その横顔には、緊張から解放された安堵と、

やり切った達成感が入り混じっていた。


私は声をかけた。


「さっきの補足、すごく良かったよ。説得力があった」


「っ……! み、見てましたよね……?」


透香さんは一瞬で顔を赤くし、

視線を泳がせる。


「うん。ちゃんと伝わってたと思う」


「そ、そんな……でも……ありがとうございます……」


耳まで赤く染まり、

嬉しさを隠しきれていない。


そのとき、美夏課長がこちらへ歩いてきた。


「霧崎さん、そろそろ昼食に行きましょう。

橋本さんも一緒にどうですか?」


「えっ……わ、わたしも……ですか?」


「もちろんです。今日の補足、よく頑張っていましたから」


透香さんは驚きつつも、

どこか嬉しそうにうつむいた。


「……はいっ。ぜひ……!」


三人で会議室を出ると、

さっきまでの緊張が嘘のように、

廊下の空気は柔らかかった。


(昼食か……。

なんだか、さっきの会議より緊張するな)


私は胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じながら、

二人の後ろを歩き出した。



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