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男女比偏極社会  作者: 綾汰


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朝霧美夏・第2話 「気づきたくない何か」

二人を誘って昼食をとるために食堂に向かった。


大勢の社員が食事と会話を楽しんでいる声が聞こえてきた。


「締め切りが間に合わない!」


「私も!」


「だれか私の代わりにやって!」


「無理!」


「あはは!」


「ここ空いてるよー!」


「ありがとー」


私たちは食券機の列に並んだ。


彼女たちが霧崎君に気づいた瞬間、


会話の温度が一段上がったのがわかった。


(……またね。


男性を見ると、みんなこうなる)


「え……な、なんで男の人が……」


「ちょ、ちが……でも、あれ……」


「はな、鼻血……出る……」


「あ……無理……」


ざわざわが大きくなり、


彼女たちの声が途切れ途切れに聞こえるようになった。


鼻を押さえながら、


こちらを真っ赤な顔で見つめている子もいる。


(……落ち着きなさいって言いたいけど、


無理よね)


「いつも通り人がたくさんいるわ。


霧崎君は大丈夫?」


「大丈夫です」


「そう……何かあったら言ってね」


たくさんの女性に囲まれたら、


怖がる男性も多いのに、


彼はなんて立派なのだろう。


「私はカレーにします」


その言い方が少し嬉しそうで、


カレーを見る目が子どものように輝いていた。


胸がドキッとした。


胸が跳ねた理由は……


考えないようにした。


空いている席を見つけて、


三人で座った。


各自、食事を取りながら、


何気ない会話を続けた。


「うどんすっごくおいしいです!」


橋本さんが頬をいっぱいにして、


もぐもぐとした後、


おいしさを隣の霧崎君に伝えた。


彼は驚いたように、


彼女をじっと見つめていた。


なんとなく変な感じがしたので、


声をかける。


「どうかしました?」


声をかけると、


彼ははっとしてこちらに目を向けた。


「だ、大丈夫です……」


「そう……」


彼はふたたびカレーを食べ始めた。


さっきまで輝いていた目は光を失い、


何かを諦めた人のような目つきに変わっていた。


まるで何かを、


そっと手放した人のようだった。


(何があなたをそうさせたの……)


(……どうして、そんな顔をするの)


そう思っても、


答えは出なかった。


互いの趣味を話すことになり、


それぞれ自分の好きなことについて語った。


橋本さんはスイーツづくりが好きらしく、


霧崎君に食べてもらいたいようだった。


私には、


そんな素敵でかわいらしい趣味などない。


もしそんな趣味があったら……。


そう考えたところで、


思考を止めた。


◆


私には恋愛経験がない。


身近に男が少ないという問題もあるけれど、


自分のことで忙しくて何も行動を起こしてこなかったのが、


一番の理由かもしれない。


それが言い訳に過ぎないことは分かっている。


でも、


恋愛をする気にはなれなかった。


なにより――


男に拒絶されるというのは、


とてもつらいことだと知っている。


友達には男の恋人がいる。


だが、


何度もひどく拒絶され、


しまいには暴力を受けた。


そのたびに私を頼ってくれて、


私は相談に乗った。


暴力を受けた彼女の体の写真を見た時は、


心の底から深い絶望感を覚えた。


私が男と関わったのは、


中学生のころ。


男性が落とし物をしたので、


拾おうとした時だ。


私はすぐ拾おうとしたが、


「触らないで」


と近くにいた女子に怒鳴られた。


周りから見れば大したことのない、


すぐに忘れられるような出来事だったのかもしれない。


だが、


その一件で私は癒えることのない傷を負った。


この傷を誰のせいにしたらいいのか分からなかった。


男か、


私に叫んだ女か、


それともこの偏った社会なのか。


未熟な私には決められなかった。


私の恋愛経験は、


あの時から止まったままだ。


動かし方を忘れてしまったのかもしれない。


◆


食事を終えた私たちは仕事に戻った。


けれど、


霧崎くんの"あの目"だけは、


胸から離れなかった。

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