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男女比偏極社会  作者: 綾汰


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橋本透香・第4話 「デート」

待ち合わせの十五分前。


私はすでに駅前にいた。


(……早く来すぎたかな)


でも家にじっとしていられなかった。


胸がそわそわして、落ち着かなくて、気づいたら家を出ていた。


スマホを見て時間を確認する。


まだ約束の時間まで十分以上ある。


(どうしよう……緊張してきた)


風が少し吹いて、ワンピースの裾が揺れた。


胸の奥が、期待と不安でぎゅっと縮む。


顔を上げると、春樹さんがこちらに向かって歩いているのが見えた。


その瞬間、胸の奥がふわっと温かくなった。


彼のことを見ていると無意識に口角が上がってしまう。


無理に下げようとすると変な顔になってしまいそうで、そのまま笑ってごまかした。


「こんにちは!」


「こんにちは、橋本さん」


「霧崎さん、今日すっごく素敵ですね!」


「え……素敵、ですか?」


(落ち着け私……!)


でも、落ち着けるわけがなかった。


春樹さんはいつもより少しだけラフな服装で、それが妙に似合っていた。


(かっこいい……)


胸がぎゅっとなる。


心臓の音が自分でも聞こえそうだった。


「はい! なんか……いつもよりかっこよく見えます。その服も似合ってますし、雰囲気がすごく落ち着いてて……」


言いながら恥ずかしさを感じてしまう。


声が少し震えているのが自分でもわかった。


「ありがとうございます。でも……橋本さんのほうこそ、今日はすごくきれいですよ」


「えっ……!」


その言葉に、胸が跳ねた。


一瞬、呼吸が止まった気がした。


「き、きれい……ですか……?」


「はい。白いワンピース、すごく似合ってます。光が当たると……本当にきれいに見えました」


「……っ」


恥ずかしさに悶えて体を縮めてしまう。


うつむいて、きっと赤くなっているであろう顔を隠した。


(そんな……そんなの……反則……)


「そんなふうに言われたの……初めてです。ありがとうございます……! じゃ、じゃあ……行きましょうか! 焼肉、いっぱい食べましょう!」


「はい。楽しみです」


私たちは並んで歩き出す。


その距離は、いつもよりほんの少しだけ近かった。


彼は気づいているのだろうか。


私がこの距離を縮めていることに。


胸の奥が、くすぐったいような、苦しいような、そんな不思議な感覚で満たされていた。


◇


焼肉店。


煙の匂いと、じゅうじゅう焼ける音。


「橋本さん、好きな部位ありますか?」


「タンが好きです!」


「じゃあタン頼みましょう」


タンが焼ける音が心地よくて、二人で箸を伸ばす。


「おいしいですね」


「おいしいです!」


気づけば、私はいつもより饒舌になっていた。


(春樹さんと話すと……楽しい)


春樹さんは、私の話をちゃんと聞いてくれる。


うなずいて、笑って、時々、優しい目で見つめてくれる。


そのたびに胸がきゅっとなる。


(こんなの……好きになるに決まってる)


昨日、春樹さんはどう過ごしていたのだろう。


「そういえば……昨日のデートはどうだったんですか?」


彼にプライベートすぎることを聞くのはどうなのかと思ったが、気になるので聞いてみた。


彼はあいまいな返事をした。


なぜかそれが悔しくて、


「今日のデートのほうが楽しいですよ」


なんて言ってしまった。


言った瞬間、胸がどくんと跳ねた。


「やっぱり、男性が社内にいるかいないかでは天と地の差がありますよ」


「そうなんですか?」


「そうですよ!」


「ほう……」


「いいですか? 女性はみんな男性に好かれたいんですよ。そんな人ばっかりの職場に一人だけ男性が入ってきたらどうなると思います? みんな大盛り上がりで、出力最大ですよ!」


「そうなんですね……」


「そうですそうです。それに霧崎さんみたいな素敵な人だったら、みんな普段より頑張りますよ」


「なるほど……」


「美夏課長だって、慣れない男性に対してはたじたじというかぎこちないけど、普段より頑張っている気がします」


「あー、そうなんですか? やっぱり?」


「ええ、たぶん惚れてますよ、霧崎さんに!」


「ええ? ほんとですか?」


「たぶんですけど……わかりますよ」


「……」


「霧崎さんモテそうですよね」


「……そうですか? 恋人はいたことありませんよ?」


「……え? いたことないんですか? 意外です」


「はい……」


「彼女さんがいると思ってました」


「いえ、いません」


「そうなんですね……」


もしかしたらと期待していたが、今は彼に恋人はいないようだ。


それがとてもうれしかった。


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「そういえば焼肉食べた後はどうするんですか?」


「水族館にいきます!」


春樹さんに水族館へ行くことを伝えて、焼肉店を一緒に出た。


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