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男女比偏極社会  作者: 綾汰


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橋本透香・第1話 「再会」

春樹さんと再会したその時、胸がぎゅっと締め付けられた。


なんでだろう。

春樹さんはただの同僚なのに。


でもあの笑顔を見た瞬間、私は気づいてしまった。


(あ、好きだ)



私はただの会社員。

毎日同じ時間に起きて、同じ電車に乗って、同じように働く。

今の会社には満足しているし、友達もいる。

仕事ができて思いやりのある美夏さんという上司もいる。


十分だ。

……十分なはずだった。


でも、働くこと以外に“自分の理由”が見つからない。

周りに合わせて生きてきたせいで、

自分の中身が空っぽになっていることに気づかないふりをしていた。


(この空っぽ、埋まる日は来るのかな)


そんなことを考えながら、いつもの電車に乗るために列に並ぶ。

だけど今日は、いつもと違った。


前に立っている人の身長が異常に高い。

もしかして……と思って横顔を覗くと、男性だった。


男装の女性ではない。

“本物の男性”だと、私の心が先に理解していた。


胸の高鳴りを抑えるように、小さな声で声をかけた。


「あの……」


「なにか?」


彼は私の目をまっすぐに見つめてくる。

その視線は、女である私にはまさに「矢」だった。


「男性車両、乗らないんですか?」


彼は周囲を見渡し、少し迷ったようなそぶりを見せた後、言った。


「……今日はやめときます」


「え?」


信じられなかった。

私はその場から動けなかった。


気づいたら、彼の乗った列車は出発していた。


私は次の車両に乗った。

いつもとは違う時間に出発して、いつもとは違う時間に会社に着いた。


でも、仕事はいつも通り。

彼とはもう二度と会えないだろう。


この国にはたくさんの人がいる。

知り合いでもない人と再び会うなんて、奇跡みたいなものだ。


(……忘れよ。期待しても仕方ないし)


「おはよう!」


「ん! おはよう!」


同僚と挨拶を交わし、仕事の準備を始める。

ロビーが少し騒がしい気がしたけれど、気にしないことにした。


資料をまとめ、パソコンを立ち上げ、いつものルーティンをこなす。

でも、胸の奥のざわつきは消えなかった。


そんなときだった。


普段空いている隣のデスクに、誰かの荷物が置かれた。


(あれ……? ここ、誰も使ってなかったよね)


不思議に思って顔を上げる。


そして――息が止まった。


荷物の主を見ると、まさかの朝出会った男性だった。


彼は自然な動作で椅子を引き、私の隣に座った。

まるで、ここがずっと自分の席だったかのように。


「今日からこちらの部署でお世話になります。霧崎春樹です」


その声は、朝のホームで聞いたものと同じ。

でも、距離が近いぶん、胸に直接響いてくる。


返事をしようとしたけれど、喉がうまく動かなかった。


(なんで……なんでここに……?)


奇跡なんて信じたことがなかった。

でも今だけは、神様が悪戯をしたとしか思えなかった。


「よろしくお願いします、橋本さん」


名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた。


私はようやく声を絞り出す。


「よ、よろしくお願いします……!」


震えていた。

でも、それを隠す余裕なんてなかった。


――再会なんて、あるはずがないと思っていた。


でも今、彼は私の隣にいる。


空っぽだったはずの胸の奥に、

何かがそっと落ちてきて、広がっていくような心地がした。


それが恋の始まりだと、

このときの私はまだ知らない。

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