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男女比偏極社会  作者: 綾汰


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橋本透香・第2話 「揺れる恋心」

昼休み。

私は美夏課長と春樹さんと一緒に食事することになった。


食堂に入ると、社員みんなが春樹さんの方を向いた。

ざわざわが強まった気がした。


美夏課長の案内で食券機に並ぶ。

その時、社員たちが譲るようなしぐさを見せたが、

春樹さんは遠慮した。


(そういうところが素敵だな)


食事を受け取った後、空いている席を見つけて三人で座った。


ふと視線を向けると、

春樹さんが美夏課長と話していた。


二人とも笑っている。

課長はいつもの落ち着いた笑顔で、

春樹さんは少し照れたように頬をかいていた。


(……仲良いな)


胸の奥が、きゅっと痛んだ。


別に、課長が悪いわけじゃない。

むしろ尊敬しているし、優しい上司だ。

でも――


(なんで、そんな顔するんですか)


春樹さんが課長を見るときの目が、

どこか柔らかくて、

私が知らない表情をしているように見えた。


仕方ないから、目の前にあったうどんを口に運ぶ。

とっても美味しくて、

心の中の複雑な気持ちが少し薄れた気がした。


「うどんとってもおいしいです!」


春樹さんの方を向いて感想を伝えた。

春樹さんともっと関わりたいから。


春樹さんはこちらを見て、少しぼうっとしていた。

何かあったのだろうか。


「どうしました?」


美夏課長が春樹さんに声をかけた。


「あ…大丈夫です。なんでもありません」


そう言った春樹さんは、カレーを勢いよく食べた。

そしてそのあと、安心したような表情を見せた。


「このカレー、とてもおいしいです」


「それはよかったわ」


春樹さんは美夏課長にその感想を伝えた。

私ではないという些細なことにも、胸がもやっとした。


春樹さんがこちらを向いたので、笑顔を作った。

春樹さんも笑顔を見せてくれた。


たとえその笑顔が偽物であったとしても、

彼が私に笑みを見せてくれたのは事実だ。

それだけで、私は救われたような気持ちになった。


「おいしいですね」


春樹さんが口を開いた。


「おいしいです!」


しばらく互いに食事を楽しんでいると、

春樹さんが私の方を向いた。


(どうしたんだろう)


「橋本さんの趣味は何ですか?」


「私ですか?

 私の趣味は食べることと、スイーツを作ることです」


(興味もってくれるかな…)


「それは素晴らしいですね。

 好きな食べ物はなんですか?」


「私はマカロンが一番好きです!」


「マカロンですか…

 もしかして、それをご自分で作ってみたり?」


「はい!

 自分で作るものが一番おいしく感じます」


(私のことをどう思っているんだろう……)


「なるほど……

 美夏課長のお好きな食べ物は何ですか?」


「私はパンケーキね。

 ふわふわで口の中でとろける瞬間がたまらないの」


「パンケーキですね。

 日本のスフレパンケーキは海外進出するほど素晴らしいですもんね」


「そうね。よく知ってるわね」


「最近テレビで見たんですよね。

 橋本さんはパンケーキ、作ったことがあるんですか?」


「あります!

 お店には負けるかもしれません!」


「なるほど……

 もしよかったら、橋本さんの作ったスイーツを食べさせてください」


「ふえ?」


「もしよかったら……ですが」


びっくりして変な声が出てしまった。


「ぜひ!食べてもらいたいです!」


男性に自分の作ったものを食べてもらえるなんて、

普通ではありえない。


「それはうれしいです!」


「……でも、男性に食べてもらうの初めてなので……

 ちょっと緊張します」


自分よりも美味しく作れる人がいるんじゃないかと思う。

でも、私が彼のために作るからこそ意味があるんだと思った。


「そうなんですね。

 食べるのが楽しみです」


そんな会話を続けて、食事を終えた。



「橋本さん、これ午後の資料ね」


美夏課長が私に声をかける。

私は慌てて笑顔を作った。


「ありがとうございます!」


声はちゃんと出た。

笑顔も作れた。

でも胸の奥のざわつきは消えなかった。


(私じゃ、だめなのかな)


そんな弱い言葉が、

心の中にふっと浮かんでしまう。


春樹さんが課長の隣に立つと、

二人の距離が近く見えて、

それだけで息が詰まりそうになる。


(……やだな)


自分でも驚くほど、

その感情ははっきりしていた。


嫉妬なんて、もっと醜いものだと思っていた。

でも今の私は、ただ胸が苦しくて、

どうしていいかわからなかった。


(好きだから……だよね)


ようやく、その言葉を認めた瞬間、

胸の奥が熱くなった。

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