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男女比偏極社会  作者: 綾汰


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第3話 朝霧美夏と古郡野々花

周囲の視線を一身に受けるこの私。

こんなに多くの人の視線を受ける経験はなかったため、緊張で体が硬直してしまう。


「名前は?」


「霧崎春樹です」


黒髪ショートカットの美女に名前を聞かれたので答える。

こんなにきれいな人が私が勤める会社にいたのだろうか。

違う部署だったのかもしれない。

だが、この世界はおそらく貞操逆転世界なので、自分の知らないところも含めてすべて変わっている可能性がある。

特に常識の部分が。


「社員証はありますか?」


「はい」


私はカバンに入っている社員証を取り出し、彼女に見せる。


「えーと……これはわが社の社員証と似ていますが、デザインが異なるものですね」


「え?」


私はその言葉に困惑を隠せない。

私はこの会社に5年ほど勤めていて、会社の位置を間違えるはずがないからだ。

だが彼女は訳が分からないというように首をかしげている。


「んー……どうしましょうか」


そう言って彼女は周囲を見渡し、私たちが多くの女性に囲まれていることに気づく。


「とりあえずここは危ないので中に入りましょう」


「は、はい」


とりあえず状況がよくわかってないので半ば呆然としながら、

見知った会社に違和感を持ちながらも入った。

見慣れたはずのロビーが、どこか違って見える。


ロビーを歩き、事務員のいるカウンターに彼女と一緒に向かう。

事務員の一人がこちらに気づき、顔を赤くしながらこちらを見つめている。

彼女がその一人と話す。


「御来客の方ですか?」


「この会社に勤めているという男性ですが、社員証が異なっていまして……」


「え? 男性が勤めている? 何かの間違いでは?」


事務員は困惑しながらも、ちらちらと私を見てくる。

その視線には驚きと、どこか“扱いに迷う”ような気配があった。


「でも彼は本当に働きに来たみたいで……」


「なるほど?? お名前は?」


彼女は頭の中がはてなでいっぱいな様子である。


「霧崎春樹と申します」


と答えた。


「えーと……いったん……こちらのほうで社員名簿を確認してみます」


「お願いします」


(出社したら自分はいないことになっているなんてどんなラノベだろうか)


現実逃避しながら行き先を考える。

周りの反応からして、この会社に男性が訪れるのは至極珍しいと見える。

まして男性が“働く”などもってのほかだろう。

私の仕事はどうなるのだろうか。


「確認しましたが、そのような名前の記録は残っていませんでした」


「そうですか……」


私はこれからどうやって生活していけばよいのだろうか。

……いや、その前に生活は?

無職転生どころか、無職スタートなんだが。


ここの会社にはお世話になっていたから、このままここを立ち去るにはあまりにも惜しい。

ロビーのざわめきが遠く聞こえた。


黒髪ショートカットの美女の名前は朝霧美夏あさぎりみかというらしい。

彼女の名札を見て分かった。

彼女は上司と相談するために受付を離れた。


空いた時間は事務員の方と話すことにした。


「お名前は?」


「ふえ?……古郡野々ふるこおりののかです」


彼女は消え入るような声で、私に名前を教えてくれた。

きれいな黒髪のポニーテールで、清潔感のある事務員の制服が彼女にとても似合っていた。


最近上司の機嫌が悪くて困っているらしい。

その不機嫌が自分に降りかかり被災中であることや、

彼氏を作るために髪をピンクに染めようか迷っていることを話してくれた。


彼女は男性と話す機会が今までであまりないらしく、終始顔を赤くしていた。

だが、一生懸命に楽しそうに話していて、私はそんな彼女にひどく惹かれていた。


彼女の黒髪はとてもきれいで染めてほしくないと伝えたら、

彼女はもとの赤い顔をさらに赤くし、首まで赤くなっていった。


(かわいい)


そんなこんなで、上司との相談を終えた朝霧美夏が戻ってきた。


「上司から、あなたを私の部署で預かるように言われました……すみません、驚かせてしまって」


私は戸惑いながらも頷く。


「いえ……助かります」


彼女は少し安心したように微笑む。


「大丈夫です。私が責任を持って案内しますから」

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