第4話 橋本透香との再会、そして美夏課長の部署へ
「古郡さん、お話楽しかったです。またお会いしましょう」
「はい……」
古郡さんは名残惜しそうにこちらを見つめ、行かないでと言わんばかりの表情をしていた。
(ずっとこの人と話していたいが、美夏さんを待たせるのも迷惑だ……)
断腸の思いでこの場を去り、美夏さんについて行った。
美夏さんに案内されながら、彼女の部署に向かう。
彼女とエレベーターに乗り、二人きりとなる。
彼女がこちらをちらちら見ている気がしたので、彼女のほうを向いたら案の定こちらを見ていた。
目が合うと彼女は頬を赤く染めていたが、あまり態度に変化は表れなかった。
(課長なのに、なんでこんなに意識してしまうの……?)
「あなたを研修扱いで預かります。責任は私が持ちます」
「わかりました。お願いします」
(彼女は優秀な気がするぞ)
「私の部署はこちらです」
そう言う美夏さんに連れられ、停まったエレベーターを降りる。
部署内の女性の視線が私たちに集まる。
そして彼女らがざわつく。
「男性が……本当に……?」
「課長……その男性は……?」
「今日から研修で預かることにしました。皆さん、驚かせないようにお願いします」
美夏課長が淡々と説明すると、部署の女性たちは緊張したように背筋を伸ばす。
しかし、視線は私に釘付けだった。
「そこの空いてる席を使ってください」
美夏課長の示す場所に空のデスクがあったのでそこに向かう。
部署の隅に位置している場所だ。
荷物を置き、椅子に座る。
隣の人を確認すると、どこかで見たことあるような人がいた。
彼女は朝電車に乗る際に後ろから話しかけてくれた人だと思った。
こちらを見て、目を見開いている様子からおそらく間違いないと思った。
「あの……朝にお会いしましたよね」
彼女にそう問いかけると、彼女は赤面し、うれしそうな様子で――
「はい! 私、会いました!(覚えててくれた!)」
「そうですよね!」
「はい! はい!」
彼女に犬のようなしっぽがあったら、ぶんぶん振っていただろう。
(朝もこんな感じだったな……元気で、まっすぐで……)
「お名前は?」
「橋本透香です! よろしくおねがいします!」
彼女は快活な様子で答えてくれた。
その明るい表情は私を照らして明るくしてくれる。
「私は霧崎春樹です。こちらこそよろしくおねがいします」
彼女との挨拶を終えたあと、美夏課長からの指示で、部署内の人間の一員として自己紹介することになった。
立って周りを見ると、視線が集まり、緊張感が高まる。
そして、この部署内に私の知っている人は美夏課長と橋本さん以外には誰もいなかった。
ほかの部署にはいるのかもしれないが、世界そのものの常識が異なるこの世界では、それは望み薄だろう。
嫌いな上司がいなくなるのは清々するものだと思う。
「私の名前は霧崎春樹です。今日からこの部署に研修として配属することになりました」
自己紹介の途中で橋本さんを見ると、素敵な笑顔でこちらにうなずいてくれている。
そんな姿に私の緊張は氷解していった。
「まだなにもわからない状態なので足を引っ張ってしまうこともあると思います。しかし、日々内省し、自らの実力を磨いていくことで、皆さんのお役に立ちたいと思っています。よろしくお願いします!(にこっ)」
私の短い自己紹介が終わると、拍手が起こり、スタンディングオベーションが巻き起こった。
(大げさじゃないかこれ……?)




