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男女比偏極社会  作者: 綾汰


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第20話 新しい日常

「貞操逆転学園」のページを閉じると、

部屋の中が急に静かになった。


(......続きが気になるな)


けれど、今はそれよりも

今日の出来事のほうが頭から離れなかった。


橋本さんの笑顔。

白いワンピース。

名前で呼び合った時間。

夕焼けの海。


(...透香さん、か)


胸の奥がじんわりと温かくなる。


そして、もう一人。


野々花さんの明るい声。

猫カフェの約束。

嬉しそうに送られてきたメッセージ。


(...あの子も、すごくいい子だよな)


二人の余韻が、静かな部屋の中で交互に浮かんでは消えていく。


そのままベッドに倒れ込み、

ゆっくりと目を閉じた。



翌朝、会社に向かうと、

いつもよりざわついた空気が漂っていた。


「おはようございます」


「おはようございます、霧崎さん!」


受付の野々花さんが、

いつもより少し明るい声で挨拶してくれた。

今日のヘアスタイルはヘアアップで、

綺麗な黒髪をもつ彼女にとてもよく似合っていた。


「昨日はありがとうございました!

 また行きましょうね!」


「はい。ぜひ」


その笑顔に、胸が少しだけくすぐったくなる。


「今日の髪型似合ってます」


「あっそうですか? ありがとうございます!」


「素敵です」


週明けにこんなに爽やかな気持ちになったことがあるだろうか。


彼女と別れてエレベーターに乗ってフロアに着くと、

今度は橋本さんがこちらに気づいた。


「お、おはようございます春樹さん!」


昨日の余韻が残っているのか、

彼女の声はどこか弾んでいた。


「おはようございます、透香さん」


名前で呼ぶと、

橋本さんは一瞬固まり、

次の瞬間、耳まで真っ赤になった。


(...かわいい)


そんなことを思ってしまった自分に、

少しだけ戸惑う。



午前中の仕事が落ち着いた頃、

突然フロアの奥から声が上がった。


「ちょっと! 誰か来て!!」


美夏課長の声だった。


慌てて駆け寄ると、

課長のデスクのパソコンが真っ黒になっていた。


「急に画面が消えて...資料が......!」


「落ち着いてください。

 電源は......あ、ケーブルが抜けかけてますね」


そっと差し込み直すと、

画面がゆっくりと復帰した。


「......あっ、戻った......!」


美夏課長は胸を押さえて、

ほっと息をついた。


「霧崎くん.....ありがとう...

 ほんとに助かった...」


その目は、

いつもよりずっと柔らかかった。


(......昨日、橋本さんが言ってた“惚れてる”って話、

 まさか....)


考えないようにしても、

胸の奥がざわついた。



仕事を終えて帰宅すると、

部屋の静けさが一気に押し寄せてきた。


(......俺も、何かを始めたい)


昨日の小百合さんの配信。

「もっと近くで誰かに見てほしい」という言葉。


あれがずっと胸に残っていた。


机の前に座り、

ノートパソコンを開く。


「配信 始め方」

「必要な機材」

「初心者 マイク おすすめ」


検索欄に文字を打ち込むたび、

胸が少しずつ高鳴っていく。


(......俺にもできるだろうか)


不安はある。

でも、それ以上に

“やってみたい”という気持ちが強かった。


小百合さんにメッセージを送る。


「配信の準備を始めようと思います。

 また相談させてください」


数分後、すぐに返信が来た。


「もちろんです!

 一緒に頑張りましょうね!」


その言葉に、

胸の奥がじんわりと温かくなった。


もしかしたら、小百合さんと機材を買いに行くなんてことになるかもしれない。


(...よし)


霧崎春樹の、新しい一歩が始まろうとしていた。

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