第16話 橋本さんとのデート
今日は橋本さんとのデートの日だ。
リラックスするために家の近くで散歩することにした。
散歩をすることで自分の心が落ち着いていくのを感じる。
今日もいい天気だ。
30分ほどで家に帰り、シャワーを浴びて身支度を整える。
スマホを見て、動画配信サイトで小百合さんの動画を見る。
ある動画投稿者と酒を飲みながら雑談するという動画だった。
その投稿者はかなりの酒好きで、笑顔になると眼球が見えなくなり、
口角はきれいに上がっていた。
そんな表情がチャーミングだった。
彼女は整形していることを公言しているが、
ファンは気にせず、彼女自身の魅力やトークの面白さ、
その表情に惹かれているようだった。
綺麗な黒髪がツインテールとなっていた。
前の世界にも似ている人がいたので、
まるで彼女が生まれ変わったかのようだった。
(名前はロラムか……)
彼女たちは今夜酒飲み配信をするらしいので、
橋本さんのデートの後に見るのもいいかもしれない。
時間が過ぎて、橋本さんとの約束の時間に近づく。
緊張感を持ちながら、彼女との待ち合わせ場所に向かう。
道路の曲がり角を曲がると彼女が見えた。
彼女は白いワンピースを着ていた。
清楚で、上品な印象で、彼女にとてもよく似合っていた。
彼女に陽光が当たり、彼女は輝いて見えた。
ちょうど最高のタイミングで彼女を見ることができた。
(きれいだ……)
彼女に近づく。
彼女がこちらに気付き、にこにこしている。
「こんにちは!」
「こんにちは、橋本さん」
「霧崎さん、今日すっごく素敵ですね!」
彼女はぱっと花が咲くような笑顔で言った。
白いワンピースの裾が風に揺れて、
彼女自身もどこか嬉しそうに揺れている。
「え……素敵、ですか?」
「はい! なんか……いつもよりかっこよく見えます。
その服も似合ってますし、雰囲気がすごく落ち着いてて……」
言いながら、彼女の頬がほんのり赤くなる。
主人公は少し戸惑いながらも、自然と笑みがこぼれた。
「ありがとうございます。
でも……橋本さんのほうこそ、今日はすごくきれいですよ」
「えっ……!」
橋本さんは一瞬固まり、
次の瞬間、耳まで真っ赤になった。
「き、きれい……ですか……?」
「はい。白いワンピース、すごく似合ってます。
光が当たると……本当にきれいに見えました」
「……っ」
橋本さんは胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、
嬉しさを隠しきれないように、でも恥ずかしそうに笑った。
「そんなふうに言われたの……初めてです。
ありがとうございます……!」
彼女の声は少し震えていて、
その素直な反応がまた可愛らしかった。
「じゃ、じゃあ……行きましょうか!
焼肉、いっぱい食べましょう!」
「はい。楽しみです」
二人は並んで歩き出す。
その距離は、いつもよりほんの少しだけ近かった。
彼女は、この距離をもっと近づけたいと思っているのだろうか。
私と同じように。
◇
彼女に連れられ、焼肉店に入った。
店に入る前から漂っていた、おいしそうな匂いが私たちを包む。
「いい匂いですね〜」
「そうですね。お腹すいてきました」
店員に連れられて、個室で二人きりとなった。
「なに頼みますか?」
「えっと」
彼女にメニューを見せてもらい、カルビとタンを注文した。
彼女はロースとハラミを注文した。
「楽しみですね!」
「そうですね、楽しみです」
店内に入ってから彼女はずっと上機嫌だった。
店員がいるほうを見たり、時々こちらを見たりして、
ウキウキの表情を私に見せてくれた。
「橋本さんは私が入社してきたとき、どう思いましたか?」
「え? そうですね……」
彼女は少し考えてから口を開いた。
「まさか男性が入社するなんて考えたこともなかったので
すごく驚きました。同僚はみんな驚いていましたよ」
「そうなんですね」
あらためて自分の異常さを再認識した。
「でも、霧崎さんは普通の男性像とは全く異なる感じで……
なんというかとても信頼できるんですよね。
この人と仕事しても大丈夫そうだな、みたいな感じです」
「なるほど」
「この人とずっと仕事したいな、みたいな?」
「……そうですか。それはうれしいです」
彼女の好意がさりげなく感じられてとてもうれしかった。
私の異常さはこの世界で役に立つ。
彼女のおかげでそう感じることができたのだった。
「きっと霧崎さんはもっとみんなから頼られるようになって
私を追い抜いていきそうです……」
「……そんなことはないと思いますよ」
「え?」
「私は橋本さんと仕事ができてうれしいですし、
仕事が楽しいと感じます。
なにより、頼られて一番うれしいと思うのは
あなたですよ、橋本さん」
「そ、そうなんですね」
彼女はうつむいて何も言わない。
彼女の耳は赤色に染まっていた。
店員が注文したものを持ってきた。
私たちはそれらを焼いていく。
しっかりと焼目がついた肉を二人で口にしていく。
「おいしいですね!」
「はい! とっても」
彼女の口に肉が入るたびに、
彼女は微笑み、嬉しそうな表情をする。
「そういえば……昨日のデートはどうだったんですか?」
「え??」
「女の子とデートするみたいな?」
彼女の目は笑っていなかった。
「ああえーと」
「正直に言ってください」
「はい。楽しかったです」
「そうなんですね。
でも今日のデートのほうが楽しいと思いますよ?」
「……」
私は首をかしげながら頷くという
あいまいな返事しかできなかった。
続々と次の肉が運ばれてくる。
全部おいしそうできれいな肉だ。
「ん〜おいし〜」
「おいしいですね」
おいしすぎて頬が落ちそうだが、
限界まで上がりそうな口角により持ち上がり、
私と彼女の頬は落ちない。
「やっぱり、男性が社内にいるかいないかでは
天と地の差がありますよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ!」
「ほう……」
「いいですか? 女性はみんな男性に好かれたいんですよ。
そんな人ばっかりの職場に一人だけ男性が入ってきたら
どうなると思います?
みんな大盛り上がりで、出力最大ですよ!」
「そうなんですね……」
「そうですそうです。
それに霧崎さんみたいな素敵なひとだったら
みんな普段より頑張りますよ」
「なるほど……」
「美夏課長だって、慣れない男性に対しては
たじたじというかぎこちないけど、
普段より頑張っている気がします」
「あーそうなんですか? やっぱり?」
「ええ、たぶん惚れてますよ、霧崎さんに!」
「ええ? ほんとですか?」
「たぶんですけど……わかりますよ」
「……」
(美夏課長が私に惚れている……?
そんな証拠はないとも言い切れない……)
「霧崎さんモテそうですよね」
「……そうですか? 恋人はいたことありませんよ?」
「……え? いたことないんですか? 意外です」
「はい……」
「彼女さんがいると思ってました」
「いえ、いません」
「そうなんですね……」
橋本さんは少し嬉しそうだった。
(こんなふうに誰かに好かれるのは、いつ以来だろう)
「そういえば焼肉食べた後はどうするんですか?」
橋本さんに今後の予定を聞く。
「んーと、水族館にいきます」
「なるほど」
彼女との水族館は楽しそうだ。
注文した肉をすべて食べ、会計のあと、
橋本さんと店を出た。
「おいしかったですね!」
「はい! とても」
「水族館……霧崎さんと行くの、ずっと楽しみにしてました」
これからは徒歩とバスで水族館に向かうらしい。
どんな時間を彼女と過ごすのだろうか。
これからが楽しみだ。




