95「なんか私たちノイレンに上手いこと乗せられてない?」
ナディアを完膚なきまでにこてんぱんにした翌日の午前中、ノイレンの姿はまた支部の中庭にあった。
「そうじゃないよ、こうだよ、こう!」
ノイレンは抜き身のネオソードを振り回しながらナディア相手にぶっきらぼうな言葉づかいで剣舞を教えていた。
「こうか?」
ナディアは両手に剣を握りながら、ノイレンの指示通りに振りを真似て一連の流れをその身体に覚えさせていた。
「そうだよ、そうそう。やりゃできるじゃん。やっぱ、剣術やってるだけあって型を覚えるの早いし、剣の振り方もいいじゃんか。」
ノイレンは剣を逆手に持ち替え両手を腰に当ててナディアを誉めた。それを目にしたナディアは眼光鋭く、すかさずそこに斬りこんできた。剣と剣がぶつかり合う金属音が中庭に静かに響く。
「へっ、そんなんでわたしを斬れるかってんだ。」
ノイレンは手首をひねってナディアの剣を流すとまた両手を腰に当てた。
「今に見ていろ。そのしたり顔を苦痛で歪ませてやる。」
ナディアは不意打ちをまるで楽しんでいるかのような笑みを浮かべて習ったばかりの剣舞の型をおさらいした。
その様子をサフィアは少し離れたところにあるベンチに腰かけて見ていた。
「なんでこんなことになってんのよ。監査の仕事もあるってのに。」
膝に肘をついて頬杖をつきながら面白くなさそうに、ぶすっとした表情で眺めている。
時折ナディアはノイレンの隙を突いて不意打ちを喰らわす。ノイレンはそれをひらりと躱しながら剣舞を教えている。とても楽しそうだ。これを始めた時からずっとノイレンは笑顔のまま。それがサフィアには気に入らない。
「私と監査の仕事してるときはつまんなそうなくせに。」
ナディアもナディアでノイレンの隙を狙いつつも、未知の剣舞に少し惹かれているのか、まんざらではない様子なのがまた気に入らない。
「姉さんもなんなのよ。昨日はあれだけ殺してやるとか言ってたくせに。今朝『わたしの隙を突けるなら突いてみな』っていわれてすっかりその気になってるし。」
そしてかくいう自分も監査の仕事があるというのに、「二人で一緒に剣舞をやってもらう」というノイレンの言葉に抗うこともできず、なぜかここにいる。
「なんか私たちノイレンに上手いこと乗せられてない? 東方じゃ確か、手のひらの上で踊らされるっていうんだっけ。まさか、それで剣舞?」
二人の楽しそうな様子を眺めながらサフィアは昨夜のノイレンとのやり取りを思い返していた。
東方料理屋でノイレンが熱々のカレーをいきなり頬張って口の中を火傷しかけながらも、美味い美味いと平らげたときの会話。
「殺られる前に殺る。よくよく考えてみると確かに違うわね。あなたのお師匠さんはいいこと言うじゃない。」
「もご、だろ。はふはふ、もご、」
「ちょっと口の中に入れたままでしゃべらないで頂戴。行儀悪い。」
サフィアはワインの注がれたジョッキを傾けてノイレンを見た。ノイレンは胸をドンドンと叩いて胃に落とす。頬張りすぎだ。
「それにしてもどうすればいいんだろう、姉さんのこと。」
するとノイレンはニカっと笑って握っているスプーンをサフィアに向けて差し出した。
「わたしにいい考えがある。」
「ちょっと、汚いでしょ、もう。」
サフィアは顔をしかめつつノイレンの次の言葉に期待した。
「なによ、いい考えって?」
「へへん。ダンスするんだよ。」
ノイレンはしたり顔で答えた。
「何を言うかと思えば。聞いた私がバカだったわ。」
サフィアはノイレンから目をそらしてワインをがぶっと喉の奥に流し込んだ。
「わっ、待って、まだ続きがあんだよ。ダンスはサフィアとナディアの二人でやるんだ。わたしは教えるだけ。」
「はいぃ?!」
サフィアは流し込んだワインを吐き出しそうになるほど驚いた。ジョッキをドンとテーブルに叩きつけて、大きな声を出してしまった。一瞬店内が静まり返り、周りの人たちがサフィアに注目した。
サフィアは頬を赤くしてテーブルに身を乗り出すと、一転して囁くように小さな声でノイレンに詰め寄った。
「私と姉さんでダンスするって何? どういうこと?」
ノイレンも思わずつられてテーブルに身を乗り出し、サフィアと鼻が付きそうなほど顔を寄せて小声で囁いた。
「ユニゾンだよ。ユニゾン。」
「ユニゾン?」
「そう、二人で動きを合わせて踊るんだ。こいつは二人の息が合わないと難しいんだぜ。踊っている最中なんか相手の息遣いとかを感じないとできないんだ。」
サフィアの鼻がノイレンの鼻にさらに近づいた。
「私と姉さんがそんなことして何の解決になるってのよ。そのユニゾンとかってのができたら姉さんが支部の乗っ取りをあきらめて協力的になるって言うの?」
「そのとおり!」
ノイレンは自信満々の笑顔だ。サフィアは姿勢を戻すと改めてノイレンを半目でジトっと見た。
「言ってくれるじゃない。ユニゾンがうまくいったらどういう心境の変化が起こるってのよ?」
「それはできてからのお楽しみってことで。さっそく明日からやろうぜ。」
サフィアは「はああ~」と、深く長いため息をついた。気が乗らないどころか気が滅入る提案だった。
そして今朝、ノイレンはいつものように彼の地でニワトリ目覚ましがその美声を披露する時間に起きると一人で走りに出かけた。正確には王都からついてきたわんこたち三匹も一緒だ。一人と三匹は冷え込みのキツイ早朝の澄んだ空気に包まれたキニロサの街を白い息で駆け抜けた。
戻ってくるとまだ寝ぼけているサフィアの手を引いて、そのままナディアの私室へ向かった。
「ちょちょちょ、待って。まだ髪も梳いてないのよ。こんなボサボサのままじゃ恥ずかしいじゃないの。」
「大丈夫、気にすんなって。」
「いやだ~、あなたと一緒にしないで」と抵抗するも、意外とノイレンの力は強かった。自分の手を引っ張る彼女の手を振りほどくこともできず、しかも寝巻のままだというのにナディアのもとまで連れていかれた。
ナディアの私室に着くとサフィアはぶすぅと膨れて、ナディアと目を合わせることもなくドアのところに立ちすくんだ。
「なんだお前ら。こんな朝早くから何の用なんだ。」
ナディアはすでに起きていて身支度も済んでいる。そればかりか部屋の中で素振りをしていた。ノイレンは仏頂面のサフィアをおいてトコトコとナディアに近づいていき、目の前まで行くとニカっと笑った。
「あんたに剣舞を教えてやるよ。中庭に来い。」
突然のことでナディアは鳩が豆鉄砲を食ったように沈黙した。どのくらいの間部屋の空気が固まっただろう、それを打ち砕いたのはノイレンだ。
「剣舞を教えている間、わたしの隙を突けるならいつでも突いていいぜ。そのかわりわたしも黙ってやられやしないからな。返り討ちにされても文句言うなよ。」
飄々と話すノイレンにナディアは口角を上げた。
「おもしろい。お前を殺れるならその話乗った。」
ナディアは剣を鞘に納めるとノイレンを見据えてニヤリと笑んだ。
「よしさっそく行こうぜ。」
ノイレンとナディアは連れだって中庭に向かい始めた。
「ちょちょ、待ってよ。私は一旦戻って支度してくるから!」
サフィアは二人の背中にそう叫ぶと足早に自室に戻っていった。
そして今。
終始笑顔のノイレンと、剣舞を覚えつつ隙を狙うナディアをサフィアはベンチに座ったまま眺めている。
「サフィア! いつまでそこに座ってんだ、早くこっち来いよ。」
ノイレンがナディアに背を向けて手招きしている。サフィアはノイレンのようにぷうと頬を膨らませて拒否したくなったが、彼女のことをフグとバカにした手前、自分がフグになるわけにもいかず、ぶすぅとした表情のまま立ち上がった。
「あっ! 危ない!」
サフィアのほうを向いて手招きしているノイレンのうしろからナディアが襲い掛かってきた。サフィアが叫んだ次の瞬間ナディアの剣が宙を舞った。
「へっ、わたしがうしろを向いたからって分かんないと思ったんなら甘いぜ。どんなときも相手から目を逸らすなってのが師匠の教えだ。」
ノイレンはニカっと笑ってナディアの悔しそうな目を見た。
「くそっ、また師匠の教えか。なんて師匠だ。」
ナディアは剣を拾うとまた剣舞の練習を始めた。
「あなたうしろが見えてるの?」
サフィアはノイレンのもとまで来ると目を丸めながら訊いた。
「まあね。」
ノイレンは人差し指で鼻をさすった。そこへまたナディアの剣がスっとノイレンの頭を狙って迫ってきた。ひょいとしゃがんでそれを躱すノイレン。
「きゃあっ、」
ノイレンが躱したものだからその剣先がサフィアの鼻先をかすめるようにすり抜けていった。
「あ、危ないでしょ、姉さん!」
「そうだぞ。丸腰の相手を斬っちゃいけないぜ。」
「すまん。」
ナディアの素直な謝罪にサフィアは違う意味でまた驚いた。
「ナディア、そのダガーをサフィアに貸してやってくれよ。剣舞は一本ありゃできるからさ。」
ノイレンがナディアに尋ねると彼女は即拒否した。
「お前の剣を貸してやればいいだろう。」
するとノイレンはまたまたニカっと笑った。
「それだとわたしが丸腰になるぜ。」
「くっ。」
ナディアは渋々左手のダガーを妹に差し出した。
「あ、ありがとう。」
サフィアはそれを受け取ると、鈍色の光を放つその刃に少し恐ろしさを感じた。
「きちんと扱えば剣は怖くないよ。それにそれは短いからサフィアでも振れるでしょ。」
ノイレンは不安そうなサフィアのそれを払拭するように、自分の剣を手首を回して振りながら笑顔を向けた。
サフィアに手取り足取り教え始めた。彼女の腕を掴んで固定し、足をサフィアの股の間に入れて彼女の足を開かせる。
「そうそう、手はそう動かす、そんでもって足はこうな。もちっと開いて、そうだ。」
ところがサフィアは活発そうに見えてどうも体を動かすのはあまり得意ではないようだ。ナディアほど飲み込みがよくない。
「こうかしら?」
「うん。そのまま流れるように動いてみて。」
サフィアはノイレンに言われるまま動くがどうもぎこちない。流れが淀んでいる。
「流れるように動くんだよ。そんでもちっと腕を上げて。そんなに下がってたらみっともないよ。」
その様子をナディアはじれったく見つめていた。サフィアの手足を取っているノイレンは自分の剣を鞘に納めている。それに覚えの悪いサフィアに教えるのに気を取られ、こちらのことは忘れているようにも見える。実に隙だらけだ。襲うなら今だが、下手をするとサフィアを傷つけてしまうかもしれない。狙いはあくまでもノイレンだけ。妹を傷つける気は毛頭ない。
「サフィア! そのくらいすぐに覚えろ。黒髪に仕掛けられないだろうが。」
ナディアは痺れを切らした。
「ごめん姉さん、でもよくわかんないんだもの。」
「お前運動神経は良さそうなのに、なんてザマだ。私の動きをよく見てみろ。こう動くんだ。」
ナディアが流れるように滑らかな動作を披露した。
「すごい姉さん。もうそんなに動けるなんて。」
「大したことはない。お前もやればできるはずだ。」
「ナディアの言うとおり。姉ちゃんにできて妹にできないわけないだろ。」
サフィアはまたフグになりたいと思った。
そんなこんなで気が付くとノイレンの腹時計が昼を告げた。支部で働く者たちが中庭に出るドアのところや、二階の窓からちらちらと3人を見ている。
「腹減ったなあ。朝からなんも食ってないしな。よし、今日はここまでにしよう。」
ノイレンはぐぅぐぅと鳴く腹の虫をなだめるように腹をさすった。
「そうよ、監査の仕事まだ全然進んでないんだから。」
サフィアはダガーをナディアに返した。ナディアはそれを受け取り鞘に納めるとノイレンに目を向けた。
「命拾いしたな黒髪。明日こそお前を殺ってやるぞ。」
「へっ、楽しみにしてるぜ。」
ノイレンとナディアはお互いに見つめ合い、不敵な笑みを浮かべ合った。それを眺めるサフィアは心の中で三度フグになった。
会議室の中にパチパチというスワンバンの珠が弾かれる音だけが静かに響いている。
「なあ、これが終わったら散歩してきていいか?」
帳簿と書類の数字を突き合わせて睨めっこしているノイレンは目を上げてサフィアを見た。
「いいわよ。ちゃんとその山を片付けたならね。」
サフィアは帳簿の数字から目を離さず、スワンバンの珠を弾きながら答えた。
「よしっ、じゃあ行ってくる。」
「ちょっと、まだ終わってないじゃないの。」
「へへん、もうそこまで終わってるよ。」
ノイレンは人差し指で鼻をさすってドヤ顔になった。するとサフィアは半目になった。
「本当に散歩でしょうね?」
「なんだよ?」
「散歩とか言って本当は酒場に行く気じゃないの?」
「あはは、そ、そんなこと、あるわけないじゃん。あはは・・・」
サフィアの半目の目じりが吊り上がっていく。ノイレンはサフィアから顔を逸らした。その目が泳いでいる。
「さっさと帰ってらっしゃい。」
サフィアはため息をつくとまたスワンバンを弾き始めた。ノイレンは足音を立てないようにそろそろと会議室から出ていった。
「危ね危ね。すっかり見透かされてんな。」
アデナで禁止令を出されて以降、一人で酒場に出入りするのは未だ許されていない。廊下に出たノイレンは会議室のほうを見て呟いた。
『ごめんよ。これも計画のためなんだ。』
表に出ると王都からついてきたわんこたちがしっぽを振って待機していた。
「よしよし、一緒に行こう。お前たちも酒場を探してくれ。ステージのあるところな。」
そんなこと犬に言ってもわかるわけないのだが。
ノイレンが跨る馬さんのうしろをしっぽを振りながらわんこたちが付いてくる。ノイレンは馬上でキョロキョロと通りの左右にある建物の看板に目を光らせていた。
「昨夜のお店にステージがありゃ良かったんだけどなあ。」
昨夜食べたカレーにうしろ髪を引かれながら呟いた。
二時間ほどもするとノイレンは笑顔で支部へ戻ってきた。
「ただいま!」
「随分のんびり散歩してたのね。飲んでないでしょうね。」
サフィアはスワンバンを弾く手を止め、「おかえり」の代わりに疑うような目でノイレンを見た。ノイレンはニコニコしてるだけで答えない。
「飲んだわね。」
サフィアは半目になった。ノイレンの頬に冷や汗が一つ。
「それよりサフィア、あんたらのデビュー日が決まったぜ。」
それをごまかすかのようにノイレンは唐突に切り出した。
「は??」
豆鉄砲を喰らったサフィアは目が点になった。ノイレンはその彼女に向かってニカっと笑った。
「あんたら姉妹のダンスデビューだよ。一週間後の夜。こっから馬でちょっと行ったところに酒場があんだよ。さっき話つけてきた。」
サフィアは勢いよく立ち上がってノイレンに詰め寄った。鼻だけでなく、胸までくっつきそうなほどにずずいと迫った。あまりにも近すぎてノイレンは背中を反らせた。
「デビューってなに? 話つけてきた? なんのつもり? あなたいったい何考えてんの?」
あまりの驚きにサフィアはそれしか言葉が出てこなかった。そのまま固まっているサフィアの肩にノイレンは薬指の長いその手をぽんと乗せた。
「ただ練習するより、目標があると張り合いが出るじゃん。そういうことだから。それまでに姉ちゃんとユニゾンできるように頑張ってくれ。じゃ、ナディアにも知らせてくっから。」
茫然自失の四文字が頭と胸の中に大きく膨らんで、それ以外の言葉と感情が全部そこから締め出されたようにサフィアは感じた。そんなサフィアをまったく気にも留めずノイレンは意気揚々と会議室から出ていった。
ナディアの執務室。
ノイレンが笑顔で中に入って間もなく部屋の中からナディアの絶叫のような叫び声が轟いた。
「なんで私がサフィアと酒場でダンスせねばならん! ふざけるな! なんのつもりだ! 何を考えてるんだお前は!! 今すぐ叩き斬ってやる!」
ナディアは背後のハンガーに掛けてあるブロードソードを素早く抜いて、執務机の向こう側にいるノイレンに突き付けた。しかしノイレンは怯みもせずニカっと笑い返した。その笑顔がナディアの神経をさらに逆撫でした。
「ぶち殺す。」
ナディアのブロードが弧を描いてノイレンの首に吸い寄せられていく。ノイレンはひょいとしゃがんで躱した。
「動くなっ!」
ナディアは執務机を乗り越えるとブロードを左右に激しく振りノイレンを追いかける。ノイレンはつま先立ちの軽やかなステップで執務室の中をちょろちょろと逃げ回った。
「だめだよそんなに激しく振っちゃ。それじゃ剣舞じゃねえよ。朝教えたろ、もっとたおやかに動かないと。」
「これは剣舞ではない!」
ナディアは鬼の形相でノイレンを追いかけまわす。
「一週間しかないんだから練習しろよ。」
ノイレンは逃げ回りながら笑顔で返すから余計にナディアの神経が逆撫でされた。
「いいかげんにしろ!」
ナディアはソファの背に足をかけると飛び上がって剣を振り下ろした。けれどもそこにノイレンの姿はない。ブロードが弧を描いている間にひらりとナディアの背後に回り込み、彼女の背中に手刀を当てた。
「わたしの勝ち。死にたくなかったら言うこと聞いてもらうぜ。」
「からかうのもたいがいにしろ!」
ナディアは剣を左に持ち替えて、そのまま背後にいるノイレンめがけて横に大きく振った。ノイレンはぴょんとバク転して逃げた。
「からかってなんかいねえよ。」
「どこがだ? 私にサフィアと公衆の面前でダンスしろということのどこがからかってないというんだ。」
ナディアがソファ越しに向けてくるその目がとても険しい。ノイレンはそれをものともせず受け止めて言い返した。
「あんた言ってたじゃないか。サフィアが生まれたとき可愛がってたって。」
「それは昔の話だ。」
ナディアはソファの向こうからノイレンを斬ろうと、また右手に剣を持ち換えて振った。ノイレンは上体を反らしてそれを躱すと続けた。
「あんたが恨んでいるのはサフィアのお母さんだろ。サフィアには関係ないじゃんか。小さかったサフィアがあんたになんかしたってのか?」
ナディアはソファに上がると、背もたれに手をかけて身を乗り出した。
「あいつはいつも私のあとを付いてきてただけだ。」
ノイレンはナディアの鼻に自分の鼻が付くほどぐいっと顔を近づけた。
「だろ? だったら、サフィアとは仲良くしろよ。」
「なぜそこまでサフィアに肩入れする? お前には関係ないだろう。」
「サフィアはわたしの初めての友達だ。だから力になりたい。」
「私の知ったことか!」
ナディアは腕をうしろに引くと、ブロードをノイレンの胸めがけて突き出した。キィンと刃同士がぶつかり合う音が響き、ナディアはそこで動きを止められた。
「そんな怒りに任せて振ってたら勝てるもんも勝てないぜ。」
ノイレンが剣を抜いてナディアのブロードを受け止めていた。ナディアはこれ以上ないくらいに眉と目を吊り上げてノイレンを睨んだ。
「文句あんならわたしに勝ってから言えよ。それまではサフィアと一緒に剣舞やってもらうよ。いいな?」
「・・・勝手にしろ!」
ナディアはどうやっても勝てなくて、自分が"蛙"になった気分で悔しかった。
次回予告
ナディアとサフィアの二人を掌に乗せたノイレン。一週間はあっという間に過ぎ去り、二人がダンスを披露する日がやって来た。その間虎視眈々とノイレンを狙いつつダンスの練習に打ち込むナディアは、姉としてサフィアの面倒を昔のように焼き始めた。少しづつ二人の心境も変化していった。そしてダンス当日。ノイレンもまたその実力を魅せつけるのだった。
君は彼女の生き様を見届けられるか。
次回第九十六話「言い得て妙だな。」




