93「まだだ、まだ終わらんよ!」
ある日のシャルキーズカバレ。
ノイレンに任せていたことも自分でこなすシャルキーは忙しい。休む暇もないほどに店内を行ったり来たり歩き回っていた。の、はずなのに、なぜかこの日は店内を回りながらちょくちょくアニンのそばへやってきていた。
トレランスがいなくなった後もそれまでと同じように、仕事帰りに同じ場所でビールをちびちび飲んでいるアニン。彼女の目には幻が見えているのかもしれない。今夜も一人で静かに思い出に耽っていたのにシャルキーがそれを邪魔する。
「なんですのさっきから。今夜はよくここへ来ますけど、私に何か御用でも?」
普段シャルキーはあまりアニンに近づいてこない。アニンも注文はチーフに直接しているから、まずシャルキーに声をかけることがない。二人がお互いにスルーしてるのはチーフも暗黙の了解として受け入れていた。
「いや、なにね。ほら、つまみがなくなってるよ、何か食べたいものあるかい?」
「結構です。年末からずっとあまり食欲ありませんの。」
「そうかい。じゃビールのおかわりはどうだい?」
「それも結構ですわ。まだありますもの。」
アニンはジョッキを持ち上げて軽くゆすってみせた。
「そうかい。それはなによりだ。」
そう言いながらもシャルキーは他所へ行こうとしない。トレランスの定位置だったところに立ち、店内を見回している。
「もうなんですの。そこに立たれるとあなたの背中しか見えないじゃないですか。どいていただけません?」
「ん? ああ、悪かったね。」
シャルキーはそう言うとアニンのうしろに回り込んで彼女の背後に立った。アニンはカチンときて、くるんと体の向きを変えるとシャルキーに面と向かった。うしろ髪の大きな二本の三つ編みが少し遅れてついてくる。
「私に文句があるならはっきりおっしゃっていただけます?」
「いや、別に、そういうわけじゃ、」
シャルキーが言葉を濁すように言い訳をしていると、そこにヨセフがジョッキ片手にやってきた。
「お二人さん、親子げんかはやめて仲良く飲もうぜ。へへへ。」
「はあ誰が親子ですか!? もし先生がここにいらしたら冗談はヨセフっておっしゃってますわ。」
「本当だ。この女と親子だなんて、あんた出禁にするよ。」
シャルキーにいつもの調子が戻ってきた。
「おいおい、なんだよもう。二人が喧嘩してるようだからトレランスの代わりに仲裁しにきたってのに。」
「あなたじゃ先生の代わりは務まりませんわ。」
「そのとおり! あんたには無理だね。」
気を遣ってくれたヨセフに二人してケチをつけた。とんだとばっちりだ。
「へいへい、どうせ俺にはヤツの代わりはできねえよ。」
ヨセフは肩をすくめて自分の席に戻っていった。その背中をアニンはぷくっと頬を膨らませて睨み、シャルキーは腕組みをして見やった。
「で、いったいなんの用ですの?」
アニンは頬をしぼませるときつめの視線をシャルキーに向けた。
「私に言いたいことがあるならはっきり言ってくださるかしら。」
シャルキーは腹を括ったように深呼吸を一回すると切り出した。
「ノイレンから手紙はまだこないのかい?」
身構えていたアニンは心の中でずっこけた。
「何かと思えばそんなことでしたの。残念ですがまだですわ。」
アニンはそっけなく返事した。それを聞いたシャルキーは落胆し一気に表情が暗くなった。
「そうかい。悪かったね。」
肩を落とすシャルキーの様子を見たアニンはさすがに罪悪感を感じて言い直した。
「こないだのを出してすぐに王都に発ったとしても、アデナから王都までは10日。王都からシェヒルまでは7日ほどかしら。仕事が順調に捗ったとしても、次の(手紙)が届くのに早くても3週間はかかるでしょうね。ですからもしも(仕事が)手間取ったりすればさらに遅れますわ。首が伸びる気持ちはわかりますけど、もう少し待ってあげてくださいな。届いたら真っ先にあなたに読んで差し上げますわ。」
この時代に郵便制度はない。手紙を届けるには誰かそのあたりへ行く人に頼むしかなかった。いつ届くかはその人次第なところもあった。
無言で立ち去ろうとしたシャルキーの背中にアニンはもう一度声をかけた。
「ノイレンならきっと大丈夫ですわよ、便りがないのは元気な証拠と言うじゃありませんか。」
「・・・ありがとうよ。」
シャルキーはふと足を止め、ちらりとアニンを振り返って寂しげな笑顔を見せると厨房へ戻っていった。その背中が小さく見えた。
『もうノイレンたら、さっさと手紙をよこしなさいよね。いくら便りがないのは〜って言ってもこれじゃあね。』
アニンは胸元の短い三つ編みを指先でくるくるいじりながら、先が思いやられるとため息をついた。
厨房に戻るシャルキーの心の中にヨセフの言った「親子げんか」が引っかかっていた。
『親子げんか・・・か。そんな風に見えたのかね?』
シャルキーはかつて産んだ性別も分からない我が子に思いを馳せた。厨房に入る際ちらっとアニンに視線を送った。アニンはシャルキーの子どもと年が近い。どんな大人に成長したか、いや、できたかもわからない我が子の姿をアニンに重ねた。少し親近感を覚えた。
キニロサの街。カーツォ商会の支部長ナディアの執務室。
ノイレンは両手に抱えていた帳簿をドンと机の上に置くとナディアに向かって詰め寄った。
「とぼけんなよ。わたしが見たって帳簿の数字がおかしいことくらいわかるんだぞ。」
「これは驚いた。お前数字が読めのか。サフィアが相棒というわけだ。」
傍目にはのほほんととぼけているように見えるナディアだが、彼女の目の奥がかすかに光った。サフィアはまだそれに気づいていないようだ。
「ここへ来る前、あちこちのお店を回って相場を調べてきたんだ。言い逃れはできないぜ。」
ノイレンは机に手をつくとぐいっと顔をナディアに近づけて、彼女の瞳の奥を穴が開くほどに見据えた。
しばしの間黙ってノイレンの目の奥を見返していたナディアは椅子の背もたれに体を預けると両手を上げてぐうんと伸びをした。
「あー、やめやめ! あほらし。」
それまで澄ましていたナディアの態度がいきなり変わった。伸ばしていた腕を下して胸の前で組むとキリっと目に力を込めてノイレンとサフィアの二人を見た。
「そのとおり、ごまかしてる。認めてやるよ。」
「姉さん!」
サフィアも机に手をつきナディアに詰め寄った。
「ここを乗っ取って何をするつもりなの? 返答次第ではたとえ姉さんといえど、」
「お前に話したところで無駄だ。両親の下でぬくぬく育った奴にはわかるものか。」
ナディアは腕組みをしたまま顎を引いて吐き捨てるように言った。
「なによそれ! 私にはわからないってどういう意味よ。」
サフィアは机越しに身を乗り出して今にも掴みかかりそうな勢いで声を荒げた。
「そのままの意味だ。こんな単純な言葉も分からないのか?」
ナディアは腕組みをしたまま涼しい顔で挑発するような返答をした。サフィアは眉をしかめ、悲しそうな色を浮かべた。
「父さんから会長代理を任されるようになって、これからは姉さんと一緒にやっていけると思ってたら、こんなことするんだもの。なんでなの?」
少し目が潤んできたサフィアの肩をノイレンがぽんと掴んだ。
「なによ。」
「落ち着けって。」
サフィアをなだめるとノイレンはナディアに目を向けた。”ぬくぬく育った奴”という一言がノイレンの心に引っかかった。
「あんたの言い分がわかるかどうかわかんないけど、聞かせてくれよ。聞かなきゃわかるもんもわかんないからな。」
ナディアはふんっと鼻で笑いとばした。
「同情なら無用。そんなもん四分一銀にもならないからな。」
四分一銀とは四等分した銀貨の欠片一枚のことだ。それがあればどこの店でもビール1杯は飲めた。
「へえ、おもしろいな。」
ニヤリと口角を上げたノイレンにナディアはピクリとこめかみを上げた。
「ノイレン、とか言ったか。お前何のつもりだ? 私に喧嘩を売る気ならやめたほうがいいぞ。こう見えても私はもう10年以上剣術をたしなんでいる。お前じゃ相手にならんだろうよ。」
「へええ! そりゃいい。ぜひ手合わせしようぜ。強いやつとやるのは楽しいからな。わたしが勝ったら話してもらうぜ。」
「ちょっとノイレン、なに勝手に話を進めてんのよ。」
横にいるサフィアが主導権を握ろうと割って入ってきた。ノイレンはサフィアを横目で見るとニカっと笑った。
「サフィア、こういうやつはこてんぱんにされないとわかんないぜ。」
このノイレンの物言いにサフィアが反論するよりナディアが先にキレた。
「表に出ろ。その減らず口へし折ってやる。」
「そうこなくっちゃ。わたしはここでもいいぜ。」
ノイレンは一歩うしろに下がると膝と腰を軽く曲げて右手を柄に近づけた。
「表で勝負だ。支部の中庭なら誰にも邪魔されん。」
キニロサ支部の建物は表から見えた三階建てと二階建ての二棟だけではなかった。そのうしろにも渡り廊下でつながる二階建てが二棟あった。裏側の二棟もそれぞれ意匠が異なる。一つは屋根に大きなタマネギが載っているような建物。もう一つは柱や壁の縁の装飾がカラフルで豪華な造り。出入口の枠が四角ではなく鍵穴のように上部分が円形で下が垂直な直線。表側のと同じく屋根は瓦葺きでてっぺんにシビが載っている。その四棟が中庭を囲うように建っていた。
商会が扱っている製品の中には隊商が持ち帰ってくる諸外国の物もたくさんある。それらに感化された先代の支部長が増設に増設を重ねた結果こうなった。そして渡り廊下の下、一階部分には目隠しの壁があり外からは中庭が見えないようになっている。
ナディアに案内されてその四棟に囲まれている四角い中庭にノイレンたちはやってきた。中庭にはセンス良く様々な鉢植えが飾られている。2か所にベンチが設置されていてそこに座ると庭の眺めが目に心地よい。四角く切り取られた空が箱庭感を高め、知る人ぞ知る場所という印象を強くした。
「ここなら誰にも邪魔されん。存分に叩きのめしてやる。」
ナディアは執務室のハンガーに掛かっていたソードベルトを腰に巻いた。左に片手タイプのブロードソード、右にダガーが装着されている。ノイレンはぐるっと中庭と周りを囲む建物を見回してからナディアを見た。
「そんなこと言って、あんたが危なくなったら支部の人が止めに入るんじゃないだろうな。」
「そんなことはさせん。もっともお前が危ういときは止めてもらったほうがいいかもしれんがな。」
「へっ、ほざきやがれ。」
ノイレンは剣を抜くといつものように構えた。ナディアは両腕を前で交差させて二本の剣を抜いた。
「へえ、二刀流ってやつか。前に師匠と立ち合い行脚してたとき一度だけ相手したことあるぜ。」
「それは良かった。あっさり勝負がついては面白くないからな。少しは楽しませてくれよ。」
ナディアは自信に溢れているのか、それともノイレンを挑発して冷静さを欠こうとしているのか、実に挑戦的だ。
サフィアは中庭につながる出入り口のところから二人を見ている。どうしても庭に出ることができずにいた。
「ノイレン・・・」
「心配すんな。」
「でも、」
「サフィア、あんたには悪いけどあんたの姉ちゃんこてんぱんにするぜ。」
ノイレンがサフィアに話しかけてるとナディアが襲い掛かってきた。
「おしゃべりはそのくらいにしろ!」
まっすぐノイレンに向かって突進してきた。間合いに入る直前右手を横から大きくスイングさせた。ノイレンの横っ腹を叩く気だ。ノイレンは手首をひねり剣を回転させてそれを受け流した。
「かかったな!」
ナディアのブロードソードを弾いてがら空きになったノイレンの右側に向かって、ナディアは左に握ったダガーを突き込んできた。
「そんなの喰らうかよっ。」
ノイレンはつま先立ちでくるんと体を回転させてその場から離れダガーの攻撃を躱した。
「ちっ、すばしこいな。」
「次はこっちからいくぜ。」
ノイレンはナディアの腕を見ようと真っ向から斬りかかっていった。素早く彼女の懐に入り込み、ナディアの首を狙ってネオソードを回転させた。ナディアがそれをダガーで防ぐと、ノイレンはくるんと時計回りに体を回しつつ、膝を曲げて態勢を低くしてナディアのウエストを狙った。今度はブロードソードを逆さにして彼女は自身を守った。ノイレンはすぐさま反時計回りに体を回転させて彼女の左脇を攻撃する。ナディアはそれを二本の剣をクロスして受け止めた。
「やるじゃん。」
3本の剣がギリギリと音を立ててせめぎ合う。
「私を舐めるなよ。」
「へっ、舐めてなんかいないさ。」
ノイレンはさっとうしろに飛び退いた。つま先が地に着くのと同時に膝のバネを使ってナディアの足元に飛び込んで下から斬り上げた。
「なんだとっ、」
ナディアはまた両手の剣をクロスさせて防ごうとしたが、ダガーは彼女の手を離れ、くるくると宙を舞い少し離れたところに落ちた。ノイレンの剣はかろうじてブロードソードで防いでいる。
「これで同じ一刀流だな。」
ノイレンはまたうしろに飛び退くと剣を構え直した。ナディアは剣を握る右手に左手を添えるようにして正面に構えた。
ナディアはちらと目だけ動かしてダガーを探した。しかしダガーまで距離がある。飛んでいって拾うにもその間にノイレンに背中を斬られる。
ナディアはダガーを拾いに行くのを諦めてまっすぐに突っ込んできた。右手を振りかぶり、ノイレンの脳天を割るように振り下ろした。それをノイレンがひらりと右に避けて躱す。すかさずナディアは鋭角に曲げた左肘を前に突き出し、腰をひねってノイレンのみぞおちを深くえぐるように突き上げた。
「うげっ、」
息の詰まったうめき声を発してうしろに吹っ飛んでいくノイレン。ナディアの肘鉄をもろに喰らってしまった。じんじんと肋骨が痛む。
「くっ、」
よろめきながらも体勢を立て直し剣を構えるノイレン。左手で胸の下をさするように押さえた。
「ふん、お前が躱せるのは剣だけらしいな。」
ナディアは鼻を鳴らし、にやりと笑みを浮かべた。そのまま右腕を前に突き出し、ノイレンを牽制するように構えながら少しずつ位置を変えていくナディア。ダガーを拾うつもりだ。ノイレンはそれに気づきながらも阻止することをせず、ナディアの動きを見守った。
ナディアの左足にダガーが当たった。そこで一旦動きを止めたナディア。ノイレンはじっと彼女を見ている。ナディアは左足のつま先でダガーの柄とガードの間を踏みつけて弾き、足の甲に乗せたダガーをそのまま真上に蹴り上げた。舞い上がったダガーはスっとナディアの左手に納まった。
「これでまた二刀流だ。」
ナディアの口元に笑みがこぼれる。目の色が変わった。ノイレンを見下す目つきだ。
「さっきのような手はもう食わんぞ。」
ナディアはブロードソードを中段あたりに構え、剣先をノイレンの顔に向けた。そして左手は肘を曲げてダガーで自分の胸あたりを防御するように構えた。
「さあ、どこからでもこい。」
今度はナディアが誘ってきた。
「いくぜ!」
ノイレンはまた真っ正面から斬りかかっていった。
「バカか、その手は通用しないと言った!」
ナディアはダガーを前に突き出して牽制してきた。迫るダガー。ノイレンは頭をわずかに左に振ってやり過ごす。剣先が右のこめかみをかすめていく。それに合わせて左からブロードソードが空気を斬り裂きノイレンの胴めがけて襲い来る。
『もらった!』
ナディアがそう思った刹那、ノイレンがナディアの腹を思い切り蹴飛ばした。ブロードソードはノイレンにかすりもせずうしろへ引いていく。
「なんっ、」
ナディアはよろめいて後退したが両足を踏ん張ってなんとか留まった。そこへノイレンがすばやく迫る。左手を右手に重ね剣をまっすぐにナディアの腹めがけて突きこんできた。
「このぉっ!」
ナディアは剣をクロスさせてそこにノイレンの剣を誘い込んだ。刃が擦れ合う音だけが中庭に響く。ナディアは腕に力を籠めノイレンの剣を頭上に誘導し、お返しとばかりにノイレンの腹に蹴りを入れようとした。
が、ナディアの足は空振り。そこにノイレンの姿がない。
「どこへ行った?!」
ナディアはノイレンの姿を見失い焦った。
「ここだ。」
ノイレンの声がナディアの背中を叩いた。
「いつの間に?」
振り向いたナディアの鼻先にノイレンの剣先が突きつけられた。
「一本もらい。」
ノイレンの口角が上がる。立ち合いを始めてからノイレンは初めて笑みを見せた。
「くっ。まだだ、まだ終わらんよ!」
ナディアはそれをダガーで下から外へ向かって弾き、右のブロードソードをノイレンに向かって突き出した。ノイレンは軽やかなステップでひらりとそれを躱し、手首をひねって剣をナディアの腰に叩き込んだ。
金属の乾いた衝突音が響いてノイレンの攻撃が躱される。ナディアはダガーで牽制しつつ踏み込んできた。そして再び右のブロードがノイレンの胴を狙う。今度はそれに刃を組んで阻んだノイレン。それによって生じる彼女の右側の隙にナディアのダガーが牙を剥く。
「貴様はバカか。」
ナディアは勝利を確信した笑みを浮かべてダガーをノイレンの首めがけて突き刺そうとした。その直前ナディアの左膝に激痛が走った。ノイレンが彼女の膝を蹴ったのだ。膝の皿が割れたかと思うほどの痛みにナディアの動きが止まる。
「バカはどっちだ。あんたが剣を拾うのを待ってやったことにも気づかないで。」
ノイレンはうしろに飛び退いて剣を構えた。ナディアは蹴られた左足を庇うように一歩うしろに下げ、足を肩幅よりも広げて立ちノイレンを睨んだ。
「待ってやっただと?」
「そうだよ。あんたは二刀流だからって自分が有利だと思うと周りが見えなくなる。だからわたしの足にも気づかない。ダガーで隙を突くことにこだわりすぎるんだ。」
ノイレンは構えを崩さずに答えた。
「ふざけるな! 私は二刀流を習得してからは道場で誰にも負けたことはないんだ。貴様ごときに講釈を垂れられる覚えはないっ。」
ナディアは右のブロードを無限大を描くように左右に振りながら突進してきた。ノイレンはつま先立ちの軽やかなステップでひらりひらりと躱しつつ壁際に後退していった。
「ほらほらどうした? 左は使ってないぞ、それなのに手も足も出せないじゃないか!」
ナディアは勢いづいてノイレンを壁際に追い込んでいく。ノイレンは躱しつつ壁までの距離と、周りに置いてある鉢植えに目を配った。
「出せないんじゃなくて、出さないだけだ。」
壁まであと少しと迫ったところでノイレンは飛び上がり、壁を蹴ってさらに高くジャンプした。
「また逃げるか!」
上を向いてノイレンを見失うまいとナディアは目で追いかけてくる。
「違わい!」
空中で体をひねってナディアの後方に着地したノイレンは膝を曲げお尻が地面に付くほど深く腰を落とした。
「さっきの斬り上げかっ。」
振り向いたナディアは剣をクロスさせて防御の姿勢をとった。
「違うって言ってんだろ!」
ノイレンは両手を地面について両足でナディアの剣ごと彼女を蹴り上げた。
ナディアの体が吹っ飛ぶ。すぐうしろの壁にぶち当たり衝撃で両手の剣を落とした。壁に当たって跳ね返ったナディアは転倒しそばにあった鉢に頭を打ち付けた。頭を抱えて呻くナディア。ノイレンはそのナディアの体を跨いで立ち、ネオソードを彼女の胸に突き付けた。
「わたしの勝ちだ。」
次回予告
シャルキーたちが手紙を心待ちにしていることなど知る由もないノイレン。ナディアの公金横領問題を解決しようとする中で彼女の生い立ちを知るが、ノイレンは同情できなかった。ナディアの不幸な境遇はノイレンから見たらたいしたことではなかったからだ。執拗に迫るナディアにノイレンは格の違いを見せつけた。
君は彼女の生き様を見届けられるか。
次回第九十四話「何度でもこてんぱんにしてやるよ。」




