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ノイレン〜黒の純真  作者: 山田隆晴
最終部『輪環(わ)』

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102/113

102「さすがだな黒髪。」

 その場に居合わせた人々の心を漆黒の魔女が鷲掴みにして喰らっている最中に、アミランが彼の片腕と称するライラを連れて現れた。

 彼は店の入り口で静かにナディアを探すと足音をひそめて近づいた。五十歳近いのだろうか、だいぶ髪が白い。口の周りに蓄えている髭も白い。それでも体格はがっしりしていて年齢を感じさせない。だから彼の年齢を知らない者が見たら、生まれつき髪が白いのかと思うだろう。彼が来たことに気づいたナディアは立ち上がってアミランと右手を固く結び、隣にいるライラにも声をかけた。

「やあアミラン。久しぶりだな。元気そうで何よりだ。ライラも息災か。」

 ライラはにこりと口元を緩めると無言で頷いた。こちらは色の浅黒い、東方系の顔だちの女性。そのせいだろうか、ナディアに比べると幼く見えた。ライラはノイレンと同じで黒髪だが、ノイレンとは違って縮れている。天パーなのだろう。髪は垂らさずに頭のうしろでおだんごのようにまとめている。そして腰にはこの辺りでは見かけない特徴的な柄と剣身の湾曲した剣を提げていた。

「ナディアも元気そうでなによりだ。相変わらず別嬪だな。今回の旅でもあんたほどの器量良しにはお目にかかれなかったよ。それに加えて、どこか去年よりも当(・)た(・)り(・)が柔らかくなったような気がするな。わしがおらん間に何があった。」

 さりげなくアミランが褒め殺ししてくるものだからナディアはこそばゆくなった。

「別に何もないが、強いて言うならこいつとあの黒髪のせいかもな。」

 アミランたちに椅子を勧めつつ、隣に座っているサフィアとステージ上のノイレンに彼の注意を向けた。

「このお嬢さんは?」

 アミランは腰を掛けるとサフィアのことを尋ねた。

「私の妹のサフィアだ。先頃キニロサにやってきた。」

「なんとあんたに妹がいたのか。それは初耳だ。わしはアミラン。こっちはわしの片腕のライラだ。ナディアにはよくしてもらっておる。」

 アミランはサフィアに右手を差し出した。

「サフィアです。カーツォ商会の会長代理を務めさせていただいてます。」

 サフィアはアミランの右手を握り返した。

「会長代理とは、これはよしなに頼みます。」

「父に比べれば私などまだまだ至らないところがありますが、よろしくお願いします。」

 サフィアはよそ行きの笑顔でにっこり微笑んだ。

「それと今ステージで踊っている黒髪が妹の相棒だ。あれで剣の腕もなかなか見どころがあってな、ライラといい勝負だろう。あとで紹介する。」

 そんなふうに紹介したが相変わらずナディアはノイレンの名前を呼ばない。

「姉さんなんか一度も勝てないんだから。」

 サフィアがさらっと暴露した。

「お前、それは言う必要ないだろう。」

 ナディアは少し気まずそうに頬を染めた。

「ほう、あの踊り子そんなに使(・)う(・)のか。ライラ、お前さんはどう見る?」

 ライラはじっとその黒い瞳をステージで踊るノイレンに向けた。

「敵にはしたくないの。」

 ボソっとそれだけ答えた。



 横笛の淑やかな音色が止むと魔女もその食指を止めた。最後はお得意のカーテシーで締める。散々人の心を喰らっていた魔女が上品な仕種をするとそれだけで全てが昇華された。虜になった皆は上等な劇場で上等な芝居でも観たかのように錯覚して心だけでなく、鼻の下も財布の紐もゆるゆるになった。

 ステージを降りたノイレンはいつものように端から挨拶して回った。テーブルを移動するたびに彼女の小ぶりな胸がしだいに大きく成長していった。最後にナディアたちがいるテーブルへやって来た。

「さすがだな黒髪。」

「すばらしかったわノイレン。よくあんなにきれいに踊れるものね、感心しちゃうわ。」

「ありがとう。」

「いやあお嬢さんいいものを見せてもらったよ。仕事柄いろんな街へ行くが、あんたほどの踊り子さんはみたことがない。」

 あからさまなお世辞だが、アミランが言うと自然に聞こえるから不思議だ。

「あ、ありがとう。もしかしてあんたがアミラン?」

「わしを知っておるのか?」

「いや、ナディアから今日来るって聞いてたから。」

 そこにナディアが割って入った。

「そうだ、この方が昼間話したアミランだ。その隣にいるのは彼の片腕のライラ。」

 アミランとライラはにっこりと微笑んだ。

「ノイレンです。」

 名乗ってぺこりと軽く頭を下げるとブラに詰まった四分一銀(クォーター)が一つポトリとテーブルに落ちた。

「あっははは。」

 アミランは豪快に笑った。ライラは無言でじっとノイレンを見つめていた。


 いつもの服に着替えたノイレンが席に着くとナディアが乾杯の音頭を取った。

「改めて我々の新しい門出に乾杯しよう。」

「新しい門出とな?」

 アミランが尋ねた。

「ああ、すまん。あとでじっくりと話させてもらう。まずは再会を祝い、アミランたちの労をねぎらって乾杯だ。長旅お疲れ様。」

 五人はジョッキを高く掲げてぶつけ合った。

 そこへまた招かるざる客が現れた。さっきの泥酔してノイレンにいやらしく絡んできた男だ。その右手に抜き身の剣を持っている。

 男はふらつきながらドスドスと足音を立てて、ノイレン目指して突進してきた。店内がざわついた。ヤシャダムが空の瓶を逆さに持って追いかけてきた。

 男はノイレンの目の前にやってくると抜き身の剣をノイレンに突き付けた。ナディアは咄嗟にサフィアを庇い、ライラも同じようにアミランを庇った。ノイレンだけ一人で何事もないようなすました顔でビールを飲んでいる。

「すっこんでろ、お前たちにゃ用はない。」

 男はナディアとライラに向かって吐き捨てた。

「なんだと。」

 ナディアは左手でダガーの柄を逆手に握った。男はそんなことには目もくれずノイレンを見下ろすと彼女のポニーテールを剣身でパタパタと叩(はた)いた。

「ひぇっへへへ。ようねえちゃん、さっきはよくも恥をかかせてくれたなあ。今度はお前の服をひん剥いて恥をかかせてやるよ。」

 ノイレンはジョッキを持ったまま横目でちらとだけ男を見上げた。

「へっ、やれるもんならやってみろよ。」

「なんだとぉ!」

 男は剣を振り上げた。その男の顔にバシャーっとノイレンはジョッキに入っていたビールをぶっかけた。

「うわっ、目が、痛ぇ、目が・・・」

 ビールが目に入ったようだ。炭酸でビリビリとしみる目を押さえて男がひるんだその隙にノイレンは男の右腕を押さえてそいつの腹にぐーを力いっぱいにお見舞いした。

「ぐぇっ・・・」

 目潰し状態で無防備になっていた男はもろにパンチを喰らい、それまでに飲み食いしていたものを吐き出しそうになった。

「ぐぶ・・・」

 男はよろけて膝を折った。ノイレンは男の手から剣をねじり取るとその剣身を男の頬にペタっと当てた。

「ひっ・・・」

 ビールのせいでまだよく目が見えない男はそれでも頬から伝わる冷たく硬い感触に自身の命の危うさだけは感じ取ったようだ。

「とっとと失せろ。そんで二度とここへは来るな。いいな。」

「ひぇっ、ひぇっ、」

「分かったのかよ?!」

「わ、わか、わかっ・・・」

 男は腰が抜けたようだ。尻餅をつくようにへたりこんだ。しかも浴びるように飲んでいたせいだろう、ノイレンの迫力に負けてズボンが濡れてきた。

「うわ、汚ねえな。おやっさん、悪いけどつまみ出してくれよ。」

 男は再び店の外に放り出された。


「おやっさん、これしまっといて。あんなのに持たせてたらろくなことに使わねえからさ。」

 男の剣をおやっさんに手渡した。

「ノイレンすまねえな、何度も迷惑かけてよ。」

「それはこっちのセリフだよ。ごめん。」

「あんたが謝ることじゃねえ、ああいう奴に酒を飲ませたワシが悪い。」

 ヤシャダムは剣をカウンターの中にしまうと代わりにビールをなみなみ注いだジョッキを両手いっぱいに持ってきた。

「これはワシからだ。遠慮せず飲んでくれ。」

「いいの? こんなにたくさん。ありがとう。」

 ノイレンは目をキラリンと輝かせて遠慮なくジョッキを手にした。

 さあ思いっきり飲むぞとジョッキに口をつけたところでノイレンは動きを止めた。サフィアとナディアがじぃっと見ている。ついでにアミランとライラもノイレンに注視していた。

 ノイレンはそっとジョッキをテーブルに置いた。

「あはは、これどうぞ。飲んでくれ。」

 テーブルにいっぱい並べられたジョッキを皆に勧めた。それから改めてノイレンはジョッキに口をつけた。ジョッキの端をくわえながらちらと四人を見た。四人はまだこちらを注視している。

「やだな、わたしの顔になんかついてる?」

 ノイレンがおそるおそる訊いてみたが誰も何も答えない。だんだんといたたまれなくなってきた頃アミランがその沈黙を破った。

「お前さん、肝が据わっておるな。」

 アミランの眼の奥が光っている。

「へっ?」

 アミランの隣にいるライラが無言で頷いた。

「ナディア、いい奴を紹介してくれた。ぜひとも隊商(うち)に欲しい。」

 アミランは口の周りの白い髭を丸めてナディアに打診した。

「へっ?」

 ノイレンはなにがなんだかわからない。全く状況が呑み込めていない。

 ナディアは片方の口角を上げるとふっと微笑んだ。

「あんたならそう言うと思ったよ。そこで一つ提案があるんだ。」

 アミランは身を乗り出した。

「聞こう。」

 ナディアはサフィアの計画をアミランに話した。



「なんと必要経費の半分を商会で持ってくれるのか。しかもノイレンの給金も商会が出すと。」

 アミランは目を丸めて驚いた。

「悪い話ではないだろう。どうだ?」

 ナディアはぐいぐいとアミランを追い詰めていった。サフィアは内心ドキドキしながら姉の話に耳を傾けた。

『姉さん、今日は商談しないって言ってたじゃないの。』

 サフィアはアミランに気づかれないようそっと彼の様子を窺った。アミランは何かを含ませた視線をナディアに向けた。

「確かに悪くはない。しかし、」

「何が不満だ?」

「至れり尽くせりの代わりに商会の買取価格を今より下げるというのはわかるが、いったいどのくらい下げるつもりだ? それによってはこの話には乗れんな。」

「それは心配しないでもらいたい。経費が減った分だけ値引きしてもらえたらそれでいい。それならば身(・)入(・)り(・)は変わらんだろう。それで納得がいかなければこの話はなしだ。他者(よそ)にもっていく。もっともうちに売ってくれるのであればピ(・)ン(・)キ(・)リ(・)なんでも買い取ると約束しよう。」

「しかしそれでは商会(そっち)が結果的に損するのではないか? どうも腑に落ちん。」

 アミランにとってはおいしい話すぎて、その”裏”が気になった。

「心配無用。『損して得取れ』は父の口癖だし、私自身損するだけの商売をする気など毛頭ない。きちんと儲ける手立ては考えている。」

 ナディアは口角を上げてスワンバンを弾く真似をしてみせた。

「それが三隊抱えるということにつながるのか?」

「ああそうだ。アミランのところの他にあと二隊。そうすれば今まで隊商(キャラバン)頼みだった入荷が安定する。年に三回確実に輸入できれば他を出し抜けるだろう。」

「で?」

「安定して輸入できれば大きく販路を広げられる。その意味が分かるか? 東方からの輸入品が”上流”だけの楽しみではなくなるんだ。誰でも気軽に手にできるようになる。だからアミランたちには庶民が欲しがるようなものも目一杯仕入れてきてもらいたい。」

「なるほど、そこまで見通していたか。しかしそれで商会(そっち)は本当に儲かるのか? 途中で潰れられたら困るぞ。」

「もちろんだ。潰す気などない。むしろ独立してナディア商会を立ち上げて、そちらで取引したいくらいだ。」

「それを聞ければ安心だ。どれ、わしらの新しい門出に乾杯するとしよう。」

「ありがとう。アミランならそう言ってくれると思っていたよ。末永くよろしく頼む。」

 ナディアはジョッキを持ち上げるとアミランに差し出した。アミランもジョッキを持ってコツンとぶつけ合った。

 サフィアはほっと胸を撫でおろした。本来ならそんな背景までアミランに話す必要はないにもかかわらず、ナディアはあけすけに全部話した。そしてアミランもそれを他に売り込もうとするようなそぶりは見えなかった。むしろこの計画に乗ったあとの隊商と商会の行く末を真剣に心配していた。

『姉さんとアミランさんて腹を割って話せる仲なのね。これなら上手くいきそう。』

 サフィアはテーブルの下で拳をぐっと握った。



 翌日、アミランとライラがカーツォ商会キニロサ支部へやって来た。

 にこやかな笑みを浮かべているアミランと浮き浮きした表情のライラにノイレンは浮かない顔で尋ねた。

「あの、どうしてもやるの?」

「もちろんだ。お前さんの肝が据わっているのは昨日見せてもらったが、腕(・)はまだ見ておらんからな。」


 早朝の走り込みを終えて支部に戻ってきたノイレンがサフィアと朝食を摂っているときにやって来たアミランたちは、ノイレンの意向も聞かずライラと勝負しろと迫った。

「アミランさん、あなた昨夜ノイレンを欲しいとおっしゃったじゃないですか。それなのになぜ?」

 サフィアはアミランが心変わりでもしたのかと不安になった。

「ああ、彼女はぜひとも隊商(うち)の護衛に欲しい。そのために一応剣の腕も見ておきたくてな。それにライラがどうしてもといって聞かん。こんなことは珍しい。」

 アミランは白いひげで覆われた口元を丸めて微笑んだ。ライラはその隣でうんうんと頷いた。どうも彼女は無口らしい。

 ノイレンはライラの目の前に立つと彼女の黒い瞳をじっと見つめた。ライラもまっすぐにノイレンの黒い瞳を見つめ返した。しばらくするとノイレンはアミランに視線を移した。

「あの、立ち合わなくてもライラが強いこと分かるんだけど。やっぱりやらなきゃダメ?」

 珍しくノイレンが乗り気でない。いつもであれば、「強ぇやつと戦うのは楽しいからな」と率先して立ち合いを望むくせして。

「お前さんの強さはライラが認めているから、わざわざ見んでも分かる。けどな、それじゃライラが収まらんのだよ。彼女が珍しく疼いておるからな。」

 サフィアがノイレンに耳打ちした。

「ライラってあなたと同類じゃないの? 強い相手と見ればわくわくするんだから。」

「あはは・・・」

 ノイレンは冷や汗をかいた。

「それともなにか、ノイレンはライラと立ち合うのが怖いのか?」

 アミランの挑発するような口ぶりにノイレンは火が付いた。

「へっ、怖くねえよ。ただ、どっちが勝ってもあんまりよくない結果になりそうだから嫌だったんだ。でもそんなこと言われて、はいそうですなんて言うわけないだろ。やってやるぜ。」

 サフィアははああとため息をついた。アミランはほくそ笑んだ。ライラはにっこりと笑んで何度も頷いた。

 かくしてノイレンとライラは支部の中庭で向かい合っている。ナディアもやってきた。その傍でヤァヤが心配そうに見ていた。

「ヤァヤ(母さん)、あいつらなら心配ない。」

 ナディアは腕組みをして二人が動き出すのを楽しみに待った。


「どっからでもかかってきな。」

 ノイレンはいつものように剣を構えると、左手をぐーぱーしてライラを挑発した。

 ライラの剣は一見サーベルのように見えるが、よく見ると違う。一般的なサーベルは裏刃が剣身の半分に入っているが、ライラのにはそれがない、完全な片刃だ。そしてサーベルよりも剣身の幅が広くて三日月のように湾曲している。さらに特徴的なのが柄部分。十字型の鍔にうねりのある護拳(ナックルガード)、平たい円盤状の柄頭。それらすべてに装飾が施されている。美術品としても価値がありそうだ。

「これはタルワール。私(わー)の国の剣。」

 ライラは足を肩幅に開くと膝を軽く曲げ、左足を一歩前に出してリズミカルに足踏みし始めた。そして右手に握った剣を肩の高さに持ち上げて剣先を斜め上に向けてた。

 ノイレンは初めて見るその構えに正直どう攻略するか悩んだ。

『こいつはやっかいそうだな。ヘタに飛び込むと餌食になるのは間違いない。どうすっかな。』

「私(わー)から行く!」

 ノイレンが攻略法を考えている間にライラが動いた。リズミカルな足捌きはそのままにノイレンの斜め左前に攻め込んできた。

 ライラはノイレンを間合いに捉えると手首を曲げて剣先をわずかにうしろに引いた。そしてそのまま腕と手首の動きを乗せて斜めに斬りつけてきた。

「やらせるかっ!」

 ノイレンは手首をひねってそれを防いだ。剣と剣がぶつかり合った。するとライラは振り下ろした腕を手前に引いて、まるでノイレンの剣をぶった斬るかのように剣を滑らせた。そして剣を抜ききるとそのまま手首を返して剣身を反転させ、ツバメ返しのように斬り上げてきた。ノイレンはつま先立ちの踊るようなステップでひらりとそれを躱して、ネオソードの切っ先をライラの胸のあたりに突きだした。ライラは斬撃の間もリズミカルな足捌きを止めることなく動き続けてノイレンのその突きをするりと容易く躱した。

 両者は一旦下がって体勢を立て直した。

『やべえな。あのチョウチョみたいにふわふわした足捌き、まるでわたしのステップみたいだ。今まで対戦した誰よりも素早いじゃんか。それにあの剣。叩き斬るというより包丁で肉や魚を切るみたいに動かしやがる。鏡を見てるみたいだ。』

 ノイレンはライラの目をまっすぐに睨みつけながら冷静に分析していた。

「あなたやっぱり強いの。私(わー)の初手を躱したのあなたが三人目。」

 ライラはぼそっとそれだけ呟いた。

「へっ、じゃあ他にも躱した奴がいるってことじゃんか。」

「一人目は師匠。二人目はアミラン。それだけ。」

 ライラはチョウチョのようにふわふわとした足捌きを止めることなく呟いた。

『まじか。ライラの師匠とアミランは別格だよな。それ以外で躱せたのはわたしだけってことかよ。』

 ノイレンは改めてライラの強さを痛感した。

「だからあなた強いの。私(わー)強い人好き。」

 ライラは呟き終えると再びノイレンの斜め前に斬りこんできた。

『さっきと同じに受けちゃダメだ。なら、』

 ノイレンはパっと飛び上がるとバク転でライラの斬撃を躱し、着地と同時に膝を深く曲げて地面すれすれからの滝登りを見舞った。ライラはそれをなんなく躱すとふわふわの足捌きでノイレンの懐に入り込み、ノイレンの腰から胸へ斜めに斬りあげてきた。

「うわっ、」

 ノイレンはエビ反るように中庭から見える四角い空を見上げて躱し、くるんと身体を一回転させてそのままライラの横っ腹を払いにいった。するとライラはふわりと飛び上がって、ノイレンの頭上から脳天を割りに来た。

 だが素早さならノイレンも負けない。つま先立ちの踊るようなステップでその斬撃を躱すと、落ちてくるライラの背後に回り込んで、回転の遠心力を乗せた剣を彼女のうなじに叩き込んだ。

「させないの。」

 ライラは着地すると膝を曲げて体勢を低く保ち、手首のひねりをきかせて剣身に遠心力を乗せるとノイレンのネオソードを弾いた。

 剣と剣がぶつかり合う音が周囲の壁にはねて、周りで固唾を飲んでいる人々の耳に突き刺さった。

「痛っってぇ~。」

 ノイレンは剣を握ったままじんじんと痺れる右腕を振り回した。

「やっぱ強ぇなあんた。なあ、今度は木剣で勝負しないか? 木剣なら遠慮なく打ち込める。」

「私(わー)も賛成。このままだと、二人とも死んじゃうの。」

 ライラは立ち上がると、ノイレンと同じように剣を握ったまま右腕を振り回した。

次回予告

まるで自分と戦っているかのような錯覚にとらわれたノイレン。それから三ヵ月が経ち、十八歳になったノイレンは東方へ旅立った。東方の交易拠点都市カンタラまでの道のりは順調だった。すんなり行き過ぎて少しつまらない。四千キロを旅したノイレンはカンタラで様々な人と出会う。もう誰にも臆することはなかった。

君は彼女の生き様を見届けられるか。

次回第百三話「かわいい。」

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