100『あんたも行っちまうのかい。』
日中は少し暖かい日もあるというのに、早朝はそんな変化を感じさせることもなく、体を動かしていないと寒くて震えてくる。ニワトリ目覚ましの美声とともに起きたノイレンは走りなれた道を感慨深げに駆けてきた。
走り込みのあとアニンを叩き起こし、庭に引きずり出して久しぶりに彼女と剣を交えた。
「そう、そこで手首をひねって、裏刃を相手の首筋に当てるんだ。」
アニンはノイレンの教示どおり剣を弾かれるとそのまま手首をひねり刀身を振り子のように逆行させて裏刃をノイレンのうなじに当てにいった。ノイレンはひらりとつま先立ちの軽やかなステップでそれを躱し、腰を低くしつつアニンのウエストめがけて剣を叩きこむ。アニンは咄嗟に剣を地面に突き刺してそれを受け止め、同時にノイレンの頭に向かって蹴りを繰り出した。ノイレンは寸でのところでそれを躱したがアニンの鋭い蹴りはこめかみをかすった。
「にゃろ~っ。」
蹴りがかすったところにピリピリとした痛みを感じつつ、ノイレンは伸び上がりざまに下からアニンを斬り上げるように剣を振った。彼女もそれに合わせて剣を掬い上げるように手首を使って刃に弧を描かせた。二人の剣がぶつかり合い、鋭利な空気の中に甲高い金属音を響かせた。お互いに一歩うしろに飛び退いて態勢を立て直して剣を構え、まっすぐに相手の目を見据えた。アニンの視線がメデューサのようにノイレンを射竦ませる。
「やっぱおばさんは強えな。握ったばかりのサーベルでそこまで動けりゃ上等だぜ。」
「あら、あなたの教え方が上手いのよ。説明がわかりやすくていいわ。」
ノイレンが負け惜しみ混じりに褒めると、アニンはメデューサの視線はそのままにふっと口角を上げて褒め返してきた。
ノイレンは構えた手を下すと剣を鞘に納めた。
「今日はこんくらいにして朝飯にしようぜ。腹減った。おばさんも出かける支度しなきゃならないでしょ。」
アニンも剣を鞘に納めた。柄のスターサファイアが澄んだ朝陽を受けてキラリと輝いた。それを見たノイレンの目に、トレランスがそれを提げていた時の姿がアニンの上に重なって、訳もなく嬉しくなった。
「そうしましょう。こんなに激しく動いたの久しぶりだから少し疲れましたわ。体力が落ちてるわね、もっと鍛錬しなければ。」
「じゃあ朝一緒に走ろう!」
「それは嫌よ。私朝は弱いって言ってるじゃないの。」
「ちぇっ、どうしてみんな嫌がんだ。走ると気持ちいいのにな。」
ノイレンは口を尖らせた。その脳裏にアニーやサフィアが浮かんできた。
「それはそうと、水を汲んできてくださる? 私はお鍋を用意しておきますから。」
アニンは不貞腐れているノイレンを置いて台所へ向かった。
この二人の立ち合い稽古はノイレンがキニロサへ旅立つ日まで、二週間続いた。
朝食を済ませ、アニンがギルド学校へ出勤していったあと、やることのなくなったノイレンは久々に家の掃除をくまなくやった。ダイニングキッチン、自分とアニンの共同部屋、トレランスの部屋、便所、行水用のふろ場、廊下、目につく場所はすべて。
トレランスの部屋で洗面器のところに置いてある鏡を磨きながらノイレンはここにやって来た頃のことを思い出していた。
鏡に映る自分の顔をじっと見つめてみる。目を丸めたり、眉をしかめたり、半目になったり、口を尖らせたり、ぷうとリスのように頬を膨らませたり、ニカっと笑ってみたり、いーだっと口を横に開いてみたり、百面相を自分に披露した。
「これがわたしなんだ。なんか不思議だな。前は鏡の中の奴は好きになれなかったのに、今はそんなことないや。」
今度は変顔をしてみた。あまりの崩れっぷりに自分でおかしくなってしまった。くっくっくっと声を殺して笑ったあと真顔になった。鏡の中の自分を見つめ、その瞳の奥を覗き込むようにじっと見た。
「シャルキーにちゃんと話さないとな。」
鏡を置くとトレランスの部屋をあとにした。
お昼頃家を出て街中をぷらぷらと歩いて菓子を二袋買い求めた。歩きながらノイレンは菓子を一つずつつまんで頭の上に投げ、落ちてきたところをぱくっと口でキャッチする。
「美味い。これキニロサでも売ってるかな。」
一つずつひょいぱくひょいぱくと食べながらカバレに向かって歩いていく。道すがら周りにあるお店などを、行き交う人々と共に記憶に留めようと眺めながら歩みを進めていくとあの衣装屋に行き着いた。
ノイレンが働いて貯めたお金で初めてダンス衣装を買った店。危うくぼったくられるところだったのをラクスに助けられた。あれ以来衣装はこの店で買っている。店主のマダムともすっかり顔馴染みだ。
「おやノイレン、珍しいねこんな時間に。今日は何をやろうかね。」
マダムの頭の中では早速彼女特製の計算機がカチカチカチと儲けを弾き出している。
「あは、ごめん。今日は買い物じゃないんだ。たまたま歩いてたらここに来ちゃった。」
「なんだい釣れないね。」
「ごめん、また今度。」
ノイレンは菓子を一つマダムに手渡すとへらへら笑って通り過ぎた。
袋の中の菓子がなくなる頃シャルキーズカバレに着いた。今日は表から入った。仕込みを始めるにもまだ少し早い。さすがにチーフたちはいなかった。それを確認したノイレンは少し安心した。
「シャルキー、いる?」
声に出しながら奥の部屋へ入り、そのまた奥にあるシャルキーの私室兼事務室のドアを三回ノックした。店の事務室でもあるがシャルキー個人の部屋でもあるからノックなしでいきなりドアを開けるのは憚られる。
「シャルキー?」
「ノイレンかい? 開いてるよ。」
静かにドアを開けて中に入った。ここへはあまり入ったことがない。いつきてもちょっと緊張する。
「どうしたんだい、こんなに早く。」
今はもうダンスレッスンはしていないからこんな時間に来ることはなくなっていた。
「うん、ちょっと、シャルキーにその、話があって・・・」
ノイレンは気まずそうに話し始めた。
「あ、そうだこれ食べて。わたしが稼いだお金で買ったの。美味しいよ。」
菓子の詰まったもう一つの袋を手渡した。初めからシャルキーにあげるつもりで買っていた。
「おやありがとう。ノイレンに奢ってもらうなんて、あんたも一端になったね。」
「えへへ。」
「で、話ってなんだい?」
シャルキーは指の長いその綺麗な手で菓子を一つ摘むとそのまま口に含んだ。
「うん実は、わたしキニロサで仕事したいんだ。」
意外すぎる話にシャルキーは菓子を噛み砕く前に飲み込んでしまい喉に詰まらせた。バンバンと自分の胸を叩いて菓子を胃に落とす。
「ぶはっ、あ〜死ぬかと思った。」
「ごめん、驚かせちゃって。」
「いやいいさ。それよりなんだい藪から棒に。」
「うん、わたしがロンチャウさんの依頼でキニロサにも行ってたのは知ってるでしょ。それでね、」
ともすればシャルキーに対してうしろめたさを感じてしまうだけに、ノイレンは努めて明るくそれまでのことを話した。
ノイレンは話し終えると口を閉じ、じっとシャルキーの反応を待った。シャルキーは最初こそうんうんと頷きながら聞いていたが、そのうち相槌も打たず、ノイレンから視線を逸らして漫然と壁を眺めながら聞いていた。ノイレンが話し終えても何の反応も示さず黙りこくっている。
「シャルキー・・・?」
ノイレンがおそるおそる彼女の顔を覗き込むと、シャルキーはおもむろにノイレンのほうを向いた。
『あんたも行っちまうのかい。』
シャルキーは声には出さずに口の中で呟いた。そしてふんっと大きく息を吐くと笑顔になった。
「そりゃ良かったじゃないか。ノイレンにも友達がね。あたしゃそれを心配してたんだよ。あたしら大人に囲まれてばかりじゃ、楽しくないもんね。・・・年の近い友達と付き合うのは・・・いいことだ。うん。良かった・・・良かっ・・・。」
威勢よく切り出したセリフがだんだんと弱々しく、最後はか細くなって聞き取れなかった。
シャルキーは立ち上がるとノイレンを静かに抱きしめた。ノイレンの存在とぬくもりをその体全体に記憶するかのように力強くしっかりと。
「体にゃ気を付けるんだよ。帰りたくなったらいつでも戻ってきな。この店はあんたの家みたいなもんだ、遠慮することはない。ときどきでいいから手紙を書いておくれ、アニンに読んでもらうから。」
「うん。」
ノイレンもシャルキーを抱きしめ返して頷いた。
「よしっ、そうと決まればノイレンの壮行会をしないとね。さあ忙しくなるよ。」
シャルキーはその切れ長の目の端に浮かんだ一粒を悟られないように、再びノイレンから顔を逸らすと、自分に言い聞かせるように声を張って店内に出て行った。ノイレンは彼女のその背中を見送って小さく呟いた。
「ありがとう、ごめんなさい。」
十日後。ノイレンの旅立ちにはまだ数日あるが、シャルキーの音頭でノイレンの壮行会が催された。
「ほら、ノイレンそこが終わったらこっちの飾りつけもやっておくれ。」
シャルキーは各所にてきぱきと指示を飛ばしている。ノイレンは今日の主役なのになぜかその準備に駆り出され、まだ日が高いうちからこき使われていた。普通ならなんで自分がと疑問に思い、拗ねてしまうところだが、ノイレンは嬉々として準備していた。まるで別の誰かが主役であるかのようだ。
「ほれ、アニンそこじゃないよ、もっとしっかり設置しな。ステージは特に念入りにセッティングしないとね。」
ロンチャウに顔が利くのを利用してこの日はアニンも学校を休ませて駆り出していた。
「もう、なんで私まで?」
「トレランスがいないんだからその代わりだよ。つべこべ言ってないでテキパキやんな。」
「そうじゃありませんわ。私左手が自由に動かないのは知ってらっしゃるでしょう。それなのになんでこんな力仕事のようなことやらせるんですの? もっと別のことにしてくださいません?」
「なに言ってんだい。最近体がなまってるってぼやいてじゃないか。それくらいちょうどいいだろ。」
アニンはぷくっと頬を膨らませた。
「はいはい、ノイレンみたいなことしなくていいからさっさとやりな。」
「まあ失礼ね。私がいつ小娘と同じことをしたというのかしら。」
別の場所で飾り付けをしていたノイレンは二人の掛け合いに思わずぷっと吹き出した。
「そこ! 何笑ってんだい。」「そうですわ! 笑うとこじゃありませんのよ。」
二人は声をそろえてノイレンにツッコんだ。
「だって、なんか親子げんかみたいなんだもん。あっははは。」
ノイレンにケラケラと笑われた。
「この女と親子だなんて冗談はよしとくれ。壮行会やめるよ。」「こんなのが母だなんて私も嫌ですわ。あとでこてんぱんにして差し上げますから首を洗って待ってなさい小娘!」
それを厨房の中からそっと見ていたチーフは苦笑いしていた。
飾り付けが終わりノイレンたちは一息ついた。厨房でも仕込みはほぼ完了した。
「悪かったねノイレン。主役のあんたにも手伝わせちまって。」
店内のテーブルに女三人で腰掛け、コーヒーを飲んでいる。シャルキーは温かいコーヒーのカップをその指の長い綺麗な手でゆったりと揺らしながらノイレンに話しかけた。その切れ長の目には複雑な色が浮かんでいる。
「ううん平気。こういう時っていつも師匠とやってたからさ。」
ノイレンはコーヒーをちょびっと舐めるだけで顔を顰めている。ビールは飲めるようになったくせにコーヒーは相変わらず苦手なようだ。
「そうですわ、もっと言ってやりなさい。私も先生の代わりだなんて言って散々こき使われたんですから。」
「あんたもしつこいね。トレランスの代わりなんだからいいじゃないか。だいたいあんたいつも先生、先生ってアレの尻を追いかけ回してたくせに。何言ってんだい。」
「まあ、私がいつ先生のお尻を追いかけ回したというのかしら。失礼しちゃうわ。」
「あれが尻でないならどこを追っかけ回してたってんだい。言ってごらんよ。ほら。」
「先生の背中ですわ!」
「ほほ〜。背中ときたか。そう言や聞こえはいいね。さすがギルド学校の先生様だ。」
「なんか聞き捨てなりませんわね。それじゃまるで私がはしたない女みたいじゃないですの。」
「みたいじゃなくて、そうだろうが。」
シャルキーにツッコまれまくってアニンはノイレンのようにぷくうと頬を膨らませた。それを見たノイレンはケタケタと笑った。
「何笑ってんだい!」「そうですわ。笑うとこじゃありませんのよ!」
ノイレンは腹を抱えて笑い出した。そこへチーフが料理を盛った皿を持って現れた。
「まあまあ、お二人とも親子げんかのようなことはやめてこちらを召し上がってください。今夜出してみようと思っている新メニューです。ノイレンのお土産にあった東方の香辛料を使いました。味見お願いします。」
シャルキーとアニンは同時にチーフに鋭い視線をぶつけた。
「親子げんかじゃないよ!」「親子げんかじゃありませんわ!」
ノイレンは笑いすぎて椅子から転げ落ちた。
準備も終わりあとは開店を待つだけとなった時ノイレンはあるところに出かけた。
「ちょっと出てくる。すぐに戻ってくるから。」
そう告げると馬さんに乗って颯爽と駆けていった。
ノイレンと入れ違いにラクスが出勤してきた。彼女はカバレの花形ダンサーだからなのか、シャルキーはなぜかラクスには雑用をさせない。ラクスもそのことで気が引けることもなければ、不遜な態度をとることもなくいたって平然としている。
「あらあ、ノイレンちゃんどこ行っちゃったの?」
「さあね、行き先はなんも言わずに出て行っちまった。ま、あの子に限って変なことにはならないだろうから大丈夫だろう。」
ラクスはテーブルの上の菓子をひょいぱくと口に放り込み、もぐもぐしながら相槌を打った。
「それもそうね。」
「またあんたは! 食べるかしゃべるかどっちかにおしって言ってるだろ。」
「ふぁあい、もぐもぐ。」
ラクスは実に楽しそうに菓子を頬張っている。シャルキーはその切れ長の目をさらに細めた。
「んふふ。」
ラクスは菓子で膨らんだ頬をさらに丸めて微笑んだ。
しばらくするとノイレンが帰ってきた。
「おかえり〜、ノイレンちゃん。」
「ただいま。ラクスちょうどよかった。」
「もぐ、なあに? もぐもぐ、」
シャルキーが呆れて奥の部屋から出て行ったあともラクスはひょいぱくと菓子を食べ続けていた。またももぐもぐしながらノイレンと会話する。
ノイレンは小脇に抱えていた風呂敷包みをラクスに手渡した。
「これ、よかったら今日のステージで着てくんないかな。」
ラクスはそれを受け取るともぐもぐしながら結びを解いて中に包まれているものを手に取った。
「え?! どうしたのこれ。」
口に含んでいたものを一気に飲み込んでラクスはノイレンを見た。そこにあったのはダンス衣装だった。ラクスが好きそうなピンクが基調の可愛らしくありながらセクシーさもしっかり押さえたデザイン。全体的に透け感のある布が使われていて、ラクスがこれを着て踊れば観客の鼻の下と財布の紐が大緩みになること間違いなしだ。
「ラクスにもあれこれ助けてもらったからさ。そのお礼。」
「えええ~! いいのこんなの貰っちゃって。高かったでしょ。」
ラクスは真顔でノイレンを見上げた。ノイレンは満面の笑みで頷いた。
「護衛の旅の仕事でいっぱい貰えたから大丈夫。」
「ありがとー! もうすぐ私の誕生日イベントだから、今年はどんなのにしようかなって考えてたんだよね。」
ラクスは衣装を隅々までその作りを確かめるようにじっくりと見回した。
「でしょ。そう思ったから。誕生日イベントまでもう少しあるけど、できたら今夜着てほしい。」
「なんで?」
ラスクはきょとんとして訊いた。
「ん、実はさ、」
「ええーっ! ノイレンちゃんキニロサに行っちゃうの!?」
「うん、もう決めたんだ。」
「そっか。それで。」
ラクスは残念そうに衣装に目を落とした。
『餞別なのね、これ。』
「でも一年に一回は帰ってくるよ。サフィアのお使いも兼ねてさ。」
「じゃあ今日はいつもより張り切って踊らないとね。」
ラクスは菓子を食べることも忘れてノイレンとしばし会話を楽しんだ。
夕方、いつもより一時間早くカバレはその入り口を開放した。ノイレンの壮行会と聞いて常連たちだけでなくドクターやロンチャウまで顔を見せた。
「ノイレン、キニロサに行っても元気でやるんだぜ。」
「嬢ちゃんがいなくなると寂しくなるなあ。たまには帰ってくるんだろ?」
「ノイちゃん、シェヒルが嫌になっただにか?」
詰めかけた常連たちはノイレンが注文を取りに行くと口々に声をかけてきた。
「ありがとう。気を付けるよ。」
「うん、年に一回だけど帰ってくるよ。そん時はここで踊るから見に来てよね。」
「”だに”のじいちゃん、いつもありがとう。」
肝心のビールの注文を聞かずにノイレンはチーフのもとへ戻っていった。
「チーフ、ビールとりあえず十五ね。」
ここで働き始めて四年、誰がどのくらい飲むかはすっかり頭に入っている。いちいち聞かなくてもノイレンは注文を流していた。
「了解。」
チーフはカウンターにジョッキを十六個ずらっと並べると、まず一つだけ注いでノイレンに差し出した。
「キニロサではこんな美味しいのは飲めないかもしれませんから。」
彼にしては珍しく自分の腕を自慢するようなことを言ってウィンクした。
「チーフ。チーフにもいっぱい迷惑かけたね。ごめんなさい、ありがとう。」
「どういたしまして。」
ノイレンは両手でジョッキを持つとぐびっと喉の奥へ流し込んだ。
「美味しい。やっぱりチーフが注いだのが一番だ。」
ノイレンは掛け値なしに一番美味しいと思った。その思いが笑顔になった。
「ありがとうございます。」
チーフはにっこり微笑むと残りのジョッキに次々と注いでいった。
「ノイレンまでいなくなっちまうのか。俺ぁウサギだからよ、寂しくて死んじまうな。」
チーフがビールを注ぐのをカウンターに手をついて待っているノイレンに、ヨセフはトコトコと近づいてきて冗談交じりにそんな言葉をかけた。
「ちっちっち、ウサギって実は気が強いから寂しいくらいじゃ死なないんだぜ。逆に拗ねて怒るんだってさ。知らねえのかよ。」
ノイレンは人差し指を立てて左右に振りながらしたり顔になった。
「おいおい、冗談はヨセフだぜ。」
「自分で言ってりゃ世話ねえな。でもこれは本当だぜ。前にウサギを飼ってたヤツから聞いたんだから。三日間ウサギに留守番させたら、拗ねて怒っちまって、そいつがウサギを撫でようとしたら噛みつかれたって。」
「まじか。じゃあ俺もノイレンが帰ってきたら噛みつかねえとな。はっは。」
「へっ、やれるもんならやってみろよ。叩き斬ってやる。」
ノイレンは左手をそっと腰のネオソードに当てた。
「うわ、まるでトレランスだな。まったくあの師にしてこの弟子ありだ。」
「師匠ならこう言ってるぜ、ヘタな絡みはヨセフ君。」
「ったく、せっかく名残を惜しもうと思ったのによ。次に帰ってきたときにゃそんなこと言えねえくらいのネタを披露してやるぜ。」
「楽しみにしてるぜ。ほれ、ビール持ってけ。」
注ぎたてのジョッキを一つ手渡した。
次回予告
シャルキーにもきちんと心を伝えられたノイレン。キニロサに戻ったノイレンはカーツォ姉妹と合流した。これからノイレンの新たな旅が始まる。三人はある人物と待ち合わせしている酒場へ行き、そこでノイレンを巻き込んだカーツォ商会キニロサ支部の新しい事業立ち上げを祝った。
君は彼女の生き様を見届けられるか。
次回第百一話「我々の新しい門出に乾杯しよう。」




