ラタル入国と銀狼
カラカラ
馬車の走る音をBGMにして俺はある作業をしていた
「んー、これは少し俺に似合わないな。やはり黒コートが1番いいな」
細工技術を使って服を作っているのである。この世界に召喚されてからずっと夏の制服であるワイシャツとズボンで過ごしてきたが魔物との戦闘もあり所々損傷していたり返り血で汚れているのだ
その中で汚れが目立たない黒コートを選んだわけだが
「服はこんなものでいいだろう。さて、そろそろ入国門だろうか」
「その通りです、もうすぐ入国門ですのでお知らせしに来ました」
御者席から馬車に移ってきたリアが目的地に近いことを知らせる
「あれ、御者席から離れてもいいのか?」
「馬が賢く利口ですからね。手放しでも言う事を聞いてくれます」
でもディールの言う事を聞いてるイメージは無かったんだが……
単にディールの性格的な問題か
うん、そうに違いない
「ところでご主人様、このまま入国するのに審査を受けますが大丈夫でしょうか」
「何か問題があるのか?」
「時間が掛かります」
「それだけ?」
「まぁ犯罪者でなければですが」
なるほど、犯罪者とかでなければ問題無しか
生憎と時間は今の所有り余ってるしこの世界では気ままお気楽に冒険するつもりだ
つまりこの先に見える長蛇の列に並ぶことも問題無いというわけだ
「最後尾はあそこか」
「そうみたいですね」
俺の指さした先には4人の冒険者、おそらくパーティであろうグループが見える
そこに向けて馬車は減速しながら走り出す。流石に御者席に居なければならないのかリアは戻っていった
「そろそろ陽が落ちる頃か……入国したらまず宿を探さないとな」
馬車の窓から空を眺めると青い空にオレンジ色が混じりはじめていた
キキィィィ
入国後の目的を決めた瞬間馬車がブレーキを掛け動きを止めた
突然のブレーキに体のバランスを崩しかけたが倒れずに踏みとどまれた
「ご主人様、最後尾に着きました」
「了解だ、一旦馬車から出るぞ」
リアの知らせを聞き、馬車の中から外へ出る
「んー、流石に馬車に乗りっぱなしなのは疲れるな。体のあちこちが痛い」
「ご主人様の場合は魔物との戦いでの疲労もあるかと思われますが」
確かにそれもあるな
そんな事を思ってると不意に声を掛けられた
そちらを見ると先程まで最後尾にいた冒険者達だった
「こんにちわ。あなた達は行商の方ですか?」
「いや違うぞ。俺達はただの旅人だ」
グループのリーダーらしき男の質問に答える
見た目は小柄でひ弱に見える人物だがグループの中では一番強いんだろう。武器は双剣か
それに何故俺に話しかけてきたのだろうか?
「馬車を持った旅人とは珍しいですね」
「そうなのか。この馬車は拾い物だけどな」
そう言うと驚いた表情を浮かべられた
更に男の仲間3人の冒険者は何やらこちらを警戒している
「新品同然な状態の馬車を?」
「あぁ、そういうことか。これは壊れていたのを直したやつなんだ」
馬車には傷や痛みもないため見た目は新品にしか見えない。それを拾ったなんて普通なら無いことだろう
あるとしたらそれは……
「なるほど、新品の馬車を拾ったなんて聞いたので盗賊か何かと思ってしまいました。仲間の非礼お詫び申し上げます」
仲間の警戒を解いて謝罪のために頭を下げ、こちらに手を指し伸ばしてきた
「申し遅れました。私は[銀狼]リーダーのアレックスと申します。どうぞよろしくお願いします」
「俺はケータだ。勘違いさせて悪かったな、よろしく」
お互いに手を握り返し自己紹介をする。一応こちらも紛らわしい事をしたので謝罪する
アレックスの後ろから仲間である冒険者が前に出てきて自己紹介を続ける
「俺はロウだ。さっきは悪かったな、よろしく」
「私はリンよ。ごめんなさいね、よろしく」
「……ミミ、……よろしく」
ロウはガッシリとした体付きで鎧を着て大盾を背中に背負っているから壁役だろうか。ノリの良さそうな印象を持った
リンは両手に篭手を装備しているため前衛職だろうな。背が俺より頭一つ分高く気さくなお姉さんといった所か、あと胸が大きく目のやり場に困る……
ミミは杖を持っているため後衛だろう。それにしてもフードを目深に被ってる為口元しか見えない、自己紹介もミミだけ謝罪が無く簡潔なものだったし人見知りだろうか
「俺も気にしてないから謝らなくていい。ケータだ、よろしく頼む」
「ケータさん、そちらの方は?」
後ろに控えていたリアを指し質問される。そういえばリアの紹介を忘れてた
リアは一礼をして俺の前に出て自己紹介を始める
「リアと申します。ケータ様の奴隷です。以後お見知りおきを」
自己紹介を終えたリアは後ろに下がってしまった
主人と奴隷での定位置みたいなものだろうか
「別に俺の後ろに控えていなくてもいいんだぞ?」
「私は奴隷の身ですので」
うん、中々強情だった。ここは一先ず諦めよう
「ケータさんは旅人ですよね、何故奴隷を?」
「これも拾い物みたいなものだな。主人不在のリアの新しい主人になったんだ」
「首輪の機能ですね、合点がいきました」
「納得して頂けたならなによりだ。別に私欲のためではないからな?」
少し引いた目で見ていたロウとリンに視線を送ると慌ててコクコクとうなづく
動揺しすぎだろ……
「そろそろ私達の番ですね。良ければケータさんも一緒に入国しませんか?」
「いいのか?それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」
正直入国に関しては何も分かってないため非常に助かる申し出だった
順番が回ってきたためアレックスが兵士の下で入国審査を受けていた
「ケータさん、馬車の中を検査しないといけないのですが大丈夫ですか?」
「あぁ別に構わないぞ」
逆に断ったら怪しまれるだろう
兵士が2人ほど馬車を検査する
馬車の中には何もないためすぐに検査は終わった
「よし、通っていいぞ」
「ありがとうございます」
入国のお許しが出たため門を潜る
ラタルの街は洋風な感じだった。全体的に赤茶色が多い、というかこの世界はどこもこんな感じなのだろうか
テラークも同じようだったため可能性は高いな。違かった点は街の活気だろうか
ラタルのほうが住民に活気がある。テラークは戦争しているから仕方がないが
「賑やかなのは良いな。何だか俺も元気になってくる」
「気に入ってくれたなら良かったです。それでケータさんはこれからどちらへ?」
「とりあえず宿を探すかな」
野宿は流石にしたくない
「それなら私達の使ってる宿屋はどうですか?馬車も置けるし料理も美味しい所ですよ」
「そうか、ならそこにしよう。リアもそれでいいか?」
「構いません」
「決定だな」
宿屋までの案内をアレックスに頼む
テラークからの脱出、ラタルに向けての旅、リアとの出会いと肺血病の治療、魔物大量発生、そして銀狼との出会い
ラタル入国まで様々なことがあったが、ようやく入国が出来た
その実感を胸に俺達は歩を進めた
「あれ、何か忘れてる気が……まぁいいか」
アルフレッドとの出会いを忘れてることにケータが気づくことは無かった
8/29 銀狼のリーダーの名前がアレックスなのに対し、圭太がスザクと呼んでいたため修正しました
4/19 誤字修正




