登龍会
「ほう…詳しく聞こうじゃないか。頭を上げたまえ」
Dがそう言うと男は頭を上げた。
「俺は登龍会の海老名志恩って名前だ。呼び方は海老名でいい」
Dは顔の前に手を開いて置いた。
「ちょっとストップ」
「あ? なんだよ」
海老名は眉間に皺を寄せて少し怒り気味にそう言った。
「登龍会ってあの指定暴力団の登龍会?」
「ああ、そうだ。何か問題でもあんのかよ」
「知ってるんですか? Dさん」
「知ってるさ。普通にヤクザだからね。え? ヤクザ案件扱うのはやばくない? うちはイケイケのベンチャー企業でクリーンな会社よ。ヤクザとお付き合いするのはちょっとね…」
海老名はDのワイシャツの胸ぐらを掴んだ。
「何でも屋で依頼は断らないのがモットーなんだろ?」
「ま、まあそうだけど。ぼ、暴力は反対だなぁと思って」
両手を上げて弱々しく答えるD。そして、海老名は言った。
「何も組同士の抗争を止めてくれっつってんじゃねぇんだよ。一人の女をある人物から救ってくれるだけでいい」
海老名はアタッシュケースをガラス台の机の上に置いて蓋を開けた。そこには数え切れないほどの札束が詰め込まれていた。
「千万用意した。これでもダメか? 頼む!」
海老名はソファから降りてそして、Dに土下座までした。Dは大金を目の前にしてごくりと唾を飲み込んだ。
「銀行振り込みだと助かるのに…」
「ヤクザは口座が作れねぇんだよ」
「どうします? Dさん」と烏丸が言う。
「ナ、ナシ君とかはどう考えてるのかね? ずっと黙ってないで意見を聞かせてもらおうじゃないか」
急に社長ヅラをし始めるDだがナシは平然と答える。
「困り事はなんでも解決するのがモットーですから海老名さんの困り事を解決します。でも…」
ナシは途中まで言いかけて、Dに視線を上げた。
「僕はDさんがやめろといえばやめます。Dさんのの言うことならなんでも聞きます。Dさんは命の恩人だからです」
Dはズレたサングラスを戻しながら言う。
「いい心がけだ。しかしね、少しは自分の意見ってものを持ってもいいんだよナシ君」
Dはため息をついて、目の前の大金を見る。
「まずは案件の詳細を聞かせてもらえるかな? 海老名氏」
海老名は土下座状態から立ち上がり、ソファに座り直した。
「今、俺の女が登龍会の幹部、餓鬼魔さんに殺されそうになっている」
「ほう、それはなぜだい?」
「女がサツ(警察)にブツの流通ルートをしゃべりやがったんだ」
「ほう、ブツとは?」
海老名はスーツのジャケットの内ポケットから拳銃を一丁取り出してガラス台の机の上に置いた。
「こいつだ。おかげでガサ入れが入っちまった」
Dはサングラスを再度指で押し上げる。
「あー、話がどんどん黒くなってきてないかな?」
「いや、依頼は単純だ。ガサ入れはもう止められねぇ。ただ、餓鬼魔さんから女だけは守ってほしいんだ」
「まあ、わかったよ。守ればいいんでしょ? で、餓鬼魔ってどんな人なの?」
海老名はため息を吐く。そして、何か覚悟を決めたかのようにしゃべり出した。
「餓鬼魔さんは有能力者だ。硬質化の能力を持つ。拳一つで登龍会の幹部まで最年少でのし上がった強者だ。このチャカはお前らにやる。最もこの弾丸が通用するかどうかはわからないけどな」
Dは話しを聞いていてふと思った。
「でもなんで? 同じ組の喧嘩なのに君は戦わないの? 仲間とかいないの?」
海老名は首を横に振る。
「餓鬼魔さんの強さは半端じゃない。俺も有能力者だがとてもじゃないが戦闘向きじゃない」
「へ〜、どんな能力を使えるんだい」
「あー、見せてやるよ」
すると、海老名はピーと指笛を鳴らした。すると、事務所のドアが勝手に開いて一匹の猫が入ってきた。
「おい、俺の後をつけてきた奴はいたか?」
海老名は猫に話しかけたすると猫はニャーと鳴いた。
「なしか。よしわかった行っていいぞ」
そして猫は何事もなかったかの様にまた、事務所のドアノブに飛びついてドアを自分で開けて外へ出ていった。Dたちはその様子を呆然と見つめていた。
「俺の能力は小動物と会話ができることだ。これじゃあ、どう頑張っても餓鬼魔さんには勝てないだろ?」
「いや、なんと言うか…見た目の割には可愛い能力なのね」
海老名は一枚の紙を取り出してガラス台の上に置いた。
「これが案件の日時と俺の女が住んでるアパートの住所だ。明日、餓鬼魔さんが女のところへ向かって殺しに行くつもりだ。それをどうにか阻止して欲しい」
「まあ、確かに人を殺そうとするのは悪いことだね。わかったよ…この案件を受け入れよう」
「Dさん金目当てですか?」
烏丸がボソッと呟くとDはぎくりとした。また、サングラスを指で押し上げる。
「人一人が殺されそうになってるんだ。これは案件を引き受ける誰もが認める大義名分だろ」
「まあ、そうっすけど。ナシはどう思う?」
「人殺しは良くないことです。でも僕はやっぱり、Dさんがやると言うからには全力で取り掛かります」
「くぅ〜、ナシ君はどこまでも従順だねぇ」
「どうか、よろしく頼む!」
海老名はまた深々と頭を下げた。




