餓鬼魔
次の日、朝。
場所は海老名が指定した東京都のとある場所の二階建てのアパートだった。単身住まい用のワンルームのアパートで、木造で作られており、築数十年は経過しているであろう少し老朽化しているようなところだった。ブロック塀で敷地が区切られており、入口もオートロックの玄関があるわけでも無く、そのまま玄関に通じるような場所だった。
二人は株式会社Dで所有してる四人乗りの車で現場に到着していた。運転席には烏丸が座り、助手席にはナシが座る。
「Dさん」
烏丸はBluetoothのマイク搭載のイヤホンでDに連絡を取った。
「やぴー。どーしたのー?」
いつも通り呑気な声が返ってくる。
「現場に到着しました」
「オッケー! 頑張ってくれたまえ。あーあと…」
この頃、Dはクーラーの効いた事務所でワインを飲んでいた。
「あとなんですか?」
「くれぐれも警察に見つからないようにド派手なことはしないようにね。ヤクザが絡んでるから」
「わかってますよ。さっさと餓鬼魔ってやつを倒して言うこと聞かせます」
烏丸は車のエンジンを切って、ドアを開けた。
「ナシ、女のところへ行こうぜ」
「わかりました」
ナシも車から外に出る。そして、二人はアパートの階段を登る。階段も鉄でできており、ところどころ錆びついている。
二人は海老名の指示があった部屋の前に来ていた。二階の道路側の角部屋だった。そして、海老名から女には餓鬼魔から身を守るために株式会社Dから二人を派遣すると言うことが事前に伝えれている。
烏丸は呼び鈴を鳴らした。烏丸はさりげなくナシの背中を押して先頭に立たせる。
ドアが開いた。ドアチェーンでロックされていたがその隙間から女が顔を覗かせた。
「どちらさん?」
ナシは烏丸に一度視線を移した。すると、烏丸から背中を小突かれてナシは元気よく言った。
「株式会社Dから来ました。ナシと言います」
「あー話に聞いてた人たちだ」
すると、女はどのチェーンを外して、ドアを開け二人を中へ入れた。
「あーしのこと助けてくれるんっしょ?」
部屋は中で台風でも入ってきたのかというほど散らかっていた。飲み終えたペットボトルは散乱し、ゴミ袋にはゴミがたくさん詰め込まれたままその場に放置され、壁は何かのシミがついており、食べかけのパンが転がっている。とにかく汚かった。
そして、女は金の文字が入った黒いジャージを着ている。
「はい! 餓鬼魔さんから命を狙われているということで助けに来ました」
「あざっす! で、マスクしてるイケメンの人は名前なんていうの?」
しばらく沈黙してから、烏丸はボソッとつぶやいた。
「か、烏丸っす。ちーっす」
「ちょ、何、顔赤くなってんの。ちょーウケる!」
ケタケタケタと笑い出す女に顔を赤る烏丸。
実は烏丸翼は株式会社Dの事務員の佐藤さん以外の女性とはうまくコミュニュケーションが取れないのである。ここではナシがコミュニュケーションでの柱となる。
「とりあえず餓鬼魔さんからあなたを守ればいいんですね?」
ナシは女から依頼の内容を確認した。
「そう、なんかあーし命狙われてるみたいで、怖い人がめっちゃ怒ってんだって、志恩が言ってた」
「殺しは良くないです。僕たちが助けますね!」
「きゃー超うれしい。志恩よりナシ君のこと好きになるかも、あーし」
女はナシに抱きついた。烏丸はギョッとする。
「ナ、ナシは女に抱きつかれてなんとも思わないのか?」
「いえ、特に…」
平然と言ってのけるナシに烏丸は頭を抱える。
「またナシとはわかり得ないポイントを見つけてしまったな。ってかさ」
烏丸はドアの覗き穴から外の様子を確認した。すると、外には烏丸たちのレンタカーの他に黒いワンボックスカーがいつの間にか止まっていた。
ナシも覗き穴からワンボックスカーが止まっていることを確認する。すると、ワンボックスカーの後部座席のドアが空いて男が出てきた。
男はグレーのスーツに黒いワイシャツを着ており、坊主頭で片目が傷跡で潰れている。何より身長が高く二メートル近くはあるだろうか、大岩のような巨躯を持ちかなり筋肉質な体格をしている。
「あの人が海老名の言ってた餓鬼魔で間違いないな」
海老名から事前に餓鬼魔の写真や特徴はもらっていた二人。
餓鬼魔と思われる男はネクタイを締め直し、アパートの階段を登り始めた。巨体が古びたアパートの階段を登るとまるで地震のように一歩一歩振動が伝わってくる。
餓鬼魔と思われる男は女の部屋の前に立った。二回ほどノックをする。
「おい、女いるんだろ?」
ナシと烏丸はドアの覗き穴から下がって廊下をつたい部屋に戻る。そして、二人の後ろには女がいる格好になる。
「女! 女! 出てこいコラァ! ぶっ殺してやる!」
ドアをノックする音から今度は蹴る音に変わった。一度蹴られて、二度目を蹴った時だった。ドアがバタンと音を立てて外れて倒れた。
大きな体だった。ナシと烏丸は見上げるような格好になる。そして、海老名からもらった銃を構える。
「餓鬼魔さんですか?」とナシは聞く。
「ああそうだぁ。誰だ、てめえらぁ!」
低くて野太い声だった。足は硬質化しているのか黒く染まっていた。
「株式会社Dのものです。この女性を守りに来ました」
ナシが物怖じせずに淡々とそう言ってのける。
「海老名がやったなぁ! あいつあとでぶっ飛ばしてやる」
次に烏丸が口を開いた。
「餓鬼魔さんこの女性を殺すというのならやめてください。俺たちは殺し合いをしたくない。平和に解決できる方法を望んでいます」
餓鬼魔は何をふざけたことを言っているのかとでも言わんばかりの様子だった。
「何、いつでも勝てますみたいなこと言ってんだぁ! 誰であろうと俺の計画の邪魔をした奴はぶっ飛ばす!」
烏丸は拳銃の照準を餓鬼魔の右胸に合わせた。
「なるべくなら撃ちたくなかったんですけどね!」
ドン!
拳銃で弾を発射した。烏丸と餓鬼魔の間はほんの数メートルしかないのにも関わらず、餓鬼魔は手の中からは煙が出ている。
弾丸を素手で捕らえたのである。そして、怪力で弾を握りつぶした。
「クソ! 弾が効かねぇ!」
烏丸はもう二、三発放ってみるが至近距離にも関わらず全て捕まえられてしまう。
「僕が行きます」
「ナシ!」




