歓迎会
スーツを購入した後、またオフィス街を歩いている帰り道で烏丸がふと言った。
「そういえばナシの歓迎会やってないですよね」
「そうだね。今日はパアッと会社で歓迎会といこうか」
三人は事務所の帰り道にスーパーで食料や酒を買い込んだ。そして、事務所へ戻った。
東京都新宿区歌舞伎町の怪しげなオフィス街その中にあるいかにもボロくてさらに怪しげなビルの一角にある株式会社Dで社員四人全員が揃っていた。
ガラス台の机の上にはお菓子や取り寄せた寿司、缶ビールやジュースが置かれている。
「ナシって酒の飲めんの?」
「飲めますよ!」
元気よく答えるナシ。そして、酒の缶を手に取る。
「え? まさか俺より歳上? ってか、ナシって何歳なんだよ」
「いつ生まれたかはわからないです」
残念そうに下を向きながらしゃべるナシ。
「あーいや、気を落とさなくていいよナシ君。小鳥遊氏の病院に通ってこれから少しずつわかってくるでしょ」
Dは缶ビールを片手に持って掲げた。
「みんな飲み物は持ったかな?」
「はい!」
残り烏丸、ナシ、佐藤さんの返事が聞こえる。
「では、ナシ君の入社を祝しまして…」
今度は皆が一斉に飲み物を掲げる。
「乾杯!」
そして、缶をみんなで合わせてカチンと音を立てる。
ナシは手に持った缶の酒を飲もうとした時、ふと気になったことを烏丸に告げた。
「烏丸さんは飲み物飲む時マスク取らないんですか?」
烏丸は食事や飲み物を飲む時、マスクを片手で引っ張って口とマスクに間を開けてからその隙間から食べ物を食べたり飲んだりしている。しかも、その時の動きはかなり早くて誰もマスクの下の顔を覗くことができない。
「そういえば僕も翼君のマスクの下の顔って見たことないな。もしかして小顔効果とか狙ってんの?」
「い、いえ、そんなんじゃないですよ。ちょっと嫌なだけです」
「まあ翼君がいいならそれでいいんだけどさ。これ以上聞いたらハラスメンツになるからやめとこう」
「うちの会社にハラスメントとかそんなルールないでしょ!」
「じゃあ教えてくれんの?」
「嫌です!」
「キャー烏丸君可愛い!」
事務員の佐藤さんの趣味は推し活である。今はイケメンの烏丸を推していて、ナシにも少し興味がある。
「ナシ君はなんで棺なんかに入ってたの?」
佐藤さんは人見知りする性格である。しかし、お酒が入って少し酔い始めて。酔った勢いでナシに話しかけた。
「全然覚えてないです」
「でも、棺ってことは誰かが入れたってことよね?」
「そうだと思うんですけど。なんででしょう…」
ナシが考え込みその場に沈黙が訪れる。
佐藤さんは「うーむ」と考え込むナシの姿を見て、心の中で「かわいい」と思っていた。
「細かいことはこれからわかるわけでしょ。今日は飲みましょ! カンパーイ!」
佐藤さんはグラスを掲げてナシも、
「カンパーイ!」
その時だった、ひらりと薄い布が地面に落ちた。
「あ、」
ナシ棺にいた時からずっと履いていた薄汚れたズボンが床に落ちていた。
ナシは下半身丸出しになる。
「キャー!」
佐藤さんは手を目に当てて騒いだ。ナシはそんなことはお構いなくといった様子でゆっくりとズボンを上げようとしたが、ゴムが切れたパンツみたいにズボンはまたズルりと下がる。
烏丸とDは慌てる。
「何か履くもの! 履くもの!」
Dは事務所のソファの後ろなど何かないか探した。その間、丸出し状態のナシだったが何か問題でも? と言わんばかりに落ち着いていた。
「どうして焦ってるんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか! お前、丸出しだぞ」
「何か変なんですか?」
「やべぇ、ナシと同じ人間なのに人間として完全にズレてるところ発見したわ」
烏丸は頭を抱えながらそう言う。そして、烏丸はあるものに気がついた。
「そ、そうだ! ナシ、今日スーツ買ってきたじゃん」
「そうだよ! ナシ君が全裸になられても困るからってうちの制服スーツにするって決めたばっかじゃん」
下着は烏丸から借りてナシと烏丸はさっき買ってきたスーツに着替えた。
「イイネ! 二人ともスタイルいいから似合ってるよ」
「キャー! 二人ともイケメン! スーツとか萌える…」
佐藤さんの趣味は推し活である。今は烏丸とナシを推している。
今日は飲めや騒げのどんちゃん騒ぎ。たまにはこういう日があってもいいだろう。
次の日、朝。
株式会社Dのドアを誰かが叩いている。一方で、株式会社Dの事務所内ではDも烏丸もナシも佐藤さんも酒を飲みすぎてソファで伸びていた。応接室も空き缶やお菓子の袋などが散乱していた。
トントン。
誰かが事務所のドアをノックする。
「……」
誰も返事をしない。
ドンドン。
ドアをノックする音が少し強くなっていた。
「……」
誰も返事をしない。
ドガッ!
誰かが事務所のドアを蹴って開けた。
「なんだこりゃ。これでも会社か?」
ソファで眠っているDが眠い目を擦ってサングラスを装着し、事務所に来ている人物に視線を向けた。
そこには年齢は二十代後半くらいの男性。黒いスーツを着ていて髪型はツーブロックに刈り上げており前髪を立たせている。口周りには髭を生やした少しワイルドな雰囲気の人物がアタッシュケースを持って立っていた。
「ああ…いやあ…どうも。ハロー」
Dは顔の横で指をパタパタさせて挨拶する。すると、男はズカズカと事務所内に入ってきた。伸びて寝ていた他の三人も起きてナシと烏丸はソファに座り、佐藤さんは何事もなかったかのようにパソコンで事務作業を始めた。
男はDに催促される前にどかっとソファに座った。
「ここが頼み事ならなんでも聞くっていう会社か」
またDは得意げに手を広げ話し始める。
「いかにも! うちは株式会社D、何でも屋さ。依頼は断らないのがうちのモットーでね」
男はソファに座ったまま股を大きく広げたそして、両膝に手をついて深々と頭を下げた。
「どうか! 俺の女を救ってくれ!」




