KTS細胞
次の日、朝。
「Dさん、おはようございます」
烏丸がそう言った。
株式会社Dの事務所ではソファに烏丸とナシが隣同士で座る。事務員の佐藤さんは推しの烏丸を横目に引き続き事務所奥のパソコンがあるデスクで通常業務に勤しんでいた。
「おっはー元気。僕は寝不足さ」
Dが事務所のドアを開け陽気に入ってきた。
「Dさんまたクラブ遊びですか? 俺たちが頑張って働いてる間に」
Dは何も悪びれる様子もなくそれどころか悠然としていた。
「ああ、そうだよ。案件は無事解決し、僕は夜を楽しんだ…何か問題でも?」
一言一言大事に話ようにゆっくりとDはそう言った。そして、とぼけたようにして首を傾げた。
「問題だらけですよ! このブラック企業め!」
「ノンノンノン! ブラック企業とは聞き捨てならないな」
Dは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一口飲んだ。そして、ペットボトルの蓋を閉める。
そして、Dは何か思い出を馳せるように目を薄めて遠くを見た。
「あー、あれは雨の降りしきる…時間はそう、夜だった。まるで、捨てられた子犬のように毛布にくるまっていた翼く…」
「またそれですか! もういいです! すいませんでした!」
烏丸は話を遮って即座に吐き捨てるように謝った。
Dはニヤリと笑っていた。そして、Dは言った。
「今日はそんな用でこうやって集まってるわけじゃないだろ? 翼君」
烏丸は両手をガラス台の机について立ち上がった。
「そうなんですよ! Dさん」
そして、ナシの方を指差した。
「ナシが有能力者だったんです」
「……」
Dは無言で拍手する。そして、しばらくしてから口を開いた。
「ようやくうちにも有能力者を雇う日が来たようだね。いやー、有能力者となると人件費がかかるから、有能力者を無能力者と同じ賃金で雇えるって最高ダネ」
「今、Dさんはっきりとブラック企業丸出しなこと言いましたよ」
会話のラリーを見ていたナシはここで口を開いた。
「Dさんは僕の命の恩人です。住むところもスマホも貸してくれました。だから、Dさんのために僕はこの会社で全力で働きます」
「イイネ、百点満点の回答だよナシ君」
「ナシはそれでいいのか…」
烏丸はがっくりと項垂れてポツリとつぶやいた。
そして、陰でこそっそり聞いていた佐藤さんはナシのその健気な姿に佐藤さんの中でナシへの推し度が上昇した。念の為、もう一度言うが佐藤さんの趣味は推し活である。
「あー、、話を戻そう。ナシ君の有能力者の件だっけ?」
「そうですよ!」
Dはペットボトルの水を全て飲み干し、ペットボトルをバスケットボールのシュートを打つみたいにゴミ箱へ投げた。ペットボトルは見事ゴミ箱へゴールインした。
「知り合いの医者にどんな能力を持ってるのかとか聞いてみるのはどうだね? 諸君」
「Dさん知り合いに医者いるんですか?」
「いるとも!」
「謎の人脈…」
「ナシ君はそれでいいかな?」
「はい! Dさんの言うことならなんでもします!」
元気よく答えるナシ。
「入社三日目にしてもう従順な部下ですよ」
また、がっくりと項垂れる烏丸。
D、ナシ、烏丸の三人は東京都内某所にあるオフィスビルが立ち並ぶ中にある大きな大学病院にいた。そこは、内科から外科や精神科など全ての設備が整った病院だった。その中で有能力者の人体を専門に研究している「特殊生体研究科」という場所へ三人は病院のスタッフに案内されていた。そこは、内科や外科などの診療室と大きな違いはなく個室の中に医師のデスクがありその横にはベッドがあり、看護師がいた。
「どうも私が特殊生体研究科の研究科長を務める小鳥遊元だ」
小鳥遊と名乗った男は年齢は五十代ぐらいで、髪は白髪だらけでオールバックに髪をまとめている、白衣の下は高そうなスーツを着ておりネクタイまできっちりと閉められている。見た目からデキる医者といった雰囲気を醸し出している。
「Dさん、どうも久しぶりです。あの時は楽しかった」
「こっちもいい時間を過ごせましたよ」
小鳥遊は懐かしむようにそう言って、Dも笑みを浮かべて二人はガッチリと握手を交わした。
「マジ、謎の人脈」と烏丸はポツリとつぶやいた。
「今日はこの方の能力がどのような能力を持っているか調べたいということですよね?」
小鳥遊はナシを手で指し示した。そして、Dは両手の人差し指を小鳥遊に向ける。
「その通りさ。毛穴の数まで好きに調べていいよ」
「こういう依頼の人はよく来るんですか?」
烏丸がふと訊ねた。
「ええ、特に多いのは生まれたての赤ちゃんですね。両親のどちらかの能力を引き継いでいることが多いですが、それでも確実に能力を知りたいと言う患者さんはいます」
三人が小鳥遊の個別の診察室にいて、ナシが一脚ある椅子に腰掛けた。
「これからどういう検査をするんですか?」
烏丸が再び訊ねた。
「まずは血液検査をします。有能力者と無能力者の違いはなんだと思いますか?」
「……」
「……」
Dも烏丸も答えが分からず騙る。
「血中に含まれるKTS細胞の有無です」
「KTS細胞?」
烏丸が聞き返す。
「ええ、KTS細胞は例えば炎を出せる有能力者だった場合、炎を出せるようにKTS細胞は育ちます。しかし、無能力者だった場合、KTS細胞が存在しないのでどう頑張っても炎も水も風も何も出すことはできません。KTS細胞というのは研究もまだ発展途上ですがとても特殊な細胞なのです。今わかっていることの一つとしてはKTS細胞は生まれ持ったものであるということ。後天的に能力を得ようとすることは現段階では不可能なのです」
看護師は血液検査をするためナシの腕にアルコールの消毒液を含ませた綿で腕を拭いた。
「ちょっとちくっとしますね」
看護師はそう言うと慣れた手つきでナシの腕を掴み血が取れそうな血管を探した。そして、注射針をナシの腕に突き刺した。
「うぅ…」
ナシは注射される腕から露骨に顔を背ける。
「ダンプに轢かれといて注射で刺されるは嫌なのかよ」と烏丸はボソッとつぶやいた。
「ダンプカーに轢かれたんですか?」
小鳥遊がそれを聞き逃さなかった驚いてそう言う。烏丸は頷いてから言った。
「こいつダンプカーに轢かれたんですけど、轢かれた傷口が自己修復したんです」
看護師は注射で血液を取り、小さい試験管のようなもの二つ分ほど取って針を抜いた。
「それは興味深いですね。ナシさん…でしたっけ。一体、ナシさんはどのような能力を有しているのでしょうか」
看護師は血液の入った試験管と注射針などを持って治療室の裏手に下がって行った。
「これから専用の機械にかけてKTC細胞の有無とどのような能力を持っているか調査します。もっとも、ナシさんの場合はKTC細胞ありと見ていいでしょうね」




