発掘した
烏丸はもう一度棺を訝しんで見回す。そして、棺に手をかけてみる。それから、開けられるかどうか蓋らしき部分を引っ張ってみた。
「うお!」
棺の蓋は少し動いた。棺はそのまま開けれそうだった。烏丸はそのままゆっくりと蓋を引っ張ってみる。
すると、中には人がいた。
棺に入っているにも関わらず棺にの中の人物は綺麗な白髪をしており年齢は烏丸と同じくらい十八歳かそこらといったところだろうか。体つきからして男性。薄汚れたシャツに半ズボン。身につけている服は薄汚れて変色しており今にも破けそうな材質である。
烏丸は慌てて蓋を閉めた。そして、周りを見渡した。誰も自分のことを見ていないかどうか確認した。周りの人々は引き続き熱心に遺跡発掘に精を出している。
それを確認して恐る恐るもう一度棺の蓋を開けてみる。
「あの…」
目が合った。そして、喋った。
烏丸はまた棺の蓋を即座に閉じた。
「一旦落ち着こう」
烏丸は自分に言って聞かせるように胸に手を当てて呼吸を落ち着かせた。
「Dさん! Dさん!」
烏丸はBluetoothの無線マイク付きイヤホンでDへ連絡を取った。
「やぴー。どうしたの?」
呑気に答えるD。
「大変です。遺跡発掘の現場で人を発掘しました」
烏丸は真剣にDへそう言ったがDは、
「プッハハハハ。おかしなことを言うようになったね。人が埋まってるわけないだろ?」
「本当ですよ。俺と同じくらいの年齢のやつが棺に入ってたんです」
「いいね! 翼君にしては面白いジョークだ。僕はそのジョークが本当だったら翼君の給料アップさせちゃう(笑)」
「言いましたね! じゃあ俺、こいつを事務所まで連れて行きますよ」
「何もそんなムキにならなくてもいいのに…じゃあね」
それからDの連絡は途絶えた。
「よし! こいつを連れていけば給料アップだ!」
烏丸は再び棺の蓋を開けた。棺に入っている人物は、
「あの…」
その人物の言葉を遮って烏丸は言った。
「お前、名前は?」
「名前? 名前は…名前は…わかんないです」
その人物は熟考していたが、名前が出てこない。
「なんでもいいや。とりえずうちの事務所まで来てくれるか?」
「ジムショ? ジムショ? ってなんですか?」
烏丸は作業着から現場到着時に来ていた私服に着替えた。そして、棺に入っていた人物は棺の中で上半身を起こし、日の光を浴びると眩しそうにして手で目の当たりを覆い隠していた。
その人物は周りの景色を見て何か懐かしんでいる様子だったが、そんなことはお構いなしと烏丸はその人物を抱き抱えて勝手に下山し、事務所に向かった。
事務所にて。
事務所のソファに烏丸とその隣に棺から発掘された人物。その正面にどっかりと座るのはDだった。まず、Dが口を開く。
「翼君、その人、本当に発掘しちゃったってコト?」
「はい、祠の下を掘ったら出てきました。名前はわかんないそうです」
まっすぐな瞳で烏丸はDを見据える。そして、Dは口をへの字にして腕を組んで考えている様子だった。
その間に佐藤さんがやってきて発掘された人物に対してコップに入った水を机の上に置いた。その人物は神のお恵みでもいただくかのように大事そうにコップを持って一気に水を飲み干した。
「これで俺の給料アップですよね?」
烏丸は期待を込めた表情でDへ言うと、Dは何か釈然としない表情を浮かべつつあるが首を縦に振った。
「まあ、僕が言ったからね。約束は守ろう」
「よっしゃ! やったぜ! 給料アップ」
しかし、Dは丸レンズのサングラスをずらして真剣な顔つきで烏丸の目を見た。
「で、この子、どうする気? 警察にでも届け出るの? 警察が信じてくれると思う? 地面掘ったらなんか人がてきましたって言うの? そんなジョーク僕が警察なら信じないね」
「どうするって、そりゃ…」
烏丸は口篭ってそう言った。そして、何か閃いた様子で手のひらにもう片方の手の拳を落とした。
「うちで働かせるのってどうですか?」
「誰が面倒見る?」
「俺が面倒見ます」
「誰が仕事を教える?」
「俺が仕事を教えます」
発掘された人物は二人の間で行われる会話のラリーを目で追っていた。
「その前に確認しなきゃいけないことがあるネ」
Dはサングラスをとって折りたたみワイシャツの胸元に引っ掛けた。そして、人差し指と親指を立てて発掘された人物を指差して言った。
「あー、君はどこか帰る場所や引き取ってくれる親はいるのかな?」
「いないです」
発掘された人物は続いて「あの…」とつぶやいた。
「今、何年ですか?」
「何年? 令和八年だよ」とDは答える。
「レイワ? レイワとはなんですか?」
「年号だけど…」
発掘された人物は何か考え込んでいる。すると、Dは続けて言った。
「君、地面に埋められる前は何してたの?」
「思い出せないんです。何をしてたかどこにいたのか何も思い出せません」
Dと烏丸は目を見合わせた。
「記憶喪失ってやつか」
「やっぱ、いく当てないならここで働かせましょうよ」
Dは腕を組んでじっくりと考えた。そして、
「わかった。そこまで言うならこの子をうちの従業員として迎えよう。ちょうど人手不足で困っているところだったしネ」
Dはワイシャツの襟を正して発掘された人物に視線を移した。
「ハロー! 改めまして僕の名前はD。君の雇用主で救世主だ。十分敬意を表したまえ」
「Dさん! 救世主! ありがとうございます」
発掘された人物は神様を崇めるようにDに対して手を合わせた。
続いて烏丸が発掘された人物に視線を移した。そして、腕を組みながら話す。
「俺は烏丸翼。お前の発見者であり、先輩だぞいいな! 尊敬しろよ!」
「先輩! はい! 尊敬します!」
続いて佐藤さんが席を立ち上がり発掘された人物のそばまで歩を進めた。
「私は事務員の佐藤と言います。よろしくお願いします」
佐藤さんは早口で自己紹介を終えた。
「佐藤さん! よろしくお願いします!」
発掘された人物の可愛げのある表情に推し活が趣味の佐藤さんは少し心が揺らいだのであった。




